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五人が次に訪れた国は、由緒正しき王家が統治する王国、ローエングラード。
城壁にぐるりと囲われた中は美観を守るように整然とした街並みが続き、至る所に偉人と思しき銅像が掲げられ、この国の栄華を物語る。街の中心に向かい小高い丘が形成され、その頂にはゴシック様式を基礎とした赤黒く重厚な城が、街全体を見渡すように鎮座していた。
久し振りの大きな城下町、五人の興味はやはり食に向く。手頃な食堂に入ると、早速メニューを覗き込む。
「肉食べたい!」
「肉ねえ…ブラートヴルストとヴァイスヴルストの盛り合わせ30皿は外せないわね。それとレバーケーゼ25皿、ザウアーブラーテン20皿お願いするわ」
「付け合わせにロートコール、それとアイントプフ、グラーシュを二十人前頼む」
「食後には紅茶と、アプフェルシュトゥルーデルとケーゼクーヘンを10個ずつお願いします」
「ヘレス、ヴァイスビア、それとドッペルポックあるだけ持って来てくれるか?」
いきなりとんでもない量を注文する五人に、店内に戦慄が走る。ウェイターが真っ青な顔をして厨房へ飛び込み、続いて調理器具の騒がしい音が響いてきた。
やがて、料理と酒がテーブルに所狭しと並べられる。
「このソーセージ美味しいね!」
「紅、肉だけではなく野菜も食べろ」
「この煮込み料理、療養食にもなりそう」
「何でも病人食にするのやめてちょうだい」
「なあ、酒もっと飲んでいい?」
みるみるうちに消えていく料理と酒。ウェイターや店主はもちろん、周囲の客も皆ドン引きで見守る。
「もしかして…」
客の一人である傭兵風の男が呟いた。
「あいつら、噂に聞く『食堂荒らし』か…?」
「俺も聞いた事ある…何でも、その店の一週間分の仕込みやら在庫を根こそぎ食べ尽くしていくんだろ?」
「赤い髪のよく食う嬢ちゃんが、やたらデカい男と銀髪のおぼこい顔した坊主、狼みたいな髪してチャラついた兄ちゃん、それに男だか女だか分からん美人連れてるってやつか?」
そこまで言い、五人を見る。赤髪の少女がひたすらソーセージを頬張り、大柄の男が料理を各人に取り分けながら自分も口へと運び、銀髪の少年が上品にフォークとナイフを使いながら食べ続け、チャラチャラした男が浴びるように酒を煽り、妙に美しく妙に迫力のある人物が少女に負けない勢いで料理を掻き込んでいた。
「……間違いなくあいつらじゃねえか」
「この店終わったな」
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軽く(?)腹拵えを済ませた五人は、各々背嚢を背負って石畳を歩いていく。
「困ったわねえ。まさか宿が悉く空いてないなんて」
卓が溜息を吐いた。どうやらローエングラードでは王家が傭兵を大量募集しているらしく、手頃な宿はどこも満室で断られてしまっているのだ。
「今夜も野営か」
「そうね……」
蒼龍の言葉に、卓はがっくり肩を落として頷くしかなかった。
「しかし、どうも落ち着かねえな」
周囲に目だけを配り、アンバーがぼそりと吐いた。先ほどの食堂でもそうだったが、明らかに旅の傭兵の姿が多く目に付く。
「王家からの依頼なら報酬も悪くないだろうしね。傭兵がたくさん集まって来てもおかしくはないよ」
アオイは人の多さに辟易した様子だった。
紅はそんな四人とは別に、初めて見る街並みに興味津々とばかりに周囲を見回していた。どうにも食欲ばかりが目立つ紅だが、訪れた場所の文化にもきちんと興味を持っているようだ。
忙しなくきょろきょろしながら歩く紅は、近くを歩く衛兵の一団に気付かずうっかり衝突してしまった。弾みでその場に尻餅を付く。
「何奴だ!」
衛兵に首根っこを掴まれ、紅はまるで猫のように引き上げられる。
「ごめんなさい…」
しょんぼりとする紅。
その腕を横から蒼龍が無言で掴んだ。衛兵は怪訝な顔を向け――みるみるうちに顔面一杯に冷や汗が噴き出す。掴まれた腕がみしり、と変な音を立てた。
「ロンロン待ちなさい!衛兵の腕が死ぬわよ!」
卓が慌てて蒼龍を引き剥がし、ついでに紅を保護する。
「怪しい奴らめ!ひっ捕えるぞ!」
衛兵は涙目で腕をさすりながら槍を向ける。五人はたちまち一団に取り囲まれてしまった。
「あまりにも短絡的な判断だね」
「沸点低過ぎんだろ」
「やかましいわ!!」
呆れたようにぼやくアオイとアンバーに、衛兵は顔を真っ赤にして叫んだ。
「待て!」
衛兵の後ろから、高い声が上がる。衛兵達は動きを止める。
衛兵の人垣の間を縫って、一人の少年が現れた。顔付きはきりりとしているものの、まだ成人前のあどけなさが残る。身なりは決して豪奢ではなく、むしろ敢えて目立たないように装っているが、使われている布地や施された刺繍の意匠から、高い身分である事が伺い知れる。
少年は衛兵に槍を下ろすよう手を挙げ、紅達の前に立つと、頭を下げた。
「そちらのご令嬢に対して無礼な真似を働いたのはこちら側だ。街がこのように人で溢れているが故、我が兵も神経質になっている。とはいえ許されぬ態度、大変申し訳ない」
「はへえ…」
歳に似合わぬ慇懃な態度と言葉遣いに、謝られた紅は思わずぽかんとしてしまう。
「旅人とお見受けする。今は少し騒がしい街だが、ゆるりと過ごされるが良い」
少年はそう告げると身を翻し、衛兵に合図を送ると再び歩き出した。
「随分ちゃんとしたコねえ」
後ろ姿を見送りながら、卓は感心したように腕を組む。
「嬢ちゃんより遥かにしっかりしてんな」
「どういう意味!?」
アンバーが揶揄うように紅を見やる。紅は頬を膨らませた。
瞬間、背筋を駆け抜けるような冷たい気配が疾る。
五人は同時に隙なく周囲に気を配り――いち早く何かに気付いたアオイが石畳を蹴る!神速の勢いそのままに、衛兵の一団に飛び込み少年を抱えて押し倒す!アオイの頭上を何かが掠め、一人の衛兵の首筋に刺さる!
「っあ…!」
衛兵は息を呑み、白目を剥いて倒れた!アオイは倒れた衛兵の首筋に刺さったものを素早く引き抜き、それを見て目を細める。そして腰に下げたバイアルから一本を選び取ると、迷う事なくその口に突っ込んだ。
「解毒剤。しばらく安静にしていればすぐ回復するから」
一瞬の出来事に動揺する衛兵達に対して、アオイは冷静に告げる。
「アオイ、大丈夫?」
一歩出遅れた紅達が駆け寄ってきた。アオイは立ち上がると、白衣に付いた砂埃を払う。
「僕は大丈夫。この衛兵も問題ないと思う。でも…」
そこまで言うと、石畳にしゃがみ込んだままの少年へと目を移した。少年は先程までの堂々とした態度とは打って変わって、真っ青な顔で震えている。
「まあ、只事じゃないよね」
アオイは左手に摘んだものを掲げて、肩をすくめた。その手には、妙にてらてらと光る細い針――毒針があった。




