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成り行きで食事を共にする四人は、藍白からするととても奇妙な関係に見えた。
紅はトゥルトの一切れをアンバーから奪い取り、齧り付く。アンバーはジト目で「どんだけ食うんだよ」とぼやく。蒼龍は呆れた顔をしながら相変わらず骨付きハムを切り分け、アオイはマイペースにそれを食べる。その間、四人の間で会話が途切れる事はない。
家族でもないのに一緒に過ごし、お互い良い所はもちろん、駄目な所も気にせず笑い合っている。
「…どうして、あなた達はそんなに笑って一緒に過ごせているの?」
藍白はふと疑問を口にする。紅はきょとんとした顔で藍白を見ると、当たり前のように答えた。
「好きだからだよ」
「え?」
「ただ好きだから一緒に居るの。他に理由があるかな?」
紅の言葉は、自分の考えているものとは正反対だった。藍白は空っぽになった皿にフォークとナイフを寄せるように置き、目を伏せる。
「私は…強い力を持たない者は誰も一緒に居てくれないと思ってる。
もっと力を使って、もっと強くなって、もっともっと役目を果たしていく……そうすればこの街のみんなも、父様も母様も兄様も、一族のみんなも、私の事を認めて、一緒に居てくれるようになるから」
藍白は冷たく、硬い声で言った。紅は首を傾げる。
「認められたら、誰かが一緒に居てくれるの?自分がみんなの事を好きだから一緒に居る、じゃないの?」
藍白は瞠目し、顔には戸惑いの色が浮かぶ。
「好きだから…?力を持ち、役目を果たした者だけが認められて、愛を受け取れるものじゃないの?」
相反する意見と共に、炎の色と氷の色、互いの視線がぶつかる。
二人の間に、相容れない深い溝が出来ていく。
先に視線を逸らしたのは、藍白。
「…炎帯人の考える事は分からないわ」
テーブルに自分の食事代を置くと、藍白は立ち上がり、店を出て行った。
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魔道具の街灯が仄かに照らす中、藍白は護衛の契約を交わした際に街側が用意したアパルトマンに向かって足早に歩いていた。
その顔は、酒場で一瞬見せた笑顔とは打って変わって、焦燥感に駆られている。
「楽しいと思ったら笑えばいいし、悲しいと思ったら泣けばいい」
「ただ好きだから一緒に居る」
「……分からない」
北国といえどまだ温かさの残る夜なのに、藍白は白い息を吐いた。
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氷居人は外界との接触を持たない。家系は氷室家のみで、一度家を出た者は二度と戻る事を許されない。徹底した直系主義ゆえ、世間からは完全に隔離されている。
氷室藍白は、その様な孤独な一族の中で居場所が持てなかった存在である。生まれつき氷を生み出す能力が弱く、せいぜい霧を生み出すだけ。痩せっぽちで非力。戦いの基礎となる徒手空拳ですらまともに扱えない。
それでも藍白は、必死に足掻いた。
毎朝冷たい水で禊をし、体温を冷たく保つ。痩せているから人よりも多く食べる。もはや誰も組み手をしてくれなくとも、徒手空拳の型の鍛錬を欠かさず行う。
そして、感情を押し殺し、冷静沈着を装う。どんなに結果が出なくても動揺する事なく、ひたすら耐え忍ぶ。
全ては一族に認められる為に、一緒に居て貰う為に、そして、愛して貰う為に。
でも、父も母も、兄も、誰も、自分を見てくれない。力なき者に、氷室家はどこまでも冷淡だった。
そして、当主が父に話しているのを偶然聞いてしまう。
「藍白を嫁に出す」
それは市井の人間として、氷室家を出て行き、能力を封印して生きていけ、という宣告。
自分は氷居人ではない、一族に認められなかった――愛されなかったという、残酷な烙印。
藍白はふらふらと、屋敷の外へ出る。霧に包まれた外界は一寸先も見えない。
「…あはは……」
乾いた笑いと共に、涙が溢れる。押し殺していた感情が止まらない。
どんなに頑張っても、自分を認めてくれる人などいない。居場所なんてない。
どこまでもどこまでも、独りぼっちだ。
霧の中泣きながら独り佇む藍白の横に、いつの間にか一人の人物が寄り添うように並んでいた。フードを目深に被り、顔は隠れている。むしろ、そもそもそんな人物が本当に「居た」のかさえ、今となってはもう分からない。
「可哀想に」
その人物は、藍白に何かを渡しながら、男とも女とも付かない声色で藍白に囁く。
「認めてくれないなら、力づくで認めさせればいい。
これを使って自分の力を世の中に示せば、やがてみんながあなたを認めてくれる――愛してくれる」
藍白は涙に濡れた手で、それを受け取る。
受け取ったのは、水宝玉をあしらった巨大な籠手。
藍白は迷わず籠手を装着する。瞬間、身体中の血液が凍り付くような感覚に襲われるが、逆に力が漲ってくるようで、心地良い。
「そう……愛なんて、自分の力で奪い取ればいい」
藍白の目に、昏い光が宿った。
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謎の人物から受け取った籠手のお陰で、藍白はいとも簡単に氷を生み出す力を手に入れた。その力は氷室家の当主をも凌ぎ、藍白は妙な籠手を咎める当主を氷漬けにすると、そのまま行方を晦ませた。
流れに流れ、藍白はヴァルムラへと辿り着いた。フェンリルの襲撃に疲れ果てていた街に護衛として雇って貰い、氷居人としての能力を発揮し、ひたすら街を護った。
はじめは感激していた住民達も、その異様な力に怯え始める。次第に距離が開き、今では誰も近寄って来ない。いつの間にか「化け物」という言葉さえ聞こえるようになっていた。
強くなれば独りじゃなくなると思っていたのに、結局、力を誇示しても誰も居てくれない――愛してくれない。
孤独なのはどこへ行っても、何をしても、変わらなかった。
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藍白はアパルトマンの自室で目を覚ます。昨日はどうやら着替えもそこそこに眠ってしまったらしい。お陰で嫌な記憶を思い出してしまった。
酷く怠い身体を起こし、居住まいを正し、机に置いていた籠手を装着する。そのまま朝食を取る為、部屋を出た。柔らかな朝日が照らして来る。藍白は鬱陶しさを感じつつ視線を伏せ、食堂へ向かって歩いた。
行き交う人々は、藍白に恐怖の混ざった畏敬の視線を送る。
一人の子供が、藍白の目の前で何かに躓き倒れる。膝から血を流し、涙目だ。
「大丈夫?」
藍白は咄嗟にしゃがみ込み、子供を抱き起そうと手を差し伸べる。
すると、母親が横から飛び出して来て、藍白を拒絶するように子供を抱きかかえた。
「触らないで!うちの子を凍らせないで……化け物!!」
藍白の中で、何かが壊れる音がした。
「どうして……!」
藍白は小さく、悲痛の叫びを上げる。
瞬間、藍白の籠手にあしらわれた水宝玉が妖しく輝き、藍白を中心に絶対零度のブリザードが巻き起こった!




