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「……ふぅん、なるほどね。そんでこの船に囚われたって訳か」
紅とアオイから事の顛末を聞き、アンバーはやれやれといった風に頭を掻きながら起き上がると、一つ大きく伸びをして胡座をかいた。
「あいつら、オレが居ないと好き放題だな…一応この辺では義賊で通してたんだけどな」
「え?」
「オレ、本当はこの船のヌシなの。知らねえうちに仲間に入ってた連中に、寝てる間にクーデター起こされたらしくてよ。気付いたら自分の船の牢の中だぜ、酷くね?せめて起きてる間にやれよって話だよな」
「……そんなあっさりと乗っ取られるもんなの?」
「普通ないと思う」
あっけらかんと話すアンバーに、呆れ顔の紅とアオイ。間抜け、とでも言いたそうな二人の顔に、アンバーは少しむすっとして言う。
「ところで嬢ちゃん。随分のんびりしてるけどよ、その蒼龍って奴、助けに行かなくていいのか?」
「そうだ!早くしないと蒼龍がハゲちゃう!」
「は?どういう意味?」
捕まってハゲるって何?と戸惑うアンバーを尻目に、紅はアオイと二人で扉の鍵穴を見る。見たところ、構造はそこまで複雑ではなさそうだ。アオイは懐からワイヤーを取り出すと、何本か縒って針金のようにする。鍵穴に差し込むと、ピッキングを始めた。
「多分すぐ開くと思うんだけど」
「お前ら、随分大胆だな」
数分と経たずに、軽い音を立てて錠が開いた。
同時に、扉の外から言い争う声と、誰かが殴られて倒れる音がした!二人は扉から一旦離れる。
沈黙の後、鍵をガチャガチャ回す音がして錠が閉じ――再びガチャガチャ音がして今度は錠が開く。扉が勢いよく開くと、一人の男が飛び込んで来た。焦げ茶色のモヒカン頭に刺青だらけの肌、服装はいかにも空賊といった風だが、よく見ると愛嬌のある顔立ちをしている。
「お頭!無事っスか!?助けに来たっス!!でも、何か鍵開いてたみたいっスよ?」
「ようハリー、とりあえず飯食わせろ」
「ビリーっス!!」
ハリーと呼ばれたビリーは、飯の事は予測していたらしく、手に持った干し肉、そしてアンバーの得物であろう拳銃を二丁、投げて寄越した。そして、紅とアオイの二人にも気付く。
「あれ、こちらの清楚そうなお二人さんは?」
「さっきお前らが襲ってた飛行船の護衛をしてたらしい」
「俺ら襲ってないっスよ!?やったのはクーデター派の連中っス!でも、うちの船の連中がご迷惑掛けて申し訳なかったっスね…」
ビリーは二人に頭を下げた。空賊なのにやたら良い奴である。そんなビリーに遠慮する事なく、紅は詰め寄る。
「ハリーさん、やたら背の高い、無愛想を顔に貼り付けてる男の人を見なかった?」
「お嬢ちゃんさりげなく名前間違ってるっス……その男なら、多分船長室でクーデター派の親分の前に引っ立てられてるはずっス」
「案内して!!」
紅の剣幕に、ビリーは気圧される。アンバーは立ち上がり、服に付いた埃を払い落とすとジュストコールを羽織り直した。
「せっかくだ、ついでに船を取り返してやるか。行くぜハリー」
「ビリーっス!!!もはや悪意しか感じねえ!!」
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ビリーの話では、古参のアンバー派が自分を含めて十五人、新入りのクーデター派が四十人らしい(お頭だったアンバーは数を覚えておらず、ビリーは呆れていた)。数の上でも不利、加えてアンバーを人質に取られたようなもので、古参組は渋々クーデター派の言う事を聞かざるを得ない状態だった。
船内の至るところにクーデター派がうろついている。足場の陰などを隠れるように移動しながら、船尾右舷の船長室へと向かった。
剥き出しになったタービンからシャフトが伸び、幾つものスクリューを回転させる為に忙しなく動いている。紅は初めて見る機関に興味津々だった。
「すごい……」
「これは飛空艇の動力だ。後は船を浮かす為の浮力嚢、そして魔石炉ってのがまた別のところにある」
「魔石炉?」
首を傾げる紅に、アンバーは自分の胸を親指で指す。
「飛空艇の心臓みてえなもんだ。言ってみればまあ、そこではでっかい石炭みたいな魔石を燃やしてんだわ。魔石炉は、ボイラーを加熱して大量の蒸気を発生させてタービンを回すのと一緒に、蒸気の熱で浮力嚢の中の浮遊ガスを活性化させて浮かせる役目を担ってる。浮遊ガスってのは温度が高ければ高いほど浮力が増すんだが、熱源がないと途端に冷えて、浮力がなくなっちまう。だから魔石炉が壊れちまったら、動力と浮力がなくなって即墜落って訳」
「へえ……」
アオイは博学故ある程度の知識は持っているが、実物を目にするとより知識が深まると同時に、知的好奇心が満たされる。感嘆の声を漏らし、船内を眺めていた。
「三人とも、船内見学に浸ってる場合じゃないっスよ!もうすぐ船長室っス!」
ビリーが人差し指を口元で立てて、静かにするよう促す。
行先には、一際豪奢な造りの扉があった。扉の左右には、見張りが一名ずつ。
「どうする?」
足場の物陰からアンバーが覗く。
「それはもちろん……強行突破!」
「は?」
ビリーが驚く間もなく、紅とアオイが躍り出る!反応が遅れた見張りその一の横っ面に、紅の下段からの回し蹴りが襲い掛かる!叫ぶ間もなく吹っ飛ばされて気絶する見張りその一。見張りその二は、一瞬の内に背後を取ったアオイの手刀で昏倒させられていた。
「すげえな」
「お頭、あの子達清楚な見た目に反して怖いっス……」
感心するアンバーとビビるビリー。
紅はアオイと頷き合うと、船長室の扉のノブに手を掛け……ず、二人で思いっきりドアをぶち破った!
「そこでド派手に突入する意味あるんスか!!?」
ビリーのツッコミが船内に響き渡った!
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船長室では、クーデターの首謀者である現船長が、謎の刀と格闘していた。目の前には後ろ手で縛られた蒼龍がいるが、目もくれていない。
「あの、船長、こちらがメインの龍人で……」
「うるせえ!!俺は男なんかに興味ねえんだよ!それよりも見ろ、この鞘の素晴らしい意匠を!絶対銘がある業物なのに…何で抜けねえんだよおお!!」
武器マニアの船長は半龍人などそっちのけで紅の刀に夢中なのだが、引こうが押そうが、どうやっても刀身が鞘から抜けないのである。
蒼龍はそんな船長の姿を無視し、目を閉じて船内に気を巡らせる。
ふと、蒼龍が目を開く。
「来たか」
呟くと、後ろ手に握り隠していた符――火遁を使い、自分を縛っていた縄を焼き切る。
同時に、扉をぶち破った紅とアオイが室内に飛び込んで来た!巻き込まれたクーデター派の数人が吹き飛ばされる!
「蒼龍無事!?ハゲてない!?」
「何がだ」
「鱗だよ。剥がされてなくて良かった」
蒼龍は、勢いのまま飛び付いて来た紅を受け止める。アオイは蒼龍と背中合わせに並ぶと、隙なく構えを取った。
「な、何だテメェら!?」
「いつの間に!?」
動揺するクーデター一派。そこへ壊れた入り口からアンバーが、ゆったりとした足取りで入って来た。ビリーは入り口の影から見守る。
「まあ落ち着けよ…仲間を返して欲しいんだとよ」
そして、蒼龍とアオイの間に自らの背中をねじ込み、三角形に陣を組む。
「そんでもってオレは、この船を返してもらう事にした。よろしくな」
戯けた様子で、アンバーは不敵に笑った。
ところが、肝心の船長は相変わらず紅の刀を抜く事に躍起になっていて、アンバーの口上など聞いていない様子である。
「……聞けよ」
アンバーは少々機嫌を損ね、眉をひそめる。紅は船長へと歩み寄り、その手から刀をひょいと取り上げた。
「何すんだ!ていうかテメェ誰だ!?」
「ごめんね、この刀は私にしか抜けないんだ」
目を剥いて怒鳴る船長に向かって残念そうに告げる。炎帯人の武器は、炎帯人にしか扱えないのだ。
紅は鯉口を切ると、いともあっさり抜刀してみせる。すらりとした美しい刀身が紅の姿を映し、船長は思わず涎を垂らして見惚れた。
「ねえ、蒼龍もいるし刀も戻って来たし、四十人相手に船を取り返すのなら、思いっきり暴れてもいいよね?」
紅は三人の方を振り返り、にっこりと笑って尋ねる。蒼龍は眉間に手を当てて溜息を吐き、アオイはやれやれといった風に肩を竦める。
アンバーはにやり、と笑って返した。
「言うじゃねえか……じゃあ、ひと暴れするか」




