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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第九話 予兆

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6

 蒼龍の水遁の勢いのまま、リヴァイアサンは運河を通り抜け一気に海まで押し流される!その後を五人は追いかけ、護岸へと辿り着いた。

「ここならもう暴れてもいいよね!」

 紅は腰に携えた刀の柄を握る。鯉口を切ると軽い金属音が鳴り、刀身が滑らかに姿を現す。空高く昇った月をその身に映し出し煌めいた。

「相手は神獣だ、本体を燃やしてしまうな」

「分かってる!」

 蒼龍に二つ返事で頷くと、紅はそのまま両手に刀を携え青眼に構える。既に全身から蒸気が立ち昇っていた。


 リヴァイアサンは濁った怒りの目を五人へと向けると、一際大きく咆哮した!その頭を大きく揺すると、紅へ向かって襲い掛かる!

「敕(チッ)!」

 割って入った蒼龍は、予め印を組んでいた水遁を解放する!海から勢いよく水柱が上がり、リヴァイアサンを四方向から包囲する!

「ちったあ大人しくしてろよ!」

 続いてアンバーが、水柱目掛けて魔弾を放つ!氷の力を秘めた弾丸が撃ち込まれ、水柱はあっという間に凍り付き氷柱と化す!

 更にアオイが氷柱にワイヤーを打ち込み、それを基点として幾重にも張り巡らせる!リヴァイアサンは縛り上げられ、身動きが取れなくなった。

 しかし、リヴァイアサンは海底に沈めていた尾を引き上げると、五人を打ち据えようと横薙ぎに振るってくる!

 そこへ一筋の炎が疾る!

「乱暴者はモテないわよ!」

 卓が炎を纏わせた小太刀を、リヴァイアサンの尾の先へ向けて投げつけた!尾は氷柱の一本に縫い留められ、リヴァイアサンは忌々しげに咆える!


 紅の炎が解放され、両手から柄、そして刀身へと炎の渦が巻き起こる!

 燃やすのは本体ではない――「何か」だけを燃やして取り払えばいい!

「はああっ!!」

 気合い一閃、紅の刀がリヴァイアサン目掛けて振り下ろされる!

 美しさと残酷さを併せ持った巨大な炎の刃が、リヴァイアサンを呑み込む!その躯ではなく、周囲に纏わりつく禍々しく穢れた気配を一気に焼き尽くした!


 炎が納まると、リヴァイアサンは憑き物が落ちたかのように大人しくなった。狂気に濁っていた金色の眼は光を取り戻し、穏やかに紅を見つめる。躯に纏わりついていた嫌な気配はすっかり消え去り、藍色の細かい鱗は美しく輝いている。

「落ち着いた?」

 紅が尋ねると、リヴァイアサンは喉を鳴らす。アオイがワイヤーの拘束を解くと、首を伸ばし紅に擦り寄ってきた。まるで「ありがとう」と言うように。

 そのまま身を翻すと、沖へ向かって泳ぎ出す。

「ちょっと、アタシの小太刀返しなさいよ!」

 卓が叫ぶと、尾の先に刺さった小太刀を、ぺっと吐き出すように振り投げて寄越した。慌てて掴む卓の滑稽さに、四人は思わず吹き出した。


 やがてリヴァイアサンは海へと潜り、水平線から姿を消す。代わりに、空と海面を緋色に染めながら太陽が顔を出した。

「綺麗だね」

 紅はその場に座り込み、朝日を眺める。その隣で、蒼龍も腰を下ろした。アオイは焼けてしまったワイヤーを丁寧に手繰って纏める。卓は地べたに横座りをして、海水を浴びてバサバサになった髪を手櫛で整えていた。

「ったく、人騒がせな神獣だったぜ」

 アンバーがどっかりとしゃがみ込んでぼやいた。


 五人の奮闘など知らず、ルチェンツィアはいつものように美しい朝を迎えようとしていた。


-----


「…では、神獣の乱心が元で地下水路の魔物達が暴れていたと?」

「ええ。元凶の神獣は既に海に帰したので、今後は大人しくなると思います」

 市庁舎の執務室にて、アオイが市長相手に報告をする。

 リヴァイアサンを海に帰した後、念の為事故が多発していた付近の地下水路を見回ると、面白いくらい魔物達の気配が消えていた。地下神殿に居座っていたリヴァイアサンが出て行ったので、安心して地下水路の奥深くへと身を潜めたのであろう。人間と魔物の暗黙の不可侵条約は、今後も継続出来そうである。


 報告を受けた市長は満足気に頷くと、報酬をテーブルに置く。アオイが中身を確認をし、続いて卓も確認をする。確かに交渉通りの額が入っていた。アンバーは大きく欠伸をし、紅と蒼龍は興味なさそうに茶菓子をひたすら頬張っている。

「貴方方の尽力で街は救われました。感謝いたします」

「いいえ、仕事ですから」

 深々と礼をする市長にアオイは礼を返すと、報酬を蒼龍に渡した。蒼龍が荷物の中に大事に仕舞い込むのを確認すると、すっと立ち上がる。

「もう出立されるのですかな?」

「ええ、仕事ですから」

 肯定系か否定系か、同じような台詞を返しアオイはにっこりと微笑むが、何故か動きは忙しない。卓が満面の笑みを浮かべながら、市長の頬を撫でる。

「アタシ達忙しいの♡またゆーっくり観光させて貰うわ。忘れた頃に」

「む…」

 市長は相変わらず卓の色気には弱いようだ。

 紅と蒼龍もソファから立ち上がると、さっと荷物を背負う。眠たげなアンバーも大きな背嚢を背負った。

「次来た時はちゃんと時効にしといてくれよ」

「何を?」

「何もかもだよ」

 謎の言葉に市長と秘書は首を傾げる。そんな二人を置いて、五人はそそくさと市庁舎を後にした。


-----


 五人は街を出発し、再び当てもない旅を続ける。

「あの子、海に戻れて喜んでるかな?」

「ああ、今頃海底で落ち着いて過ごしているだろう」

 小高い丘の上で紅が振り返り、遠くなった水平線の先を眺める。心なしか海も穏やかに見えた。

「折角の観光都市なのに、ゆっくり出来なかったのは残念よねえ」

「まあな。でも酒は美味かったし、懐かしの地下神殿も拝めたからオレは満足だぜ」

「報酬も良かったしね」

 五人は足を止める。眼下に広がるルチェンツィアは今日も麗しく、オーシャンブルーに囲まれた街は観光客で賑わう。何も変わらない、いつもの日常が始まっていた。

「何か家族旅行みたいで楽しかったなあ」

「こんなドタバタな家族旅行ある?」

 しみじみと呟く紅に、アオイが思わず突っ込む。五人は顔を見合わせると、ぶっと吹き出して笑った。


 同じ頃、市庁舎の執務室に衛兵が駆け込んで来る。

「市長……大変です!」

「どうした?」

「一昨年造った最新式の24番水門が破壊されています!!」

「……は?」

 ぽかんとする市長に追い討ちを掛けるように、他の衛兵が続々と飛び込んで来て、被害報告を行う。

「第2水路の河川敷及び護岸が大破しています!その先の湾内に巨大な氷柱があって…いやこれ絶対自然界的におかしいだろ!?」

「57番地下水路入り口が半壊!」

「地下水路の支流が悉くワイヤーで塞がれています!」

「通路の石畳に何か撃ち込まれて粉々に割れています!」

「57番と108番の交差地点で崩落あり!」

 横で冷静に聞いていた秘書がトドメを刺した。

「ざっと見積もったところ、補修費が街の予算三年分になりますね」

 市長は入り口の扉を見て、続いて窓の外を見る。当然、例の五人の姿はない。

「……あいつらあぁぁぁあ!!!」

 市長の絶叫が、ルチェンツィアの街に響き渡った。


-----


 ルチェンツィアを一望出来る断崖に、一人の影がある。水平線をじっと見つめている様子だが、その顔は、目深に被ったフードにすっぽりと隠され、表情を窺い知る事は出来ない。

 リヴァイアサンは深海に帰った。

 神獣はその自然界の頂点に立つ存在、一頭死ぬだけで生態系の均衡が崩れ、やがて滅びてしまう。リヴァイアサンが無事に帰還した今、自然界の循環も再び動き出す。海は穏やかに、寄せては引くを繰り返している。


 「何か」に侵されたリヴァイアサンが異常行動を起こし、ルチェンツィアの地下深くに潜り込む。そうなれば深海の生態系、そしてルチェンツィアの街はどうなるのか――ただ、それを見たかっただけ。

「でも、帰っちゃった」

 その人物は残念そうに呟く。その足元では、リヴァイアサンに纏わりついていたものと同じ、黒い「何か」が蠢いている。


「面白い事になるかと思ったが、あいつ等か……」

 独り言ちて、今度は遠い丘の先に消えていく五人の後ろ姿を見つめる。その中の一人、赤い羽織に身を包んだ少女に目を止めた。

「……いや、逆に面白いね」

 その人物――「刻喰い」は、フードの端から見え隠れする口元を笑みの形に歪める。


 「刻喰い」は足元の「何か」と共に、音もなく消えた。

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