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マルメッタの街中では、どこもかしこもポメラーニャンの姿で溢れかえっていた。食糧庫やゴミ集積所は荒らされ、追い払おうとする人間に向かって爪を向ける凶暴なポメラーニャン達。傍では分裂を繰り返し、数を増やし続けている。もはや収集がつかない。
警備隊の中には何人か負傷者も出ている。住民は逃げ惑い、街は大混乱に陥っていた。
そこへ東側より玄斎が、使用人と舎弟の板前達を引き連れて現れた!全員巨大な包丁やすりこぎ棒、鱗取りで武装して、料理人というよりもはや任侠集団かと見紛うほどガラが悪い。玄斎自身、着流しの片袖を脱いで、背負った自慢の桜吹雪を堂々と見せつけている。肩に担ぐは、自身の背丈はあろうかという出刃包丁。
続いて西側より、同じく使用人と弟子のシェフ達を率いてベロニカが登場する!こちらはシェフナイフはもちろん、テーブルナイフやフォークを携え、一見上品だが纏う雰囲気はマフィアのようだ。ベロニカはいつものワンピースの上に真っ白なファーを羽織り、右手には大木でも切り倒せそうなパンナイフを引っ提げる。
「お前ら、西側の奴らに追い越されるな!あの毛玉共を三枚におろしてやれ!!」
「応!!」
「あんた達、東の連中に遅れを取るんじゃないわよ!毛玉達を串刺しにしておやり!!」
「イエス、マム!!」
卓はいつの間に登ったのか、街中で一番高い大聖堂の鐘楼から手に持った拡声器で呼び掛ける。
『さあアンタ達、自分達のケツは自分達でしっかり拭くのよ!!どっちが多く責任取れるか競争なさい!!』
卓の鼓舞に、うおおおお!!!と雄叫びを上げる腕利きの料理人達。我先にとポメラーニャン達目掛けて飛び掛かっていった!
かくて、「東西対決」と銘打ったポメラーニャンの大討伐劇が、幕を切って落とされた!
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一足先に街中に突入した紅と蒼龍は、順調にポメラーニャンを退治していた。
「右、路地に三匹」
「了解!」
金遁で造り出した偃月刀を繰り出しながら、蒼龍は背中合わせの紅に目を向ける事なく指示を出す。紅は言われた方向に向けて蒼龍の側から飛び出すと、不気味な鳴き声を上げて突っ込んでくる三匹のポメラーニャン目掛けて炎の刃を振り下ろした!
「はっ!」
炎に巻かれ、呆気なく灰燼と化すポメラーニャン。しかし、炎は勢いが強過ぎたのか止まる事を知らず、近くの建物に燃え移らんとする!
「敕!」
すかさず水遁を繰り出し、炎を消し止める蒼龍。その間、自身も偃月刀で次々とポメラーニャンを斬り捨てていく。
「蒼龍ごめん!ありがとう!」
「余った炎は俺が処理するから、気にせず焼き斬っていけ。死体が残るよりましだ」
「分かった!」
蒼龍は今度は土遁を使い、周囲のポメラーニャン達を一斉に宙に放り出した!宙に浮いた状態なら障害物はない。紅は下段から勢いよく刀を振り上げる!刀から炎の渦が生まれ、ポメラーニャン達を巻き込み火柱となって燃え上がった!
街中でボロボロになりながらポメラーニャンと対峙していた警備隊の連中は、その様子を遠巻きに見つめる。二人の繰り出す技、そして阿吽の呼吸に呆気に取られていた。
「……すげえ」
「あいつら、大道芸人か何かか?」
「タイミング合い過ぎだろ…夫婦か?」
「いや若いから兄妹じゃね?」
鐘楼から双眼鏡を使って眺める卓も、思わずぽかんとしてしまう。しかしながら、その口角は自然と上に上がっている。
「何あの二人…気持ちいいくらい息ぴったりじゃない」
そんな周囲の反応をよそに、紅と蒼龍は次々とポメラーニャンを退治していく。
「蒼龍!お腹空いた!」
「我慢しろ」
「えー!?」
「俺も腹が減っている。これが終わったら玄斎とベロニカに一流の料理とやらをたらふく食わせてもらおう」
「よっしゃ!!」
紅の気合いの入った炎が、再びポメラーニャン達を纏めて焼き尽くした!
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一方、玄斎とベロニカが率いる東西料理人軍団も、各ブロックで奮戦していた。
『西チーム、第四区にまだ大量にいるわよ!東チーム、第六区の住人が襲われそうになってるから助けに行きなさい!第二区で分裂始めてる!
ほーら、もたもたしてると負けるわよ!もっと頑張りなさい!!』
卓は鐘楼から拡声器で、指示だったり野次だったり檄だったりを飛ばす。すると、はじめはバラバラだった東西の料理人は、次第に連携を取りはじめた。西のシェフがナイフとフォークで足止めしたところを、東の板前が包丁で斬りつける!
「そっち行ったぞ!」
「追い込め!!」
「こっちは足止めする!」
「ひっ掻かれた!」
「ポーションだ、飲め!」
「助かる!!」
その姿に、心身ともに折れかけていた警備隊も再び立ち上がる!
「俺達も負けていられない!街を守るぞ!」
「うおおお!!」
東西料理人と警備隊、いつの間にか大きな戦力となりポメラーニャン達を飲み込んでいった!
そして、玄斎とベロニカ。
「ふんぬらあぁぁぁあ!!!」
鼻息荒く振るったベロニカの巨大パンナイフが唸りを上げて、ポメラーニャン達を纏めてぶった斬る!その隙を狙い、攻撃を逃れたポメラーニャンが飛び掛かって来た!
「おりゃああああ!!!」
そこへ空中で回転しながら割って飛び込んで来るのは玄斎、巨大出刃包丁でポメラーニャンを真っ二つに斬り下ろした!
今度は着地で出足が遅れしゃがみ込む玄斎の上を護るように、ベロニカのパンナイフが薙ぎ払う!続けて玄斎が立ち上がりざま、反動で動けないベロニカの代わりに斬り上げる!交互に繰り出される斬撃に、ポメラーニャンは次々と斬られていった。
「やるじゃねえか!!」
「あんたもね!!」
あんなに犬猿の仲だった二人が、今はお互い背中を預け戦っていた!
卓は共闘し始めた玄斎とベロニカ、東西の料理人達、そして警備隊の姿を見て小さく笑った。お互いずっといがみ合っていたはずの東西の料理人達と街の住人達が、ごく自然に協力し助け合い、この災厄に立ち向かっている。
「そう、それでいい」
卓は背後から飛び掛かってきたポメラーニャンを、振り向きもせず腰に携えた小太刀で打ち払う!小太刀に纏わせた炎に焼かれ、灰になるポメラーニャン。灰が落ちた鐘楼の床からは、土もないのに一輪の紅い牡丹が、美しく優雅にその花を開いた。
「同じ目的の為に一緒に居ると、いつの間にわだかまりなんて解けてるのよね。単純なのよ」
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夕暮れで街が赤く染まる頃、街中を埋め尽くしていたポメラーニャンは全匹討伐され、死体は街の外へと運び出される。
「…ごめんね」
一言呟き、紅が炎を放つ。ポメラーニャン達は、ぱあっ、と一瞬で燃え上がり、灰となって舞い散る。灰は平原に降り注ぎ、たくさんの紅花翁草が一気に咲いた。
その光景を、蒼龍、卓をはじめ、全身満身創痍の玄斎とベロニカ、東西の使用人や料理人、そして警備隊の面々が、神妙な顔で見つめていた。
「アンタ達の下らない諍いが引き起こした事よ。ちゃんと反省なさい」
卓に言われ、しゅんとなる玄斎とベロニカ。どちらともなく歩み寄り、頭を下げる。
「どうでもいい競争心で街を潰すところだったな。すまなかった」
「あたしも悪かったわ。お互いプライドが高過ぎるのも問題ね」
言葉を交わし、握手をする。卓は満足そうに頷いた。
「そうよ、競争心とかプライドは悪いものじゃないけど、使い方を間違えると人を簡単に傷付けるの。これからはその心を、お互いの技術を高め合い、街の発展に貢献する為に正しく使いなさい」
「…ああ」
「そうするわ」
夕闇に包まれゆく中、紅花翁草が見守るように、優しく風に揺れていた。




