第四章 第十話 四枚のコイン
第四章 第十話 四枚のコイン
黄龍は、手の中に収まった黒く濁った因子を静かに見つめていた。
片手を添えると、淡い光が因子を包み込む。黒い濁りはその光の中でゆっくりと揺れ、黄龍の力を受けながら形を変えていった。
やがて黄龍が両手を開く。
そこには、四枚のガチャコインが並んでいた。
「これでよかろう」
その一言を待っていたかのように、周囲が一気にざわついた。
青龍。
朱雀。
白虎。
玄武。
さらに、その後ろには各陣営の配下たちが集まっている。
「来たぞ!」
「四枚!」
「今度こそ!」
「こっちを頼む!」
まだ一度も回していないというのに、早くもあちらこちらから歓声と野次が飛び交っていた。
「騒がしいのう」
玄武だけは、いつも通り落ち着いた様子でその光景を眺めている。
「当然じゃ!」
白虎が胸を張った。
「ガチャは戦いじゃ!」
「違うと思うが」
青龍が即座に返す。
◇
「その前に」
朱雀がすっと手を上げた。
「わらわの件は、どうなった?」
白虎が眉をひそめる。
「……あれか」
青龍も察したようだった。
黄龍は朱雀を見る。
「自分も対象に加えてほしい、という話か」
「そうじゃ」
朱雀は堂々と頷いた。
「わらわも下界の者たちから認識されてみたい」
「私は別に構わぬ」
「ほれ!」
朱雀が得意げに三人を振り返った。
「待て!」
白虎が即座に声を上げる。
「なぜじゃ?」
「なぜも何もあるか! 朱雀だけ対象へ加わるなど反則であろう!」
「ならば、おぬしも入ればよい」
「そういう問題では――」
白虎が言いかけたところで、青龍が口を挟んだ。
「いや。確かに朱雀を認めるなら、我々も、という話にはなるな」
「そうであろう!」
白虎が勢いづく。
「なら四人とも入ればよいではないか」
朱雀は簡単に言った。
黄龍が静かに答える。
「全員が対象になること自体は構わぬ」
「おお!」
「ただし」
四聖獣が一斉に黄龍を見る。
「おぬしらが皆、下界側へ関わるようになれば、こちらの役目を担う者が足りなくなる」
「…………」
「本人がこちらを離れても、その代わりを務められる者を用意できるなら考えよう」
青龍は納得したように頷いた。
「なるほど」
玄武も、
「道理じゃな」
と静かに続けた。
白虎は腕を組む。
「代理か……」
一方。
朱雀は、すぐに後ろを振り返った。
「おぬし」
「……嫌な予感がいたしますな」
朱雀のそばで、普段から側近や執事のように立ち回っている老成した配下が、すでに渋い顔をしていた。
「わらわの代わりくらい、できるであろう?」
「朱雀様」
「なんじゃ」
「それは少々、無茶振りが過ぎますぞ」
「できぬのか?」
「できるできない以前に、私へ四聖獣様の代役まで務めろと?」
「普段から似たようなものではないか」
「まったく違いますぞ!」
周囲から笑いが起こった。
天女も口元を押さえている。
「では、天女でもよい」
「え?」
突然名前を出され、天女が目を丸くした。
老成した配下が深いため息をつく。
「朱雀様。人選があまりにも軽すぎますぞ」
「なら、二人でやればよい」
「さらに雑になっております!」
朱雀は不思議そうに首を傾げた。
「難しいものじゃな」
「今さら気づかれましたか」
黄龍が話を戻した。
「代理については、改めて決めるとよい」
「むう」
「今回は見送りだ」
朱雀は少しだけ口を尖らせたものの、すぐに四枚のコインへ視線を移した。
「まあ、よい」
「思ったよりあっさりだな」
青龍が言う。
「今回はわらわ自身が入っておらぬのなら、誰が出ても似たようなものじゃ」
白虎が疑わしそうに朱雀を見る。
「本当にそう思っておるのか?」
「もちろんじゃ」
◇
「そういえば」
朱雀が突然、天女へ顔を向けた。
「この前、下界で見た菓子の話じゃが」
「はい?」
天女の顔がぱっと明るくなる。
「中にとろりとしたものが入っておった、あれは何と言った?」
「ああ! あれですね。中にクリームが――」
「おい」
老成した配下の低い声が飛んだ。
二人が止まる。
「……なんじゃ?」
「今はガチャの最中ですぞ」
「まだ始まっておらぬ」
「始めるところでしょう!」
天女が申し訳なさそうに笑った。
「すみません」
「それで、その菓子は――」
「朱雀様!」
「分かった、分かった」
朱雀がしぶしぶガチャへ向き直る。
白虎が呆れた顔をした。
「おぬし、本当にガチャへ入りたいのか?」
「それとこれとは別じゃ」
◇
「では、わしからじゃ!」
誰より早く前へ出たのは、やはり白虎だった。
「白虎様!」
「行けー!」
「今度こそ、こちらを!」
白虎陣営から大歓声が上がる。
「前回の分まで取り返すぞ!」
白虎が一枚目のコインを掴んだ。
「ガチャに取り返すも何もあるのか?」
青龍が言う。
「気持ちの問題じゃ!」
白虎は勢いよくコインを入れ、そのまま力いっぱい回した。
ガコン。
「来た!」
カプセルを拾い上げる。
「白虎様!」
「頼みます!」
「こっちだ!」
白虎陣営の声援が最高潮に達する。
白虎がカプセルを開けた。
「…………」
急に静かになった。
「どうした?」
朱雀が覗き込む。
白虎の頬が引きつった。
「……おぬしの配下じゃ」
「おお」
一瞬。
そして。
「うおおおおお!」
朱雀陣営が一斉に沸いた。
「一発目!」
「朱雀様!」
「来たぞ!」
「なぜじゃ!」
白虎の叫びが重なる。
「わしが回したのだぞ!」
「誰が回すかは関係なかろう」
玄武が淡々と言った。
「その正論は今はいらん!」
白虎陣営からも悲鳴が飛ぶ。
「まだ一回目です!」
「次です、次!」
その声へ、朱雀陣営からすぐに野次が返ってくる。
「負け惜しみじゃ!」
「もう負けたことにするな!」
「一回目は負けておる!」
「ガチャに勝ち負けはないだろ!」
「なら悔しがるな!」
「うるさい!」
白虎が顔を真っ赤にした。
◇
「では、次はわらわじゃな」
朱雀が二枚目のコインを取る。
「朱雀様、もう一つ!」
「二連続!」
配下たちが盛り上がる。
「欲張るな!」
白虎側から怒号が飛んだ。
朱雀は涼しい顔をしている。
「まあ、誰が出てもよい」
「絶対に嘘だ!」
白虎が叫ぶ。
「本当じゃ」
「その顔で言うな!」
朱雀がコインを入れる。
回す。
ガコン。
カプセルを開く。
朱雀の口元が、ゆっくりと上がった。
「ほれ見よ」
「…………」
白虎が嫌な顔をする。
「また、わらわの配下じゃ」
「うおおおおおお!」
朱雀陣営が再び大騒ぎになった。
「二連続!」
「朱雀様ー!」
「さすがです!」
「なんでじゃぁぁぁ!」
白虎本人だけでなく、白虎陣営からも不満が爆発する。
「おかしい!」
「二回ともそっちって何だ!」
「絶対何かあるだろ!」
白虎が黄龍へ詰め寄った。
「黄龍!」
「何だ?」
「本当に公平なのか!」
「公平だ」
「二回とも朱雀なのにか!」
「結果だ」
青龍も少し考えるように言う。
「確かに、朱雀はよく当たる印象があるな」
「そうであろう!」
白虎が勢いづいた。
「最初の時も二体だったではないか!」
朱雀が腕を組む。
「人気者はつらいのう」
「そういう話ではない!」
「黄龍と裏で何か取引しておるのではないか?」
「しておらぬ」
黄龍が答えるより早く、朱雀が口を挟んだ。
「では、黄龍!」
「私もしていない」
「ほら見よ」
「本人同士で証言してどうする!」
朱雀陣営から笑い声が上がる。
「白虎様、往生際が悪い!」
「うるさい!」
「証拠はありますかー?」
「その二連続が証拠じゃ!」
黄龍は騒ぎを気にする様子もなく告げた。
「ガチャは公平だ」
「公平にしては出すぎじゃ!」
「そういうこともある」
「玄武、おぬしまで!」
「わしは事実を言っただけじゃ」
朱雀はすっかり上機嫌だった。
「日頃の行いじゃな」
「それだけは違う!」
◇
「次は私だな」
青龍が三枚目のコインへ手を伸ばした。
青龍陣営から、すぐに声が飛ぶ。
「青龍様!」
「今度こそ!」
「ここです!」
その声を聞いて、白虎陣営が笑った。
「また今度こそか!」
「何回目だ!」
「今まで全然出てなかったじゃないか!」
青龍陣営が一斉に振り返る。
「……覚えておけよ」
「何をだ?」
「今まで散々言ってくれたことだ!」
「まず当ててから言え!」
「そうだ!」
青龍は後ろの騒ぎを気にせず、静かにコインを入れた。
ガチャを回す。
ガコン。
カプセルを開く。
「…………」
「どうだ?」
白虎が聞く。
「私の配下だな」
青龍陣営が、一瞬だけ静かになった。
そして。
「来たぁぁぁぁ!」
大歓声。
「見たか!」
「誰だ、今まで散々出ないって言ってたのは!」
「今度はこっちの番だ!」
青龍陣営の視線が、一斉に白虎側へ向いた。
「…………」
「どうしました?」
「さっきまでずいぶん元気でしたね?」
「一回出ただけで調子に乗るな!」
白虎陣営もすぐに応戦する。
「今までどれだけ出なかったと思ってる!」
「過去の話だ!」
「都合が良すぎる!」
「今日ゼロの陣営に言われたくない!」
「なんだと!」
両陣営が一気に騒がしくなった。
「やるか!」
「やってやる!」
「やめぬか」
青龍の一言。
青龍陣営は一応、静かになった。
白虎側も口を閉じる。
ただし。
互いにものすごい顔で睨み合っていた。
「子供か、おぬしらは」
玄武が呟いた。
◇
「最後はわしか」
玄武が四枚目のコインを手に取る。
白虎が、すぐ横へ来た。
「玄武」
「何じゃ」
「頼む」
「何をじゃ」
「わしの配下を出してくれ」
「知らん」
「気合いを入れろ!」
「気合いで結果が変われば、公平ではなかろう」
「だから今は正論はいらん!」
玄武陣営は、主と同じように比較的落ち着いていた。
「出れば嬉しいですが」
「出なければ、また次ですね」
「まあ、見ましょう」
白虎が振り返る。
「もっと熱くならんか!」
「白虎様が熱すぎるんですよ」
「なんじゃと!」
玄武は気にせずコインを入れた。
回す。
ガコン。
カプセルを開く。
「…………」
白虎が身を乗り出した。
「どうじゃ?」
「青龍じゃな」
「…………」
青龍が少し目を見開く。
次の瞬間。
「二つ目ぇぇぇぇ!」
青龍陣営が爆発した。
「来た!」
「二回!」
「おい、白虎側!」
「…………」
白虎陣営が固まる。
「さっき何て言った?」
「一回出ただけで調子に乗るな、だったか?」
「二回になりましたけど?」
「うるさい!」
白虎陣営が一斉に反撃する。
「急に二回出ただけだろ!」
「今まで全然出なかったくせに!」
「今日は二回出た!」
「こっちは今日ゼロだぞ!」
「自分で言うな!」
「言わせたのはそっちだ!」
白虎が頭を抱える。
「前回も出ておらんのだぞ……」
「今まで散々こちらを笑っておいて」
青龍陣営から、容赦のない声が飛んだ。
「今度はそちらの番ですね」
「いつまでゼロが続くんでしょうね?」
「言うなぁぁぁ!」
白虎の叫びが響く。
玄武が横から静かに言った。
「わしも今回は出ておらんぞ」
「なぜおぬしはそんなに平然としておる!」
「そういうこともあるからじゃ」
「悔しくないのか!」
「出れば嬉しい。出なければ次を待つ」
「次も出なかったら!」
「その次じゃな」
「その次も!」
「さらに次じゃ」
「いつまで待つ気じゃ!」
朱雀陣営から笑い声。
青龍陣営からも笑い声。
白虎陣営は必死に言い返し、玄武陣営だけは、どこかのんびりと騒ぎを眺めていた。
◇
「ところで」
騒ぎが少し落ち着いた頃。
朱雀が天女へ顔を寄せた。
「先ほどの菓子の話じゃが」
「あ、はい。中にクリームが――」
「朱雀様」
低い声が飛ぶ。
「…………」
朱雀と天女が同時に止まった。
老成した配下が、深いため息をついている。
「今度は何じゃ」
「今度は、ではありませんぞ」
「ガチャは終わった」
「終わった途端にそれですか」
「では問題なかろう」
「少しは余韻というものを――」
「それより、その菓子じゃ」
「朱雀様!」
天女が思わず笑った。
朱雀も楽しそうに笑う。
少し離れたところでは、白虎がまだ悔しそうに唸っていた。
青龍の配下たちは、これまで散々からかわれてきた分を取り返すように、白虎陣営へちょっかいを出している。
「今日は静かですねぇ?」
「二回当たると気分がいいな!」
「次はそちらにも出るといいですね!」
「やかましい!」
白虎陣営もすぐに言い返す。
「今まで出なかったことをもう忘れたのか!」
「今日出たからいいんだ!」
「調子に乗るな!」
また小さな言い争いが始まる。
玄武とその配下たちは、そんな騒ぎをどこ吹く風と眺めている。
黄龍は、騒がしい一同を静かに見渡した。
朱雀と天女は、もう下界の菓子の話へ戻っている。
老成した配下は、また頭を抱えていた。
白虎は悔しがり。
青龍側はここぞとばかりに浮かれ。
玄武は相変わらず動じない。
「…………」
黄龍は。
ほんの少しだけ。
目を細めた。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




