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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第四話 アオイ・グラスティア

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3

「悪いが出てってくれ!うちにはまだ小さい子供がいるんだ!!」

 宿の亭主は真っ青な顔をして、紅と蒼龍を宿から追い出す。バタン!と勢いよく扉を閉めると、続けて鍵を掛けたであろう音が響いた。

「……朝ご飯」

 紅は心底悲しそうな声を出す。起きたばかりの腹から、空腹を知らせる音がした。

「仕方あるまい。どこかで調達するぞ」

 蒼龍は背嚢を背負い、中央広場の屋台へ向かって歩き出す。紅はしょんぼりしながらその後に続いた。


 こういう街では、噂が広まるのはあっという間だ。道行く人々は紅の顔を見た途端、さあっと顔色を変えて避けていく。既に「エメラルドの娘」という呼称まで付いてしまったようだ。遠巻きにひそひそと交わされる会話の中から漏れ聞こえてくる。

「私、有名人になっちゃったね」

「違う」

 二人は全く気にする様子もなく、中央広場の屋台で食べ物を調達しようと覗く。店主達は軽く恐怖の悲鳴を上げる。それをも気にせず、紅は焼き鳥の屋台で足を止めた。

「モモください!」

「へ、へえ…!」

 ビクビクしながら、店主は震える手で紅から金銭を受け取り、代わりに鶏モモ肉の串を一本手渡す。しっかりタレに浸かったモモ肉は、日の光を浴びてテラテラと輝いている。非常に美味しそうだ。紅はうっとりした顔で、モモ肉を口に運んでいく。

「待て」

 蒼龍はモモ肉を持つ紅の手を掴むと、そのままモモ肉を口で奪い取った!

「あー!蒼龍何するの!?」

 抗議の声を上げる紅を無視して、蒼龍はモモ肉を口の中で反芻し――おもむろに吐き出す。

「蒼龍もったいない!食べ物を粗末にしたらバチが…」

「毒だ」

「え?」

 蒼龍は水筒の水で素早く口を濯ぐと、焼き鳥屋の店主を恐ろしい形相で睨み付け、その胸ぐらを掴む!

「何のつもりだ」

「し、知らねえ!!俺は何にもしてねえよ!!」

 店主の目に嘘はない、と見て取った蒼龍は手を離し解放する。焼き鳥屋の店主は「ひいいっ!!」と叫ぶと、屋台を放って一目散に逃げていった。それに倣い、他の屋台も次々と店を放棄し、逃げていく。屋台に群がっていた人々も、いつの間にかどこかへ消えてしまった。


 中央広場には、紅と蒼龍のみ。

 そこで初めて二人は気付く。人々の気配に紛れていて分からなかったが、自分達には明らかな「殺意」がずっと向けられていたのだ。

「想像以上に厄介だな」

「…お腹空いたあ……」

 腹が減っては何とやら、紅はもはや半泣きだった。


-----


 込み入った、しかも慣れない街中ではこちらが不利と判断し、二人は街の外へ出ようと走り出した。しかし相手もさるもの、次々とトラップが襲い掛かってくる。

「ねえ、これって怪談じゃないよね!?」

 横から飛んで来た毒矢を刀で叩き落としながら、紅は蒼龍に問う。

「はじめから怪談じゃない。故意だ」

 蒼龍は地面に撒き散らされた撒菱を土遁で一気にひっくり返した。そこへ、頭上から降ってくる植木鉢!

「ああもう!!」

 紅が刀で一刀両断したその時、植木鉢が発光し、爆発を起こす!

「やば…っ!?」

 避けられない、と紅は目を閉じる!


 思っていた衝撃が来ない、と恐る恐る目を開く紅。蒼龍が覆い被さって護ってくれたのだ。蒼龍の右上腕の服が裂け、その下の肉が焼け焦げた臭いがする。

「蒼龍!?」

「大した事ない」

 蒼龍は紅を左肩に担ぐと立ち上がり、そのまま走り出す。

「自分で走れるから降ろして!」

「二人分散するより、ひと塊りになった方が狙いが集中するから対処しやすい。大人しくしていろ」

「でも、狙いは私一人のはずだから!」

「尚更一人に出来ないだろう」

 蒼龍の言葉に、ぐっと詰まる紅。担ぎ上げられながら、再び飛んで来た毒矢を払い落とす。


 その時、建物の扉が開く!

「こっちです!」

 いつの間にか診療所の前まで来ていたようで、中からアオイが手招きしている。蒼龍は扉の隙間に滑り込む!アオイは飛び込んできた二人に一瞬目をやると、急いで扉を閉め、閂を掛ける!

 間一髪、扉には飛んで来た毒矢が無数に突き刺さった!


-----


 アオイは診療所のカーテンを閉め、照明を消す。部屋の中は薄暗くなり、外から様子を窺う事は出来ないはずだ。

「僕の耳にも話は入っています…災難ですね」

「アオイ先生、蒼龍が怪我してて…」

 半べそで訴える紅に頷き返すと、アオイは蒼龍の右腕を診る。

「大丈夫だ」

「大丈夫かどうかは僕が決めます」

 遠慮する蒼龍を制して、アオイは蒼龍の衣服を切り開いた。火傷があるが、広範囲ではない――人間にはない群青色の鱗が、皮膚の大半を覆っていて、傷の範囲を狭くしていたのだ。

「……」

 一瞬手を止めるアオイだが、すぐに治療を始める。傷口を洗浄し氷嚢で冷やしながら、軟膏を調合し塗っていく。

「驚かないのか」

「驚いてますよ……龍人ですか?」

「半分な」

「初めて見ました」

 包帯を巻きながら、アオイは動揺している様子など微塵も見せない。治癒師としての仕事に集中していた。

「さあ、終わりましたよ」

「アオイ先生ありがとう!」

「恩に着る」

 礼を言う二人。同時に、ぐうぅぅぅ……という謎の音。

「もしかして…お腹空いてます?」

「うん……」

「朝食を食べ損ねている」

 しょんぼりする二人の姿に苦笑しながら、アオイは言った。

「病人用の簡単なものであればありますが、食べますか?」

「アオイ先生神様!」

「馳走になる」


 しばらくして、アオイが鶏肉をじっくり煮込んだ野菜たっぷりのスープと、柔らかいパンを持ってきた。

「いただきます!」

 紅の挨拶と共に、凄い勢いで掻き込む二人。

「あの、一応病人食なんですけど…」

「美味しい!優しい味!!」

「美味いな」

「……それはどうも」

 アオイは目を丸くして戸惑った表情を見せた。病人食を「美味しい」と言われるのは初めてで、少しくすぐったい気持ちになる。スープもパンも、あっという間になくなった。

「アオイ先生おかわり!」

「俺もだ」

「ありません」

「えぇ……」

 再びしょぼくれる二人に、アオイは堪え切れず吹き出した。

「いや、すごいですね。こんな時まで食欲があるなんて」

「こんな時だからだよ」

「腹はいつでも減る、それが生き物の摂理だ」

「なるほど、面白い事を言いますね」

 アオイは妙に納得してしまった。


 だが、腹がある程度満たされたところで、問題は何も解決していない。正体不明の相手からの地味な攻撃に、二人はうんざりしていた。

「せめて障害物の少ない、街外に出られたら良いのだが」

「この街、入り組んでて動きにくいもんね」

「ああ。街を出るにも、その間にまた攻撃を受けたら面倒だ」

「あの…」

 逡巡する二人に、アオイがおずおずと声を掛ける。

「多分、街外に出なくても、この場で解決出来ると思います」

「え?」

「えっとですね……」


 アオイの申し出に、紅は目を輝かせ、蒼龍は呆れかえる。

「…面白そう!やろう!!」

「本気で言っているのか」

「はい、本気です」

 にこり、と微笑んで平然と返すアオイに、蒼龍は少しだけ恐怖を覚える。アオイは早速準備に取り掛かる為、立ち上がった。

「恐らく相手は今、この建物に何かを仕掛けている最中です……すぐに動きましょう」


-----


 数分後。

 轟音と共に、診療所が大爆発を起こした!炎が燃え盛り、黒煙がもくもくと上がる。

「治癒師の先生が巻き込まれた!!」

「エメラルドの娘と、その連れの男も居たはずだぞ!!」

 街中が騒然とし、消火活動が始まる。しかし、診療所は原型を留めないほどの瓦礫の山と化し、誰の目にも、中の人間が無事とは思えなかった。

「何てこった……」

 診療所のオーナーは、へたり、とその場に膝を付く。


 その光景を遠巻きに見つめる人物が一人。口元に、にやり、と笑みを浮かべると、静かにその場から立ち去った。

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