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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
アリア編

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第七話 ほんとうに、いいの?

第三章 第七話 ほんとうに、いいの?


「信じてみるわ、キッド君」


「うん!」


 長いお着替えを終えた則人は、嬉しそうに笑った。


 咲子は、そんな則人を改めて上から下まで眺める。


 確かに、さっきまでとは姿が違う。


 けれど。


 どうしても咲子の目には、着ぐるみに着替えた小さな男の子にしか見えなかった。


「それで……」


「うん?」


「これから、どうするの?」


「えっと……」


「…………」


 則人が考え込む。


 咲子の眉が、ぴくりと動いた。


「ちょっと」


「なに?」


「まさか、分からないの?」


「わかるよ!」


「今、考えたでしょう?」


「かんがえてない!」


「考えてたわよ」


「かんがえてないもん!」


「じゃあ、どうするの?」


「それは……」


「ほら」


「…………」


 やっぱり。


 少し不安になってきた。


 本当に、この子に任せて大丈夫なのだろうか。


 そんなことを考えた、そのときだった。


「ほっほっほ」


「…………?」


 背後から声がした。


「ほっほっほ」


 もう一度。


 咲子は、ゆっくりと振り返った。


「…………」


 そこに。


 一人のお爺さんが立っていた。


「きゃあああっ!?」


 咲子は大きな悲鳴を上げた。


 思わず後ずさり、そのまま則人の背中へ隠れる。


「…………」


 怪人姿の咲子が、自分よりずっと小さな則人を盾にしている。


「おねえちゃん?」


「だ、誰!?」


「あ」


 則人は、何でもないことのように答えた。


「ぬらりひょん」


「知ってるの!?」


「うん」


「何なの、このお爺さん!?」


「ぬらりひょん」


「名前じゃなくて!」


「ほっほっほ」


 ぬらりひょんは楽しそうに笑った。


 そして、咲子を見る。


「ほう」


「……な、何ですか?」


「わしが見えるのか」


「見えるに決まってるでしょう!」


 咲子は即答した。


「そこにいるんだから!」


「ふつうはみえないよ」


 則人が言う。


「またそれ!?」


 咲子は思わず則人を見た。


「狐もそうだったけど、このお爺さんも普通は見えないの?」


「うん」


「じゃあ、どうして私は見えるのよ!」


「しらない」


「知らないの!?」


「ぼくもわかんないもん」


「…………」


 咲子は、もう一度ぬらりひょんを見る。


 ぬらりひょんは何かを見定めるように、じっと咲子を眺めていた。


「なるほどのう」


「な、何ですか?」


「いやいや」


 ぬらりひょんは、それ以上何も言わなかった。


「…………」


 今日だけで。


 分からないことが、また一つ増えた。


     ◇


「ぬらりひょん!」


 則人が声を上げた。


「おねえちゃん、もどしたい!」


「ほう」


 ぬらりひょんは顎を撫でる。


「そうかそうか」


「うん!」


「おぬしが、そうしたいのか?」


「うん!」


 則人は大きく頷いた。


 だが。


「違うわい」


「え?」


 則人が首をかしげる。


 ぬらりひょんは咲子へ目を向けた。


「その娘自身は、どうなのじゃ」


「……私?」


「そうじゃ」


 則人も咲子を見る。


「おねえちゃん」


「なに?」


「ほんとうに、このちから」


 則人は咲子の身体を見上げた。


「いらない?」


「…………」


 さっき。


 もう答えた。


 いらない、と。


 それでも。


 改めて尋ねられると、咲子はすぐには答えられなかった。


 巨大な腕を見る。


 拳を握る。


 力がある。


 今まで、どれだけ努力しても手に入らなかった力。


 背中の羽が、わずかに動く。


 これがあれば、空だって飛べる。


 少し動いただけで、あの人より速くなれた。


 押されても、一歩も下がらなかった。


 ずっと勝てなかった相手に。


 あまりにも簡単に勝てた。


「……正直に言うと」


「うん」


「少し、惜しいと思ってる」


 則人が目を丸くした。


「そうなの?」


「うん」


 咲子は怪人の腕を見つめる。


「だって、ずっと欲しかったものだから」


 強さ。


 速さ。


 力。


「こんなに強くなれるなら、このままでもいいのかなって」


 ほんの少し。


 そう思っている自分がいる。


 則人は何も言わなかった。


 ぬらりひょんも、黙って咲子の言葉を待っている。


「でもね」


 咲子は、握っていた拳を開いた。


「さっき、勝ったの」


「うん」


「ずっと勝ちたかった相手に」


「うん」


「なのに」


 咲子は小さく笑った。


「全然、嬉しくなかった」


 あれほど欲しかった勝利だったのに。


「私ね……勝てれば、それでいいと思ってたのかもしれない」


 自分でも確かめるように、ゆっくりと言葉を続ける。


「でも、違った」


 毎日練習して。


 昨日できなかったことが、少しずつできるようになって。


 何度負けても、どうしたら勝てるのかを考えて。


 また練習する。


「そうやって強くなりたかったんだと思う」


 咲子は自分の拳を見つめた。


「今日より明日。明日より、その次」


 少しずつ。


 自分自身の力で。


「いつか、自分の空手で勝ちたい」


 咲子は顔を上げた。


「だから」


 則人を見る。


「この力は、いらない」


 今度は。


 迷わなかった。


     ◇


「ほんとう?」


「本当よ」


「ぜったい?」


「絶対」


「あとで、やっぱりほしいっていっても――」


「言わないわよ」


「でも――」


「キッド君」


「なに?」


「何回確認するの?」


「だって」


 則人は少し頬を膨らませた。


「あとで、もどしてっていわれてもこまるもん」


「戻せないの?」


「しらない」


「知らないの!?」


「だから、ちゃんときいてるの!」


「…………」


 咲子はため息をついた。


 でも。


 少しだけ笑った。


「分かったわよ」


 則人の前に立つ。


「本当にいらない」


「うん」


「私は、自分で強くなりたい」


「うん!」


「だから」


 咲子は、まっすぐ則人を見る。


「お願い」


 一度、息を吸う。


「私を、元に戻して」


 則人は今度こそ、大きく頷いた。


「うん!」


     ◇


「……そういうことなら」


 ぬらりひょんが口を開いた。


「よいじゃろ」


「…………?」


 咲子が振り向く。


「許可する」


「許可?」


「うん!」


 則人は嬉しそうだった。


「何の許可なの?」


「これ!」


「これって――」


 そのとき。


「ほれ」


 別の声がした。


「え?」


 咲子が周囲を見回す。


 次の瞬間。


 何かが飛んできた。


「わっ!」


 則人が両手を伸ばす。


 ぽすっ。


 受け取った。


「…………」


 咲子は、それを見る。


 赤い。


 軽そうな。


 どこかで見たことのある形。


「…………」


 ピコピコハンマー。


「……え?」


「きた!」


 則人は嬉しそうに、それを持ち上げた。


「ちょっと待って」


「なに?」


「それ」


「うん」


「どこから飛んできたの?」


「てんぐ」


「……天狗?」


 則人が上を指さす。


 咲子も、つられて見上げた。


「…………」


 いた。


 長い鼻。


 大きな翼。


 こちらを見下ろしている。


「きゃあああっ!?」


 また咲子の悲鳴が響いた。


「今度は何!?」


「てんぐ!」


「見れば分かるわよ!」


 咲子は則人を見る。


「狐がいて!」


「うん」


「ぬらりひょんがいて!」


「うん」


「今度は天狗!?」


「うん!」


「キッド君の周り、こんなのばっかりなの!?」


「こんなのっていったらしつれいだよ!」


「そこなの!?」


 天狗が、少しむっとしたように見えた。


「あ」


 咲子が口元を押さえる。


「……ごめんなさい」


 天狗は何も言わない。


 ただ、少しだけ胸を張った。


「……怒ってる?」


「たぶん」


「見えてるから余計分かるのよ……」


     ◇


 咲子は、もう一度則人の手を見る。


 ピコピコハンマー。


「それで?」


「うん?」


「これからどうするの?」


 則人は満面の笑みで答えた。


「これで、おねえちゃんをたたく!」


「…………」


 咲子の表情が止まった。


「……私を?」


「うん!」


「それで?」


「もどす!」


「…………」


 咲子はピコピコハンマーを見る。


 則人を見る。


 もう一度、ハンマーを見る。


「それ……」


「うん」


「どう見ても、おもちゃよね?」


「ピコピコハンマー!」


「名前を聞いてるんじゃないの!」


 咲子は頭を抱えた。


「長々と着替えを見せられて」


「へんしん!」


「変身を見せられて」


「うん!」


「妖怪のお爺さんに許可を取って」


「ぬらりひょん!」


「天狗からおもちゃのハンマーを投げてもらって」


「ピコピコハンマー!」


「それで私を叩くの!?」


「うん!」


「…………」


 咲子は空を見上げた。


「私、本当に大丈夫なのかしら……」


「だいじょうぶ!」


「あなたが言うと、どうしてこんなに不安になるの……」


     ◇


 それでも。


 則人がピコピコハンマーを握って、咲子の前へ立った瞬間。


 少しだけ。


 空気が変わった。


「おねえちゃん」


「……なに?」


「いくよ」


 さっきまで、謎の歌と喧嘩していた男の子とは。


 少し違って見えた。


 則人は真剣な顔で、咲子を見つめている。


「…………」


 咲子も笑うのをやめた。


 自分の身体を見る。


 この姿とも。


 もうすぐ、お別れになるのだろうか。


 少し怖い。


 何が起こるのかも、まだ分からない。


 それでも。


 自分で決めた。


 この力ではなく。


 自分自身の力で。


 もう一度、強くなる。


 咲子は静かに目を閉じた。


「……お願い」


 少しだけ息を吸う。


「キッド君」


「うん」


 則人はピコピコハンマーを両手で握った。


 そして。


 大きく。


 振り上げた。


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

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