第14話「空まで追いかけろ!」
第14話「空まで追いかけろ!」
内田紀人 作
「待ってー!」
則人は、ゲームセンターから飛び出した。
空を見上げる。
モズキャッチャーは大きな翼を広げ、ぐんぐん高度を上げていた。
その向かう先には――建物の上に取り付けられた、大きな看板。
「それ取ってどうするのー!?」
地上を走りながら、則人が叫ぶ。
「欲しいから取る!」
モズキャッチャーは振り返りもしない。
「だから、取ったあとどうするの!?」
「取ってから考える!」
「考えてから取ろうよ!」
ばさっ!
大きな翼が風を打ち、モズキャッチャーがさらに高く舞い上がった。
「もう!」
則人も必死に走る。
KIDの着ぐるみ姿で追いかけるが、相手は空の上。
当然、距離はどんどん離れていく。
「待ってってばー!」
「待たない!」
「なんで!?」
「あれが欲しい!」
モズキャッチャーが両腕のクレーンアームを伸ばした。
ガシャン!
巨大なアームが看板へ迫る。
「ダメー!」
則人も思い切り手を伸ばす。
けれど。
届くはずがない。
「くっ……!」
もう一度、精いっぱい手を伸ばしてみる。
やっぱり届かない。
「ぼくも飛べたらいいのに!」
その時だった。
「飛びたいの?」
「え?」
すぐ近くから、女の人の声がした。
則人が振り返る。
「…………」
そこに、一人の女性が立っていた。
ふわりとした衣をまとった、人間とはどこか違う不思議な姿。
則人の目が、一気に輝いた。
「天女さん!?」
女性が微笑む。
「そうよ」
「本物!?」
「そうね」
「すっげえ!」
則人は、モズキャッチャーのことも忘れたように駆け寄った。
「ほんとに天女!? 羽衣ある!? 空飛べる!? 天女ってどこに住んでるの!? やっぱり天に――」
ガシャン!
「…………あ」
則人の動きが止まった。
恐る恐る空を見る。
モズキャッチャーのクレーンアームが、今にも看板をつかもうとしている。
「今それどころじゃなかった!」
「忙しい子ね」
「天女さん!」
「なに?」
「飛べる!?」
「飛べるわよ」
「ぼくも!?」
「そのままでは無理ね」
「えー!」
則人は思いきり肩を落とした。
そんな則人を見て、天女が何かをふわりと持ち上げる。
「でも、これを使えば」
「…………!」
則人の目が丸くなった。
「それ!」
「羽衣よ」
「羽衣!」
則人がぐっと身を乗り出す。
「これ着けたら飛べるの!?」
「ええ」
「貸して!」
即答だった。
天女がくすりと笑う。
「いいわよ」
「ほんと!?」
「ただし――」
「ちゃんと返す!」
今度は天女が目を丸くした。
「まだ何も言ってないけど」
「借りるんでしょ?」
「そうね」
「じゃあ、ちゃんと返すよ!」
則人は胸を張った。
「借りたものだから!」
「…………」
天女は、少しだけ優しく笑った。
「ええ。じゃあ貸してあげる」
「やった!」
則人は羽衣を受け取った。
「ありがとう!」
そして。
すぐに首を傾げる。
「…………これ、どうやって使うの?」
「身につけて」
「こう?」
則人は羽衣を肩にかけた。
「それで?」
「飛びたいと思ってみて」
「飛びたい……」
則人は空を見上げる。
飛んでいくモズキャッチャーを見つめて――。
「飛びたい!」
ふわっ。
「…………え?」
足が。
地面から離れた。
「うわっ!」
ふわふわ。
「飛んだ!」
さらに身体が浮かぶ。
「すっげえ!」
則人の顔がぱっと輝いた。
「ぼく飛んでる!」
「前を見て」
「え?」
ゴン!
「いたっ!」
電柱にぶつかった。
「…………」
「…………」
則人は、ずるずると少し下がった。
「痛い……」
「だから前を見てって言ったのに」
「飛ぶの難しい……」
それでも。
則人はすぐに顔を上げた。
「もう一回!」
ふわっ。
「おっ!」
今度は少し前へ進む。
「飛べた!」
くるっ。
「うわっ!」
身体が一回転した。
「なんで回るの!?」
「力を入れすぎ」
「じゃあ力抜く!」
ふにゃ。
「うわあああっ!」
今度は落ちた。
ぽすっ。
地面すれすれで止まる。
「…………」
則人は青い顔で下を見た。
「怖っ!」
「全部抜いちゃだめよ」
「難しいよ!」
則人はじたばたしながら、もう一度浮かび上がる。
「ちょっとだけ……」
ふわっ。
「力入れて……」
すうっ。
「お?」
今度は、身体がまっすぐ前へ進んだ。
「できた!」
則人は振り返る。
「天女さん! できた!」
「そうね」
「見てた!?」
「見てたわよ」
「よーし!」
則人は空を見上げた。
もう一度、モズキャッチャーを見つける。
「待てー! モズキャッチャー!」
すうっ!
今度は、まっすぐ空へ飛び出した。
◇
「取った!」
モズキャッチャーのクレーンアームが、看板へ伸びる。
あと少し。
その時だった。
「ダメー!」
「え?」
横から何かが飛び込んできた。
「うわっ!」
モズキャッチャーが慌ててアームを引っ込める。
「な、なんだ!?」
「ぼくだよ!」
「…………」
モズキャッチャーが目を丸くした。
そこにいるのは。
さっきまで地上を走っていたはずの、KID姿の則人。
それが今。
空に浮いている。
「…………なんで?」
「追いついた!」
「そうじゃなくて!」
「なに?」
「なんでお前、飛んでるんだよ!?」
「借りた!」
「何を!?」
「羽衣!」
「誰に!?」
「天女さん!」
「…………誰?」
則人が地上を指さす。
「あそこ!」
モズキャッチャーも見る。
「…………」
誰もいない。
「どこ?」
「いるじゃん!」
「誰もいないぞ!」
「ええっ!?」
則人も見る。
いる。
ちゃんといる。
しかも天女は、こちらへ手を振っている。
「天女さーん!」
則人も大きく手を振った。
天女が笑って振り返す。
「ほら!」
「何が!?」
「手振ってる!」
「誰が!?」
「天女さん!」
「誰もいないって!」
「いるよ!」
「いない!」
「いるって!」
「いないって!」
「…………」
「…………」
二人は空中でにらみ合った。
先に我に返ったのは、モズキャッチャーだった。
「今はそんなことどうでもいい!」
「あっ!」
モズキャッチャーが看板へ向き直る。
「取る!」
「ダメ!」
ガシャン!
クレーンアームが伸びる。
「うわっ!」
則人は慌てて横へ飛んだ。
そして、そのまま看板の前へ回り込む。
「どいて!」
「やだ!」
「取れないだろ!」
「取らせないようにしてるんだもん!」
「邪魔するな!」
「だって、それ取ったら危ないよ!」
「欲しいんだよ!」
「でも看板だよ!?」
「分かってる!」
「こんな大きいの持って帰れないよ!」
「取ってから考える!」
「だから先に考えようよ!」
モズキャッチャーが右へ動く。
則人も右へ。
左へ動く。
則人も左へ。
「どけ!」
「やだ!」
「どけって!」
「やだって!」
ガシャン!
「うわっ!」
伸びてきたクレーンアームを、則人が慌ててかわす。
殴り返さない。
蹴り返さない。
そもそも則人は、モズキャッチャーを倒したいわけではない。
ただ。
これ以上、取らせたくない。
「もう!」
モズキャッチャーが苛立ったように翼を広げる。
その時。
「…………あ」
視線が、別の方向へ向いた。
「ん?」
則人もつられて見る。
道路脇。
そこに一本の電柱が立っていた。
「…………」
モズキャッチャーの目が輝く。
「あれも欲しい」
「ええっ!?」
ばさっ!
モズキャッチャーが、あっさり看板から離れた。
「ちょっと待って!」
今度は電柱へ向かって飛んでいく。
「看板は!?」
「あとで取る!」
「まだ取る気なの!?」
則人も慌てて追いかける。
「待ってー!」
羽衣で空を飛びながら。
則人は、ふと考えた。
最初は。
ぬいぐるみだった。
あれが欲しかった。
そして、取れた。
なのに。
次はロボット。
それも取った。
次は看板。
今度は電柱。
「…………」
則人は飛びながら首を傾げた。
「これ……」
前を飛ぶモズキャッチャーを見る。
「いつ終わるの?」
「え?」
「だって!」
則人はなんとか追いついた。
「欲しかったぬいぐるみ、もう取ったんでしょ?」
「取った!」
「ロボットも取ったよね?」
「取った!」
「看板も欲しいんだよね?」
「欲しい!」
「今度は電柱?」
「欲しい!」
「じゃあ、その次は?」
「…………」
モズキャッチャーの動きが、ほんの少し止まった。
「その次?」
「うん」
「…………」
モズキャッチャーは辺りを見回した。
「欲しいものがあったら取る!」
「じゃあ、その次は?」
「また欲しいものがあったら取る!」
「その次は?」
「また取る!」
「その次!」
「取る!」
「その次!」
「取る!」
「その次は!?」
「取るって言ってるだろ!」
「…………」
則人は黙った。
しばらく考えて。
ぽつりと言う。
「やっぱり変だよ」
「何が!」
「終わらないじゃん」
「…………」
モズキャッチャーの顔が止まった。
「欲しいもの取っても、また次が欲しくなってる」
「…………」
「それじゃ、ずっと終わらないよ」
「…………うるさい」
「え?」
「欲しいんだから、仕方ないだろ!」
ばさっ!
モズキャッチャーが再び飛び出した。
「待って!」
電柱へ近づく。
巨大なクレーンアームが開いた。
「それ取っても持って帰れないよ!」
「欲しいんだ!」
「どこに置くの!?」
「知らない!」
「じゃあ取ってどうするの!?」
「知らない!」
「だったら――」
「うるさい!」
モズキャッチャーが振り返った。
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
「…………え?」
一瞬。
則人の動きが止まった。
モズキャッチャー自身も。
自分の口から出た言葉に驚いたように、黙り込んだ。
「…………」
「…………」
二人の間を、風が吹き抜ける。
則人の羽衣が、ふわりと揺れた。
モズキャッチャーは則人から顔をそらす。
「……とにかく」
クレーンアームを握る。
「欲しいんだ!」
ばさっ!
「あっ!」
また飛んでいく。
「待って!」
則人も追いかける。
「モズキャッチャー!」
返事はない。
「欲しいのは分かったけどー!」
まだ慣れない羽衣を必死に操りながら、則人は追う。
「どうしたら止まるのー!?」
その答えは。
まだ。
則人にも分からなかった。
――つづく
――――――――――
『ビーストギア』
本物の怪人と戦う、もう一つのヒーローの物語。
『着ぐるみモンスター』とは違う視点から描かれる『ビーストギア』も、ぜひお楽しみください。
以上を、第14話・なろう版の決定稿とします。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




