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一方、アオイ、アンバー、卓の三人は、アンバーの案内で他の地下水路から二人と合流しようと試みていた。
「ここを右に曲がったら、多分あいつらが流された第13水路の支流に合流出来る」
「凄いね、この水路は地図に載ってない」
アオイが地図を畳みながら、感嘆の言葉を洩らす。アンバーは得意げに顎に手を添えた。
「百八十年前の記憶なんて、つい最近みてえなもんだ」
「おっさんの記憶力も大したものね」
「おっさんって言うな」
軽口を叩く卓に、アンバーはがっくりと肩を落としジト目を返した。
三人が進む地下水路も、魔物の気配がひっきりなしに漂っている。向かい側の角から突如、魔物が一体飛び出して来た。細い緑の身体に鳥のような嘴、妙な形の頭頂部。害意はあまりなさそうだ。
「河童じゃないの」
卓は特に珍しくもない、と言った様子だ。河童は何かを強請るように手を差し出して来る。アオイは訝しむ。
「これ、何のつもり?」
「多分通行料でも欲しいのよ」
アオイはギッと河童を睨みつける。仄かに暗殺者モードが混じった目付きに河童は恐怖を感じたのか、慌てて水の中に飛び込んだ。
「厚かましい事この上ない」
「アオちゃんって顔に似合わず怖いわよね…」
卓は隣に居たはずのアンバーに同意を求めるが、その姿がない。アンバーはふらふらと明後日の方向に歩き出していた。
「アンタどこ行くのよ」
卓の問いにも答えず、まるで酔っ払いの千鳥足のような足取りで進むアンバー。その先には、全身水色の妖艶な女性達の姿。残酷なまでに美しい声で歌っている。
「セイレーンか…」
アオイは呆れたように頭を抱えた。卓はアンバーの肩を掴んで引き留める。
「待ちなさいよ」
「うっせえなあ…あそこで綺麗な姉ちゃん方がオレを待ってて」
「目ぇ覚ましやがりなさいこのドアホ!!」
卓はどこから取り出したのか、巨大なハリセンでアンバーの頭をスパァン!と叩く!アンバーは叩かれた後頭部を押さえ、我に返る。
「痛ってえ!!何すんだよ!?」
「アンタ馬鹿なの!?綺麗な姉ちゃん方じゃなくてセイレーンよ!」
「え?」
アンバーはぽかんとした顔でセイレーン達を見る。セイレーン達はハリセン一本で自分達の術が解かれた事に動揺し、急いで水の中へと逃げていった。
「……マジかよ」
「ホント恥ずかしいヤツね。あんな古典的な魔物に引っ掛かるのアンタくらいよ」
「情けなくて涙出そう」
「やめて……」
呆れ返って蔑んでくる卓とアオイに、アンバーは心底恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
「…と、無駄な時間を過ごしてる場合じゃない。早く紅と蒼龍を探そう」
先へ進むアオイに対して二人は頷くと、更に地下水路の奥深くへと進んでいった。
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紅と蒼龍は、薄暗い地下水路をひたすら進む。相変わらず魔物の気配だらけだが、特に襲って来る気配はないようだ。
「魔物達、怯えてるのかな?」
「ああ」
周りを隙なく見回しながら呟く紅に、蒼龍は同意を返す。決して自分達に怯えているといった風ではない。何かもっと、大きな力に対してだ。その力は、地下水路の奥から仄かに漂って来ている事を、二人は敏感に感じ取っていた。
やがて二人はその先にある、広い空間に突き当たった。
重厚ながら美しい意匠が施された御影石の石柱が幾本も立ち並び、地下の空間を支えている。天井はアーチ型に整えられ、まるで宮殿のような壮麗さを湛えていた。広間の中央には八方面から大小様々な水路が集中し、絶えず水が流れ込み大きな泉を形成している。泉の底は深く暗く、果たして底があるのかさえ分からない。
そして、水路を挟みながら八面ある壁に並んで、竜のような蛇のような獣の石像が安置されている。各像共に、どことなく神聖な雰囲気が漂う。
「龍じゃないね…何の生き物?」
「恐らくこの地域の神獣だろう」
「神獣?」
「魔物に近い姿形だが異なる存在――その土地を護り慈しみ育てる、簡単に言うと守護神といったところだ。神獣が死ねばその土地の均衡は崩れ、災厄が訪れる」
「ふへえ…」
蒼龍の言葉を聞きながら、紅は八体の石像を感心したように見回した。
「おーい!」
呼び掛けられた方を向くと、先ほど自分達が出て来たものとは違う水路から、アオイを先頭にアンバーと卓が出て来た。
「紅ちゃん大丈夫だった!?怪我ない?」
卓が紅の肩に手を掛けて、隙なく無事を確認する。紅は笑った。
「大丈夫だよ!溺れて意識なくなったけど蒼龍が介抱してくれたから」
「ええっ!?」
アンバーと卓は色めき立ち、年甲斐もなくワイキャイし出す。アオイは若干片眉を吊り上げ、むすっとした顔になる。
「溺れて意識なくして介抱って、まさかお前!?」
「ロンロンやるじゃない!!」
ニヤニヤしながら身を乗り出してくる二人。
「腹を押して水を吐かせた」
「そっちかよ!!」
「アタシのトキメキ返しなさいよ!!」
さも当然といった蒼龍の、二人の期待とは程遠い行為に思わず盛大にずっこける。
「人命救助としてはなかなか現実的だね」
「アンタらには本当にロマンとかそういうものがなさすぎるわ!!」
アオイの冷静な分析に、卓の悲痛な叫びが地下中に響き渡った。
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アンバーは気を取り直し、周囲を見回す。彼にとっては見覚えのある場所だ。
「懐かしいな…地下神殿」
「ここが?」
アオイは同じように辺りを興味深く見渡す。アンバーは感慨深げに目を細めた。
「ああ。そこに一本、船ごと通れそうなでっけえ水路があるだろ?そいつは干潮の時だけ海まで通じてんだ。こんだけ広い空間だから、船ごと隠れるにはうってつけでよ。ここで仲間と酒盛りしたり女連れ込んだり色々ヤったわ」
「神聖な場でバチ当たりなヤツね」
過去を懐かしむにしてはあまりにも俗物過ぎる発言に、卓が心底呆れた声を出した。
「アンバー、この石像って何の生き物か分かる?」
紅が八方に安置されている石像を指差して尋ねる。
「そいつはこの辺に棲んでる神獣だ。普段は深海に居るから滅多に姿は現さねえし、海賊時代でも一度しか見た事ねえ。名前は確か――」
そこでアンバーは眉尻をぴくり、と跳ね上げて言葉を切る。他の四人も、並々ならぬ気配に周囲に隙なく気を配る。中央の泉の水面が微かに震えていた。
「……何?」
紅が呟く。
水面は徐々に盛り上がり、遂に溢れんばかりに激しく波打つ!蒼龍が咄嗟に紅と卓を背後に庇う。
「何かが来る!」
アオイが叫んだ瞬間、泉の中から水飛沫と共に巨大な生物がその姿を現した!
顔付きは竜そのものではあるが、本来なら角が付いているであろう場所には薄膜の張った鰭のようなものが幾重にも重なる。全てを射抜くような双眸は鈍い金色で、こちらをぎょろりと睨み付けている。口元からは、人間など簡単に噛み砕いてしまいそうな牙が覗いていた。頭から続く魚鱗のように細かな鱗は深海と同じ深い藍色をし、所々石灰質の固着生物が張り付く。躯は蛇のようにうねり、水面下のどこまで続いているのか、想像がつかない。
その姿は、神殿に祀られている八体の石像そのもの。
アンバーが目を剥き、驚愕した声で叫んだ!
「リヴァイアサン!!深海の神獣が何でこんなとこに居るんだよ!?」




