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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第十一話 劫罰

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79/90

6

 早朝、宿のドアを激しく叩く音に五人は目を覚ました。

「もう朝ご飯…?」

 右半身をずり落とし、絶妙なバランスで寝台に引っ掛かっていた紅が、ぼんやりと呟く。

「そんな呑気な雰囲気じゃないよ」

 アオイは片眼鏡(モノクル)を掛けながら呆れた調子で突っ込むと、次の瞬間にはもう身支度を整えていた。扉を開け廊下に出ると、階下を覗き込む。


 玄関には、ヨハネスと同じ隊服に身を包んだ警備兵が立っていた。相当急いで来たらしく、肩で大きく息をしている。ヨハネスが差し出した水を受け取ると一気に飲み干し、息を整える間もなく口を開いた。

「っ…クララが、夜警中に国王軍に拘束された!クララだけじゃない、議員も何人か夜のうちに連れてかれたらしい…!」

「何だって……!?」

 ヨハネスの顔色が、さっと変わった。

「議員を…しかも会期中に拘束するなんて、明らかに憲法違反じゃないか!」

「ああ…!その報せで、国家防衛軍が武力行使に踏み切った…国王軍の施設を制圧しろって!俺達警備兵団にも、研究所へ向かえって命令が出てる!」

 警備兵の言葉にヨハネスは頷くと、階段上を見上げる。そこには、既に装備を整えた五人が立っていた。


「これで、お前らが動く為の大義名分が出来たって訳か」

 銃のシリンダーに魔弾を装填しながら、アンバーがヨハネスを見下ろす。ヨハネスは目元を引き締める。

「…皆さん、お願いします」

 返事の代わりに、アンバーは親指でシリンダーを戻す。パチン、と乾いた金属音が響いた。


-----


 研究所の前は既に警備兵団が取り囲み、国王軍の近衛兵団、そして雇われの傭兵団とで睨み合っていた。黒と白の隊服が向かい合い、一触即発の緊迫感が漂う。

「議員達を即座に解放して、研究内容を公開するんだ!我々は武力衝突など望んでいない!」

「腰抜け共め!力なき者に国王に意見する資格などない!」

 あくまで対話での解決を図る警備兵団に対し、近衛兵団は強行姿勢を崩さない。魔装具を装備させられた、虚ろな目の傭兵達数十人を前線に押し出す。炎、氷、そして雷の力を秘め、妖しく輝く魔装具に、警備兵団は思わず尻込みした。


「腰抜けはどっちだよ」

 警備兵団の背後から声が上がる。アンバーが、両手に二丁拳銃を携えたまま、警備兵の人垣を掻き分けるようにして前へ進み出た。その後に、四人とヨハネスが続く。

「余所者の傭兵共に汚れ仕事は任せるってか」

「そんなのずるい!」

「卑怯だな」

「権力者あるあるだね」

「白い隊服だけじゃなくて、自分の手も綺麗なままにしておきたいって訳?鏡見てから言いなさいよ」

 卓のトドメに、ヨハネスが我慢出来ずに吹き出した。近衛兵達は顔を真っ赤にする。白い隊服の中に赤い顔面が、それはそれは鮮やかに咲いた。


 アンバーは悪い顔でニヤリと笑み、親指で撃鉄を起こす。カチリ、という音が鳴った。

「まあ、連中も余所者だが、オレらも余所者だ…って事は、この国でいくら大暴れしても、何の問題もねえよな」

 その言葉を合図に五人は同時に地を蹴ると、傭兵団に向かって飛び掛かった!


-----


 紅は真っ先に飛び込むと、打刀に手を掛け鞘から抜き払う!全身から蒸気が立ち上り、刃は炎を纏い真っ赤に燃え上がる!

 目の前に、見覚えのある籠手を付けた傭兵が立ちはだかる!腕には霜が張り、手甲には水宝玉が冷たく光っている。紅の脳裏に、助けを求めるように手を伸ばしたまま凍り付いた藍白(あいじろ)の姿がよぎる。

「こんなのがあるから、藍白が…っ!」

 悔しさに顔を歪めながら、紅は刀を振るう!炎の刃が水宝玉に食い込み、籠手はバラバラに砕け散った!


「敕(チッ)!」

 蒼龍は符を突き出すと、気合いと共に鋭く息を吐く!符から水遁ーー激しい水流が吹き出し、傭兵達の腕に巻き付いた凶悪な炎を包み、押し流す!蒸気の音を立てて、炎が霧散した!

「っ!?」

 自らの炎が消えてしまい動揺する傭兵達の間合いに入ると、今度は金遁で造り出した棍を振るい、籠手に付いた柘榴石を砕いていく!

「武器は使う人間が制御出来るものでなければ、何の意味も持たん」

 蒼龍はそのまま傭兵達の身体を打ち据え、次々と吹っ飛ばしていった!


 傭兵の腕から青白い稲妻が迸る!アオイはそれを紙一重で避ける!すかさず背中からワイヤーを引き出し、八方に展開する!雷撃がワイヤーを伝い、パチパチと火花を散らす。

 アオイはグローブを嵌めた手でワイヤーを握ると、そのまま横薙ぎに振るう!雷電を纏ったワイヤーが蛇のようにうねり、傭兵達目掛けて襲い掛かった!自ら放ったはずの雷の力を叩き返され、悲鳴を上げる間もなく倒れていく傭兵達。

「雷なんて、導体さえあれば簡単に利用出来る」

 アオイはワイヤーを巧みに操り、周囲には電流の渦が巻く!

「アオちゃんアタシを巻き込まないでえ!」

 その間を、顎の下を手の甲で撫でながら卓が駆けていく!アオイのワイヤーを器用に避けながら、傭兵達の懐に潜り込む!

「はいアンタはこっち!」

 ショールを引っ掛け視界を奪うと、傭兵をアオイのワイヤーに突っ込ませる!そのまま身を翻して、電撃に打たれ倒れ込む傭兵の身体を蹴り飛ばし、もう一人の傭兵にぶつける!動揺する傭兵の霜の張った腕を引っ掴むと、向かって来た炎を纏う別の傭兵の腕にぶち当てる!相反する力を持つ籠手がぶつかり合い、氷が膨れ上がり、炎が弾ける――二つの籠手が、粉々に砕け散った!


 アンバーは大立ち回りを繰り広げる四人の間を縫うように、両手に携えた銃で傭兵の魔装具を次々と撃ち抜いていく!炎には氷の魔弾を、氷には炎の魔弾を、雷には超硬質の魔弾を、シリンダーを親指で送りながら的確に選び、引き金を引く。弾が尽きれば即座に魔弾を装填する。

 その手が一瞬止まり、手の中の魔弾に目を落とす。

 二百年前の過ちを忘れない為、禁術とされ、製法すらも歴史から葬り去られた魔弾を作り続ける――自らに課した、罰だ。

 だが今は、魔弾をひたすら放ち、魔装具を破壊していく。

「皮肉なもんだな…罪を罪で拭うなんてよ」

 アンバーは呟くと魔弾を薬室に放り込み、シリンダーを親指で戻す。そして、撃鉄を起こし照準を合わせて引き金を引いた!


 紅の炎が吹き上がり、蒼龍の棍が唸りを上げ、アオイのワイヤーが宙を舞い、卓が撹乱しながら駆け巡り、アンバーの銃声が響き渡る!

 魔装具が一つ、また一つと砕け散り、傭兵達が倒れていく。傭兵団はあっという間に制圧された。

「あれだけの魔装具を、五人だけで……?」

 ヨハネスが呆然と呟いた。

「まだ終わってねえぞ」

 アンバーは砕けた魔装具の破片を拾い上げると、研究所を隙なく睨み付けた。


-----


 壊滅した傭兵団を目の当たりにして、すっかり戦意喪失した近衛兵団の拘束を警備兵団に任せ、五人とヨハネスは研究所内へと踏み込む。

 さして大きくない施設だ。アンバーが鍵穴を銃で撃ち抜きながら進んでいくと、程なくして、監禁されていたクララと議員達を発見した。背後手に縛られた縄を、アオイがナイフで切っていく。

「…ヨハネス!」

「クララ…!無事で良かった…!」

 クララは、拘束された際に殴られたらしく口元が少し紫色に腫れているが、他に怪我はない様子だった。ヨハネスは胸を撫で下ろす。

「貴方達はこのまま外へ避難して下さい。ここは危険です」

 アオイは議員達を促す。議員達は一礼すると、研究所の外へと駆け出していった。


 ヨハネスはクララの背中を押す。

「クララも一緒に避難するんだ。外で警備兵団が待機して――」

「いいえ、私はあなた達と一緒に行くわ」

「え?でも、君は怪我をして…」

 戸惑うヨハネスに、クララは意志の強い視線を返した。

「私も警備兵よ。市民を守る義務がある。その為に、この施設で一体何が行われているのか、知らなければならない」

 ヨハネスはしばらく黙っていたが、やがて観念したように頷いた。

「…分かった、行こう。この施設で起きている事を知る為に」

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