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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第十話 秘密

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3

 意図せず人助けとなった五人は、礼をしたいという少年の申し出を受け、そのまま住まいへと招かれる事になった。少年の身なり、衛兵を引き連れている事を考えればそれなりの身分である事は明白だが、連れて来られた場所を見て五人は思わず絶句する。

「……おっきい」

 目の前に広がる光景に、紅が驚きの声を漏らした。

 大きな門の中に広がるのは手入れされた庭園、その先には左右対称に延びる優雅な建築物。そこは明らかに一般人が住まう建物ではない。どう考えても王族達が住まう宮殿、いわゆるレジデンツというものだった。


「申し遅れた。私の名はテオドール・フォン・ローエングラード、ローエングラード王国の王太子だ。先程は我が身を護ってくれた事、それに衛兵の命を救ってくれた事、誠に感謝申し上げる」

 レジデンツの中に入ると、少年――テオドールは紅達の方へ向き直り、優雅に礼をした。

「テオ!テオドール!!」

 奥の部屋から慌ただしい足音を立てて、一人の女性が姿を現した。上品なドレスに身を包み、金髪を隙なく纏め上げている。テオドールとよく似た顔立ちだが、その顔には疲労が色濃く浮かんでいた。既に城下町での一件を聞いているのだろう、テオドールに怪我がないか、その肩を掴みくまなく身体を見る。

「母上、大丈夫です。この者が救ってくれました」

 テオドールはアオイを王后へと紹介する。王后、アーデルハイトはアオイに深々と頭を下げた。アオイは片手を軽く上げて辞すると、アーデルハイトに問う。

「つかぬ事をお伺いしますが、王太子殿下は誰かにお命を狙われているのではないですか?」

 アーデルハイトの顔色がさっと変わる。テオドールも僅かに怯えた表情を浮かべた。アオイは布に包んでいた、先程衛兵から引き抜いた毒針を取り出す。

「この毒針には、簡単に調合出来る神経毒じゃない…もっと殺傷能力の高いものが塗られています。そしてこれは、王太子殿下のすぐ近くを狙っていました」

 アーデルハイトはアオイの差し出した毒針を見つめる。胸の前で強く握り締めていた手を、溜息と共に緩めた。

「…旅のお方、これも何かの成り行きだと思って、お話を聞いて下さいますか?」

 緩めた手とは反対に、アーデルハイトは表情を固く引き締めたまま言った。


-----


 五人は応接室に通された。豪華なソファにテオドールとアーデルハイト、向かい側にアオイを挟んで紅と卓が座り、そのすぐ後ろに蒼龍が腕を組み立つ。アンバーは手をトラウザーのポケットに突っ込んだまま手近な壁に寄りかかった。

 アーデルハイトは言葉を選びながら話し出す。


 テオドールの父親、つまりローエングラードの現国王であるフェリクスは数ヶ月前から病に臥せっており、政務への参加が減少している。このままでは政治に混乱をきたす恐れがあると判断し、王太子であるテオドールを即位させる事となった。しかしテオドールはまだ十三歳、成人に満たない歳である。

 そこで国王の弟、ヴィルヘルムに摂政に就くよう打診したところ、「それならばいっそ王弟を次期国王に」という声が挙がった。当然王后は拒否する。王家は王后派と王弟派で二分されてしまった。


「私達は数日前に、王城から国王が静養するこの宮殿へと移って参りました。その日から、テオドールの周囲で妙な事が起こるようになったのです。はじめは怪文書程度でしたが、一昨日には動物の死骸を置かれたり…」

 アーデルハイトは両腕で自らを抱き締め、身震いした。

「テオドールには常に民の暮らしを間近で見るよう、城下町を散策させておりました。こうなってしまった以上、屋敷から出す事は…」

「母上!」

 テオドールは抗議の声を上げた。

「私はいずれ王になる身です!そのような脅しに屈する訳にはいきません!」

 テオドールはソファから立ち上がると、アオイの手を取り、懇願する。

「旅のお方にお願いしたい!しばらく私の護衛をしてはくれまいか?勿論充分な礼は払う!」

「え?」

 アオイは困惑した表情で紅を見る。紅は出された茶菓子を頬張りながら、きょとんとした顔でアオイに視線を返した。

「よく分かんないけど、このままだとこの子殺されちゃうかもしれないんでしょ?じゃあ助けてあげようよ」

「君の単純な思考回路が羨ましくなるよ…」

 どこまでもお人好しが過ぎる。アオイは紅の言葉に苦笑した。

「決まりだな」

 面倒臭そうに話を聞いていたアンバーが壁から背を離し、仕方ない、と言った風にポケットから手を出した。

「それならそうと、一つ条件があるわ」

 卓が優雅に足を組み直し、テオドールに向かって指を一本突きつける。

「アタシ達、泊まる場所がないの。護衛の間、ここに住まわせてちょうだい。当然三食付きでね」


 こうして紅達は、ローエングラードで贅沢過ぎる「宿」を手に入れたのである。


-----


 翌日、テオドールはレジデンツで一日勉学に励むという事で、紅とアンバー、卓はレジデンツの警備に回り、蒼龍とアオイは襲撃現場を調べに街へ出た。

 アオイは現場に立ち、毒針が衛兵に刺さった瞬間の状況を思い出す。自分がテオドールを庇った際の角度、衛兵の立ち位置、そして自分の頭上をすり抜け、衛兵の首筋に刺さった毒針が飛んできた方向。

 そして――毒針そのもの。

 アオイはこの毒針に、見覚えがある。


「何か分かるのか」

 蒼龍が尋ねる。

「何となく、ね」

 アオイは蒼龍の方へ振り返ると、片眼鏡(モノクル)を押し上げてにっこりと笑った。

「毒針を放ったのはそこのアパルトマンの屋上。形跡が残ってるかもしれないから、僕が確認してくるよ。蒼龍はこの辺の住人に、昨日不審な人を見かけなかったか聞き込みをして貰えるかな?」

「分かった」

 蒼龍は頷くと、早速道行く人に聞き込みを開始する。

 アオイは蒼龍の後ろ姿を確認すると、アパルトマンの屋上へ向かった。


 屋上には、住民の洗濯物であろうシーツが、風に揺れて幾重にもはためいていた。シーツをすり抜けるように縁まで進み、毒針を放ったであろう場所を見る。予想通り――何の形跡もない。

 しかしアオイには、ここから毒針が放たれたという確信があった。


 襲撃者や暗殺者ならば、ここから狙う。

 ただし狙いは、テオドールではなく、衛兵の内の一人。

 今はまだテオドール自身を殺すつもりはない。あくまで牽制の範囲。


「そうでしょう?……ヴェルデ姉さん」

 アオイは振り返らずに言う。

 その声に応えるように、はためくシーツの間から、アオイとよく似た顔をした白銀髪の女が、音もなくその姿を現した。


-----


 ヴェルデと呼ばれた女は、高いヒールのブーツを履いているにも関わらず足音一つ立てずアオイに歩み寄ってきた。白銀色の緩くウェーブの掛かったボブヘアが、シーツと共に風に揺れる。

「久し振り。お互いまだ生きていたのね」

 ヴェルデは瞼に掛かった髪を掻き上げながら言った。薄いビリジアングリーンの瞳には、感慨の色など欠片も映っていない。アオイもヴェルデの方へ向き、同じような視線を返す。

 冷たい視線が交錯する。とても感動的な姉弟の再会とは言い難い。

「姉さんらしくないね。狙いを外すなんて」

「計算が少し狂ったのよ」

「嘘。最初から衛兵を狙ってたよね。牽制のつもり?」

 アオイの言葉に、ヴェルデの眉尻が不機嫌そうに僅かにぴくり、と上がった。アオイはそれを見逃さず、確信を得る。


 ヴェルデは――姉は、依頼とはいえ子供を殺す事に迷っている。

 弟だから分かる。姉が本気ならば、とっくに殺している。


 ヴェルデはすぐに表情を戻すと、淡々と言い放つ。

「どういうつもりか知らないけど、邪魔しないで」

「それは無理。僕は王太子に雇われるから」

「そう」

 アオイの返答をさして気にする様子もなく、ヴェルデは背を向ける。

「ならもう、容赦しない」

 一言言い捨てて、ヴェルデの身体は揺れるシーツの間に滑り込み――消えた。

 アオイはヴェルデの消えた方向を睨んだまま佇む。その瞳は冷たく昏く、いつもの穏やかさは消え去ったままだった。

挿絵(By みてみん)

ヴェルデ・グラスティア(画像はAI作成)


挿絵(By みてみん)

ローエングラード王家

左からテオドール、フェリクス、アーデルハイト、ヴィルヘルム(画像はAI作成)

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