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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
アリア編

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閑話三 天女のおつかい

第三章 閑話三 天女のおつかい


 今日も。


 朱雀と天女は、飽きることなく下界を眺めていた。


「ねえ、あれ見て」


「どちらです?」


「あの服」


 朱雀が指差した先を、一人の女の子が歩いている。


 ふわりと揺れるスカート。


 それに合わせた、かわいらしい上着。


「素敵ねえ」


「ええ」


 天女も楽しそうに目を細めた。


「ですが、あちらの髪飾りも綺麗ですよ」


「どれ?」


「あちらです」


「あ、本当!」


 二人の視線が、せわしなく下界を行ったり来たりする。


「それに、あの靴もいいわね」


「私は、あちらの鞄が気になります」


「それもいい!」


 服。


 髪飾り。


 靴。


 鞄。


 下界には、二人の興味を引くものがいくらでもある。


 しばらく楽しそうに眺めていた朱雀だったが。


「…………」


 ふいに、その視線が一点で止まった。


「どうされました?」


「天女」


「はい」


「あれ」


「?」


 天女が朱雀の視線を追う。


「…………」


 そこにあったのは、服でも髪飾りでもなかった。


 白いクリーム。


 色とりどりの果物。


 美しく飾られた、小さなケーキ。


「……何でしょう?」


「分からない」


 朱雀が真剣な顔で答える。


「でも」


「はい」


「絶対おいしいわ」


「…………」


 ずいぶんと自信満々だった。


 天女も改めて下界を覗き込む。


「綺麗ですね」


「でしょう?」


「食べ物……なのでしょうか?」


「たぶん」


 二人で、じっと見つめる。


「…………」


「…………」


「食べてみたいわね」


「……はい」


 天女も素直に頷いた。


 そのとき。


「あ」


 朱雀が声を上げる。


「どうしました?」


「この前の女の子」


「女の子?」


「ほら」


 朱雀が天女を見る。


「私たちが見える子」


「ああ……咲子さん」


「そう!」


 朱雀の顔がぱっと明るくなった。


「あなた、あの子にお願いしてみなさいよ」


「え?」


「下界のお菓子」


「い、いきなりですか?」


「だって、あなたのことも見えるんでしょう?」


「おそらくは……」


「だったら話せるじゃない」


「ですが……」


 天女は少し困った顔をした。


「初めてお会いして、いきなり物をお願いするのは……」


「じゃあ」


 朱雀は腕を組んで、少しだけ考える。


 そして。


「先にお友達になればいいのよ」


「…………」


「それからお願いするの」


「朱雀様」


「なに?」


「それでは、お菓子を手に入れるためにお友達になるように聞こえます」


「違うわよ!」


 朱雀が慌てて否定する。


「交流よ! 交流!」


「…………」


「その結果として、お菓子が手に入ったら最高でしょう?」


「やはり、お菓子が目的なのでは?」


「細かいことはいいの!」


 そのときだった。


「朱雀様」


「…………」


 朱雀の表情が固まる。


 少し離れた場所に、いつもの配下が立っていた。


「何かしら?」


「また下界のお話ですか」


「交流の話よ」


「お菓子の話に聞こえましたが」


「聞き間違いよ」


「はっきり聞こえておりました」


「…………」


 朱雀はぷいっと顔を背けた。


 天女が小さく苦笑する。


「では」


「うん?」


「機会があれば、咲子さんにお会いしてみます」


「本当?」


「はい」


 朱雀は嬉しそうに笑った。


「お願いね!」


     ◇


 その日。


 咲子は一人で歩いていた。


「…………」


 ふと。


 何かを感じる。


 足を止めた。


「?」


 振り返る。


「…………」


 咲子の目が大きく開いた。


 そこに、一人の女性が立っていた。


 長く美しい髪。


 整った顔立ち。


 柔らかな佇まい。


 ただ美人というだけではない。


 どこか、この世のものとは思えないような。


 そんな美しさだった。


「…………綺麗」


「え?」


「あ」


 口から零れてしまった言葉に、咲子自身が驚く。


「ご、ごめんなさい!」


「?」


「いきなり、そんなこと……」


 女性は少し驚いたあと。


 ふわりと微笑んだ。


「いいえ」


「…………」


「ありがとうございます」


 心から嬉しそうな笑顔だった。


「そんなふうに言っていただけるなんて」


「…………」


 今度は咲子の方が、少し頬を赤くする。


「あの」


「はい?」


「失礼かもしれないんですけど」


「なんでしょう?」


「人間……じゃないですよね?」


「はい」


 あまりにもあっさりと。


「天女です」


「…………」


 咲子が固まる。


「天女?」


「はい」


「…………」


 狐。


 ぬらりひょん。


 天狗。


 たらい小僧。


 それだけでも十分だったはずなのに。


「天女までいるの……?」


「?」


「い、いえ。こっちの話です」


 咲子は小さく首を振った。


 どうやら自分の知らなかった世界は、思っていたよりずっと広いらしい。


     ◇


「実は」


 天女が少し遠慮がちに切り出した。


「今日は、お願いがありまして」


「私に?」


「はい」


 咲子は首を傾げる。


「私たちは、よく下界を眺めているのですが」


「下界……」


「服や、髪飾りや、靴」


 話しているうちに。


 天女の表情が少しずつ明るくなっていく。


「とても素敵なものが多くて」


「ああ」


 咲子にも、その気持ちはよく分かった。


 自分だって。


 かわいい服も。


 綺麗な髪飾りも。


 好きなのだから。


「それから最近」


「はい?」


「甘いものも気になっているのです」


「甘いもの?」


「とても綺麗な食べ物を見かけまして」


「……スイーツ?」


「すいーつ?」


 天女が、不思議そうにその言葉を繰り返す。


「はい」


「それは、どういうものですか?」


「えっと……」


 咲子は指を折りながら考える。


「ケーキとか」


「けーき」


「プリンとか」


「ぷりん」


「シュークリームとか」


「しゅー……?」


「シュークリーム」


「…………」


 天女の目が、みるみる輝いていく。


「ほかにもありますよ」


「まだあるのですか?」


「チョコレートとか、クッキーとか」


「全部、甘いのですか?」


「だいたいは」


「…………」


 完全に心を奪われている。


 咲子は思わず笑った。


「食べてみたいんですか?」


「……はい」


 天女が、少し恥ずかしそうに頷く。


「できれば」


 少し間を置いて。


「私たちのために、少し力を貸していただけませんか?」


「…………」


 咲子は少し困った顔をした。


「力を貸すのはいいんですけど」


「はい」


「私、高校生なので」


「?」


「そんなにお金持ってないんですよ」


「あ……」


 そこで天女も気づいたらしい。


「申し訳ありません」


「いえいえ!」


「そこまで考えておりませんでした」


「大丈夫です」


 咲子は少し考える。


 そして。


「でも」


「?」


「安いお菓子なら買えますよ」


「安いお菓子?」


「はい」


「普通のお店で買えるようなものなら」


 咲子は笑った。


「私のお小遣いでも大丈夫です」


「本当ですか?」


「はい」


 天女の顔が、一気に明るくなる。


     ◇


「これは?」


「チョコレートです」


「こちらは?」


「クッキー」


「これは?」


「グミです」


「ぐみ?」


「食べれば分かります」


「…………」


 天女は、咲子が見せるものを一つ一つ、珍しそうに眺めていた。


 味だけではない。


「この袋も綺麗ですね」


「え?」


「ここです」


 天女がパッケージを指差す。


「ああ、確かにかわいいですね」


「こちらも」


「あ、それ私も好きです」


「本当ですか?」


「はい」


 いつの間にか。


 二人は、お菓子そのものだけではなく。


 包装の色や絵柄まで見比べていた。


「こっちの方がかわいくないですか?」


「ですが、こちらも素敵です」


「じゃあ両方にします?」


「よろしいのですか?」


「このくらいなら」


 咲子が笑う。


 天女も笑った。


 最初は。


 不思議な存在だと思った。


 けれど。


 こうして話していると。


 かわいいものを見て喜んで。


 甘いものに興味を持って。


 そんなところは。


 自分とあまり変わらない。


 咲子は。


 いつの間にか。


 天女と話すことを楽しんでいた。


     ◇


「ただいま戻りました」


「おかえり!」


 天女が戻ると。


 朱雀は待ち構えていたように駆け寄ってきた。


「どうだった?」


「お会いできました」


「本当!?」


「はい」


 天女が大事そうに持っていた袋を見せる。


「こちらを、咲子さんから」


「まあ!」


 朱雀の目が輝く。


「これがお菓子?」


「はい」


 二人はすぐに座り込んだ。


「まずは」


 天女が袋を開ける。


 小さなチョコレート。


「…………」


 朱雀が一つ摘まむ。


 口へ入れる。


「…………!」


「どうです?」


「なにこれ!」


 天女も食べる。


「…………!」


「おいしい……!」


「でしょう!?」


「こちらも!」


 次はクッキー。


「…………!」


「これも!」


「まだあります!」


「次!」


 二人で次々に袋を開ける。


「下界にはこんなものがあるの!?」


「はい!」


「ずるい!」


「……何がですか?」


「下界がずるい!」


「?」


 何がどうずるいのか。


 天女にはよく分からなかった。


 けれど。


 朱雀が言いたくなる気持ちだけは。


 なんとなく分かった。


     ◇


「決めた」


「はい?」


 突然。


 朱雀が立ち上がった。


「私も行く」


「どちらへ?」


「下界」


「…………」


 天女が止まる。


「私も咲子に会う!」


「朱雀様」


 声がした。


「…………」


 朱雀が嫌そうに振り返る。


 そこにいたのは。


 やはり、いつもの配下だった。


「何をおっしゃっているのですか」


「出たわね」


「出たわね、ではありません」


「だって!」


 朱雀が天女を指差す。


「天女は行ったじゃない!」


「天女殿と朱雀様では立場が違います」


「何が違うのよ!」


「朱雀様には」


 配下は真面目な顔で言った。


「黄龍様をお支えする、大切なお役目がございます」


「…………」


「その朱雀様が、お菓子を食べに下界へ行くなど」


「お菓子だけじゃないわよ!」


「では何を?」


「服とか!」


「…………」


「髪飾りとか!」


「…………」


「靴とか!」


「すべて遊びではありませんか!」


「違うわよ!」


「何が違うのですか!」


 朱雀が頬を膨らませる。


「でも」


「?」


「あなたたちは下界に行けるじゃない!」


「我々は必要があって――」


「ずるい!」


「ずるいではありません!」


「ずるい!」


「朱雀様!」


「…………」


 そのとき。


 朱雀の表情が変わった。


「……そうだわ」


 配下の顔が曇る。


「嫌な予感がします」


「黄龍様にお願いすればいいのよ」


「何をです?」


「ガチャ」


「…………はい?」


 朱雀が胸を張る。


「私も入れてもらうの」


 天女が瞬きをした。


「朱雀様ご自身を?」


「そう!」


「…………」


「私も対象になれば」


 朱雀は嬉しそうに笑う。


「下界へ行けるかもしれないじゃない!」


「何を言っているのですか!」


「いい考えでしょう?」


「どこがですか!」


 しかし。


 朱雀はもう聞いていなかった。


「黄龍様ー!」


「朱雀様!?」


 勢いよく走り出す。


「黄龍様ー! お願いがあるのー!」


「お願いしないでください!」


 配下も慌てて追いかけていく。


 天女だけが、その場に残された。


「…………」


 手元を見る。


 まだ。


 クッキーが一枚残っている。


「…………」


 一口。


 食べる。


「おいしい……」


 遠くから、配下の声が飛んできた。


「天女殿も止めてください!」


「え?」


「朱雀様を!」


「あ……」


 天女は、もう一度クッキーを見る。


 少しだけ考えて。


「でも」


「?」


「これ、とてもおいしいですよ?」


「今はお菓子の話ではありません!」


 その向こうでは。


「黄龍様ー!」


「朱雀様ー!」


 朱雀と配下の声が。


 いつまでも響いていた。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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