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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第五話 アンバー

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2

 空賊の飛空艇は機動力が高いようで、あっという間に飛行船へと横付けしてきた。甲板からロープを使い、空賊共が続々と飛行船のゴンドラへと乗り移って来る。客室のドアはあっけなく破壊され、空賊共が乱入して来た!

「大人しく金銀財宝を出しやがれ!!あと、若い女もだ!!」

 片手に殴って失神させた船員を引き摺った空賊の一人が怒鳴りつける!客室からは悲鳴が上がり、富豪連中はドアから離れ部屋の奥の方へと避難する。空賊共は下卑た笑いを浮かべながら、富豪連中を追い詰めていった。

 そこへ、紅が立ちはだかる。

「なんだ嬢ちゃん…なかなかキレイな面じゃねえか」

 空賊の一人が舌舐めずりをしながら、紅の顎に手を掛けようとその腕を伸ばしてくる。


 瞬間、紅はその手を掴むと、親指を下にして外側に思いっきり捻り上げた!

「あだだだだあぁぁあ!?」

 壮絶な痛みに耐えられずその場に崩れ落ちる空賊の顎を、今度は容赦なく蹴り上げる!空賊は吹っ飛ばされ昏倒した。

「テメェ!!何しやがる!?」

 いきり立って複数で襲い掛かってくる空賊共!紅はその場で飛び上がり、客室のシャンデリアに掴まる。その後ろから蒼龍が金遁で造り出した棍が伸びてきて、空賊共を一網打尽に打ち払った!

「蒼龍ナイス!」

「紅、飛行船を傷つけないように気を付けろ」

「うん!」

 棍を繰り出す蒼龍に頷き返すと、紅はシャンデリアを揺すって反動を付け、そのまま空賊の集団の中に突っ込んだ!一人の顔面に着地を決めると、次々に拳と蹴りを繰り出す!蒼龍の棍も猛威を振るい、一人、また一人と空賊が吹っ飛んでいき、テーブルやソファーへと突き刺さる。

 その中を一人の空賊がすり抜け、富豪連中へ向かっていく!御婦人方の金切り声が響き渡る!


 そこへ、音もなくアオイが割って入ると、手に持ったティーカップに残っていた熱々の紅茶を空賊の顔面に引っ掛けた!

「あぢゃああああ!!」

 熱さに悶絶する空賊の後ろへ回り込むと、首筋に手刀を振り下ろす!急所を的確に突いた打撃に、空賊はあえなく意識を失い倒れた。その間、僅か数秒。

「アオイすごい!」

 紅が空賊の一人に飛び蹴りをかましながら笑った。

「こんなの護身術レベルだよ」

「そうか?」

 片眼鏡(モノクル)を上げながら平然と答えるアオイに、蒼龍は訝しげな顔を向けた。護身術にしては動きが慣れ過ぎている。蒼龍は違和感を覚えるが、とりあえず今はこの場を制圧する方が先である。


 荒くれ集団の空賊といえども、所詮は人間、紅達の相手ではなかった。しかし、本当に厄介なのは空賊ではない。

「私の命だけは何としても守れ!!報酬は上乗せしてやる!!」

「守るのならワタクシザマス!!ワタクシの命は何よりも尊いザマス!!」

「ワシとワシの財宝を守り切ったら一生遊んで暮らせる額を払ってやるぞ!!」

 有能な護衛と見て取ったのか、せっかく部屋の隅にかたまっていた富豪連中が、てんでバラバラ好き放題に三人の周りへと動き出してしまったのだ。最早ただの足手纏いだ。

「ちょっと、皆さん動かないで!!」

 アオイが止めようとした、その時。


「動くんじゃねえ!!コイツの命がどうなってもいいのか!?」

 その声の方向を見て、全員が動きを止める。紅と蒼龍の二人から散々打撃を受けたのか、青あざだらけで息も切れ切れになった空賊の一人が、ベソをかいた幼い富豪の息子を羽交締めにして、首元にナイフを突きつけていた。

 人質を取られてしまったら流石に下手に動く事は出来ない。飛行船はあっという間に空賊に乗っ取られてしまった。


-----


 客室には怪我だらけの船員含め、乗客乗員が全て集められた。空賊共は、船中の財宝を漁りかき集めている。富豪連中は恐怖に顔を歪めながら、紅達を恨めしげに睨み「役立たず共が…」と呟いている。思わずアオイが冷たい目で睨み返すと、びくっと身を竦ませて口を閉じた。空賊よりもこっちの方が怖いかもしれない。

「さあ、財宝はこれで全部だな。後は若い女共だ」

 空賊の言葉に、富豪の娘達は顔を真っ青にしてガタガタと震える。若い娘が賊に囚われたらどうなるか、想像は容易だ。空賊はニヤニヤしながら、一人一人吟味するように見回す。

「……テメェは怖えから遠慮するわ」

「何で!?」

 紅は納得いかない、と声を上げた。


「待て」

 蒼龍が立ち上がり、空賊の前に進み出る。長身も相まって威圧感が半端ない蒼龍に、空賊共は思わず身構える。牽制するように、人質の坊やに強くナイフを押し当てた。

「娘達の代わりに、俺を連れて行け」

「は?」

 全く等価交換にならない発言に、空賊は呆ける。蒼龍は自らの衣服の首元をはだける。そこから見えるのは、群青色の美しい鱗。

「龍人の鱗だ。好きなだけ剥がすがいい。俺を飼い殺しておけばいくらでも手に入るから、富豪達の財宝も要らんだろう」

 思わず息を呑む空賊共。等価交換どころか、とんでもない金鉱脈が目の前に居た。

「どうする?飛行船を被害なしで解放するなら囚われてやらん事もない」

「わ…分かった!!お前一人で充分だ!!」

 空賊は慌てて蒼龍を拘束すると、代わりに坊やを解放する。坊やは母親に抱き付くと、顔を真っ赤にして泣きじゃくった。

「テメェら、命拾いしたな!野郎共、ズラかるぞ!!」

 空賊が蒼龍を連れて飛空艇へ戻ろうと動き出した。


「待って!私も拘束しなさい!!」

 その時、突然上がった紅の意味の分からない発言に、周囲は一様にぽかんとした顔をする。

「私は蒼龍の保護者だよ!!」

 蒼龍の「え?」という顔を無視して、紅は至極真剣な顔で空賊に詰め寄る。

「いや…テメェは怖えから連れて行かねえけど……」

「貴方達分かっていませんねえ。彼女が居ないと、龍人は大暴れして手に負えないんですよ。もちろん、僕も一緒に居ないと、輪をかけて大変な事になりますけどね」

 アオイが笑顔、しかし全く笑っていない目でハッタリをかます。蒼龍はジト目でアオイを睨みつけるが、アオイはどこ吹く風。龍人という未知の存在、その危険性が計り知れないのは確かである。空賊はごくり、と喉を鳴らした。

「……よし分かった。テメェらも一緒に来い」

「ありがとう!」

「テメェは拘束されるのに何で礼言ってるんだよ」

 空賊は呆れ顔で、紅とアオイを拘束した。


 こうして三人は、無事飛行船を解放する代わりに、空賊の飛空艇へと引っ立てられて……もとい、無理やり押し掛ける事となった。


-----


 飛空艇の中で、蒼龍は船長の部屋へと連れて行かれる。ついでに紅の刀も取り上げられてしまった。蒼龍は「どうにかする」というように目配せする。紅は軽く頷いた。

 紅とアオイはタービン近くにある牢へと連行される。拘束は解かれたものの、二人揃ってその部屋へ押し込められた。

「大人しくしてろよ!」

 空賊が捨て台詞を残し、鍵を掛けて去って行った。

「はあ……お腹空いたなあ……」

 紅は若干かび臭い牢の床にぺたんと座り込み、呟いた。アオイも溜息を吐いて、座って膝を抱える。

「オレも腹減ったわ」

 思いもせぬ所から返ってきた合いの手に、紅とアオイは声の方向へ振り向く。


 牢の片隅、そこには一人の青年が気怠げに寝転がっていた。

 見た感じ、歳の頃は二十歳(はたち)くらいといったところだろうか。しかし、壮年期とも感じ取れる不思議な雰囲気を纏っている。橙色がかった明るい癖毛は狼のようだ。日に焼けた肌に鋭い鼻筋と顎、野生的な金色の瞳。鍛えられた身体を包むのは薄汚れた白いシャツと擦り切れそうな黒のトラウザー、その上に羽織るのはチャコールグレーのジュストコール。そして、至るところからぶら下がる数々のアクセサリー。

「よ、新入り」

 男はブレスレットをじゃら、と鳴らし、片手を挙げた。


「オレはアンバー。お前ら、一体何したの?」

挿絵(By みてみん)

アンバー(画像はAI作成)

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