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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第八話 解放

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 しばらくして、前菜盛り合わせをはじめとしたスピードメニューが、ワインと共に運ばれて来た。既にテーブルは料理の乗った皿で溢れんばかりになる。久し振りのまとも(?)な食卓に、四人の目は輝く。

「さ、まずは食べましょ!いただきます!」

 卓の合図と合わせて「いただきます」を言うと、四人は早速料理を口へと運ぶ。

「美味しい!」

「美味いな」

「……確かに」

「当たりだな」

「でしょう?」

 四人の反応に、卓は満足気にワイングラスを傾ける。

 その勢いは早くも止まらない。続けて料理がテーブルに到着するや否や、五人は即座に口に放り込み、その美味しさに舌鼓を打った。


 食事の合間に、自然と会話が挟まる。話を振ったりしてその場を回すのはもちろん、卓だ。

「ロンロン、何か趣味ないの?」

「ない」

「作りなさいよ!アオちゃんは?」

「僕は薬草集めかな」

「趣味が実益を兼ねてるタイプね。アンバー、アンタは趣味どころか、色々器用そうね?」

「これまで八回も転生繰り返してりゃ、大概の事は出来るようになる」

「そうよねえ。それに対して、紅ちゃんは緋夕に居た時から不器用よねえ」

「失礼な!私だって出来る事あるもん!料理とか」

「あれを料理とは言わねえ」

「食材をとことん辱めるのは得意だよね」

「人には得手不得手がある」

「みんな酷い!」

 他愛もない話に、笑い声が店内に響く。誰もヴァルムラや藍白(あいじろ)、「刻喰い」の話をしない。ただ、美味しい料理を食べながら笑っている。


「紅ちゃんはそんなトコも含めて可愛いからいいのよ。こんだけ可愛いんだから、護りたくなるのは人間の性よね」

 蒼龍はぴくり、と眉を動かす。卓はさりげなく蒼龍に視線を送りながら、紅に話を振る。

「紅ちゃんは誰かに護られてばかりだと、正直どう思う?」

「うーん…私に優しくしてくれるのは嬉しいけど、その人が私のせいで怪我しちゃったらやっぱり悲しいかな」

「そうよねえ。紅ちゃんは強いし、護り護られっていう方が心地良いんじゃないかしら」

「うん、その方がいい!」

 卓はガレットを頬張る紅の頭を撫でる。

「誰かを護りたいなら、自分の身もちゃんと護り、護られなきゃね。自己犠牲なんて自分も周りも不幸になるだけだし、自分を粗末にするヤツに、相手の気持ちを大事にする事は出来ないわ」

 卓の言葉に、蒼龍は思わず視線を皿に落とした。


 「刻喰い」との戦いやアブサンでの暗殺者の襲撃など、紅を庇い怪我をした自分に対して、いつも泣きそうな顔を返された。鱗の件だってそうだ。三人とも必死で止めてきた。命に関わるものではないし心配し過ぎだ、と思っていたが、そういう事ではなかったのだ。

 相手を大事に想う事、それは自分自身も大事にしてからこそ、成り立つ想い。


「…以後、出来るだけ気を付ける」

 蒼龍は軽く息を吐き、呟いた。


-----


「ところで紅ちゃん、この旅でやりたい事とかってあるのかしら?」

 既に提供された12本全てを飲み尽くし、新たに追加した赤ワインをグラスに注ぎながら卓が紅に尋ねた。紅はエスカルゴに夢中だ。ひたすらほじくり返し、口へ放り込んでいる。

「うーん、色んなところを巡り歩いて、美味しいものたくさん食べる事かな。カタツムリって初めて食べるけど美味しいね!」

「カタツムリって言うな」

 一緒になってエスカルゴを食べていたアンバーが、ジト目で紅を睨んだ。卓はその様子を笑顔で見る。


「大なり小なり、この先の未来を楽しみにしながら生きる、というのは良い事よね」

 アンバーがエスカルゴをほじくり返す手を、ぴたり、と止めた。卓はその様子に気付かないふりをしながら、困ったように頬に手を当てた。

「よく居るのよねえ、昔話ばかりするおっさん。面白い話聞けたらいいんだけど、大抵『昔は良かった』って類の話で、こっちまでクサクサした気分になっちゃうのよ」

「でも、私は自分の記憶がないから、昔話出来るのは羨ましいけどなあ」

 首を傾げる紅に、卓は微笑みかける。

「何も悪いって言ってる訳じゃないのよ。むしろ過去を素敵な思い出として語れるのは良い事だと思うの。でもね、これから自分はどう生きていくか、未来をしっかり見ているからこそ、過去は綺麗なものになる。過去も未来もどちらも大事、過去に囚われてばかりではダメよ」

 諭すような卓に、アンバーは口元に手を当てて微かに唸った。


 八度の人生で、数多くのものを失ってきた。どれも心から大切だったからこそ、心に刻まれ、とても忘れる事など出来ない。

 だが、自分はずっと後ろばかり見てきたのではないだろうか。未来を向いて生きていけているだろうか。過去を、「前を向いて精一杯生きていく」意味を持たないようにする、言い訳にしていないだろうか。


「…耳が痛えな」

 アンバーは自重気味にぼそり、と言った。


-----


 まるでフードファイターのような食事も無事佳境を迎え、残すはデザートと食後のお茶のみ。むしろここからは甘党のアオイの本領が発揮される。前もって頼んでいたタルトタタンが到着するや否や、控えめながら目を輝かせ、ホールから小さく切り分けて食べていく。まるで小動物のようだ。

「アオイ、本当に甘いもの好きだね」

「うん、あんまり知られたくないんだけど」

「あらあ、可愛くて良いと思うわよお?」

「そう言われるのが嫌」

 卓に満面の笑みで言われ、恥ずかしそうに頬を染めてむくれるアオイ。


「ま、誰にも知られたくない秘密の一つや二つはあるわよね」

「そうなの?」

 卓の言葉に、紅は首を傾げた。アオイの、タルトタタンを切り分ける手が一瞬止まる。卓はその手をちらりと見て、言葉を続けた。

「人間誰にでもあるのよ、墓場まで持って行きたい話って。言いたくないならそのまんま黙ってればいいし、言いたくなったら言えばいいと思うわ。紅ちゃんだって、人が嫌がる秘密を無理に聞き出したいなんて思わないでしょ?」

「それはもちろん!だって好きな人に嫌な思いさせたくないし、知らない事あっても好きな事には変わりないし」

「そうよねえ。仲間とか家族とか、愛情で成り立つ関係ってそういうものよね。私と紅ちゃんだって、身内って言ってもお互い知らない事だらけよね」

「確かに!」

 紅と卓のあっけらかんとした考えに、アオイは瞠目した。


 誰にも打ち明けられない、後ろ暗い自分の正体。言えば幻滅させるどころか、嫌われてしまう。共に過ごす時間が長くなるほど、この心地良い関係に終止符が打たれる事が怖くなってきている。

 しかし、本当の愛情とは、知ってる事も知らない事も全てを受け入れるものだと、二人は言う。まだ、自分がよく理解出来ていない、不思議なもの。


「…そういうものなのかな」

 アオイは静かにぽつり、と呟いた。


 卓はその様子に微笑むと、ワイングラスに残ったワインを煽った。

「元気がなかったり悩みがあったりする時は、好きな人と一緒に美味しいモン目一杯食べて、くだらない話してたくさん笑えばいいのよ。難しい事考えるのはその後。案外、それで何とかなるものよ」

「なるほど!」

「経験談か」

「随分適当だな」

「でも…そうかもね」

 卓の言葉に、四人はそれぞれ顔を綻ばせた。


-----


「それにしても…せっかく楽しい食事の時間なのに、あっという間に料理が終わっちゃったわねえ」

 卓が名残り惜しそうに、ワイングラスをくるくる回しながら溜息を付いた。

「うーん、もう少し食べたいかも…」

「確かに腹には余裕がある」

「僕、他の甘いのも食べてみたい」

「オレはもっと酒が飲みたい」

 紅がお腹をさすりながら仄めかすと、男三人も同意する。

「そうこなくっちゃ!せっかくだし、もう一巡しましょう!」

 卓はぽん、と手を叩き、満面の笑みを浮かべた。


 再び食事を囲んで、世間話で盛り上がり、笑い合う。そこにはほんの少し前まで漂っていた、重苦しい空気は欠片もない。誰も無理に苦しみを吐き出すような事はしない。

「それでいいのよ」

 卓はワイングラスを傾けながら、誰にも聞こえない声で小さく呟く。その口元には笑み。

「傷付いたなら少しずつ…みんなでゆっくり癒していけばいいのよ」


 その頃、一難去っていた厨房は再び大混乱に陥っていた。

「一週間分の仕込みがなくなるぞ!!」

「ワインの在庫が尽きるぞ!!」

「明日から店開けられなくなるぞ!!」

「誰だよ化け物連れて来たの!!?」

 卓が来店した時から嫌な予感はしていた。毎回一人で十人前を平らげ、ありったけのワインを空にしていくあの男の二つ名は「金色(こんじき)の悪魔」。しかし今回はそれ以上、もはや災害である。

 「黒猪亭(くろいのてい)」始まって以来の危機に、オーナーは半泣きで呟く。

「…もうあの人、出禁にしよ……」

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