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アウトサイダーズ -笑って泣いて愛して老いて死ね-  作者: うらてぱんち
第四話 アオイ・グラスティア

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1

 それはちょうど、紅が緋夕の家を出奔した頃。


「……!!?」

 とある国のとある屋敷の寝室で、屋敷の主である男は、ワインを飲み干した瞬間に苦しみ出す。向かいには誰かが一人、その様子を見守るように静かに佇んでいる。部屋の中の照明は仄暗く、その表情は見えない。

「…き…さま……」

 男は倒れざま、その人物に向かって手を伸ばすが届かない。手は途中でぴたり、と止まると、そのまま力なく床に落ちる。男は苦悶の表情のまま、絶命していた。


 暗がりの人物が男の傍らにしゃがみ込み死体を確認していると、窓をコツコツと叩く音がする。夜だというのに鴉が飛んできた。窓を開ける人物に一通の封筒を届けると、どこへともなく飛び去っていく。

 封を切り中身を見ると、小さな紙片と共に赤毛の少女の肖像画が入っている。紙片には文字が書かれていた。


 『暗殺対象 コウ・ヒユウ』


 窓からの月明かりに照らされた口元が、にやり、と笑みの形を作る。

 そして、息のない男の側に小さなエメラルドの原石を置くと、鴉の後を追うように、自らも音もなく窓から飛び出した。その姿は誰に見られる事なく、夜闇の中へ静かに消えていった。


-----


「さあ嬢ちゃん!有り金全部出して置いていけ!!」

 紅と蒼龍の目の前で、脂ぎった頭で太陽の光を煌々と照り返しながら、禿頭の男が下卑た顔で得物のナイフを舐っている。その後ろには、同じように軽鎧やナイフ、棍棒、槍で武装した男達。いわゆる「野盗」というやつだ。ちなみにあまり綺麗な見た目ではない。

「うわ、眩しい…」

「何だとてめえ!?」

 思わず顔を顰めて呟いてしまった紅の言葉に、一気に沸騰して真っ赤になるハゲ頭。舐っていたナイフを構え直すと、紅に向かって突っ込んで来る!

 その瞬間、横から蒼龍の腕が伸び、大きな掌が男の顔面を鷲掴みにする!そのまま、地面に向かって落とし込んだ!大きな音と共に地面にめり込む男。既に意識はない。

「親分!?」

「畜生!!やっちまえ!」

 逆上した野盗達が、一斉に襲い掛かってきた!

 しかし、相手が悪い。紅は刀を抜く事なく軽い身のこなしで足払いを掛け、野盗達の鼻や喉仏、鳩尾などに拳で突きを入れていく!蒼龍は一人一人を腕で拘束すると、締め技で次々と落としていった。野盗達はあっという間に伸されて、五分後には全員力なく地面に転がっていた。


 次の目的地である都市国家アブサンは、マルメッタとは趣向は違うものの、食べ物が美味しい事でそこそこ有名ではある。しかし、それよりも名を馳せている事があった。

 世界中からありとあらゆる荒くれ者達が集まる、別名「ならず者の街」――治安の悪さは恐らく随一を誇る。

 マルメッタを出発してひと月ほど、紅と蒼龍は辟易していた。アブサンへ向かう街道の途中、街へ近付くにつれ街道も治安が悪くなるのか、野盗がひっきりなしに現れる。これでもう八度目だ。その度に目には目を精神の暴力で、時に紅の謎のお説教(涙を流して改心した集団もいた)でいなしてきたものの、流石に疲れる。

「蒼龍の野営ご飯も美味しいけど、そろそろおうちご飯が食べたいよねえ」

 野営中の食事はどうしても種類が限られる。紅は疲れも相まって、いつも以上に腹を空かせていた。

「もう少しでアブサンだ、我慢しろ」

「ふわぁん…」

 伸びている野盗達をご丁寧に道端の草むらに放り込み、蒼龍は背嚢を担ぎ直した。紅も下ろしていた背嚢を背負うと、蒼龍と並んでとぼとぼと歩き出す。

「…お腹空いたなあ……」


-----


 アブサンの街は、想像以上に荒れていた。街中はどう見ても堅気ではない人間で溢れかえり、至るところで怒号と窓ガラスの割れる音がひっきりなしに響き渡る。道端では昼間なのに酒瓶片手に酔っ払って倒れている老人に、露出の多い華やかな衣装を身に纏った、スレた顔をした女性。

 紅と蒼龍は、ガラの悪い連中の間を、するするとすり抜けていく。二人とも旅人といえど、街に似つかわしくない上品な身なりなのでうっかり絡まれそうなものだが、身のこなしがスムーズ過ぎて誰も気に留める事はなかった。


 手頃な場所に宿を確保し、まずは腹拵えと街の中心部へ繰り出す。入り口付近の殺伐とした雰囲気から一転して、中央広場にはたくさんの屋台が並び香ばしい匂いが漂っていた。串焼き、焼きそば、コロッケ、ケバブ。野営とは違うバリエーションの多さに、目を輝かせる紅。

「蒼龍すごい!全部食べたい!!」

「落ち着け。……俺も食う」

 二人は屋台を巡り次々と注文していき、片っ端から食べていく。両手には常に食べ物。片手が空いたらすぐに次の食べ物に手を伸ばす。

「あいつら、大食い選手か?」

「見てるだけで胸焼けしそうだぜ……」

 屋台の店主も客も皆、唖然とした様子で異様な二人を見守った。


 数刻後。

「お腹痛い……」

 突然紅がその場に蹲る。蒼龍は紅を護るように抱き上げると、周りの屋台を鋭い目で睨んだ。半端ない威圧感に、屋台の店主達は思わずたじろぐ。

「毒を仕込んだのはどこの店だ」

「馬鹿野郎!ただの食い過ぎだ!」

「さっさと診療所に連れて行け!!」

 周囲から総ツッコミが入った。


-----


 診療所は街の中心部から少し離れた、比較的落ち着いた場所にあった。「御免」と言い蒼龍がドアを叩く。

「どうしましたか?」

 高過ぎず低過ぎず、落ち着いたトーンの声が聞こえドアが開く。

 中から出てきたのは、中性的な顔立ちをした治癒師の少年だった。歳の頃は紅と同じくらい、白銀の長めバングショートカットを耳に掛け、透き通るような白い肌に、少し垂れたビリジアングリーンの瞳が片眼鏡(モノクル)の奥で優しく光る。黒一色の服は身体にぴったりと沿い、華奢ながら引き締まった身体つきを際立たせている。その上から羽織るのは、トレンチコートのような白衣。胸には聴診器と共に、ロザリオが掛けられていた。

「連れが腹が痛いと言っている」

「中で診察しましょう」

 少年は紅を抱えた蒼龍を、診療所の中へと招く。


 診療室に通された蒼龍は、診療台の上に紅を下ろした。服の上から紅の腹を触診する少年。

「今日は何を食べましたか?」

「…串焼き15本と焼きそば3玉とコロッケ5個とケバブ2皿と……」

「……は?」

 紅の口から飛び出す食べ物の量に呆気に取られる少年。蒼龍は更に追加情報を出す。

「それと揚げパン4個、饅頭6個だ」

「…それを一気に?」

「ああ」

「どう考えても食べ過ぎですよ……」

 少年は呆れながらも、薬品棚の中の薬を素早く調合する。緑色の何ともいえない、どろりとした液体を差し出した。

「消化薬です。少し苦いですが我慢して飲んで下さい」

「苦いの嫌……」

「飲め」

「むぐっ!?」

 駄々をこねる紅の口に、消化薬を容赦なく突っ込む蒼龍。良薬口に苦し、紅は目を白黒させながら飲んだ。

「うえっぷ……これで大丈夫かな?」

「はい、二時間もすれば痛みもなくなりますよ」

 再び蒼龍に抱えられた紅は、少年の手を握り礼を言う。

「先生ありがとう。助かっちゃった」

「いいえ、お大事にして下さいね」

「そうだ、先生の名前教えて?助けてくれた人の名前も知らないなんて寂しいから」

 紅の意外な問いに、少年は驚いて目を丸くする。患者が自分の名前を訊いてくるなんて、今までなかった事だ。ましてや、「寂しい」など聞いた事がない。

 戸惑いつつも、少年は自分の名前を口にした。


「僕の名前は…アオイ・グラスティアといいます」

挿絵(By みてみん)

アオイ・グラスティア(画像はAI作成)

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