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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第六話 記憶

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 アンバーが一行に加わってから早一ヶ月半、四人は街から街へと旅を続けていた。行く先々で魔物退治をはじめ、盗賊討伐、遺失物の捜索、近所の噂話の伏線回収など、様々な依頼を引き受け、時にあっさり、時に盛大にやらかしながら解決する。

 大小問わず困っている人がいたら手を貸して、その人の生活を少しだけ良くしていく。それが四人の、当てもない旅の日常だった。


 国境いの林道を歩いているうちに日が暮れたので、今夜は道沿いの適当な場所を見繕い野営する事になった。

「出来た!」

 焚き火から少し離れたところで、小さな丸眼鏡を掛け何やら作業するアンバーの元に、紅が自信たっぷりに何かを持って来た。アンバーは眼鏡を額まで上げ、それを見て訝しむ。

「なんだこれ」

「肉!」

 紅が「肉」と称したものは、皿に乗った黒い塊。表面は完全に炭化しているが内側は完全に生だろう、皿の底に真っ赤な肉汁が溜まっている。一体どのように焼いたらこうなるのだろうか。

 しかし、紅の料理音痴は今に始まった話ではない。これまでの野営で多くの食材が犠牲になり、焦がして駄目にした鍋は数知れず。火力調整については蒼龍に習っているようだが、とにかく「焼けば何とかなる」と思っている時点でセンスは壊滅的だ。

 横で薬草の整理をしていたアオイが呆れた声で言った。

「相変わらず食べ物への冒涜だね」

「酷い!」

 紅の抗議の声を無視し、蒼龍が横から皿ごと黒塊を取り上げる。謎の物体と化した肉を見て、眉間に手を当てて溜息を吐いた。

「外側を軽く炙れ、と言ったはずだったが…内側はまだ使えるな」

 そう言って、焚き火へと戻って行った。アンバーは不満げな表情の紅の肩を慰めるように、ぽん、と叩く。

「人には向き不向きってのがあるからな」

「むうぅ…」

 紅は納得いかない様子だった。


 アンバーは再び眼鏡を掛けると、自分の作業に戻る。

 まずは雷管に特殊な刻印を施していく。それを真鍮製の薬莢に取り付けると、薬莢の中に粉末状に削り出した魔石を詰める。先端に付ける弾頭は、魔石の力が最も効率よく流れ込むよう、特殊な形状に研磨した宝飾用の石だ。ダイヤモンド、ガーデンクォーツ、ファイヤーオパール、ラリマー……それぞれ薬莢に圧入し、固定器で口元をかしめる。アンバーの目の前に、まるで装飾品のように美しい弾丸が次々と並んだ。

「綺麗だね」

 紅はその中の一つ、ファイヤーオパールの弾丸を手に取って眺める。緋色の弾頭の中では、まるで炎のような虹色の光が揺らめく。

「お、嬢ちゃんはやっぱその弾が気になるか。そいつは火炎系の魔弾だ。性質的に炎帯人(ほのおびと)と似てるからな」

 アオイは薬草を束ねる手を止める。飛空艇で見て以来、気になっていたものの何となく有耶無耶にしてきてしまった疑問を口にした。

「魔弾って今はもう作れる人がいないどころか、作り方すら残っていないはずだけど」

「ああ、禁術扱いになって歴史から消されてるからだろ?」

 アンバーはにやり、と笑った。

「オレの頭ん中には鋳造方法(レシピ)が残ってる。何せ二百年前に魔弾を開発したのは、オレ自身だからな」

「え?」

「アンバー、二百歳のおじいちゃんなの?」

 あり得ない話に、アオイは絶句し、紅は首を傾げる。そのタイミングで、「飯が出来た」と蒼龍が三人を呼ぶ。アンバーは眼鏡を外し手早く道具を片付けると、立ち上がった。

「ほらメシだってよ。話長くなるかもしんねえから、食いながらにしようぜ」


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 四人は、蒼龍が黒塊から見事に転生させた醤牛肉(ジャンクウロウ)をはじめとした野営食を囲む。「いただきます」という挨拶と共に、すごい勢いでなくなっていく料理。


 その間、アンバーは自分が五百年前に「刻喰い」という存在によって「時渡り」にされた事、転生を繰り返して今は九回目の人生を送っている事、今までの人生全ての記憶を持っておりその量はおよそ二百年分に渡る事を、別に大した事ないといった様子で淡々と語った。

「どの人生も二十歳(はたち)か三十歳(みそじ)そこらで、最期は周りの奴らを盛大に巻き込んで終わっちまうんだ。正直この前の飛空艇の時は焦った。九回目の人生はこういう終わり方かよ、ってな」

 アンバーは醬牛肉を頬張りながら言った。アオイは相変わらず呆気に取られた顔で話を聞いている。

「お前はそんなに驚かねえのな」

 蒼龍を見てアンバーは言う。蒼龍におかわりを要求するように、皿を差し出した。

「驚いてはいるが、俺の師匠は御年三百歳の仙人だし、龍人は一千年生きると言われている。エルフやドワーフなど、長命な種族は他にもいる。別に不思議な話ではない。

 お前がアンバーだという事に何ら変わりはないだろう」

 蒼龍は皿を受け取り醬牛肉を入れ、アンバーに返す。

「しかし九回か。よく正気を保っているな」

「…まあな」

 蒼龍の最大限の敬意を汲み取り、アンバーは少し照れた様子で皿を受け取った。

 驚きのあまりしばし黙っていたアオイが口を開く。

「九回転生してるのはまあいいとして、僕はその脅威的な記憶力がびっくりだよ…人生八回分の記憶?二百年前の魔弾の作り方?頭の中どうなってるの?」

「お前の驚きポイントも大概ズレてんな」

 アンバーは呆れてアオイを見る。アオイの目にはもはや知的好奇心の色しか映っていなかった。


 紅は蒼龍からおかわりを受け取り、アンバーに尋ねる。

「九回目って事は、それだけ別れて来た人がたくさん居るって事だよね?寂しくなかった?」

 アンバーは僅かに表情を曇らせると、目を伏せた。

「ん…家族も仲間も、恋人も、全部その時代で失って、記憶だけ残したまま一人ぼっちでここまで来ちまった。寂しくねえと言えば嘘になるな」

 過去八回の人生の中で出会い、共に過ごした人々。目を閉じると今でも全員の顔が思い出せる。自分だけが生き続け、もう二度と会う事は出来ない。


「そっか。でも今この瞬間は、私達が居るから寂しくないね!」

 アンバーは目を大きく開き、紅を見る。紅は口元に醬牛肉の汁を付けたまま、屈託なく笑っていた。過去など全く振り返る事のない、今という現実だけを考えた、心に刺さる言葉。

「……ああ、そうだな。確かに今は一人じゃねえな」

 アンバーは開いていた目を、すっと穏やかに細めた。


 三人共、自分が九回転生している事など大して気にしていないらしい。それよりも、今ここに存在している自分だけを見てくれている。

 アンバーは思わずくつくつと喉を鳴らして笑い出す。

「お前ら、やっぱ変な奴らだわ」

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