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早朝、宿のドアを激しく叩く音に五人は目を覚ました。
「もう朝ご飯…?」
右半身をずり落とし、絶妙なバランスで寝台に引っ掛かっていた紅が、ぼんやりと呟く。
「そんな呑気な雰囲気じゃないよ」
アオイは片眼鏡を掛けながら呆れた調子で突っ込むと、次の瞬間にはもう身支度を整えていた。扉を開け廊下に出ると、階下を覗き込む。
玄関には、ヨハネスと同じ隊服に身を包んだ警備兵が立っていた。相当急いで来たらしく、肩で大きく息をしている。ヨハネスが差し出した水を受け取ると一気に飲み干し、息を整える間もなく口を開いた。
「っ…クララが、夜警中に国王軍に拘束された!クララだけじゃない、議員も何人か夜のうちに連れてかれたらしい…!」
「何だって……!?」
ヨハネスの顔色が、さっと変わった。
「議員を…しかも会期中に拘束するなんて、明らかに憲法違反じゃないか!」
「ああ…!その報せで、国家防衛軍が武力行使に踏み切った…国王軍の施設を制圧しろって!俺達警備兵団にも、研究所へ向かえって命令が出てる!」
警備兵の言葉にヨハネスは頷くと、階段上を見上げる。そこには、既に装備を整えた五人が立っていた。
「これで、お前らが動く為の大義名分が出来たって訳か」
銃のシリンダーに魔弾を装填しながら、アンバーがヨハネスを見下ろす。ヨハネスは目元を引き締める。
「…皆さん、お願いします」
返事の代わりに、アンバーは親指でシリンダーを戻す。パチン、と乾いた金属音が響いた。
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研究所の前は既に警備兵団が取り囲み、国王軍の近衛兵団、そして雇われの傭兵団とで睨み合っていた。黒と白の隊服が向かい合い、一触即発の緊迫感が漂う。
「議員達を即座に解放して、研究内容を公開するんだ!我々は武力衝突など望んでいない!」
「腰抜け共め!力なき者に国王に意見する資格などない!」
あくまで対話での解決を図る警備兵団に対し、近衛兵団は強行姿勢を崩さない。魔装具を装備させられた、虚ろな目の傭兵達数十人を前線に押し出す。炎、氷、そして雷の力を秘め、妖しく輝く魔装具に、警備兵団は思わず尻込みした。
「腰抜けはどっちだよ」
警備兵団の背後から声が上がる。アンバーが、両手に二丁拳銃を携えたまま、警備兵の人垣を掻き分けるようにして前へ進み出た。その後に、四人とヨハネスが続く。
「余所者の傭兵共に汚れ仕事は任せるってか」
「そんなのずるい!」
「卑怯だな」
「権力者あるあるだね」
「白い隊服だけじゃなくて、自分の手も綺麗なままにしておきたいって訳?鏡見てから言いなさいよ」
卓のトドメに、ヨハネスが我慢出来ずに吹き出した。近衛兵達は顔を真っ赤にする。白い隊服の中に赤い顔面が、それはそれは鮮やかに咲いた。
アンバーは悪い顔でニヤリと笑み、親指で撃鉄を起こす。カチリ、という音が鳴った。
「まあ、連中も余所者だが、オレらも余所者だ…って事は、この国でいくら大暴れしても、何の問題もねえよな」
その言葉を合図に五人は同時に地を蹴ると、傭兵団に向かって飛び掛かった!
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紅は真っ先に飛び込むと、打刀に手を掛け鞘から抜き払う!全身から蒸気が立ち上り、刃は炎を纏い真っ赤に燃え上がる!
目の前に、見覚えのある籠手を付けた傭兵が立ちはだかる!腕には霜が張り、手甲には水宝玉が冷たく光っている。紅の脳裏に、助けを求めるように手を伸ばしたまま凍り付いた藍白の姿がよぎる。
「こんなのがあるから、藍白が…っ!」
悔しさに顔を歪めながら、紅は刀を振るう!炎の刃が水宝玉に食い込み、籠手はバラバラに砕け散った!
「敕!」
蒼龍は符を突き出すと、気合いと共に鋭く息を吐く!符から水遁ーー激しい水流が吹き出し、傭兵達の腕に巻き付いた凶悪な炎を包み、押し流す!蒸気の音を立てて、炎が霧散した!
「っ!?」
自らの炎が消えてしまい動揺する傭兵達の間合いに入ると、今度は金遁で造り出した棍を振るい、籠手に付いた柘榴石を砕いていく!
「武器は使う人間が制御出来るものでなければ、何の意味も持たん」
蒼龍はそのまま傭兵達の身体を打ち据え、次々と吹っ飛ばしていった!
傭兵の腕から青白い稲妻が迸る!アオイはそれを紙一重で避ける!すかさず背中からワイヤーを引き出し、八方に展開する!雷撃がワイヤーを伝い、パチパチと火花を散らす。
アオイはグローブを嵌めた手でワイヤーを握ると、そのまま横薙ぎに振るう!雷電を纏ったワイヤーが蛇のようにうねり、傭兵達目掛けて襲い掛かった!自ら放ったはずの雷の力を叩き返され、悲鳴を上げる間もなく倒れていく傭兵達。
「雷なんて、導体さえあれば簡単に利用出来る」
アオイはワイヤーを巧みに操り、周囲には電流の渦が巻く!
「アオちゃんアタシを巻き込まないでえ!」
その間を、顎の下を手の甲で撫でながら卓が駆けていく!アオイのワイヤーを器用に避けながら、傭兵達の懐に潜り込む!
「はいアンタはこっち!」
ショールを引っ掛け視界を奪うと、傭兵をアオイのワイヤーに突っ込ませる!そのまま身を翻して、電撃に打たれ倒れ込む傭兵の身体を蹴り飛ばし、もう一人の傭兵にぶつける!動揺する傭兵の霜の張った腕を引っ掴むと、向かって来た炎を纏う別の傭兵の腕にぶち当てる!相反する力を持つ籠手がぶつかり合い、氷が膨れ上がり、炎が弾ける――二つの籠手が、粉々に砕け散った!
アンバーは大立ち回りを繰り広げる四人の間を縫うように、両手に携えた銃で傭兵の魔装具を次々と撃ち抜いていく!炎には氷の魔弾を、氷には炎の魔弾を、雷には超硬質の魔弾を、シリンダーを親指で送りながら的確に選び、引き金を引く。弾が尽きれば即座に魔弾を装填する。
その手が一瞬止まり、手の中の魔弾に目を落とす。
二百年前の過ちを忘れない為、禁術とされ、製法すらも歴史から葬り去られた魔弾を作り続ける――自らに課した、罰だ。
だが今は、魔弾をひたすら放ち、魔装具を破壊していく。
「皮肉なもんだな…罪を罪で拭うなんてよ」
アンバーは呟くと魔弾を薬室に放り込み、シリンダーを親指で戻す。そして、撃鉄を起こし照準を合わせて引き金を引いた!
紅の炎が吹き上がり、蒼龍の棍が唸りを上げ、アオイのワイヤーが宙を舞い、卓が撹乱しながら駆け巡り、アンバーの銃声が響き渡る!
魔装具が一つ、また一つと砕け散り、傭兵達が倒れていく。傭兵団はあっという間に制圧された。
「あれだけの魔装具を、五人だけで……?」
ヨハネスが呆然と呟いた。
「まだ終わってねえぞ」
アンバーは砕けた魔装具の破片を拾い上げると、研究所を隙なく睨み付けた。
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壊滅した傭兵団を目の当たりにして、すっかり戦意喪失した近衛兵団の拘束を警備兵団に任せ、五人とヨハネスは研究所内へと踏み込む。
さして大きくない施設だ。アンバーが鍵穴を銃で撃ち抜きながら進んでいくと、程なくして、監禁されていたクララと議員達を発見した。背後手に縛られた縄を、アオイがナイフで切っていく。
「…ヨハネス!」
「クララ…!無事で良かった…!」
クララは、拘束された際に殴られたらしく口元が少し紫色に腫れているが、他に怪我はない様子だった。ヨハネスは胸を撫で下ろす。
「貴方達はこのまま外へ避難して下さい。ここは危険です」
アオイは議員達を促す。議員達は一礼すると、研究所の外へと駆け出していった。
ヨハネスはクララの背中を押す。
「クララも一緒に避難するんだ。外で警備兵団が待機して――」
「いいえ、私はあなた達と一緒に行くわ」
「え?でも、君は怪我をして…」
戸惑うヨハネスに、クララは意志の強い視線を返した。
「私も警備兵よ。市民を守る義務がある。その為に、この施設で一体何が行われているのか、知らなければならない」
ヨハネスはしばらく黙っていたが、やがて観念したように頷いた。
「…分かった、行こう。この施設で起きている事を知る為に」




