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機関室へは厨房のコンロ、暖房器具などの熱源になりそうな魔道具が続々と運び込まれた。砕けた魔石も可能な限りかき集める。
「熱源になりそうなもんはこれだけか!?」
機関士達と共に魔道具を急いで解体し、中の魔石を取り出しながらアンバーが叫ぶ!
「これ以上はねえっス!!」
ビリーの言葉にアンバーは舌打ちをすると、ありったけの魔石を壊れた魔石炉にブチ込む!アオイが白衣の内側から薬瓶を取り出すと、中の液体をぶっ掛けた!
「火気厳禁の劇薬!燃焼材料になると思う!」
「助かる!」
アンバーは胸元から弾丸を一つ取り出す。その弾頭は異質――まるで宝石のように美しくきらきらと輝いている。
「頼むぜ…!」
アンバーは魔石の一つに弾丸をあてがうと、機関士から借りた釘とハンマーを使い雷管を打ち抜く!弾頭から真っ赤な炎が上がり、劇薬を伝って魔石を一気に包み込んだ!
「いけるか!?」
「…ダメだ!蒸気が出ねえ!!」
機関長のおっさんが叫ぶ。アオイが空賊共に指示を飛ばす!
「木材でも何でもいい!燃やせる物をもっと持って来て!」
空賊共が船内に散ろうとしたその時、船体を支える龍の力が限界を迎えて来たのか、ガクン、と縦に揺れる!衝撃で全員が床に転がる!
「お頭ぁ!!龍の兄ちゃんが潰れちゃうっス!!」
でんぐり返しの状態でビリーが泣き叫んだ!
そこへ空賊共を掻き分けて、紅が魔石炉までやって来る。
「魔石はこれで全部!?」
「ああ!魔石もだが、火力が全然足りねえ!」
アンバーが憔悴しきった顔で叫ぶ。紅は炉の中を覗き込んで、魔石の数や大きさを確認する。
「みんな少しだけ離れてて!」
紅は抜刀すると、青眼に構えた状態で魔石炉の中に刀を突っ込んだ!
「嬢ちゃん、何のつもりだ!?魔石炉をぶった斬んのか!?」
焦るアンバーの肩を制止するようにアオイが掴み、紅に向かって声を掛ける。
「紅、火力には気を付けて!間違えたら大爆発だよ!」
アオイに向かって頷く紅。
目を閉じ息を整える。紅の全身から蒸気が沸き起こった。
「は……?」
アンバー含め、空賊共は絶句してその光景を見守る。
(全力は駄目。植物を育てるように、火を育てる…!)
蒼龍に言われた言葉を反芻しながら、紅は額に汗を浮かべ、刀を握る両手に力を込める。瞬間、紅の両手から炎の渦が巻き起こり刀を伝い、魔石に燃え移る!紅の炎は続いて魔石から魔石へと伝っていき、魔石炉は眩いばかりの炎に包まれた!
「ほ…炎帯人!?」
「本物か!!?」
ビリーや船長はじめ、空賊共は思わず腰を抜かしてその場にへたり込む。
アンバーも驚きのあまり、口をぽかんと開けたままだ。ややあって、何とか声を絞り出す。
「…いや、いやいやいや、龍の次は炎帯人かよ……!!」
そのまま口角をひくつかせると、おもむろに笑い出した。
「ハッハッハ!!何なのお前ら!?」
「びっくりした?」
「びっくりするに決まってんだろこんなの!!」
不敵に笑う紅に向かって、アンバーは腹を抱えて大笑いを続けた。そのままアオイの方へ向き直る。
「で、お前は何なんだ!?もう何が来ても驚かねえわ!!」
「僕はただの治癒師だよ」
「嘘つけ!!」
アンバーはすました顔で答えるアオイの背中を、思いっきり叩いた。
魔石炉のボイラーが温められ、蒸気が湧き上がる!機関長のおっさんは弁を操作し、全ての蒸気が浮力嚢に行き渡るように調整した。浮力嚢は熱を持ち、飛空艇に僅かに浮き上がる感覚が戻って来た!
「何とか浮力嚢の温度が上がった!出来る限りゆっくり降下させる!お嬢ちゃん、ワシの言う通り炎をコントロール出来るか!?」
「やってみる!」
機関長のおっさんに応える紅。空賊共から歓声が上がった!
「まだ喜ぶのは早えぞ、不時着させるまでが勝負だ!操舵官はオレと一緒に操舵室へ来い!残りの奴らは衝撃対策して不時着に備えとけ!」
アンバーは叫ぶと、操舵官と共に操舵室へ向かって駆け出す!他の空賊共は各々の部屋から枕やら毛布などを持って来ると、機関室を取り囲むようにして衝撃に備えた。
アオイは甲板へ向かうと、龍に向かって声を掛ける!
「蒼龍、もう少し頑張れ!紅が浮力嚢を復活させて、少しだけ浮力が戻ってる!不時着するまでの辛抱だ!」
アオイの言葉に、龍の目がふっと笑った――ような気がした。
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ギリギリの速度で、飛空艇は降下を続ける。アンバーは操舵室で、不時着出来そうな場所を探り、舵を切る。
『この先にある平原に不時着させる!このままの速度でいい、着陸出来るよう上手く浮力嚢をコントロールしろ!』
伝声管を伝って、アンバーの指示が聞こえて来る。機関長のおっさんが、紅に告げた。
「お嬢ちゃん、もう少しそのままの火力維持してくれ!」
「分かった!」
紅は炎を出すのを止め、今ある火を見守っている。炎は明々と燃え、魔石を包み込んでいる。
「上手くいきそうだね」
機関室に戻って来たアオイが、魔石炉を覗き込んで言った。
「アオイ、蒼龍は?」
「何とか大丈夫そう」
「良かったあ……」
安心したように、へにゃりと紅は笑った。その顔に、何故かアオイの胸がチリ、と痛む。
「蒼龍の事が…心配?」
歯切れ悪くアオイが問うと、紅はきょとん、とした顔をした。
「蒼龍だけじゃないよ?アオイの事も、アンバーの事も、ハリーさんも空賊のみんなの事も心配。みんなの『生きたい』っていう気持ちが、私にとって大事なんだもん。それを私の力で助けられたなら、こんな嬉しい事はないよ」
アオイは思わず瞠目した。ビリーは「ビリーっす…」と呟きながら感動の涙を流している。荒くれ者の空賊共も、揃って顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
「俺、初めて人から大事なんて言われたわ…」
「俺達みたいな碌でなし相手に、何て良い子だ…」
「俺、生きて戻れたら空賊辞めて真っ当に生きてくわ…」
「俺も……」
アンバーは伝声管から漏れ聞こえた声に、思わず柔らかく笑った。隣の操舵官は、感動の余り肩を震わせて号泣している。
「そうか…嬢ちゃんは、誰一人取り残さねえんだな」
しゃくり上げる操舵官の背中をさすりながら、アンバーはぼそり、と呟いた。
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そんな穏やかな空気を切り裂くように、ぴしり、という音が魔石炉に響く。紅は魔石炉の中を覗いた。
すると、鋭い音を立てながら次々と魔石にひびが入っていき――粉々に砕け散り、灰となって舞い散った!
「え?」
紅は思わず絶句する。呆然とする一同。
「炎帯人の炎の力に、魔石が耐えられなかったか…!?」
アオイが悔しそうに呟いた。
同時に、浮力を失った飛空艇は、船首から真っ逆さまに降下を始める!
『どうした!?』
「魔石が炎の力に耐えられなくて砕け散った!魔石炉はもう使えない!!」
『何だと!?』
アンバーの声に、伝声管に向かって叫ぶアオイ!その顔は真っ青だ。
「ぎゃああああ!!!」
「もう終わりだああ!!」
ビリーや空賊共はお互い抱き合い、ひたすら泣き叫ぶ!
操舵室ではアンバーが、舵を握りしめて悔しそうに唸った!
「ちくしょう……万事休すかよ!!」
地面はすごい勢いで近付いて来る!アンバーは思わず目を閉じた!
(オレの九回目の人生……また皆を巻き込んで終わっちまうのか!?)
紅はよろけながらも急いで床板を剥がし、魔石炉に放り込む!アオイが慌てて紅に駆け寄る!
「何してるの紅!?」
「床板を使って火を起こす!私はまだ諦めない!!」
「……!!」
たまらず、アオイは咄嗟に紅の腕を掴むと、その身を引き寄せ庇うように抱き締めた!
地面に激突するその瞬間!
龍が最後の力を振り絞り、前脚で船首を引き起こした!
飛空艇は龍の前脚に支えられ、一瞬ふわっと浮いた、かと思うと、轟音と共に地面を抉り、土埃を巻き上げながら胴体着陸を果たした!




