第三話 コレを
第三章 第三話 コレを
放課後。
「咲子、これ似合うんじゃない?」
「え?」
友人に差し出されたスマートフォンを、咲子は覗き込んだ。
画面に映っていたのは、小さな花をあしらった髪飾りだった。
「かわいい……」
「でしょ? 咲子、髪きれいなんだから絶対似合うよ」
「そうかな?」
「似合うって。ほら、こっちも」
指が画面を滑る。
次に映し出されたのは、淡い色のワンピースだった。
「あ、これもかわいい」
「咲子、こういうの好きだよね」
「うん」
咲子は素直に頷いた。
「でも咲子って、本当に面白いよね」
「なにが?」
「だって空手やってるとき、すっごく格好いいじゃん。それなのに、こういうの見てると普通に女の子って感じ」
「もう」
咲子は少し頬を膨らませた。
「私だって女の子だよ」
「あはは、ごめんごめん」
友人が笑う。
咲子もつられて笑った。
楽しかった。
かわいい服を見て。
髪型の話をして。
どれが似合うとか。
今度一緒に見に行こうとか。
そんな話をする時間が、咲子は好きだった。
空手が好きなのと、同じように。
◇
「お願いします!」
放課後の道場。
長い髪を結び、道着に着替えた咲子は、いつものように礼をした。
そして。
「ねえ」
「ん?」
昨日、組手をした男子へ声をかける。
「もう一回、組手してくれない?」
「また?」
「お願い」
「昨日もやっただろ」
「だから」
咲子は相手の目をまっすぐに見た。
「もう一回」
「…………」
男子は少し困ったような顔をした。
それでも。
「分かったよ」
「ありがとう」
二人が向かい合う。
礼。
構える。
咲子は静かに息を整えた。
昨日と同じことはしない。
力でぶつからない。
まともに受け止めない。
自分のほうが小さいなら。
速く。
もっと速く。
「せいっ!」
踏み込む。
相手が反応する。
その前に、咲子は身体を翻した。
「っ!」
男子の表情が変わる。
追う。
かわす。
踏み込む。
離れる。
昨日とは違う。
相手の力を受け止める必要なんてない。
当たらなければいい。
「せいっ!」
咲子の攻撃が届く。
「やるな!」
いける。
そう思った。
次の瞬間。
「っ!」
相手が強引に間合いを詰めてきた。
咲子が受ける。
重い。
身体が押される。
踏ん張る。
けれど。
「くっ……!」
押し返せない。
体勢が崩れた。
そこを逃さず、相手が攻める。
咲子も食らいつく。
何度もかわす。
何度も仕掛ける。
それでも。
最後に勝ったのは。
また、相手だった。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
礼をする。
咲子は荒い息を整えながら、拳を握った。
「惜しかったな」
「……うん」
「昨日より全然よかったよ」
「…………」
「だから、そんなに無理しなくても――」
咲子が顔を上げた。
「女だから?」
「え?」
自分でも、口に出すつもりはなかった。
「女だから、無理しなくていいの?」
「いや、そういう意味じゃ……」
「…………」
相手の顔を見て。
咲子はすぐに目を逸らした。
「ごめん」
「咲子」
「なんでもない」
笑おうとした。
でも。
うまく笑えなかった。
◇
「おねえちゃん!」
道場を出たところで声がした。
振り向く。
キッド君がいた。
今日も来ていたらしい。
「おねえちゃん、さっき――」
「ごめんね」
「え?」
咲子は鞄を抱え直した。
「今日は、ちょっと……」
「…………」
「また今度ね」
「……うん」
いつもなら、もっと話しかけてくるのに。
今日は、それ以上何も言わなかった。
ただ。
心配そうな顔で咲子を見ている。
「じゃあね」
「……またね」
咲子は歩き出した。
◇
一人になると。
さっきまで押さえ込んでいたものが、また胸の中へ戻ってきた。
悔しい。
勝ちたい。
もっと強くなりたい。
昔は勝てた。
今だって練習している。
技だって磨いている。
なのに。
どうしても。
埋まらないものがある。
「…………」
咲子は自分の手を見た。
もっと力があったら。
もっと速かったら。
もっと――
「……違う」
首を振る。
今日だって、楽しかった。
友達とかわいいものを見ていた時間。
あれだって自分だ。
空手だけが自分じゃない。
かわいい服を着たい。
きれいになりたい。
空手だって続けたい。
強くもなりたい。
「私、欲張りなのかな……」
ぽつりと呟いた。
歩いているうちに。
いつもの店が見えてきた。
ショーウインドー。
咲子は足を止めた。
きれいなアクセサリーが並んでいる。
「…………」
ガラスの向こうを見つめる。
そのときだった。
隣に。
誰かがいた。
「え?」
いつからいたのだろう。
黒い服を着た人物。
男なのか。
女なのか。
よく分からない。
その人物が。
咲子へ手を差し出した。
手には、小さな箱。
「コレを」
「…………」
咲子は箱を見た。
そして。
手を伸ばした。
「はい」
受け取った。
黒服は何も言わない。
咲子の横を通り過ぎる。
そのまま歩いていく。
「…………」
咲子も、それを見送った。
数秒。
その場に立ったまま。
「…………え?」
自分の手を見る。
小さな箱。
「なんで……?」
知らない人だった。
名前も知らない。
何が入っているのかさえ聞いていない。
なのに。
受け取った。
あまりにも自然に。
まるで最初から、自分が受け取るものだったみたいに。
「私……なんで受け取ったの?」
急に気味が悪くなって、振り返った。
「…………」
いない。
さっきの黒服は、もうどこにも見当たらなかった。
咲子は手の中の箱を見る。
捨てたほうがいい。
そう思った。
知らない人から突然渡されたものなのだから。
それなのに。
「…………」
なぜか。
捨てる気にはなれなかった。
恐る恐る。
箱を開ける。
「……あ」
中に入っていたのは。
一つのブローチだった。
きれいな飾り。
光を受けて、きらりと輝く。
「……かわいい」
思わず。
そう呟いていた。
◇
その夜。
机の上に、小さな箱が置いてあった。
咲子は宿題をしながら。
何度も、そちらを見てしまう。
「…………」
やっぱり変だ。
どうして受け取ったのだろう。
どうして持って帰ってきてしまったのだろう。
それなのに。
箱を開ける。
ブローチを手に取る。
鏡の前へ立った。
胸元に当ててみる。
「…………」
似合うだろうか。
少し角度を変える。
「……かわいい」
自然と笑みがこぼれた。
そのまま。
鏡の中の自分を見る。
笑っている自分。
でも。
ふと。
道場での光景が重なった。
押された。
踏ん張った。
それでも。
押し返せなかった。
『咲子は女なんだし』
「…………」
笑顔が消えた。
ブローチを握る手に。
少しだけ力が入った。
「かわいくなりたい」
それは。
本当の気持ち。
「きれいにも、なりたい」
それも。
本当。
そして。
「……強くも、なりたい」
どれも。
嘘じゃない。
咲子はしばらく鏡の中の自分を見つめていた。
やがて。
ブローチを箱へ戻す。
蓋を閉じた。
◇
翌日の放課後。
「せいっ!」
道場に、鋭い掛け声が響いた。
「せいっ!」
咲子は一人。
何度も。
何度も。
突きを繰り返していた。
息が上がる。
額から汗が落ちる。
拳が痛い。
それでも。
「せいっ!」
止めなかった。
もっと。
もっと。
強く。
道場の隅に置かれた、咲子の鞄。
その中には。
あの小さな箱が入っていた。
※本作は、作者とChatGPT(AI)による合作作品です。物語の企画・原案・世界観・キャラクター設定・物語構成・展開の方向性など、作品の根幹となる部分は作者が制作しています。それらの原案や設定、作者との相談・修正・指示をもとに、ChatGPTが文章化、表現の調整、推敲などを担当しています。作者とAIが互いに案を出し、検討と修正を重ねながら、一つの物語として完成させています。




