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五人は街の中心街にある議場へと案内される。ヨハネスとクララの姿を確認すると、すぐに議長の元へと通された。
議長は恐らく四十代半ば辺りだろうが、相当苦労しているのであろう、白髪の混じった髪と無精髭のせいで遥かに歳を取って見えた。
「…以上が、この国の現状と、国王軍について我々が把握している事実になります。しかし、魔装具について詳しい方がいらっしゃるとは…」
「昔取った杵柄ってやつだ」
アンバーの表情に「詮索するな」という牽制を見て取った議長は、それ以上追及する事なく話を進める。
「ただ、傭兵達が行方不明になる件については、我々も実態が掴めていないのです。そもそも、外部から傭兵達がどのくらいこの国に流入しているのかすら把握出来ていなくて…数ヶ月前から噂が回り始めたので、その頃から起こっているのではないかと思われます」
「同じ頃に、国王軍の研究所の動きにも変化があったんですよね?」
確認するアオイに、議長は頷いた。
「ええ。商人達の話では、前は魔石と宝石の両方を供出するように圧力を掛けられていたのが、今では魔石の供出量が圧倒的に多くなった、と。
我々も勿論、国王軍が何を企んでいるのかを探っていますが、所詮身内同士、直接調査するのには限界がありまして……旅をしている貴方がたなら、身元を怪しまれずに傭兵を装って潜り込める可能性があります。それに…」
「魔装具にびびって手出し出来ねえから、知識のあるオレに何とかしろってか」
アンバーの咎めるような口調に、議長は目を伏せた。クララが議長に代わる。
「私達には、あの籠手を壊す事すら出来なかったの。危険な事に巻き込んでしまうのは分かっているわ」
クララの発言を受け、再び議長が口を開いた。
「それを承知でお願いします。傭兵が何故失踪しているのか、国王軍が何を研究しているのか、証拠を集めて欲しいのです。
議会も司法も、既に国王軍の圧力を前に充分に機能していません。ですが、一つでも決定的な証拠があれば、国王軍に反発する民意を動かして、少なくとも国王に研究の中止を迫る事くらいは出来るかもしれません。
同じ国に生きる者同士、血を流す事なくこの対立を終わらせたいのです」
議長の切実な眼差しに、アンバーはしばらく黙るが、やがて一息付く。
「いいぜ、引き受けてやる。だが、魔装具が危ねえもんだって分かってんなら報酬は弾め。オレの大事な仲間を危険に晒すんだから、命の対価として当然だ」
「アンバー、やっぱりそういうところ優しいよね!」
「…くそ」
紅の嬉しそうな表情に、アンバーは思わず自らの首筋を掴んだ。
残りの交渉をアオイと卓に任せると、アンバーはソファの背もたれにゆっくりと身を預けた。
「……どうしましたか?」
アンバーの様子が気になるのか、後ろからヨハネスが声を掛ける。彼はこのまま、案内人として五人に同行する事が決まっている。
アンバーは答えず、ただ険しい目で何かを考え込んでいる。
やがて、眉間の皺を一層深くすると、ぽつりと漏らした。
「思った以上にやべえ事になってやがる」
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その夜、ヨハネスの両親が営む宿の食堂で、五人は家庭料理を囲んだ。街の様子とは打って変わって、温かい雰囲気が漂うかと思いきや。
「この燻製肉美味しいね!」
「鮭も脂が乗っていて美味いな」
「あらやだ、この腸詰めレベル高いじゃないの!」
「アップルパイ、ホールごと食べられますか?」
「この辺の地酒は黒ビールか。樽ごとくれるか?」
小さな宿に対して明らかに供給量を超えた食事を所望され、ヨハネスの両親は白目を剥く。
「お前が連れて来たのは食糧災害か何かか?」
「僕にも分からないよ父さん…」
次々と消えていく料理を目の当たりにして、ヨハネス親子は恐怖を感じずにはいられなかった。
五人の腹が満たされる頃には、テーブルの上には空の皿が大量に積み上がっていた。
「あんた方、本当に人間なのか?」
「失礼ねえ、れっきとした人間よ」
ひたすら調理を続け灰のようになったヨハネスの父親に、卓が満足気に口元を拭いながら答える。
「いくら酒を注ぎ込んでも、酒の方が逃げていきそうなバケモノはいるけどね」
「誰が化けもんだ」
アンバーはジト目を返すと、ジョッキに残った最後の一滴を、喉を鳴らして飲み干した。微かにごとり、と音を立て、空になったジョッキをテーブルに置く。
「さてと…議長の話を聞いた上でのオレの見解を伝えときてえんだが、いいか?」
先程までの軽さが消え、真剣な眼差しになったアンバーの一言に、四人の表情も変わる。
「父さん、母さん。ここは僕が片付けておくから、席を外してもらえるかな」
ヨハネスは両親に目配せする。二人は心配そうな表情を浮かべつつ、食堂から出て行った。
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五人とヨハネスだけになった食堂に、アンバーの声が響く。
「結論から言う。奴ら、『賢者の石』を作ろうとしてやがる」
「『賢者の石』?」
「伝承なんかでよく聞く名前ねえ」
紅と卓が首を傾げる。アオイは片眼鏡を押し上げた。
「その石を手にした者は世界を征する力を持つ、みたいな話だったよね。まさか実在するの?」
「まあな。昔、そんな訳の分かんねえもんを実際に作ろうとした馬鹿野郎が居た。オレ自身、この目で見てる」
「……え?」
アンバーの言葉に、ヨハネスは瞠目する。
アンバーは懐から一発の魔弾を取り出し、テーブルの上に立てる。照明の灯を受け、弾頭に仕込まれたダイヤモンドが美しく輝いた。
「魔弾は純粋に魔石の力を使った武器。それを発展させた魔装具は、人間の生命力を使って魔石の力を増幅させる武器だ。次に行き着くのは何だと思う?」
「魔石の力と生命力を融合させた、爆発的な威力を持つ兵器か」
蒼龍が思い当たった様子で口元に手を当てる。アンバーは頷いた。
「禁術になるってのは何も、生命の危険があるからだけじゃねえ。それを基に、新たな危険を産む可能性があるからってのもある」
アンバーは一息区切ると、魔弾に指を当てた。
「『賢者の石』ってのはな、魔石の力と、知性を持つ生命体――つまり人類の生命力を合わせた、莫大なエネルギーを溜め込んだ装置みてえなもんだ。完成した石を手にした奴は、炎、氷、雷単独の力だけじゃねえ、三つを束にしたとんでもねえ力を操れるようになる。つまり、『賢者の石』を持つ奴自身が兵器になっちまう……理論上は、な」
「理論上は?」
「ああ」
眉をひそめるアオイを一瞥し、アンバーは言葉を続ける。
「オレの知る限り、歴史上で完成させた奴は一人もいねえ。必ずどっかで術式が破綻してる。
しかも、石自体がとんでもねえ量のエネルギーを含んでやがる。制御出来なくなれば、行き場のない力は当然暴走して――国一つ消し飛んじまう」
アンバーはテーブル上の魔弾を指で軽く弾く。ことり、と小さな音を立てて魔弾が倒れた。
「そんなものを……研究所で作っている、と?」
ヨハネスが生唾を飲み込みながら確認する。アンバーは倒れた魔弾を指で転がしながら言う。
「魔石の大量供出、行方不明になる傭兵達、それに」
アンバーは魔弾を転がす指を止めた。
「魔装具の、生命力と魔石を繋げる術式。条件が揃い過ぎてんだよ」
アンバーは魔弾に触れたままの指に力を込める。指先が白く固まる。
「…間接的にかもしんねえが、二百年前のオレが原因を作っちまったようなもんだ。
馬鹿野郎は馬鹿野郎を、永遠に産み続けちまう」
アンバーの顔に、暗い影が落ちた。
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紅はアンバーの重い表情をものともせず、空の皿に残った燻製肉の切れ端を摘み、口に放り込みながら言った。
「難しい話はよく分かんないけど、アンバーは研究を止めたいんだよね?じゃあ止めに行こっか」
「…は?」
まるで散歩に行くような調子の紅に、流石のアンバーも目が点になる。
「そうだな」
蒼龍はいつも通り、紅に同意の姿勢を崩さない。
「まあ、ここまで聞いて証拠掴むだけじゃ物足りないよね」
アオイは若干呆れた調子で紅茶を啜る。
「要するに、国王軍に喧嘩売りに行けばいいんでしょ?何も難しい事ないわ」
卓は髪を掻き上げながら、余裕を含んだ笑みを浮かべる。
「アンバー、何かずっと後悔してるみたいだけど、後悔は手放して反省だけ残した方がいいと思うよ!」
いきなり格言めいた事を宣う紅に、アンバーは金色の目を見開いた。
「…随分簡単に言ってくれるじゃねえか」
絞り出すように呟き、そして目を一気に細め、思わず吹き出した。
「だが、間違ってねえな」
横からヨハネスが、困惑した様子で声を掛けてくる。
「この人達、いつもこんな調子なんですか?」
「ああ」
アンバーはニヤリと笑って、ヨハネスの肩を叩いた。
「最高だろ?」




