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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
アリア編

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第九話 九十五枚!

第三章 第九話 九十五枚!


 咲子が元の姿に戻ってからも、則人の興奮はなかなか収まらなかった。


「ほんとにもどったね!」


「戻ったわよ」


 咲子は自分の手を眺めながら答えた。


 握って、開いて。


 見慣れた自分の手だ。


「キッド君が戻してくれたんでしょう?」


「うん!」


 則人が得意げに胸を張る。


 そのときだった。


 ガンッ!!


「いったああああああっ!?」


 凄まじい音が響いた。


 空から落ちてきた金だらいが、則人の頭を直撃したのだ。


「いたい! いたい! いたいぃ!」


 則人の身体がびくんと跳ねる。


 両手で頭を抱え、ぴょんぴょん飛び跳ね、最後には涙目になってその場をぐるぐる回り始めた。


「キ、キッド君!?」


 咲子まで飛び上がる。


「大丈夫!?」


「だいじょうぶじゃないよぉ!」


 頭を押さえたまま、則人が恨めしそうに上を見た。


「たらいこぞう!」


「……たらい小僧?」


 咲子もつられて見上げる。


 そこには、たらい小僧がいた。


「…………」


 咲子の顔が引きつる。


「また妖怪……?」


「うん!」


「今のたらい、その子が落としたの?」


「うん!」


「毎回?」


「まいかい!」


「それ、大丈夫なの!?」


「だから、いたいっていってるでしょ!」


「そ、そうよね……」


 騒ぐ二人とは対照的に、たらい小僧はいつも通りだった。


「内田則人くん」


「はい!」


 則人はまだ頭をさすりながら、それでも反射的に姿勢を正した。


「今回の採点結果を発表します」


「…………」


 ぴたり、と則人の動きが止まる。


 ついさっきまでの涙目が嘘のように、その顔が真剣になった。


 前回もらえたコインは、六十五枚。


「今回の点数は――」


 たらい小僧が、ほんの少し間を置く。


「九十五点です」


「…………」


 則人が固まった。


「コイン、九十五枚です」


「…………」


 まだ動かない。


 咲子が心配そうに顔を覗き込んだ。


「キッド君?」


 次の瞬間。


「きゅうじゅうごおおおおおっ!?」


 則人が跳び上がった。


「やったああああああっ!」


「わっ!」


 咲子が思わず後ずさる。


「九十五まい!」


 さっき頭を打ったことなど、もう完全に忘れている。


「九十五まいだよ!」


「う、うん。聞こえてたわよ」


「まえ、六十五まいだったんだよ!」


「じゃあ、ずいぶん増えたのね」


「三十まいもふえた!」


 則人は大はしゃぎだった。


「すごい!」


「いっぱい!」


「九十五まい!」


「分かった、分かったから」


 咲子も、つられて笑ってしまう。


「そんなに嬉しいの?」


「うれしいよ!」


 ところが。


 飛び跳ねていた則人が、ふと止まった。


「…………」


「どうしたの?」


「なんで?」


「え?」


 則人は、たらい小僧を見上げた。


「なんでこんかい、九十五なの?」


「…………」


「ぼく、まえとそんなにちがうことした?」


 たらい小僧は答えない。


「なにがなんてんだったの?」


「…………」


「こんかい、どこがよかったの?」


「…………」


「しせいじゅうのぶんは?」


 質問を重ねる則人に、たらい小僧は淡々と答えた。


「採点内容は秘密です」


「えええええっ!?」


「秘密です」


「ちょっとだけ!」


「秘密です」


「一こだけ!」


「秘密です」


「じゃあ、ヒント!」


「秘密です」


「ぜんぶひみつじゃん!」


「はい」


「えーっ!」


 則人が食い下がる。


「だって、しりたいよ!」


「採点内容は秘密です」


「なんで九十五なのー!」


 しかし、たらい小僧はそれ以上何も教えなかった。


「では」


「あ!」


 たらい小僧が立ち去ろうとする。


「まって!」


 則人が慌てて手を伸ばした。


「まだきいてないことある!」


 だが、たらい小僧はそのまま去っていく。


「まってー! ちょっとだけおしえてー!」


 則人の声だけが、むなしく残った。


     ◇


「……行っちゃったわね」


「うん……」


 則人は少しだけ残念そうに肩を落とした。


 けれど。


 九十五枚のコインへ目を戻す。


「…………」


 すぐに顔が明るくなった。


「やっぱりいっぱい!」


「切り替え早いわね……」


「だって九十五まいだもん!」


 則人はコインを抱えて、今度はぬらりひょんのところへ駆けていく。


「ぬらりひょん!」


「なんじゃ?」


「九十五まい!」


「そうじゃな」


「いっぱい!」


「そうじゃな」


 満足したのか、今度は咲子のところへ戻ってくる。


「おねえちゃんもみて!」


「見てるわよ」


「九十五まい!」


「それも、もう何回も聞いたわ」


 咲子は苦笑した。


 それから、ふと首をかしげる。


「でも、そのコインって何に使うの?」


「え?」


「そんなに一生懸命集めてるんでしょう?」


「うん!」


「何か欲しいものでもあるの?」


 すると則人は、にっこり笑った。


「いっぱいコインためたらね」


「うん」


「ぬらりひょんが、かみさまに――」


 小さな胸をいっぱいに張る。


「ぼくを、ほんもののヒーローにしてくれるよう、たのんでくれるってやくそくしてるんだよ!」


「…………」


 咲子が瞬きをする。


「本物の……ヒーロー?」


「うん!」


 則人は、ぬらりひょんを振り返った。


「ね、ぬらりひょん?」


「うむ」


 ぬらりひょんは静かに頷く。


「約束じゃ」


「ほら!」


 則人は嬉しそうに咲子へ向き直った。


「だから、いっぱいためるんだ!」


「そうだったの……」


 咲子は、改めて則人を見る。


 今日。


 自分を助けてくれた小さな男の子。


 あんなに長いお着替えをして。


 謎の歌と喧嘩して。


 最後にはピコピコハンマーを握って、自分を元へ戻してくれた。


 この子は本気で。


 本物のヒーローになろうとしている。


「…………」


 そのとき。


 則人の動きが、ぴたりと止まった。


「ん?」


 咲子が首をかしげる。


「どうしたの?」


 則人は咲子を見る。


 ぬらりひょんを見る。


 もう一度、咲子を見る。


「…………」


「なに?」


「あ!」


「な、なによ!?」


「おねえちゃん!」


「うん?」


「ぬらりひょん、みえてる!」


「今さら!?」


 咲子の声が響いた。


「さっきからずっと見えてるって言ってるでしょう!」


「そうだった!」


「狐のときからよ!」


「そうだった!」


「天狗も見えてたでしょう!」


「そうだった!」


「今のたらい小僧だって見えてたわよ!」


「そうだった!」


「何回忘れるのよ!」


「ごめん!」


 ぬらりひょんが、ほっほっほ、と愉快そうに笑った。


「まあまあ」


「ぬらりひょん」


 則人が首をかしげる。


「なんで、おねえちゃんにはみえるの?」


「そうね」


 咲子も、ぬらりひょんへ視線を向けた。


「私も、それは気になるわ」


 ぬらりひょんは咲子をしばらく見つめ、それからゆっくり口を開いた。


「儂らの存在が、これほどはっきり見えるということは……」


「…………」


「妖精や、妖怪、お化け。そういったものを、心から信じてくれておるということじゃ」


「い、いや!」


 咲子が急に慌てた。


「妖精とか、本当にいたら素敵だなとは思ってるけど!」


「ほう」


「妖怪も……まあ、今日こんなに会っちゃったから、もう何とも言えないけど……」


「うむ」


「でも、お化けは別!」


「別なのか?」


「別よ!」


 咲子は力強く言い切った。


「お化けなんて本当にいたら……」


 そこで言葉が止まる。


「…………」


「どうしたの?」


 則人が見上げる。


 咲子は少し頬を赤くして、視線をそらした。


「怖くて……」


「うん」


「夜、一人でトイレに行けなく……」


「ぼく、一人でトイレいけるよ」


「…………」


 咲子が固まった。


「うん?」


 則人は、きょとんとしている。


 からかっているわけではない。


 本当に、ただ自分は一人でトイレに行けると報告しただけらしい。


「…………」


「おねえちゃん?」


「分かってるわよ!」


「なにが?」


「九歳のキッド君が一人でトイレに行けることくらい!」


「うん!」


「そんな元気に返事しないで!」


「なんで?」


「なんでも!」


 咲子の顔が、さらに赤くなった。


 則人には、まだ何が悪かったのか分からない。


「でも、おねえちゃん、つよいよね?」


「空手とお化けは別なの!」


「なんで?」


「別なの!」


「おばけにからてすれば?」


「できるわけないでしょう!」


「なんで?」


「触れるかどうかも分からないでしょう!」


「そっか!」


「納得するところ、そこなの!?」


 ぬらりひょんが、また楽しそうに笑った。


     ◇


 咲子は小さくため息をついた。


「私……」


「なに?」


「元に戻ったら、普通に戻れると思ってたんだけど」


「もどったよ?」


 則人は不思議そうに答える。


「見た目の話じゃないのよ」


「?」


 咲子は周囲を見回した。


 ぬらりひょん。


 狐。


 天狗。


 そして、さっきまでそこにいた、たらい小僧。


 昨日までなら、存在すら知らなかったものばかりだ。


「…………」


 これから。


 一体どうなってしまうのだろう。


 そんなことを考えている咲子の隣で。


「九十五まい!」


 則人が、また嬉しそうにコインを見た。


「まだ言ってるの?」


「だって、九十五まいだよ!」


「はいはい」


「『はいはい』っていった!」


「だって本当でしょう?」


「すごいんだよ!」


「分かったわよ」


「ほんと?」


「本当」


「じゃあ、もう一回みて!」


「さっきからずっと見てるわよ!」


 咲子の声と。


 則人の楽しそうな笑い声が。


 しばらく、その場所に響いていた。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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