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「うーん……」
宿の食堂で山のような朝食を目の前にして、紅はフォークにポテトを刺したまま何やら考え込んでいた。珍しく食が進んでいない、といえど、二人前は既に綺麗に平らげている。
「どうした?元気ねえな」
アンバーが怪訝な顔で覗き込んでくる。アオイも心配そうに顔色を窺う。
「また食べ過ぎ?」
「ううん、そうじゃなくて…何か引っ掛かるんだよね」
「氷居人の娘か」
蒼龍が原因を口にすると、紅は頷く。
「認めて貰うって、そんなに大事なのかなあ。だって仲間だったり家族だったり、そもそもお互いが好きだからこそ成り立ってる訳で、それだけでも一緒に過ごせていけるんじゃないの?」
紅の言葉に、アオイの表情が固まった。アンバーも少しだけ目を細める。
蒼龍だけは、当然のように同意した。
「俺もそう思う。互いに愛情を持っていればこその関係だからな」
「でしょ?健全じゃないよね、認められないとダメって」
紅は思い悩むように、ポテトを刺したままのフォークをくるくると回した。
すると、アンバーがおもむろに口を開いた。
「まあ、世の中そう単純にはいかねえよ」
続けてアオイもぽつり、と口にする。
「誰かに認められたいっていう気持ちは、普通だと思う。僕も……」
言いかけてアオイは、言葉を切った。その表情は少し曇っている。紅は首を傾げた。
その時、にわかに宿の外が騒がしくなり、住民の悲鳴と怒号が聞こえた!同時に、まるで何かから逃げているような足音が響き渡る!
宿の外を掃除していた宿の主人が、息も切れ切れに部屋の中へ飛び込んで来た。
「大変だ…氷居人が暴れ出した!!」
四人は一斉に顔を上げ、窓を見る。瞬間、窓ガラスがびしり、と音を立てて凍り付いた!
凍り付いて視界がぼやける窓ガラスに、ぼんやりと映る細く華奢なシルエット。
「藍白!?」
紅は傍に立て掛けていた刀を握ると、一目散に宿の外へ飛び出した!
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街は至るところを氷にすっかり覆われ、真っ白に変貌していた。
通りの中心には、藍白――一歩踏み出す度に猛烈な冷気が巻き起こり、辺りは白く凍り付いていく。住人は逃げ惑い、警備隊は恐怖に顔を歪ませながら、何とか彼女を止めようと奮闘する。
「止まれ!止まってくれ!!」
槍の先には、青白い顔の藍白の姿。一段と昏い目で警備兵を睨み付けると、躊躇なくその槍の刃先を握る!藍白の籠手が妖しく光り、白魚のような手から血が滴る代わりに氷が生み出される。その氷は鋭い音を立てながら、槍を一気に包み込んだ!
「ひぃっ!」
堪らず、警備兵は槍から手を離す。藍白はすっかり凍った槍を地面に叩き付けた!槍は氷と同じように、呆気なく砕け散った。
藍白の手元で淡い光を放つ籠手を見て、アンバーの顔色がさっと変わる。
「まずい!あの籠手…魔装具か!?」
その昔、自らも開発に関わったからこそ分かる。魔弾と同じ構造をしているが、比べ物にならないくらい危険で禍々しい、二度と造り出してはならないもの。
アンバーの言葉に、アオイが目を見開く。
「魔装具って…!禁術じゃないの!?どうして今ここに!?」
「今そんな話してる場合じゃねえ!このままじゃあの嬢ちゃん、死ぬぞ!!」
「そんな!」
紅は藍白を見る。藍白は真っ白な息を吐き出しつつ、周囲に氷を放ち続ける。その腕は白く凍て付き、まるで命を吸い取るように籠手から霜が這い上がり、その身体を侵食しようとしている。
紅は炎の力で藍白を止めようと、刀の柄に手を掛け鯉口を切る。既に身体からは蒸気が立ち上りつつあった。今にも飛び出しそうな紅の肩を、蒼龍が掴んで止める。
「待て」
「何で!?」
「『能力者』に怯える者達の前に、新たな『能力者』が現れたら街中大混乱になる。炎帯人の力を使うのなら要塞の外だ」
「僕らで彼女を撹乱するから、隙を見て連れ出して!」
蒼龍の言葉に続き、アオイは背中からワイヤーを引っ張り出しながら紅に言う。アンバーは警備兵に住民共々建物の中に避難するように指示すると、腰から銃を抜き、弾丸を装填する。
「オレらは街壊さない程度に暴れるぞ!嬢ちゃんは外に出るまで我慢しとけ!」
「…分かった!」
紅は頷くと刀を一旦納め、藍白を見た。
藍白の顔はまるで雪のように真っ白で、苦しみと悲しみに満ちていた。既に紫色になった唇は、白い息と共に微かに何かを呟いている。
「…私を認めて……私を愛して……!!」
「藍白…!」
孤独な藍白の嘆声に心が締め付けられ、紅は拳をぎゅっと握り締めた。
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住民達が建物内に避難したのを目視で確認すると、アオイは無数のワイヤーを周囲に放つ!ワイヤーは建物や地面を覆う氷に張り付いていく。その先を纏めて一気に引くと、強靭な氷に薄らと亀裂が入っていった!
「氷は真っ向から砕くのは大変だけど、横からの力――剪断力を加えれば簡単に傷つけられる。一度ひびが入れば後は簡単だよね」
「言ってくれるじゃねえか!確かにヒビさえありゃ一発だ!」
アオイに応えるように、アンバーは両手に銃を構えると、氷に入った亀裂を的確に狙い撃っていった!弾頭はダイヤモンド、最硬質の物理弾が次々と食い込んでいく!魔石によって増幅された衝撃に、氷は呆気なく砕け散った!氷片が周囲に舞い散る。
「…!?」
自ら生み出した氷を破壊され、動揺する藍白。
「下拵えは終わったぞ!」
アンバーの掛け声に、追い討ちをかけるべく、蒼龍が符を取り出す!
「敕!」
気合いと共に符から生み出されたのは火遁――しかし火種ではなくて、木遁と組み合わせた強烈な熱風だった!熱風に巻き込まれた細かな氷片は一気に白い煙のような蒸気となり、藍白に襲い掛かる!
「熱っ…!!」
藍白は氷を生み出すのを忘れ、思わずその場に蹲る。
その瞬間、横合いから飛び出して来た紅が藍白の手首を掴み、要塞の外へ向かって走り出した!藍白は訳も分からず、されるがままに引っ張られる。
熱気と冷気が混じり合う蒸気の中、二人の少女が勢いよく駆けていった!
要塞の門を一気に駆け抜け、外に出たところでようやく手首を離される。掴まれていたところが燃えるように熱い。
「……どうして」
混乱する藍白に、紅は少し困ったような、それでもどこか安心させるような笑顔を向けた。
「街の中じゃ危ないでしょ?暴れるならここで、思いっきり暴れよう」




