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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第十話 秘密

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6

 ヴィルヘルムの来訪から数日後、紅達五人は城下町を視察するテオドールの護衛を務めていた。テオドールはいつもの宮廷服から簡素な服に着替えているものの、漂う気品を隠し切る事は出来ない。五人は、テオドールの正体が既に周囲に知られている可能性も含めて、護衛に当たる。

 ローエングラードは代々賢王が統治する豊かな国だ。住民達の顔色も良く、城下町は活気に満ちている。

「いい匂い!あれ何かな?」

「カリーヴルストだ。ちょっと辛いのが美味しいんだ」

 涎を垂らしながら屋台を眺める紅に、テオドールが一つ一つ説明していく。卓は店先に並ぶ服飾品を見て回り、アンバーは通りで酒屋を見つける度に瓶ビールを買っては飲んでいる。

「すまん、あれでも護衛をしている」

「…そうですか」

 あまりにも緩みまくった護衛の様子に、付き添いの衛兵二人は唖然としている。蒼龍が表情一つ変えずに謝った。


 アオイは街中の人々の顔触れに、ある違和感を持っていた。

「…おかしい。この国の住民じゃない人が多過ぎる」

「そういえばアタシ達、傭兵が多くて宿取れなかったのよね」

 卓が顎をツンと上げて周囲を見回す。広場、食堂、酒場、そして宿。明らかに傭兵風の人間で溢れていた。手近な傭兵に声を掛けると、卓の美貌に鼻の下を伸ばしながら答えてくれた。

「最近王室から大量の募集があってな。高給だし、出所がしっかりしてるから安心だろ?」

 そう言って懐から依頼書を出す。そこには破格の報酬と共に、確かに王家の印章が押されていた。ただし、その印章はフェリクス王のものではない。

「……ヴィルヘルム叔父上」

 テオドールが真っ青な顔で呟いた。

 アオイは道行く傭兵達の会話にも、注意深く耳を澄ませる。

「…王室直結の仕事だってよ」

「…『国の治安維持』って話らしいな」

 アオイの顔色が曇る。同じように耳を澄ませていたアンバーが、さも気に入らないといった風に顔を顰めて吐き捨てた。

「ただの仕事じゃねえ…恐らくクーデターだな」

「そんな……」

 テオドールは絶句した。自分の叔父からここまで敵意を向けられていた事実に、足が震え崩れ落ちそうになる。ぐらり、と傾ぐ身体を、アンバーの筋張った手が支えた。大きな手とは裏腹に、アンバーの声は冷たくて硬い。


「王子様、よく聞け。王族だの貴族だの、上の連中が揉めるのは勝手だ。だがな、そのいざこざで真っ先に死ぬのは誰か分かるか?上の奴らに言われるまま争いに巻き込まれる、今この目の前で普通に生きてる連中だ」

 テオドールは顔を上げる。アンバーは街の人々に視線を向けるよう促して、言葉を続けた。

「てめぇが王様になるなら覚えとけ。上が馬鹿だと、犠牲になるのはいつも民衆だ。王様ってのは自分の家族だけじゃねえ、その国に生きる全ての人間の命を背負わなきゃなんねえ」


 テオドールは改めて周囲を見る。

 通りに並ぶ店や露店で商売をする人達。買い物をする老夫婦。腕を組んで仲睦まじげに歩く若い二人。そんな人の間を駆け抜けていく子供達。ごく普通の光景が広がっていた。

 ――王家が争えば、この人達が争いに巻き込まれる。


 テオドールは震える両足に力を込め、アンバーの手から離れる。

「…分かった」

 両足でしっかりと立ち直ると、テオドールは静かに頷いた。


-----


 テオドールがアンバーの言葉を反芻するように、その場に立ち止まった瞬間――横合いの屋台から一本の矢が放たれる!

「敕(チッ)!」

 蒼龍が地面に手を付き、土遁で障壁を造り出す!間一髪、矢は障壁に阻まれ折れ飛ぶ。ほぼ同時に紅は飛び出すと屋台へ迷わず突っ込み、矢を放ったであろう人物を地面に組み伏せた!ひっくり返った拍子に飛んだカリーヴルストを一本、ちゃっかり口に咥えている。

「ふははへは!」*

「紅、まだ他にいる!」

 アオイが叫ぶと同時に、今度は別方向から銃声が響く!アンバーが腰から銃を抜き間髪入れずに引き金を引く!中空で何かが弾かれる音がすると、ひしゃげて凍り付いた弾頭が地面に転がる。アンバーが放った魔弾の勢いは止まる事なく、そのままアパルトマンの屋上に潜んでいた人物を撃ち抜いた!

 直後、目の前で爆発が起こる!民衆達は一気に大混乱に陥った!

「見境ないわね!」

 卓は突然の襲撃に焦る衛兵二人を連れて、民衆を避難させる為誘導する。幸い怪我人はいないようだ。

 アオイは飛んでくる投げナイフをワイヤーで捌き、その中の一本を掴むとそのまま路地に向かって投げ返す!呻き声と共に、路地から黒ずくめの一人の女がふらふらと出て来て、倒れた。

(…姉さんじゃない)

 アオイは一瞥すると、すぐに次の襲撃を捌く。神速で踏み込むと、倒れた女の背後に潜んでいたであろう、もう一人の顎に掌底を叩き込んだ!相手は声を上げる暇もなく昏倒した。


 その間も四方八方から襲撃の手が止まる事なく続く!

 狙いはもちろん――テオドール。


 頭上から矢の雨が降り注ぐ!

「敕!」

 蒼龍が符を翳し気合いを込める!木遁――激しい上昇気流が発生すると、矢を一気に吹き飛ばした!その気流に乗って、紅が壁を蹴って一気にアパルトマンの屋上まで飛び上がる!

「なっ…!?」

 信じられない身体能力に驚愕する男の横っ面に、紅は容赦なく回し蹴りを放つ!男は呆気なく吹っ飛ばされた。

 別の場所から矢とナイフが飛んで来る!アオイがワイヤーを幾重にも放ち絡め取り、逆に投げ返した!路地から、屋上から、複数人が倒れる気配がする。

 間髪入れずに響く銃声!蒼龍が土遁で弾丸からテオドールを護り、アンバーが路地目掛けて魔弾を撃ち込む!雷鳴を残し、ライフルを持った男が気絶して倒れる。

「一体何人いやがる!キリがねえ!!」

 蒼龍と背中合わせになり、その間にテオドールを挟み護りながらアンバーが叫んだ!

「分かんないわ!どーなってんのよ!!」

 民衆の避難を終えた卓が戻って来て、そのまま隙なくテオドールを背後に庇った。


 蒼龍の土遁と木遁が鉄壁の防御を創り出し、アンバーの魔弾が襲撃者を襲う!離れた場所では紅が縦横無尽に駆け回り、アオイのワイヤーが舞い、襲撃者を次々と制圧していく!

「王子サマ見ときなさい!こうやって相手の目をダマくらかすのよ!」

 卓はいち早く襲撃者の気配に気付き、ショールをはためかせて狙いを撹乱した!

 五人がテオドールを確実に護る中、襲撃者達の攻撃は緩まない。しかし、アオイは違和感を感じていた。

(おかしい。王太子を殺す為の襲撃にしては…)

 殺気が放たれた方向を見向きもせず、太腿に隠し持っていたスローナイフを投げ付ける!獲物に命中した気配のみ感じ取った。


(バラバラすぎる)


-----


 やがて、紅が最後の一人をぶちのめす。

「…終わったのかしら」

 卓が息を整えながら、周囲を見渡した。砂埃の中、周囲には数多の襲撃者が地面に転がるばかり。建物や石畳には亀裂が入り、襲撃の壮絶さを物語っていた。


 アオイは倒れた襲撃者達を一人一人見やる。武器と襲撃方法。最初の爆発、そして銃、弓、投げナイフ。

「やっぱりおかしい」

「何が?」

 口元に手を当てて唸るアオイの顔を、紅は覗き込む。アオイは足元に転がる襲撃者を足で突きながら言った。

「この人は弓を使ってた」

 続けて、少し離れたところに倒れる男を指差す。

「あの人は銃。そして、あの二人は投げナイフ…多分暗殺者だと思う」

 路地に倒れている男女の二人組を一瞥。卓が首を傾げる。

「だから何なのよ」

「多分、依頼主が違う」

「……え?」

 アオイが静かに放った言葉に、テオドールが目を見開いた。アオイは視線を落としながら言う。

「もし依頼主が一人でこれほどの人員が動くなら、襲撃方法に統一性が出るはず。武器だけじゃない、連携の仕方や撤退方法も含めて。

 でも、彼らにはそれがない。連携どころかむしろ、他の人を巻き込む事に躊躇がなかった」

「って事は…」

 アンバーの眉間に、深い皺が刻まれる。アオイは頷いた。


「それぞれ別口で、王太子殿下の暗殺を依頼されている。殿下の命を狙っているのは、一人じゃない」

 テオドールの顔から、血の気が引いた。

*訳:つかまえた!

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