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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
アリア編

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第八話 四つのガチャコイン

第三章 第八話 四つのガチャコイン


「いくよ!」


 則人が、両手で握ったピコピコハンマーを振り下ろした。


 咲子は目を閉じる。


「……お願い、キッド君」


 ぽこん。


「…………」


 あまりにも軽い音だった。


「……え?」


 咲子が、そっと目を開ける。


 目の前には、ピコピコハンマーを振り下ろした則人がいる。


「……今、叩いた?」


「たたいたよ!」


「…………」


 咲子は、自分の頭に触れた。


「全然痛くないんだけど」


「ピコピコハンマーだから!」


「そういう問題なの?」


 あれだけ覚悟して目を閉じたのに。


 あまりにも普通だった。


「本当にこれで――」


 元に戻れるの?


 そう言いかけた、そのときだった。


「……え?」


 右腕が震えた。


 自分で動かしたわけではない。


 蜂を思わせる巨大な腕が、ぶるりと揺れる。


「なに……?」


 次は背中。


 蝶の羽が勝手に大きく開いた。


「きゃっ!」


「おねえちゃん!」


「キッド君、これ何!?」


「だいじょうぶ!」


「大丈夫って――!」


 頭を覆う蟻のような部分が、わずかに浮いた。


 腕も。


 胴体も。


 脚も。


 咲子自身の身体から、少しずつずれていく。


「これ……」


 咲子は息を呑んだ。


 今まで自分の身体だと思っていたものが。


 まるで、本当に着ぐるみだったかのように。


 咲子から離れていく。


「ちょ、ちょっと……!」


 ずるり。


 大きな着ぐるみが、一気に咲子の身体から抜け落ちた。


「きゃっ!」


 咲子が、その場に尻もちをつく。


「おねえちゃん!」


 則人が駆け寄った。


「…………」


 咲子は自分の手を見る。


 いつもの手。


 大きな蜂の腕ではない。


 慌てて腕を触る。


 脚を見る。


 背中へ手を回す。


「羽……ない」


 頭にも触れる。


 髪。


 頬。


 全部。


 いつもの自分だった。


「……戻った?」


「うん!」


 則人が笑った。


「もどったよ!」


「本当に……?」


「ほんと!」


 咲子は、もう一度自分の両手を見た。


 拳を握ってみる。


 あの途方もない力は、もう感じない。


 いつもの、自分の拳。


「……そっか」


 小さく息を吐く。


「戻ったんだ……」


「だからいったでしょ!」


 則人が胸を張った。


「ぼくがもどすって!」


「…………」


 咲子は則人を見る。


 長々と着ぐるみに着替えて。


 どこからともなく聞こえる歌と喧嘩して。


 妖怪のお爺さんに許可をもらって。


 天狗から、おもちゃにしか見えないハンマーを受け取った。


 本当に大丈夫なのか。


 最後まで半信半疑だった。


 それなのに。


 本当に、元へ戻してしまった。


「キッド君」


「なに?」


「疑ってごめんなさい」


「いいよ!」


「……怒らないの?」


「だって、おねえちゃん、もどったもん!」


「…………」


 咲子は少し笑った。


「そうね」


     ◇


 そのとき。


「……え?」


 咲子が何かに気づいた。


 自分から抜け落ちた着ぐるみ。


 それが、ふわりと地面から浮かび上がった。


「キッド君」


「なに?」


「あれ」


 咲子が指さす。


 則人も振り返る。


 着ぐるみは、ゆっくりと空へ昇っていく。


「…………」


「飛んでいくんだけど」


「うん」


「どこに?」


「しらない」


「知らないの!?」


「うん!」


「どうしてそんなに元気よく答えられるのよ!」


 咲子が思わず叫ぶ。


 着ぐるみは、どんどん高くなっていく。


「本当にどこへ行くの……?」


「ぼくもしらないんだもん」


「…………」


 咲子は空を見上げる。


 さっきまで、自分を包んでいたもの。


 怪人になった自分そのもののように感じていたもの。


 それが、どんどん小さくなっていく。


 やがて。


 見えなくなった。


     ◇


「来たぞ」


 空から、何かが降りてくる。


 青龍。


 朱雀。


 白虎。


 玄武。


 その周囲にいる者たちも、次々と視線を向けた。


 降りてきたのは、先ほどまで咲子を包んでいた着ぐるみ。


 それが四聖獣たちの前まで来た瞬間。


 形を変えた。


 ころん。


 ころん。


 ころん。


 ころん。


 四枚のガチャコイン。


「四枚じゃな」


 朱雀が楽しそうに言った。


「ならば四回じゃ」


「当然じゃな」


 白虎が答える。


「…………」


 その横で、青龍だけが四枚のコインをじっと見ていた。


「どうした、青龍」


「何でもない」


「そうか?」


「何でもない!」


 白虎が、にやりとする。


「まだ何も言っておらんぞ」


「その顔をやめろ!」


「何のことじゃ?」


「分かっているだろう!」


 朱雀が、くすくすと笑った。


「まあまあ。まだ一度も回しておらんではないか」


「そうだ!」


 青龍がコインを指さす。


「今回は違う!」


「何が違うんじゃ?」


「それは……」


「ほれ」


「…………」


「やはり何もないではないか」


「うるさい!」


     ◇


「では、妾からじゃ」


 朱雀が一枚目のコインを取った。


「今回は誰じゃろうな」


 ガチャへコインを入れる。


 そして、回した。


 ころん。


「ほう」


 朱雀が結果を見る。


「玄武じゃ」


「わしか」


 玄武が前へ出る。


 玄武の配下の一人。


「まずは玄武か」


「幸先がよいのう」


 玄武は静かに頷いた。


 朱雀は少しだけ口を尖らせる。


「妾のところではなかったか」


「まだ三回ありますよ」


 天女が笑う。


「そうじゃな」


     ◇


「次は俺だ!」


 青龍が、待ってましたとばかりに前へ出た。


「ずいぶん気合いが入っておるな」


 白虎が言う。


「うるさい!」


「何も悪いことは言っておらんが」


「笑う準備をしているだろう!」


「しておらん」


「嘘をつけ!」


 青龍は二枚目のコインを握った。


 周囲も、いつの間にか注目している。


「…………」


 青龍がガチャを睨む。


「今度こそ」


 コインを入れる。


「来い!」


 回した。


 ころん。


「…………」


 青龍が結果を見る。


 動かない。


「どうした?」


 朱雀が覗き込む。


 白虎も見る。


「おや」


 青龍が、ゆっくり顔を上げた。


「俺の……」


「うむ」


「俺のところだよな?」


「そうじゃな」


「本当に?」


「見れば分かるじゃろう」


「…………」


 青龍の顔が、みるみる変わっていく。


「出た……」


「青龍?」


「出たぞ……」


 拳を握る。


「出たああああああああ!!」


 大声が響いた。


「俺のところだ!」


「分かった分かった」


「やっとだぞ!」


 青龍が振り返る。


「おい! 見たか!」


「見ておるわ」


「俺の配下だぞ!」


「だから見れば分かると言っておる」


 青龍の配下たちも、一気に騒ぎ始めた。


「青龍様!」


「おお!」


「ついに!」


「おおお!」


「やりましたな!」


「やったぞ!」


 青龍の周囲だけ、完全なお祭り騒ぎになった。


「騒がしいのう」


 白虎が耳を押さえる。


「一体で、ここまで騒ぐか」


「白虎」


「なんじゃ」


「今の言葉、覚えておけよ」


「なぜじゃ?」


「なんとなくだ!」


     ◇


 三枚目。


 白虎が前へ出る。


 そのとき。


「白虎様!」


「ん?」


 声をかけたのは、先ほど青龍の番で選ばれた配下だった。


「お願いがございます!」


「なんじゃ」


「もう一匹、うちにお願いします!」


「…………」


 白虎が青龍を見る。


「おい」


「俺を見るな」


「おぬしの配下じゃろう」


「俺は頼めなんて言ってない!」


「白虎様!」


「近いわ!」


「お願いします!」


「なぜ、わしがおぬしたちの分を引かねばならん!」


「青龍様は、もう引いてしまいましたので!」


「知らん!」


「まあよいではないか」


 朱雀が楽しそうに口を挟む。


「どうせ誰になるかは分からぬのじゃ」


「おぬしは面白がっておるだけじゃろう」


「さて、何のことかのう」


「…………」


 白虎はため息をついた。


「まったく」


 コインを入れる。


「では、回すぞ」


「お願いします!」


「おぬしに言われると腹が立つのう」


 白虎がガチャを回す。


 ころん。


「…………!」


 青龍の配下が一番に覗き込んだ。


「どうじゃ?」


「…………」


「どうした」


「……違います」


「だから何がじゃ」


「うちではありません」


「そうじゃろうな」


 朱雀が横から覗く。


「あ」


「なんじゃ」


「妾のところじゃ」


「おお!」


 天女も顔を明るくする。


「朱雀様!」


「うむ!」


 一方、白虎は何も言わなかった。


 青龍の配下が、そんな白虎を見る。


「白虎様」


「なんじゃ」


「白虎様のところも、出ませんでしたね」


「…………」


 青龍が口元を押さえる。


「おい」


「何だ」


「笑っておるな?」


「笑ってない」


「こちらを見ろ」


「嫌だ」


「絶対に笑っておるだろう!」


「今まで俺を笑ってたじゃないか!」


「それとこれは別じゃ!」


「何が別なんだ!」


 朱雀が笑い。


 玄武も静かに肩を揺らしていた。


     ◇


「最後はわしか」


 玄武が四枚目を手に取った。


「すでにわしのところは一人じゃが」


「まさか、また玄武だったりしてのう」


 朱雀が言う。


「さすがに二度はないじゃろう」


 玄武は淡々とコインを入れた。


 回す。


 ころん。


「…………」


「どうじゃ?」


 青龍が覗き込む。


 玄武が目を細める。


「また、わしじゃ」


「え?」


 朱雀が見る。


「本当じゃ」


 今度も玄武の配下だった。


「玄武、二人か!」


「そうなるのう」


「朱雀が一人」


 天女が指を折る。


「青龍も一人ですね」


「やっとな!」


 青龍が胸を張る。


 そして。


 全員が、ゆっくり白虎を見る。


「…………」


「見るな」


 白虎が言った。


「誰も何も言っておらんぞ」


 青龍の口元は完全に笑っている。


「顔が笑っておる!」


「気のせいだ!」


「さっきわしが言ったことを、そのまま返すな!」


 再び、周囲に笑い声が響いた。


     ◇


「それにしても」


 騒ぎが少し落ち着いた頃。


 朱雀が、ふと下界へ目を向けた。


「はい?」


 天女が振り向く。


「下界の服というものは、いつ見ても面白いのう」


「ああ!」


 天女の目が輝いた。


「分かります!」


「少し前に見たものもよかったが、最近のものも捨てがたい」


「髪型もずいぶん違いますよね」


「うむ」


「服に合わせて髪飾りを変えたり」


「それじゃ!」


 朱雀が食いつく。


「髪飾りはよい!」


「でしょう?」


「妾は服も欲しいぞ」


「靴も合わせたいですね」


「色はどうする?」


「朱雀様なら――」


 二人の話は、あっという間に盛り上がっていく。


 しばらくして。


「あ」


 天女が、ふと下界へ目を向けた。


「朱雀様」


「なんじゃ?」


「今回の女の子」


「うむ」


「私たちのことが見えていたみたいですね」


「…………」


 朱雀が止まる。


 天女も朱雀を見る。


「それなら」


「…………」


「彼女にお願いすれば」


「…………」


 二人が顔を見合わせた。


「下界の物を……?」


「手に入れられるかもしれません」


「…………!」


 朱雀の顔が輝く。


「それじゃ!」


「ですよね!」


「ならば、妾はあの服を!」


「私は髪飾りを!」


「靴もじゃ!」


「それなら鞄も!」


「おお! よいな!」


「朱雀様なら、この色も――」


「お二人とも」


「…………」


「…………」


 二人の動きが、ぴたりと止まった。


 ゆっくり振り返る。


 そこには、いつもの朱雀の配下が立っていた。


「何をなさるおつもりです?」


「…………」


 朱雀が目を逸らす。


「何もしておらぬぞ」


「まだ、でしょう」


「下界について話していただけじゃ」


「そうです」


 天女も頷く。


「少し、服のお話を」


「ほう」


「…………」


「今回の娘に、何か頼もうなどとは考えておられませんな?」


「…………」


 朱雀が天女を見る。


 天女が朱雀を見る。


「頼むとは人聞きが悪い」


「では?」


「交流じゃ」


「朱雀様」


「…………」


「おやめください」


「まだ何もしておらぬ!」


「しようとしておられたでしょう」


「…………」


 天女が、小さく手を挙げた。


「髪飾り一つくらいなら……」


「天女様もです」


「…………はい」


 二人そろって、しゅんとした。


 だが。


 配下が少し視線を外した瞬間。


 朱雀が、そっと天女を見る。


 天女も、そっと朱雀を見る。


「…………」


「…………」


「……いつかの」


「……はい」


 小さな声で。


 二人は、まだ完全には諦めていなかった。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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