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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第十話 秘密

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7

 衛兵に事後処理を任せると、五人とテオドールは急ぎレジデンツへと戻った。帰還した皆の姿を見て、アーデルハイトは真っ青な顔をして両手で口を覆う。怪我こそないものの全員砂埃だらけ、紅とアオイに至っては所々返り血を浴びている。城下町で何があったかは明白だ。

「…テオドールを宮殿の外へ出してはなりません。今後の城下町の視察は全て中止します。衛兵は宮殿の警備に全力を注ぎなさい」

「母上!」

 アーデルハイトの決断に、テオドールは異議を唱える。

「それでは駄目です!襲撃を恐れて引き篭もっていては、民に何と思われるか…」

「今は貴方の身の安全が最優先でしょう!」

「お言葉ですが、宮殿内の方が危険かもしれません」

 母子の言い争いに、アオイが静かに割って入る。アーデルハイトが振り返り、アオイを睨む。

「…どういう意味ですか」

「今回の襲撃者達は、複数人から別口で雇われている可能性があります。あれほどの人数が殿下を狙っているのであれば、この宮殿にも既に手が回っているでしょう。宮殿内なら場所が限定される分、街中より狙いやすい」

「…っ!」

 アーデルハイトの顔が強張り、肩が震える。母親として息子を守りたい、その一心で「宮殿の中なら安全」と思い込もうとしていた浅はかさを突き付けられる。


 アオイは淡々と告げた。

「もはや、殿下にとって安全な場所はないと覚悟して下さい」

「……そんな…」

 アーデルハイトは胸元で組んだ手を握り締めた。真っ白になった指先が恐怖で震える。

 テオドールは母の指を見て、歯を微かに食い縛り、静かに拳を握った。


-----


 レジデンツの大窓、閉じられたカーテンの隙間から、燃えるような真っ赤な夕陽が差し込む。

 テオドール、アーデルハイト、フェリクス、そして紅達五人は、レジデンツ内の応接室に集まっていた。どうせ狙われているのなら、全員一箇所に留まった方が良いとの判断だ。

「…お腹空いたなあ」

 紅が呟く。夕食の時間まであと半刻ほど、食事はこの部屋へ運び込んでもらう事になっている。

「嬢ちゃんは昼間どさくさに紛れてソーセージ食ってただろ」

「あんなんじゃ足りないよう…」

 アンバーが呆れて指摘するが、紅は気にする様子もなく、テーブルに顎を乗せて情けない声を出した。

 紅はそのまま顔を傾けて、フェリクスの方を見る。目を閉じてソファに深く沈み込んだ姿は、心なしか体調が優れないように見えた。

「王様もお腹空いてるの?大丈夫?」

 フェリクスは唐突に声を掛けられ、驚いたように目を開いた。しばらく逡巡したように視線を泳がせると、一息吐く。

「…王として、何も出来ない事が不甲斐なくてな。

 本来なら国を、家族を守る立場なのに、病のせいで……いや、病のせいだけではない、国の混乱を防ぐ事も出来ず、ヴィルヘルムの事を追い詰め、テオドールを危険な目に遭わせてしまった。王としても父としても失格だ」

「父上…」

 苦笑して心中を吐露するフェリクスを、テオドールは複雑な表情で見つめた。


 やがて日が落ち、カーテンの隙間から差し込んでいた一筋の緋色の光が、ふっと消える。天井から吊るされたシャンデリアの光が、部屋の中をぼんやりと照らした。

 卓がカーテンの隙間を閉じようと窓に近付き――その動きを止める。

「…アオちゃん」

「うん」

 卓がアオイに声を掛けると、アオイは窓の方を見て頷いた。蒼龍の眉がぴくり、と動き、アンバーが腰掛けていたソファからゆっくりと立ち上がる。紅もテーブルから顔を上げて、すくっと立つ。

 先程まで部屋の外から聞こえていた衛兵の足音や使用人の声が全て消え、静まり返っている。


 耳が痛くなるような沈黙。

「……来た」

 アオイが短く呟いた、その瞬間。


 窓ガラス、そして部屋の扉をぶち破り、複数の襲撃者が一気に雪崩れ込んで来た!


-----


 襲撃者に対して真っ先に反応したのは紅だった。扉から突入して来た男の腕を取ると、背後に回り込み締め上げる!

「せっかく綺麗な宮殿なのに、扉壊したら駄目だよ!」

 痛みに顔を歪める男をそのまま崩し床板にめり込ませると、続いて侵入して来た男の顎を下から思いっきり蹴り上げた!男は吹っ飛ばされ、パラパラと木片を舞い落としながら天井に突き刺さる。

「嬢ちゃんも宮殿壊してんじゃねえか!」

 窓際からアンバーが怒鳴る。窓からの襲撃者の胸倉を掴むと、その頭に頭突きをかます!脳震盪を起こしてふらつく男を、そのまま後続目掛けて投げつけた!二人がもんどりうって窓から放り出される。続いて侵入して来た女にも容赦なく、顔面を鷲掴みにするとそのまま壁に叩きつける!

「アンタ、意外と女のコにも遠慮がないのね!」

 卓はアーデルハイトを庇いながら、まるでワルツを踊るように襲撃者の攻撃を躱し続ける!アーデルハイトの手を取り、腰を引き寄せ、時に抱きかかえる。

「何を…!?」

 アーデルハイトの困惑もどこ吹く風、卓は襲撃者を誘導し、その足を引っ掛け床に転がす!

「ロンロン任せたわよ!」

 卓が誘導した先には蒼龍、棍の一閃で叩き伏せる!蒼龍は背後にフェリクスを護りながら、巧みに棍を操り襲撃者達を武器ごと吹き飛ばす!

「待て、私も戦える!」

「病人は大人しくしていろ。その前に、王たるものは大きく構えていればいい」

 フェリクスは携えていた剣を取り応戦しようとするが、蒼龍は振り返りもせずに応える。フェリクスは呆気に取られて黙りこくった。


 アオイはテオドールの身を庇いながら、襲撃者達の猛攻をナイフで捌く!

 本来アオイは、神速で相手の懐に飛び込んで一瞬の内に制圧する事を得意とする。だが今は、護衛対象の王族が居るので好きに動けない。しかも応接室という狭い空間、攻守一体となるワイヤーを展開すれば、護衛対象を巻き込んでしまう恐れがある。

 飛んでくるナイフを叩き落とし、突っ込んでくる襲撃者の鼻に肘を打ち込み、膝を崩したところへ首筋に手刀を叩き込む!

「殿下、僕から離れないで!」

「分かった!」

 テオドールも必死にアオイの背後に付いていく!防戦一方の展開に、アオイは僅かに眉を顰めた。


 恐らく足留めを食らっていたのであろう、ようやく衛兵達が応接室へ雪崩れ込んで来た!襲撃者達の勢いも止まらず、戦いはますます混迷を極める!

 そんな中を侍女が二人、テオドールへと駆け寄って来た。

「殿下、お怪我はありませんか!?」

「どうぞこちらへご避難下さい!」

 見慣れた制服姿に、テオドールの気が緩む。そのままアオイの背から離れるように、侍女の方へと身体を寄せる。


 だが、アオイは一瞬で看破する。

 戦いの騒音の中でも分かる。侍女の足音が聞こえない。否――二人とも、一歩たりとも音(・)を(・)立(・)て(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 アオイが叫ぶ!

「殿下戻って!!」

「え?」

 同時に、侍女の一人がテオドールの腕を掴み、もう一人も素早くテオドールの身体を支える!二人はそのままテオドールを絡め取ると、揃って応接室から飛び出していった!

「しまった!」

 アオイは組み合っていた襲撃者の鳩尾を蹴り飛ばすと、人の波をすり抜けテオドールの後を追った!

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