↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
アリア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/30

第五話 これは、わたしの力?

第三章 第五話 これは、わたしの力?


 咲子が道場を飛び出してから、誰もすぐには稽古へ戻れなかった。


 さっきまで響いていた掛け声も、床を踏む音も消えている。


 残っているのは、咲子が泣きながら叫んだ言葉だけだった。


『女の子だからって……最初から決めないでよ!』


「……俺」


 咲子と組手をしていた男子が、小さく口を開いた。


「何回、言ったんだろうな。女だからって」


 誰も答えない。


「心配してただけなんだけどな……」


「俺たちもだよ」


 別の道場生が呟いた。


「褒めてるつもりだった。女子なのにすごいって」


「でも、あいつには……ずっと嫌だったんだな」


 誰も咲子を傷つけようとしていたわけではない。


 だからこそ、重かった。


「おねえちゃん……」


 入口では、則人が外を見つめていた。


 追いかけたものの、途中で見失ってしまった。


 ただ、空を飛んでいく見たことのない何かを目にした瞬間、なぜか咲子だと思った。


 もう一度、探しに行こう。


 そう思って入口へ向かおうとした、そのときだった。


 ――ドンッ!!


「うわっ!?」


 道場全体が大きく揺れた。


「なんだ!?」


「地震か!?」


 全員が天井を見る。


 ミシッ。


 嫌な音が響く。


 次の瞬間。


 バキッ!


 バリバリバリッ!!


「うわあああっ!」


 天井が砕けた。


 木片と埃と破片が一気に降り注ぎ、道場生たちが悲鳴を上げて散る。


 そして、穴の開いた天井から巨大な何かが落ちてきた。


 ドゴンッ!!


 床が震えた。


 着地した場所が、わずかに沈む。


 もうもうと埃が舞う。


「な、なんだ……?」


 誰も動けない。


 埃の向こうで、何かがゆっくりと立ち上がった。


 まず見えたのは、大きな羽。


 鮮やかな蝶を思わせる羽だった。


 次に、異様に大きな両腕。


 蜂の身体と、長い針を思わせる形。


 頭部は、蟻を思わせる異形のフードに覆われている。


 それなのに、口元だけは人間だった。


 長い黒髪が、その背中を流れている。


「か……怪人……」


 誰かが呟いた。


「逃げろ!」


 数人が後退する。


 無理もなかった。


 天井を破壊して、それでも何事もなかったように立っている。


 人間の姿には、とても見えない。


 怪人が一歩、前へ出た。


「ひっ……!」


 咲子と戦っていた男子も、思わず後ろへ下がった。


 怪人は、彼の前まで歩く。


 巨大な腕が動いた。


「……っ!」


 男子が身構える。


 だが、怪人は攻撃しなかった。


 両腕を下げ、静かに頭を下げる。


「……え?」


 礼。


 空手の礼だった。


「……お願いします」


 その声を、男子は知っていた。


「咲子……?」


 怪人が顔を上げる。


 口元。


 髪。


 声。


 そして、その構え。


 間違えるはずがない。


「もう一度」


 咲子は言った。


「私と、組手をしてください」


     ◇


「無理だろ……」


 男子の声が震えていた。


 目の前にいる咲子を見る。


 巨大な腕。


 羽。


 天井に開いた穴。


「それ……咲子なんだよな?」


「うん」


「どうなってんだよ……」


「私にも、分からない」


 咲子は自分の腕を見る。


「でも、今ならできると思う」


 もう一度、男子を見る。


「だから、お願いします」


 咲子は頭を下げた。


 男子は動かなかった。


 怖い。


 当然だった。


 あの身体から、まともに一発でも攻撃を受けたら、どうなるか分からない。


「ごめん」


 咲子が小さく言った。


「そうだよね。怖いよね」


 少し寂しそうな声だった。


 咲子が背を向けようとする。


 そのとき。


「待て」


 男子が言った。


「……え?」


「やる」


 道場の人たちが一斉に彼を見る。


「おい!」


「無茶だ!」


「見ただろ、天井!」


「分かってる!」


 男子が叫ぶ。


 それから、少しだけ声を落とした。


「……でも、俺たちがもう一回ちゃんと向き合わなきゃ駄目だろ」


 咲子を見る。


「さっき、咲子があんなになるまで、何も分かってなかった」


 ほかの道場生たちも黙った。


「だから」


 男子が構える。


「やる」


 咲子は、しばらく彼を見つめた。


 そして、ゆっくりと頭を下げた。


「ありがとうございます」


     ◇


「おねえちゃん!」


「え?」


 そのとき、道場の入口から則人が飛び込んできた。


「いた!」


「キッド君?」


 則人が天井を見る。


 大きな穴。


 床には破片。


 その真下には、見たことのない姿になった咲子。


 もう一度、天井を見る。


 咲子を見る。


 また天井を見る。


「おねえちゃん!」


「な、なに?」


「なにしたの!?」


 咲子が天井を見る。


「あ」


 そこで初めて気づいたような顔をした。


「……ごめんなさい」


「ごめんなさいじゃないよ!」


 道場の空気が、ほんの少しだけ緩んだ。


 咲子も、少しだけいつもの顔に戻る。


「あとで、ちゃんと謝るから」


「ほんと?」


「うん」


「ぜったいだよ!」


「分かったから」


 咲子が苦笑した。


 そして再び、男子のほうを向く。


 表情が変わった。


「お願いします」


「……お願いします」


 二人が礼をした。


     ◇


 構える。


 道場中が息を呑んだ。


「始め!」


 男子が先に動く。


「せいっ!」


 鋭い踏み込み。


 昨日までなら、咲子も全力で避けなければならなかった。


 だが。


 咲子の姿が消えた。


「え?」


 男子が止まる。


「後ろ!」


 誰かが叫んだ。


 振り向く。


 いた。


「いつの間に……」


 咲子自身も驚いていた。


 避けようと思っただけだった。


 それなのに、身体が勝手についてきた。


 男子がもう一度攻める。


 咲子は横へ動く。


 速い。


 速すぎる。


 羽が一度動いただけで、距離が一気に開く。


「くそっ!」


 男子が追う。


 咲子はかわす。


 右。


 左。


 背後。


 上。


 まるで、蝶が舞っているようだった。


「速すぎる……!」


 男子が息を切らす。


 咲子は、まだほとんど息を乱していない。


「……こんなに、違うの?」


     ◇


「うおおっ!」


 男子が距離を詰めた。


 今度は逃がさない。


 真正面から咲子へ攻撃を出す。


 咲子は腕で受けた。


「……っ!」


 昨日。


 あれほど重かった攻撃。


 押し返せなかった。


 なのに。


「……え?」


 動かない。


 咲子の足は、一歩も後ろへ動いていなかった。


 むしろ、少しだけ腕を押し返す。


「うわっ!」


 男子の身体が後ろへ飛ばされた。


 咲子が自分の腕を見る。


 ほんの少し、力を入れただけだった。


「すご……」


 声が漏れる。


 その瞬間、胸の奥がほんの少しだけ高鳴った。


     ◇


 咲子が踏み込む。


「せいっ!」


 巨大な蜂の腕が前へ出た。


「危ない!」


 誰かが叫ぶ。


 男子の顔へ。


 長い針が一直線に迫る。


「……っ!」


 男子が目を閉じる。


 だが、何も起きなかった。


「……?」


 ゆっくり目を開く。


 顔のすぐ前。


 本当に数センチ。


 そこで、咲子の腕が止まっていた。


 完全な寸止め。


 咲子は静かに腕を引く。


「まだです」


「……は?」


「まだ、終わってない」


 構える。


「来て」


 男子も、もう一度構えた。


     ◇


 何度やっても、同じだった。


 男子の攻撃は咲子に届かない。


 咲子が受けても、押せない。


 力でぶつかっても、逆に押し返される。


 咲子が攻撃する。


 そのたびに。


 拳。


 針。


 蹴り。


 全部が、当たる寸前で止まった。


 咲子は、少しずつ分からなくなっていた。


 最初は嬉しかった。


 速い。


 強い。


 今までできなかったことが、全部できる。


 なのに。


 戦えば戦うほど、変な感じがした。


 今まで、何年も練習してきた。


 どうすれば速く動けるか。


 どうすれば相手の動きを読めるか。


 どうすれば力の差を技で埋められるか。


 ずっと考えてきた。


 でも今は。


 考えなくても勝てる。


 避けようと思えば、身体が勝手に避ける。


 押そうと思えば、相手が飛んでいく。


「…………」


 本当に。


 これは。


 空手なの?


     ◇


「まだだ!」


 男子が叫んだ。


 最後の力を振り絞る。


 一歩、強く踏み込む。


「せいっ!」


 咲子へ拳が飛ぶ。


 咲子は身体をずらした。


 かわす。


 一歩。


 懐へ。


 自然に身体が動く。


「せいっ!」


 拳を出す。


 男子の顔面へ。


 そして。


 ピタッ。


 拳が止まった。


 鼻先、ほんのわずか。


 男子は、しばらく動かなかった。


 やがて、ゆっくり構えを解く。


「……参った」


 その言葉。


 咲子が、ずっと聞きたかった言葉。


 ついに勝った。


「……勝った」


 咲子が呟く。


「勝ったぞ、咲子」


 誰かが言った。


 咲子は自分の拳を見る。


「私が……?」


「そうだよ」


 男子が息を切らしながら笑った。


「完敗だ」


 けれど。


 咲子は笑えなかった。


「……違う」


「え?」


「これ……」


 巨大な腕を見る。


「私、こんな力なかった」


 背中の羽へ目を向ける。


「こんなに速くなかった」


 拳を握る。


「こんなに強くなかった」


「咲子……」


「私、勝ちたかった」


 声が少し震えた。


「ずっと勝ちたかったの」


 でも。


 今、勝ったのに。


 胸の中には、何もなかった。


     ◇


「おねえちゃん」


 小さな声。


 咲子が振り向く。


 則人だった。


 少し怖そうに。


 それでも、咲子の近くまで来ている。


「キッド君……」


「かったのに」


「……うん」


「うれしくないの?」


 咲子は答えなかった。


 大きな腕を見る。


 蝶の羽を見る。


 自分の身体を見る。


 それから。


「……分からない」


 小さく答えた。


「ずっと、勝ちたかったのに」


「うん」


「勝ったのに……」


 声が震える。


「全然、嬉しくない」


 咲子は、もう一度自分の手を見つめた。


「これ……」


 拳を握る。


「本当に」


 少し間を置いて。


「私の力なのかな……」


※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。