第17話「今回の点数は?」 内田紀人 作
第17話「今回の点数は?」 内田紀人 作
モズキャッチャーだった青年は、自分の手を何度も見つめていた。
普通の手。
巨大なクレーンアームでもなければ、翼もない。
ちゃんと人間の手だった。
「じゃあ、俺、帰るよ」
「うん!」
則人は元気よく返事をした。
青年が歩き出そうとしたところで。
「あ」
則人が呼び止める。
「ちゃんと帰れる?」
「帰れるよ。子供じゃないんだから」
「そっか」
則人はうなずいた。
そして。
もう一つ気になっていたことを聞く。
「もうUFOキャッチャーやらない?」
「…………」
青年の足が止まった。
少し考える。
「いや」
「えっ!?」
則人が目を丸くした。
「またやると思う」
「やるの!?」
「やるよ。好きだし」
「でも、また欲しくなっちゃうよ?」
「なるだろうな」
「また取れなくて、いっぱいお金使っちゃうかもよ?」
「そうかもな」
「またモズキャッチャーに――」
「それは勘弁してくれ」
青年は苦笑した。
それから。
少しだけ真面目な顔になる。
「でも、今度は自分で決めるよ」
「決める?」
「ああ」
青年は、自分の手を見る。
「ここまでって」
「…………」
「取れなくても、ここで終わりって」
欲しくなくなるまで続けるのではなく。
欲しいままでも。
自分で終わりを決める。
則人は青年の顔を見た。
そして。
にっと笑った。
「うん!」
青年も少しだけ笑った。
「じゃあな」
「ばいばーい!」
青年が歩いていく。
則人は、その背中が見えなくなるまで手を振っていた。
「…………」
やがて。
「よかったあー」
大きく息を吐く。
モズキャッチャーは元に戻った。
空から落っこちそうにもなったけれど、ちゃんと助けられた。
天女から借りた羽衣も返した。
「終わったー!」
その瞬間。
ゴン!
「いたあっ!」
頭に何かが落ちてきた。
ころころころ。
地面を転がっていったのは――。
たらい。
「…………」
則人は頭を押さえながら振り返った。
そこには。
たらいを抱えた小僧が立っている。
「採点しまーす!」
「あ!」
則人の顔が一気に明るくなった。
「また来た!」
「はい!」
「何枚!?」
「まだ採点してません!」
「早く!」
「急かさないでくださーい!」
たらい小僧が、たらいをぽんと叩く。
「それでは、内田則人くん!」
「はい!」
「今回の採点を始めます!」
「いっぱいちょうだい!」
「点数はお願いして増えるものではありません!」
「えー」
「まず!」
たらい小僧が胸を張る。
「今回の怪人事件!」
「うん!」
「モズキャッチャーを無理やり倒さず!」
「うん!」
「ちゃんと話をして!」
「うん!」
「本人が自分で『やめる』と決めるところまでいきました!」
「うんうん!」
則人の顔が、どんどん嬉しそうになっていく。
「さらに!」
「うん!」
「人間へ戻ったあと、空から落ちた青年を助けました!」
「助けた!」
「天女から借りた羽衣も、約束どおり返しました!」
「返した!」
「大変よくできました!」
「やったー!」
則人が両手を上げる。
「じゃあ、いっぱい?」
「ただし!」
「…………え?」
たらい小僧の声が変わった。
則人の両手が、ゆっくり下がる。
「普段の行い!」
「…………」
笑顔が止まった。
「え?」
「宿題を忘れました!」
「…………」
「一つ!」
「ちょっと待って」
「待ちません!」
「なんでそれ入るの!?」
「採点ですから!」
「怪人と関係ないじゃん!」
「普段の行いも採点対象です!」
「ええー!?」
たらい小僧は構わず続ける。
「さらに!」
「まだあるの!?」
「お母さんに注意されたこと!」
「何を!?」
「大きな袋!」
「…………あ」
則人が、ランドセルの横を見る。
そこには。
則人にしか見えていない、大きな袋がぶら下がっている。
お母さんが作ってくれたKIDの着ぐるみと、変身ベルトが入った大切な袋だ。
「毎日そんな大きなものを持っていかないの、と言われました!」
「だって大事なんだもん!」
「今日も持ってきました!」
「必要だったじゃん!」
「結果的には!」
「じゃあいいじゃん!」
「それとこれとは別です!」
「なんでー!?」
たらい小僧が、またたらいを叩く。
「それから!」
「まだあるの!?」
「ぬらりひょんの話を最後まで聞かず、途中で別のことに気を取られました!」
「それ前のことじゃん!」
「採点対象です!」
「いつまで入るの!?」
「さらに――」
「もうないよね!?」
「朝、脱いだ靴をそろえませんでした!」
「そんなのまで!?」
則人が飛び上がった。
「見てるの!?」
「見てます!」
「誰が!?」
「採点する方々が!」
「怖いよ!」
則人は思わず辺りを見回した。
右。
左。
後ろ。
誰もいない。
「今も見てる?」
「さあ?」
「怖いって!」
たらい小僧は、そんな則人を気にも留めない。
「ですが!」
「まだ何かあるの?」
「今度は加点です!」
「あ、そっち!」
則人がすぐに元気になる。
「借りた羽衣を、欲しいと思いながらもきちんと返しました!」
「うん!」
「青年が落ちた時、自分も危ないのに助けに行きました!」
「うん!」
「そして、モズキャッチャーの『欲しい』という気持ちそのものを否定しませんでした!」
「…………」
則人が首を傾げた。
「それ何点?」
「点数だけ聞かない!」
「だって気になるもん!」
「そういうところです!」
「何が!?」
たらい小僧は一度咳払いをした。
「続きまして!」
「まだあるの?」
「四聖獣採点!」
「来た!」
則人の目が輝いた。
「青龍! 朱雀! 白虎! 玄武!」
「はい!」
「今回は誰が一番高い?」
「教えません!」
「何点ずつ?」
「教えません!」
「青龍は?」
「教えません!」
「朱雀は?」
「教えません!」
「白虎!」
「教えません!」
「玄武!」
「教えませーん!」
「一個くらい教えてよ!」
たらい小僧は目を閉じた。
どこからともなく届く。
四聖獣の評価。
「ふむふむ」
「何点?」
「なるほど」
「ねえ、何点?」
「ほう」
「早くー!」
「静かに!」
「だって気になる!」
則人は、たらい小僧の顔をじっと見つめる。
たらい小僧は何度かうなずき。
やがて。
かっと目を開いた。
「最終得点!」
則人が身を乗り出す。
「決定!」
たらいを高く掲げる。
じゃらじゃらじゃら!
「うわっ!」
大量のコインが飛び出した。
「来た!」
則人は慌てて拾い集める。
一枚でもなくしたら大変だ。
「一枚、二枚、三枚……」
一枚ずつ。
大事に。
数えていく。
「五十八、五十九、六十……」
さらに数える。
「六十一」
「六十二」
「六十三」
「六十四」
「六十五!」
「…………」
則人が止まった。
手の中のコインを見る。
たらい小僧を見る。
もう一度。
最初から数える。
「……六十二、六十三、六十四、六十五」
「…………」
間違っていない。
則人は顔を上げた。
「少ない!」
「今回の得点です!」
「なんで!?」
則人が立ち上がる。
「ぼく、ちゃんと助けたよ!」
「はい!」
「モズキャッチャーも元に戻ったよ!」
「はい!」
「空から落ちたお兄さんも助けた!」
「はい!」
「羽衣も返した!」
「はい!」
「じゃあ、なんで六十五枚なの!?」
「宿題を忘れました!」
「宿題そんなに大きいの!?」
「それだけではありません!」
「じゃあ何点引いたの!?」
「内訳は秘密です!」
「ずるい!」
「採点です!」
「それまで採点に入っちゃうの!?」
「入ります!」
「ええー!」
則人は、手の中の六十五枚を見つめた。
納得していない。
ものすごく納得していない。
口も尖っている。
「…………」
それでも。
一枚。
また一枚。
なくさないように、大切にしまっていく。
全部しまい終えると。
則人は、もう一度たらい小僧を見た。
「これで」
「はい?」
「また、本物のヒーローに近づいた?」
「…………」
たらい小僧が、少しだけ黙った。
「どうでしょう?」
「え?」
「コインを集めることは大切です!」
「うん!」
「ですが」
「うん?」
「枚数だけが大切とは限りませーん!」
「…………え?」
則人が固まった。
「どういうこと?」
「では!」
「待って!」
たらい小僧の姿が、すうっと薄くなり始める。
「またねー!」
「ちょっと待ってって!」
「さようならー!」
「説明してよー!」
たらい小僧は、そのまま消えてしまった。
「…………」
則人だけが残された。
「また説明しないで帰った……」
ぶつぶつ言いながら。
則人は、コインをしまった場所をもう一度確かめる。
六十五枚。
思っていたより少なかった。
でも。
ちゃんと増えた。
本物のヒーローになるために集めている、大切なコイン。
「…………」
枚数だけじゃない。
そう言われた。
じゃあ。
ほかに何が必要なんだろう。
「うーん……」
少し考える。
でも。
分からない。
「まあ、いっか!」
則人はあっさり考えるのをやめた。
そして。
ふと、空を見上げる。
モズキャッチャーだった青年から抜けていった。
光とも。
影ともつかない、不思議なもの。
あれは。
どこへ行ったのだろう。
さとるの時にも。
似たようなことがあった。
そして。
そのあと。
今まで見えなかった狐の姿が、はっきり見えるようになった。
「…………」
則人は首を傾げる。
もしかしたら。
今度も。
「また新しい妖怪に、会えるようになるのかなー」
想像すると。
少しだけ、わくわくした。
どんな妖怪だろう。
怖い妖怪かな。
面白い妖怪かな。
昔話で聞いたことのある妖怪だったら。
自分で名前を当てられるかもしれない。
「へへへ」
則人は一人で笑った。
六十五枚のコインより。
今は。
まだ見ぬ妖怪の方が。
少しだけ気になっていた。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




