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翌朝、紅と蒼龍は捕らえたポメラーニャン達を引き連れて再び玄斎の屋敷を訪れた。ポメラーニャン達は流石に屋敷の中まで持ち込めないので、蒼龍の金遁で造られた巨大な檻の中に閉じ込めて、屋敷の外に出してある。
檻の中から地獄のような唸り声で門番を威嚇する十二匹のポメラーニャン。門番は「何で俺が……」と半泣きである。門の外からは、野次馬根性丸出しの近所の住民達が覗き込むように様子を見ている。
玄斎の屋敷には、既にベロニカと卓の姿もあった。玄斎とベロニカにポメラーニャンの特性について話をしたところ、二人は額に冷や汗を浮かべ、窓にへばりつくようにして檻の中のポメラーニャン達を見る。
「確かにうちの獅子丸と似ているが…」
「ウチのラッシーちゃんとも似てるけど、あの子昨日は一日中小屋の中に居たはずよ…やっぱり玄斎、あんたのとこじゃないの?」
「…また言い掛かりか!うちのだって、昨日一日ちゃんと小屋の中に居たぞ!」
「何よ!」
再び言い争いが始まる。混ぜるな危険、この二人、とことん相性が悪い。
「どちらのものか、など、そういう事は今問題ではない」
屋敷では口数の少なかった蒼龍が不機嫌そうな顔を浮かべ、ぼそり、と言った。人間らしからぬ威圧感を感じ取り、二人はぴたり、と口を閉じる。
「玄斎、ベロニカ、お前達はポメラーニャンに何を与えて飼育していた?」
「俺のところは最上級の嶺國ダックだ」
「あたしんところはモンフルールから直送した五つ星の牛フィレ肉よ」
「……いいなあ」
人間が食べるよりも明らかに贅沢品。紅は涎を垂らした。蒼龍は眉間に手を当てて、深く溜息を吐く。
「その肉が原因だ。小屋の中の死角で分裂し増殖していたのだろう。ポメラーニャンはどこで手に入れた?」
「……旅のキャラバンから買い取ったわ」
「……俺もだ」
「違法テイマーだな。飼育する場合は分裂を封印する術を掛ける必要があるし、テイマー側も説明する義務がある。そもそも、知識も持たずに飼う奴があるか」
蒼龍の冷静な意見に、顔を真っ赤にして押し黙る玄斎とベロニカ。一応、流行りに乗せられてしまったという自覚はあるようだ。
その時、玄斎の部屋の扉が勢いよく開かれ、板前風の男が、息も切れ切れに飛び込んできた。
「…っ玄斎さん!大変だ!!あんたが飼ってるのと同じ魔物が……大量に現れて、至るところで大暴れしてる!」
「何だと!?」
蒼龍は手を当てた眉間に更に深く皺を寄せて、吐き出すように呟いた。
「やはりか」
昨晩捕えた十二匹では済まなかった。予想通り、分裂に必要な「肉」がこれだけ溢れている街中では当然の結果である。しかし。
「とにかく数が多過ぎて……多分百近くはいる!!しかもどんどん数が増えてってんだ!警備隊の奴らでも手に負えねえ!ベロニカさん、あんたの方も大変な騒ぎになってるぜ!」
「何ですって!?」
ベロニカが顔を真っ青にしてヒステリックに叫んだ。全員、慌てて窓を開けて外の様子を伺う。至るところから上がる怒号と悲鳴。そして建物の間から見え隠れするのは――徐々に膨れ上がる毛玉の群れ!
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とある農村部、この道一筋五十年のプロ農民である田吾作(63)は語る。
「都会の奴ぁ、ポメラーニャン見ると珍しいもんだ、すーぐ『可愛い』言うて捕まえて、連れて帰っちまうんだべ。そんでもっていいもん喰わせて。
一週間、一緒に暮らしてみぃ」
田吾作はそこで一旦言葉を切り、さも恐ろしいと言った風に身体を震わせる。
「後悔で泣くぞ……『この大量の毛玉を誰かどうにかしてくれ』っつって」
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マルメッタの街は今、百匹以上のポメラーニャン達に襲われて大混乱に陥っていた!
「何てこった…!」
玄斎は寂しくなった頭頂を掻きむしった。窓から目を離し、キッとベロニカを睨む。
「元はといえば、お前が変な魔物を飼い出すから!」
「それはお互い様でしょう!!」
「あぁん!?」
「ああもう、こんな時に喧嘩してる場合じゃないよね!?」
またしても一触即発状態になる二人の間に、見かねた紅が割って入ろうとした、その瞬間!
バキャ!!!という破壊音と共に、応接セットのテーブルが真っ二つに割れた。
卓が、ブーツに付いているゴツいヒールでテーブルを踏み抜いていた。その顔は笑顔――だが、目が笑っていない。
静まり返る部屋。
「アンタ達…いい加減にしなさいよ……」
卓は笑顔のまま、こめかみに青筋を立てながらいつもより数段低い声で喋り出した。
「そもそもアンタ達がプライドだか何だかを振り翳して始まった事でしょう。
これ以上犬も食わないケンカを続けるようなら、魔物達の数の暴力で、文字通り街ごと喰われて全部パァよ。財産も屋敷も、アンタ達が築いてきた料理も、ぜーんぶ捨てて街を出て行かなきゃならなくなるわ」
卓の圧倒的迫力に、全員が戦慄を覚える。起こしてはいけないものを起こしてしまった、と、玄斎とベロニカは揃って震え上がっている。正に蛇に睨まれた蛙だ。
「でも、今はこの子達がいる」
卓はそこで言葉を切り、紅と蒼龍の肩を、ぽん、と叩く。「え?」という顔をする二人の肩を抱き寄せて、卓はニヤリと笑った。相変わらず目は笑っていないが。
「ポメラーニャンを退治するなら、この子達の力が必要よ。この子達が呆れてどっか行っちゃう前に、どうする?街ごと死ぬ?
それとも、今更かもしれないけど責任取る?」
「ひいぃ……」
「は、はいぃ……」
卓の背後に宿る般若の姿を見て取って、玄斎とベロニカは、涙目でこくこくと頷く事しか出来なかった。
その姿に、卓は今度こそにっこりと微笑む。
「よろしい。じゃあ競争しましょう」
卓の言葉に、全員首を傾げる。
「西と東、どっちが多くポメラーニャンを退治出来るか競争するの。負けた方が一ヶ月、勝った方の言う事を聞く。どうかしら?」
「乗った!」
「臨むところよ!」
競争と聞き、俄然ボルテージが上がる玄斎とベロニカ。早速、玄斎は自分の使用人や徒党である東の料理人を集めに部屋を出て行く。追いかけるように、ベロニカは同じように皆に声を掛けるべく、一旦西側へと戻る為に部屋を飛び出して行った。
「単純」
「……」
紅と蒼龍は我先にと走り出す二人の背中を、半ば呆れて見送った。
「さあ、アンタ達も働くのよ!報酬はあの二人からたんまり頂いちゃいなさい!」
「路銀の為だ。仕方あるまい」
「ふへぇ…」
卓に追い立てられるように、紅と蒼龍は、がっくり肩を落としつつ、ポメラーニャン退治へと向かった。




