↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
モズキャッチャー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/31

閑話「以前にも……」 内田紀人 作

閑話「以前にも……」 内田紀人 作


あれから、十年が過ぎた。


   ◇


彼は、店先で足を止めた。


「…………」


十年。


長いようで。


振り返ってみれば、あっという間だった。


もう、あの頃のようなフリーターではない。


仕事がある。


毎朝、決まった時間に起きる。


働いて。


給料をもらって。


家に帰る。


そんな、ごく普通の生活を送っている。


十年も経てば。


生活も変わる。


仕事も変わる。


周りにいる人間も変わる。


そして。


自分だって、少しくらいは変わった。


「…………」


それでも。


変わらないものはある。


彼は、ショーウィンドウの向こうを見つめた。


そこに飾られているもの。


別に。


必要なものではない。


なくても困らない。


それでも。


「……いいな」


欲しい。


そう思った。


ただ。


それだけだった。


最初は。


   ◇


翌日。


仕事帰り。


彼は、また同じ店の前を通った。


「…………」


ちらりと見る。


まだある。


「そりゃ、あるか」


小さく笑って、そのまま通り過ぎる。


買うつもりはない。


昨日、たまたま目についただけ。


そう思っていた。


その次の日。


「…………」


また見た。


さらに次の日。


「…………」


また。


気づけば。


店の前を通るたびに、それを探すようになっていた。


「…………」


欲しい。


なくても困らない。


生活に必要なものでもない。


絶対に手に入れなければならない理由もない。


それくらい。


自分でも分かっている。


なのに。


目が行く。


気になる。


欲しくなる。


「…………」


彼は歩き出した。


昔なら。


こういう時。


どうしていたっけ。


何か。


大切なことを。


誰かと話したような気もする。


「…………」


けれど。


十年も前のことだ。


記憶なんて。


少しずつ薄れていく。


「……まあ」


彼は小さく笑った。


「買わなくたって、死ぬわけじゃないしな」


その日は。


そのまま帰った。


   ◇


しばらくして。


彼は、また同じ場所に立っていた。


「…………」


財布を開く。


中身を確認する。


買えないわけではない。


貯金を崩すほどでもない。


ただ。


買ってしまえば。


今月は少し苦しくなる。


外食を減らすとか。


何か別のものを我慢するとか。


その程度。


「…………」


ショーウィンドウを見る。


まだ。


そこにある。


「…………」


欲しい。


最初に見た時より。


ずっと欲しくなっている。


ここまで何度も見に来た。


毎日のように気にしている。


こんなに欲しいなら。


いっそ。


買ってしまった方がいいんじゃないか。


「…………」


彼は首を振った。


「いや」


その言葉を。


自分自身に向けて言う。


「今日はやめとこう」


財布をしまう。


歩き出す。


一歩。


二歩。


三歩。


「…………」


足が止まった。


振り返る。


ショーウィンドウ。


欲しいものは。


まだ、そこにある。


当然だ。


「…………」


彼は、しばらく見つめていた。


そして。


また前を向く。


今度こそ。


歩き出した。


   ◇


その夜。


家に帰っても。


頭から離れなかった。


テレビを見ても。


食事をしても。


風呂に入っても。


気づけば。


あれのことを考えている。


「……欲しいな」


ぽつり。


言葉が漏れた。


「…………」


自分でもおかしくなって、少し笑う。


「何やってんだ」


いい大人が。


買おうか。


やめようか。


それだけのことで。


何日も悩んでいる。


でも。


笑ったところで。


欲しいものは、欲しい。


「…………」


スマートフォンを手に取った。


検索する。


同じもの。


もっと安い店。


中古品。


似たもの。


代わりになりそうなもの。


いくらでも出てくる。


「…………」


安ければいい。


それなら。


別の店で買えばいい。


似たものでいいなら。


もっと安く済む。


でも。


「違うんだよな……」


欲しいのは。


あれだ。


あの店にある。


あれが欲しい。


「…………」


彼はスマートフォンを伏せた。


「寝よ」


電気を消す。


目を閉じる。


「…………」


しばらくして。


寝返りを打つ。


「…………」


もう一度。


反対側へ。


「…………」


暗闇の中。


目を開ける。


頭に浮かんでいるのは。


やっぱり。


あれだった。


   ◇


数日後。


仕事帰り。


彼は。


また店の前に立っていた。


「…………」


前より。


欲しくなっている。


自分でも分かる。


最初は。


ただ「いいな」と思っただけだった。


それが。


少し欲しいになって。


欲しいになって。


いつの間にか。


どうしても欲しいに変わり始めている。


「ここまで気になるなら……」


彼は呟いた。


「買った方がいいのかもな」


その方が。


楽になるかもしれない。


ずっと考えているくらいなら。


買ってしまえば。


それで終わる。


「…………」


でも。


本当に?


彼はショーウィンドウを見る。


欲しい。


買いたい。


手に入れたい。


今すぐ。


「…………」


手が。


ゆっくりと財布へ伸びる。


その時だった。


「どうぞ」


「…………え?」


声がした。


彼は顔を上げた。


すぐ近くに。


一人の人間が立っていた。


黒い服。


上から下まで。


全身、黒。


「…………」


いつから。


そこにいた?


彼は眉をひそめた。


「……誰ですか?」


返事はない。


確かに。


目の前にいる。


見えている。


それなのに。


男なのか。


女なのか。


若いのか。


年を取っているのか。


なぜか。


よく分からない。


顔も見えているはずなのに。


印象が残らない。


目を離した瞬間。


どんな顔だったか思い出せなくなりそうな。


妙な人間だった。


「…………」


黒服の人間が。


静かに手を差し出した。


その手のひらには。


小さな何かが乗っている。


「…………なんですか、それ」


「どうぞ」


「いや」


彼は困ったように苦笑した。


「知らない人から、そんなもの――」


そこまで言って。


止まった。


「…………」


なんだ?


今のは。


胸の奥。


ずっと。


ずっと遠いところ。


忘れていた何かに。


ほんの一瞬。


指先で触れたような。


「…………?」


黒服を見る。


差し出された手のひらを見る。


知らない。


こんな人は知らない。


こんなものも知らない。


初めて見る。


初めて会う。


そのはずだ。


なのに。


「…………」


なぜだろう。


逃げた方がいいとは。


思わなかった。


むしろ。


手を伸ばさなければいけないような。


そんな。


妙な感覚があった。


「…………」


彼の手が。


ゆっくりと伸びていく。


「……なんだ、これ」


指先が。


小さな何かに触れた。


どくん。


「…………っ」


胸の奥が鳴った。


彼は思わず胸を押さえる。


痛いわけではない。


苦しくもない。


それでも。


何かが。


動いた。


そんな気がした。


彼は顔を上げる。


「これ――」


「…………」


誰もいない。


「…………え?」


黒服の人間は。


もう。


そこにはいなかった。


「…………」


辺りを見回す。


行き交う人。


走っていく車。


信号の音。


店から漏れる明かり。


いつもの街。


何も変わっていない。


ほんの少し前まで。


目の前に立っていたはずの黒服だけが。


どこにもいない。


「…………」


彼は手の中を見る。


そこには。


確かに。


渡されたものがある。


夢ではない。


見間違いでもない。


「…………」


どくん。


胸の奥が。


もう一度鳴った。


「…………あれ?」


彼は眉をひそめた。


知らない。


初めてのはずだ。


なのに。


どうしてだろう。


この感じ。


手の中にあるもの。


さっきの黒服。


そして。


胸の奥に残る。


この妙な感覚。


「…………」


何もかも。


初めてのはずなのに。


なぜか。


初めてではないような気がする。


遠い昔。


同じように。


何かを欲しいと思って。


何かを渡されて。


そして――。


「…………?」


そこから先が。


出てこない。


彼は。


しばらく。


手の中にあるものを見つめていた。


そして。


小さく呟いた。


「……以前にも」


もう一度。


手の中を見る。


「こんなこと、あったような……」


――閑話「以前にも……」 おわり

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。