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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
アリア編

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閑話二 二年後

第三章 閑話二 二年後


 ――二年後。


 道場には、乾いた打撃音が響いていた。


「やっ!」


 咲子の拳が伸びる。


 すぐに引く。


 足を運び、身体の向きを変え、今度は蹴り。


「はっ!」


 踏み込みに迷いはない。


 一つ。


 また一つ。


 動きを確かめるように、何度も繰り返す。


 力任せではない。


 速さだけでもない。


 どこへ足を置くのか。


 どの間合いなら届くのか。


 相手の攻撃を、どちらへ流すのか。


 二年間。


 何度も。


 何度も。


 繰り返してきた動きだった。


「さっちゃん!」


「ん?」


 咲子が振り返る。


 道場の隅から、則人がこちらを見ていた。


「なに、キッド君?」


「きょう、やるんでしょ?」


「…………」


 咲子の動きが止まる。


 そして。


 少しだけ笑った。


「うん」


「やっぱり!」


 則人の顔が明るくなる。


「ぼく、みる!」


「別に見てもいいけど」


「ぜったいみる!」


「分かったって」


 咲子は苦笑した。


 そのとき。


 道場の入口が開く。


「おはようございます」


 声がした。


 咲子がそちらを見る。


「…………」


 入ってきたのは。


 二年前。


 咲子が追いつきたいと言った相手だった。


 男子も咲子を見つける。


 目が合う。


「…………」


「…………」


 ほんの少しだけ。


 沈黙。


 そして、男子が口を開いた。


「今日でいいんだな?」


「うん」


 咲子はまっすぐ答える。


「待たせたわね」


「二年もな」


「その分、強くなったから」


「俺だって、この二年ずっと待ってただけじゃないぞ」


「分かってる」


 男子が少し笑う。


「覚えてるか?」


「何を?」


「言っただろ」


 男子が拳を作った。


「今度は、私の力で勝つって」


「…………」


 二年前。


 怪人の力で勝ったあと。


 自分から口にした言葉。


 咲子は。


 ゆっくりと笑った。


「もちろん」


     ◇


 二人が向かい合う。


 礼。


 そして。


 構える。


「…………」


 咲子は相手を見る。


 二年前と同じ相手。


 でも。


 二年前と同じではない。


 背も伸びている。


 身体も、さらに鍛えられている。


 相手だって。


 この二年間。


 ずっと稽古してきたのだ。


「始め!」


 一瞬。


 男子が踏み込んだ。


「っ!」


 速い。


 拳が来る。


 咲子は正面から受けない。


 半歩。


 身体をずらす。


 拳が頬の横を通り抜ける。


 そのまま。


「やっ!」


 咲子の拳が返る。


「……っ!」


 男子が腕で受ける。


 一度、離れる。


「…………」


 男子の表情が変わった。


「今の……」


「なに?」


「いや」


 もう一度。


 構える。


「やるなと思って」


「まだ始まったばかりでしょう?」


「そうだな」


 二人が踏み込む。


     ◇


 拳。


 蹴り。


 受け。


 かわす。


 踏み込む。


 離れる。


 二年前。


 咲子がまともに受ければ。


 男子の拳は重かった。


 今だって。


 それは変わらない。


「……っ!」


 腕で受ける。


 痺れる。


 重い。


 やっぱり。


 力はある。


 リーチも長い。


 なら。


 そこで勝負しなければいい。


 咲子が一歩下がる。


 男子が追う。


 その瞬間。


 横へ。


「なっ――」


 身体をずらす。


 男子の踏み込んだ力が。


 ほんの少しだけ前へ流れる。


 そこへ。


「やっ!」


「くっ!」


 咲子の蹴り。


 男子が受ける。


 今度は男子が距離を取った。


「…………」


「…………」


 咲子の息が少し上がる。


 男子も同じだった。


「すごい……」


 則人が呟く。


 二人とも。


 止まらない。


 男子が攻める。


 咲子が外す。


 咲子が入る。


 男子が読む。


 男子が返す。


 咲子が受ける。


 一方的ではない。


 どちらかだけが押しているわけでもない。


 互いに。


 一つ動けば。


 一つ返る。


 もう一つ動けば。


 さらに一つ返ってくる。


 そこには。


 はっきりとした差ではなく。


 互いを読み合う空手があった。


「…………」


 則人は。


 瞬きするのも惜しいという顔で見ていた。


     ◇


「はっ!」


 咲子が踏み込む。


 男子がかわす。


 すぐに拳が返ってくる。


「っ!」


 避けきれない。


 咲子の肩に衝撃が走る。


 一歩。


 二歩。


 下がる。


「さっちゃん!」


 則人の声。


「大丈夫!」


 咲子が返す。


 男子も追撃はせず。


 構え直していた。


 咲子は肩を動かす。


「…………」


 痛い。


 息も苦しい。


 足だって。


 少しずつ重くなってきた。


 二年前とは、全然違う。


 あの姿なら。


 こんな拳。


 痛くもなかった。


 どれだけ打たれても平気だった。


 踏み込めば。


 簡単に追いつけた。


 力を出せば。


 すぐに終わった。


「…………」


 ほんの一瞬。


 怪人だった自分の姿が頭をよぎる。


 圧倒的だった力。


 簡単だった勝利。


 あれほど欲しかったはずなのに。


 手にした瞬間。


 空っぽだったもの。


「……ふふ」


 咲子は笑った。


 男子が眉を寄せる。


「何笑ってんだよ」


「え?」


「今、笑っただろ」


「…………」


 咲子は、自分でも気づいていなかった。


 痛い。


 苦しい。


 勝てるかどうかも分からない。


 それなのに。


「楽しいから」


「……は?」


「今、すごく楽しい」


「組手の途中に言うことか?」


「だって、本当なんだもの」


 男子が呆れたように笑う。


「変わってないな」


「そっちこそ」


「じゃあ」


 男子が構える。


「まだいけるな?」


 咲子も構えた。


「当然」


     ◇


 残り時間は。


 あとわずか。


「…………」


「…………」


 二人とも。


 息を切らしている。


 それでも。


 視線は外さない。


 男子の右足が動いた。


 来る。


 咲子にも分かった。


 そして。


 男子も。


 咲子が動くことを読んでいた。


 二人が。


 ほぼ同時に踏み込む。


「やあっ!」


「はあっ!」


 拳が伸びる。


 身体が交差する。


「そこまで!」


 声が響いた。


 二人の動きが止まる。


「…………」


「…………」


 道場が静かになった。


 判定。


「――引き分け」


「…………」


 咲子は。


 一瞬。


 何も言わなかった。


 勝ってはいない。


 負けてもいない。


 引き分け。


「はぁ……」


 男子が大きく息を吐く。


「追いつかれたな」


「…………」


 咲子が男子を見る。


「まだよ」


「は?」


「引き分けでしょう?」


「そうだけど」


「私、勝ってないもの」


「…………」


 男子が吹き出した。


「相変わらず負けず嫌いだな」


「当然でしょう?」


「二年経っても、そこは変わらないか」


「悪い?」


「いや」


 男子は笑っていた。


 そして。


 少しだけ真面目な顔になる。


「でも」


「なに?」


「今度は」


 男子が咲子の拳を見る。


「ちゃんと、お前の力だったな」


「…………」


 咲子の表情が止まった。


 二年前。


 この相手に。


 怪人の身体で勝った。


 あまりにも簡単に。


 圧倒的に。


 なのに。


 少しも嬉しくなかった。


『今度は、私の力で』


 そう約束した。


「…………」


 咲子は自分の手を見る。


 普通の手。


 怪人のような巨大な拳ではない。


 二年間。


 何度も突いた。


 何度も蹴った。


 失敗して。


 負けて。


 直して。


 また練習した。


 届かないなら、届く場所を探した。


 力で押し切れないなら、どう崩すかを考えた。


 間に合わないなら、半歩早く動く方法を探した。


 何度も。


 何度も。


 繰り返して。


 ここまで来た。


「……うん」


 咲子は笑った。


 勝ってはいない。


 それでも。


 二年前とは比べものにならないくらい。


 嬉しかった。


     ◇


「さっちゃん!」


「わっ!」


 則人が駆け寄ってくる。


「すごかった!」


「ありがとう」


「ひきわけだった!」


「そうね」


「おいついたんだね!」


「…………」


 咲子は一瞬考えた。


 そして。


 男子を見る。


「ううん」


「え?」


 則人が首を傾げる。


「やっと」


 咲子は笑った。


「同じところに立てたの」


「おなじところ?」


「そう」


 男子が横から口を挟む。


「次は負けないからな」


「それ、私の台詞なんだけど」


「さっき勝ってないだろ?」


「あなたもでしょう?」


「…………」


「…………」


 二人が顔を見合わせる。


 そして。


 笑った。


「じゃあ!」


 則人が元気よく手を上げる。


「つぎ、ぼく!」


「え?」


「ぼくもやる!」


 咲子が目を丸くする。


「誰と?」


「さっちゃん!」


「…………」


 則人は拳を握った。


「ぼくも、さっちゃんにおいつく!」


「…………」


 二年前。


 同じことを言われた。


 あのときは。


 まだ構えすらまともにできなかった男の子。


 それでも。


 あれから二年。


 秘密の稽古は続いた。


 少しずつ。


 少しずつ。


 則人の構えも。


 足運びも。


 最初の頃とは比べものにならない。


 咲子は笑った。


「まだまだ先よ?」


「おいつく!」


「本当に?」


「うん!」


「じゃあ、もっと練習しないとね」


「する!」


 男子が笑う。


「弟子までできたのか?」


「ち、違う!」


 咲子が慌てる。


「弟子じゃないから!」


「さっちゃんに、からておしえてもらってるよ!」


「キッド君!」


「あ」


 則人が口を押さえる。


「ひみつだった」


「二年も経ってからバラすの!?」


「ごめん!」


「今さら遅いわよ!」


 男子が声を上げて笑った。


「なるほどな」


「なるほどじゃない!」


「先生」


「やめて!」


「さっちゃんせんせい!」


「キッド君まで乗らないで!」


 道場に笑い声が広がった。


     ◇


 少しして。


 咲子は道場の中央に立っていた。


「…………」


 二年前。


 ここで負けた。


 ここで泣いた。


 ここで。


『女の子だから』


 そう言われることが。


 どうしても許せなかった。


 怪人になって。


 同じ場所へ戻ってきて。


 圧倒的な力で勝った。


 でも。


 欲しかったのは。


 あんな勝利ではなかった。


 今日。


 勝ってはいない。


 それなのに。


 あの日の勝利より。


 ずっと嬉しい。


「次」


 後ろから声がした。


 振り返る。


 あの男子がいる。


「いつやる?」


「…………」


 咲子は笑った。


「明日でもいいわよ」


「早すぎるだろ!」


「じゃあ今日もう一回?」


「もっと早くなってるじゃないか!」


「ぼくも!」


 則人が手を上げる。


「キッド君はまず基本から!」


「えー!」


「『えー』じゃない!」


 また。


 笑い声。


「…………」


 咲子は自分の拳を見る。


 二年前より。


 少しだけ。


 強くなった拳。


 けれど。


 まだ終わりではない。


 勝てなかった。


 だから。


 まだ強くなれる。


 まだ先へ行ける。


「よし」


 咲子は拳を握る。


「次こそ、勝つから」


「言ったな?」


「言ったわよ」


 その隣で。


「ぼくも!」


 則人が同じように拳を握った。


「ぼくも、さっちゃんにかつ!」


「まず構え!」


「はい!」


 道場に。


 元気な声が響く。


 咲子は笑った。


 二年前には。


 あんなにも遠く感じた場所。


 今は。


 ようやく同じ場所に立っている。


 追いついたからといって。


 そこで終わりではない。


 相手も進む。


 自分も進む。


 だから。


 ここから先も。


 また、自分の足で。


 自分の拳で。


 一歩ずつ。


 進んでいけばいい。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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