第15話「それでも欲しい!」 内田紀人 作
第15話「それでも欲しい!」 内田紀人 作
「欲しいのは分かったけどー!」
則人は、羽衣を必死に操りながらモズキャッチャーを追いかけていた。
「どうしたら止まるのー!?」
返事はない。
ばさっ!
モズキャッチャーは大きな翼を広げ、どんどん先へ飛んでいく。
「待ってってばー!」
則人も追う。
「もう! 飛ぶの速いよ!」
その時。
モズキャッチャーが、ふと振り返った。
「…………」
「ん?」
則人も首を傾げる。
「なに?」
「…………それ」
「え?」
モズキャッチャーが、則人を指さした。
「それ、いいな」
「これ?」
則人は自分を見る。
KIDの着ぐるみ。
変身ベルト。
そして。
身体の周りを、ふわりと漂う羽衣。
「……それも欲しい」
「ええっ!?」
則人は慌てて羽衣を両手で押さえた。
「ダメ!」
「なんでだよ!」
「これ、ぼくのじゃないもん!」
「今、お前が持ってるだろ!」
「持ってるけど、借りてるの!」
「同じだろ!」
「違うよ!」
モズキャッチャーがクレーンアームを伸ばす。
「ちょうだい!」
「やだ!」
「欲しい!」
「ダメだって!」
則人は、ふわっと横へ逃げた。
ガシャン!
クレーンアームが空をつかむ。
「危ないなあ!」
「逃げるな!」
「逃げるよ!」
「それが欲しいんだ!」
「だから、これは天女さんの!」
則人は羽衣をぎゅっと押さえる。
「あとで返すんだから!」
モズキャッチャーの動きが、ほんの少し止まった。
「……返す?」
「うん!」
「なんで?」
「なんでって……」
則人は、きょとんとした。
「借りたから」
「…………」
「借りたものは返すでしょ?」
「でも」
モズキャッチャーが羽衣を見る。
「お前だって、それ欲しいんじゃないの?」
「欲しいよ!」
「…………え?」
今度は、モズキャッチャーが固まった。
「欲しいの?」
「うん!」
則人は元気よく答える。
「だって空飛べるんだよ!」
くるり。
その場で少し回ってみせる。
「すっごいじゃん!」
「だったら、もらえばいいだろ」
「ダメだよ」
「なんで?」
「天女さんのだから!」
「…………」
「ぼくのじゃないもん」
則人は、当たり前のように言った。
「だから、ちゃんと返す」
モズキャッチャーは、しばらく何も言わなかった。
「……欲しいのに?」
「うん」
「返すの?」
「うん」
「…………なんで?」
「だから借りたものだから!」
「…………」
モズキャッチャーには、それがよく分からなかった。
欲しいなら。
取る。
手に入れる。
ずっと自分のものにする。
それが当たり前だと思っていた。
「でも欲しいんだろ?」
「欲しいよ」
「だったら――」
クレーンアームが、また動く。
「取ればいい!」
「ダメだって!」
ガシャン!
「うわっ!」
則人は身をひねって逃げた。
「待て!」
「待たない!」
「それをよこせ!」
「やだ!」
二人は空の上を飛び回った。
「逃げるな!」
「だって取られるもん!」
「捕まえる!」
「やだってば!」
その言葉を聞いて。
則人が、ふと何かに気づいた。
「あ」
「なんだよ!」
「じゃあさ!」
則人は逃げながら振り返る。
「もし、ぼくが欲しくなったらどうするの?」
「は?」
「ぼく!」
自分を指さす。
「ぼくが欲しくなったら!」
「捕まえる!」
「やっぱり!?」
「欲しいんだから!」
「でも、ぼく逃げるよ!」
「また捕まえる!」
「また逃げる!」
「また捕まえる!」
「じゃあ、また逃げる!」
「また捕まえる!」
「また逃げる!」
「また捕まえる!」
「ずっと!?」
「…………」
モズキャッチャーの声が止まった。
「ずっと、ぼくのこと見てるの?」
「…………」
「ご飯食べる時も?」
「…………」
「寝る時も?」
「…………」
「トイレ行く時も?」
「そこまで言うな!」
「だって逃げるよ!」
「…………」
モズキャッチャーは言葉に詰まった。
則人は少し考える。
そして。
「あ!」
下を見る。
さっき欲しがっていた電柱。
「じゃあ、あれ!」
「何?」
「電柱!」
「欲しい!」
「持って帰れる?」
「…………」
「どこに置くの?」
「…………」
「お家の中?」
「入らない」
「じゃあ外?」
「…………」
「道に置いたら邪魔だよ?」
「…………」
則人は、さらに辺りを見回した。
「じゃあ、あのお家!」
「え?」
「あのお家が欲しくなったら?」
「…………取る」
「どうやって!?」
「…………」
「取れたとして、どこに持って帰るの?」
「…………」
「お家を入れるお家が必要じゃん!」
「…………」
モズキャッチャーの顔が、少しずつ険しくなっていく。
「うるさい……」
「でも」
「うるさい!」
「取れないものもあるよ」
「…………」
「取れても、持って帰れないものもある」
「…………」
「ぼくだって」
則人は自分を指さす。
「捕まえても逃げるよ」
「…………」
「ずっと捕まえてるなんて無理でしょ?」
「…………」
モズキャッチャーは、何も答えられなかった。
けれど。
やがて。
ぎゅっとクレーンアームを握る。
「……それでも」
「え?」
「それでも欲しいんだよ!」
声が響いた。
「欲しいんだ!」
「…………」
「しょうがないだろ!」
モズキャッチャーの声には、怒りだけではない。
どこか苦しそうなものが混じっていた。
「欲しいと思っちゃうんだから!」
「…………うん」
則人が答えた。
「…………え?」
モズキャッチャーが目を丸くする。
「うん?」
「今……なんて?」
「欲しいんでしょ?」
「…………」
「うん」
「…………」
「欲しいなら、欲しいんじゃない?」
「…………?」
モズキャッチャーが、完全に困った顔をした。
「何言ってるんだ?」
「だって」
則人は自分の羽衣を持ち上げる。
「ぼくだって、これ欲しいよ」
「…………」
「空飛べるし」
ふわっ。
「楽しいし」
「…………」
「ずっと使えたら、すっごくいいなって思う」
「だったら――」
「でも返すよ」
「…………」
「天女さんのだから」
「…………」
則人は少し考えた。
「ねえ」
「何だよ」
「欲しくなくならないと、やめちゃダメなの?」
「…………え?」
「欲しいままじゃダメなの?」
「…………」
「ぼく、羽衣欲しいけど返すよ?」
「…………」
「欲しいけど」
則人は、にっと笑った。
「返すって決めたから」
「…………」
モズキャッチャーの動きが止まった。
◇
「…………」
風だけが、二人の間を吹いていた。
モズキャッチャーは何も言わない。
頭の中に、ゲームセンターでの光景が浮かんでいた。
一回。
取れなかった。
もう一回。
また取れなかった。
『あと一回だけ』
もう一回。
『今度こそ』
もう一回。
『ここまで使ったんだから』
もう一回。
もう一回。
もう一回。
「…………」
誰かに、続けろと言われたわけではなかった。
ぬいぐるみが、もっとやれと言ったわけでもない。
UFOキャッチャーが、終わりを決めてくれるわけでもない。
ただ。
自分が続けていた。
「ねえ」
則人の声がした。
「…………」
「最初のぬいぐるみ、まだ欲しい?」
「…………欲しい」
「ほかのものも?」
「……欲しい」
「この羽衣も?」
「…………欲しい」
「そっか」
「…………」
則人は少し考える。
「じゃあ」
「…………」
「いつやめるの?」
「…………」
モズキャッチャーは答えられない。
「全部取ったら?」
「…………」
「でも」
則人は辺りを見る。
「また欲しいもの見つけたら、取るんでしょ?」
「…………」
「そしたら」
少し首を傾げる。
「ずっと終わらないよ?」
「…………」
モズキャッチャーは、自分のクレーンアームを見る。
ぬいぐるみを取った。
ロボットも取った。
看板も欲しくなった。
電柱も欲しくなった。
羽衣も。
そして。
きっと。
この先にも、また欲しいものが出てくる。
「…………じゃあ」
小さな声が出た。
「うん?」
「……どうすればいいんだよ」
則人は首を傾げた。
「うーん……」
「…………」
「ぼくも、よく分かんないけど」
「…………」
「物がさ」
則人は、少し考えながら話す。
「『もう終わりだよ』って言ってくれないなら」
「…………」
「自分で決めるしかないんじゃない?」
「自分で……?」
「うん」
則人はうなずいた。
「ここで終わりって」
「…………」
「もうやめるって」
「…………」
「自分で」
「…………」
長い。
長い沈黙。
モズキャッチャーは、遠くの看板を見る。
電柱を見る。
則人の羽衣を見る。
そして。
自分が最初に欲しかった、ぬいぐるみを見る。
「…………欲しい」
「うん」
「まだ欲しい」
「うん」
「すごく……欲しい」
「うん」
則人は否定しなかった。
「…………」
モズキャッチャーのクレーンアームが、ゆっくりと下がっていく。
「でも……」
羽ばたきも弱くなる。
「もう……」
一度、目を閉じた。
「やめる」
「…………」
「俺が」
もう一度。
はっきり言った。
「ここで、やめる」
則人は黙って聞いていた。
「…………まだ欲しいけど」
「うん」
「でも」
モズキャッチャーは、則人を見る。
「もう、取らない」
「…………」
則人の顔が、少しだけ明るくなる。
そして。
モズキャッチャーは、自分の身体を見る。
鳥の頭。
大きな翼。
胸の筐体。
巨大なクレーンアーム。
「…………」
もう。
これで何かをつかみたいとは思わなかった。
「……俺」
小さく息を吸う。
「元に戻りたい」
則人は、しっかりとその言葉を聞いた。
――つづく
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




