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着ぐるみモンスター  作者: 内田紀人
モズキャッチャー編

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第12話「ぜったい、つかまえる!」



第12話「ぜったい、つかまえる!」


 チャリン。


 百円玉が落ちる。


 ウィーン……。


 クレーンが、ゆっくりと動き始めた。


「そこ……そこだ……!」


 眼鏡をかけた青年が、ガラスに顔を近づける。


 狙っているのは、一体のぬいぐるみだった。


 もう何度も挑戦している。


 最初にあった場所からは、かなり動いた。


 あと少し。


 本当に、あと少しなのだ。


「そこ!」


 ボタンを押す。


 ウィーン……。


 アームが下りていく。


 ぬいぐるみの身体を挟み――。


「きた!」


 持ち上がった。


 青年の顔がぱっと明るくなる。


「よし……! そのまま、そのまま……!」


 アームが出口へ向かって動いていく。


 あと少し。


 もう少し。


「いけ……!」


 ぽとっ。


「…………」


 ぬいぐるみが落ちた。


 青年の顔が固まる。


「あああああっ!」


 思わず頭を抱えた。


「今の取れただろ!」


 ガラスの向こうへ文句を言っても、もちろん返事はない。


 青年は財布を開いた。


「…………」


 百円玉がない。


「またか……」


 両替機へ向かう。


 千円札を入れる。


 ジャラジャラジャラ。


 出てきた百円玉を握りしめ、すぐに戻った。


「今度こそ」


 チャリン。


 ウィーン……。


 アームが動く。


「もうちょい右……」


 止める。


「そこ!」


 下りる。


 つかむ。


「よし!」


 上がる。


 そして――。


 ぽとっ。


「なんでだよ!」


 もう一回。


 チャリン。


 ぽとっ。


「もう一回!」


 チャリン。


 ぽとっ。


「次!」


 チャリン。


 ぽとっ。


「…………」


 青年は黙った。


 ガラスの向こうでは、ぬいぐるみがさっきよりほんの少しだけ動いている。


 ほんの少し。


 でも、その少しが青年には大きく見えた。


「……いける」


 青年が呟く。


「次ならいける」


 財布を見る。


 まだ百円玉はある。


「あと一回」


 チャリン。


     ◇


 どれくらい経っただろう。


 青年はゲームセンターを出た。


「…………」


 手には何もない。


 欲しかったぬいぐるみは、結局取れなかった。


 財布を開く。


「……うわ」


 思っていた以上に減っている。


「使いすぎた……」


 青年はため息をついた。


 今日はバイトも休みだった。


 ちょっと遊ぶだけのつもりだった。


 たまたま見つけた景品が欲しくなった。


 一回だけ。


 そう思って始めた。


 それが二回になった。


 三回になった。


 あと一回。


 今度こそ。


 ここまで動かしたんだから。


 そうしているうちに、何回やったのかも分からなくなっていた。


「…………」


 青年はゲームセンターを振り返った。


 あの中に。


 まだ、ぬいぐるみがある。


「……もう帰ろ」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 歩き出す。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


「…………」


 止まった。


 振り返る。


「……いや」


 あそこまでやったんだ。


 もう少しだった。


 位置だって動いていた。


「次なら……」


 青年は首を振った。


「ダメだって」


 もう十分使った。


 帰ろう。


 そう思って、また歩き出す。


「…………」


 でも。


 頭から離れない。


 ぬいぐるみ。


 アーム。


 持ち上がった瞬間。


 そして。


 あと少しで出口だったのに、落ちた瞬間。


「…………」


 ここでやめたら。


 今まで使ったお金は、何だったんだ。


「……もったいない」


 青年の足が、また止まった。


「ここまで使ったのに……」


 取れないまま帰る方が、もったいない。


 そんな気がしてしまう。


「…………欲しい」


 小さく呟く。


「やっぱり……欲しい」


 その時だった。


「どうぞ」


「…………え?」


 青年が顔を上げた。


 いつの間にか。


 目の前に人が立っていた。


 黒い服。


 全身、黒。


「……誰ですか?」


 返事はない。


 青年は、その人物を見た。


「…………?」


 妙だった。


 目の前にいる。


 ちゃんと見ている。


 それなのに。


 男なのか女なのか。


 若いのか、年を取っているのか。


 なぜか、よく分からない。


 顔を見ているはずなのに。


 少し目を離しただけで、すぐに忘れてしまいそうだった。


 黒服の人物が、静かに手を差し出す。


 その手のひらには、小さな何かが乗っていた。


「……なんですか、それ」


「どうぞ」


「いや……」


 青年は一歩下がった。


「知らない人から、いきなりそんなの渡されても……」


 当然だった。


 怪しい。


 どう考えても怪しい。


「いりません」


 そう言って、青年は横を通り過ぎようとした。


 その時。


 ゲームセンターの中が見えた。


「…………」


 ガラスの向こう。


 あのぬいぐるみ。


 欲しい。


 その気持ちが、また胸の奥から湧いてきた。


「…………」


 青年が止まる。


 もう一度、黒服の人物の手を見る。


「……これ」


 なぜだろう。


 さっきまで、あれほど怪しいと思っていたのに。


 今は。


 受け取らなければいけないような気がした。


「…………」


 青年の手が伸びる。


 一度、途中で止まった。


「……いや」


 やっぱり変だ。


 こんなもの。


 受け取る理由なんてない。


 知らない人から物をもらうなんて。


 それでも。


「…………欲しい」


 ぬいぐるみが頭に浮かぶ。


 もう少しだった。


 次なら。


 きっと。


「…………」


 再び、手が動いた。


 指先が、黒服の人物の手のひらにある何かへ触れる。


 どくん。


「……っ?」


 胸の奥が鳴った。


 青年が顔を上げる。


「…………え?」


 黒服の人物は、もういなかった。


「…………?」


 青年は辺りを見回す。


 人は歩いている。


 車も走っている。


 でも。


 さっきの黒服だけが、どこにもいない。


「……なんだったんだ?」


 青年は手の中を見る。


 どくん。


 また、胸の奥が鳴った。


「…………」


 ゲームセンターを見る。


 どくん。


「……欲しい」


 さっきより、その気持ちが強くなっている。


「欲しい……」


 どくん。


「あれが欲しい」


 もう一度。


「絶対に欲しい」


 青年は、再びゲームセンターへ入った。


     ◇


 チャリン。


 ウィーン……。


 失敗。


「…………」


 チャリン。


 ウィーン……。


 失敗。


「…………」


 チャリン。


 失敗。


「なんで……」


 青年の手が震える。


「なんで取れないんだよ……」


 ぬいぐるみを見る。


 欲しい。


「こんなにやってるのに」


 欲しい。


「こんなに金使ってるのに!」


 欲しい。


「あと少しなんだよ!」


 欲しい。


「次なら!」


 欲しい。


「絶対!」


 どくん。


「取れる!」


 その瞬間。


 ゲームセンターの照明が明滅した。


「……え?」


 青年の身体を、何かが包み始める。


「な、なんだ……!?」


 羽毛。


 大きな翼。


 身体を覆う防具。


 顔には、野球の捕手を思わせるマスク。


「うわっ!?」


 胸が大きく膨らむ。


 透明な筐体のような形へ変わり、その中にいくつもの景品が現れる。


「な、なんだよ、これ!」


 そして。


 両腕が、巨大なクレーンアームへ変わっていく。


「うわああああっ!」


 ガタン!


 ガタン!


 身体が大きくなる。


 背中から巨大な翼が広がった。


 店内にいた客たちが振り返る。


「…………え?」


「なに、あれ……」


 次の瞬間。


「怪人だああああっ!」


「逃げろ!」


「怪人だ!」


 悲鳴とともに、人々が逃げ始める。


 だが。


「…………」


 青年は、逃げていく人たちを見ていなかった。


 巨大なクレーンアームを、ゆっくり持ち上げる。


 見ているのは。


 ただ一つ。


 あのぬいぐるみ。


「…………欲しい」


 アームが伸びる。


「欲しい……!」


 ガシャン!


 UFOキャッチャーの筐体を、巨大なアームがつかんだ。


「取る……!」


 ガラスに亀裂が走る。


 バキッ!


「絶対に……!」


 今までなら、アームが届かなければ諦めるしかなかった。


 つかめなければ。


 落ちてしまえば。


 もう一度、お金を入れるしかなかった。


 でも。


 今は違う。


「欲しいものは……!」


 巨大なアームに力が入る。


 ガシャアアアアン!


 筐体のガラスが砕け散った。


「絶対につかまえる!」


     ◇


「ん?」


 少し離れた道を歩いていた則人が、足を止めた。


 向こうから、大勢の人が走ってくる。


「逃げろー!」


「怪人だ!」


「ゲームセンターに怪人がいるぞ!」


「怪人!?」


 則人の目が大きくなる。


 そして。


 すぐに走り出した。


「ちょ、ちょっと見るだけ!」


 誰に言い訳しているのか、自分でも分からない。


 人の流れを避けながら、ゲームセンターが見えるところまで来る。


「…………!」


 そこにいた。


 大きな翼。


 鳥のような頭。


 野球の捕手を思わせる防具。


 胸には、景品が詰まった透明な筐体。


 そして。


 両腕には、巨大なクレーンアーム。


「…………あ」


 則人は知っている。


 テレビで見た。


『ビーストギア KID』に出てきた怪人。


「モズキャッチャー!」


 思わず声が出た。


「本物だ……!」


 ほんの一瞬。


 則人の目が輝く。


 テレビでしか見たことのなかった怪人が、目の前にいる。


 けれど。


「…………あれ?」


 すぐに、別のことを思い出した。


 セミスピーカ。


 あの時も。


 テレビに出ていた怪人と、まったく同じ姿だった。


 でも。


 中にいたのは、隣のクラスのさとる君だった。


「…………」


 則人は、暴れるモズキャッチャーを見る。


 テレビの怪人なのか。


 それとも。


「セミスピーカの時みたいな……?」


 誰かが、中にいるのか。


 則人には、まだ分からない。


「欲しい……!」


 モズキャッチャーの巨大なアームが伸びる。


 ガシャン!


「全部……!」


 別の景品をつかむ。


 ガシャン!


「つかまえる!」


「…………」


 則人は、ごくりと唾を飲み込んだ。


 怖くないわけじゃない。


 セミスピーカの時だって。


 本物の怪人を目の前にしたら、テレビで見るのとは全然違った。


 でも。


 あの時。


 則人は逃げなかった。


 そして。


 さとる君は、元に戻ることができた。


「…………よし」


 則人は、ランドセルの横へ手を伸ばした。


 そこには。


 周りの人には見えない。


 けれど、則人にはちゃんと見えている。


 大切なものが入った、大きな袋がある。


 則人は、その袋をぎゅっとつかんだ。


 そして。


 モズキャッチャーを真っ直ぐ見た。


「今度も……ぼくが行かなきゃ!」


 九歳の少年は。


 再び、怪人へ向かって走り出した。


 ――つづく


――――――――――


『ビーストギア』


本物の怪人と戦う、もう一つのヒーローの物語。


『着ぐるみモンスター』とは違う視点から描かれる『ビーストギア』も、ぜひお楽しみください。


[『ビーストギア』カクヨム作品ページ](https://kakuyomu.jp/works/2912051605855731678?utm_source=chatgpt.com)

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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