09「ウソ発見器」
「おや、緊張させてしまいましたかね。すみません、職業柄どうしても人を疑わねばいけないもので」
俺の緊張が態度に出てしまっていたのか、彼女はそんなことを言ってくれた。
確かに初対面の俺の顔面のインパクトもあって、印象は悪かったのだろう。ダメージも受けたし。だけど、もしかしたら彼女はそんなに悪い人じゃないのかもしれない。
「もう、コヨンちゃん可愛いんだからもっとゆるーい感じで話せばいいのに」
「……いや、嘘発見の魔道具を扱う人間がそんなんじゃダメでしょう」
リナさんとコヨンさんは仲が良いのか、軽い感じで話している。リナさんの友人なら、やっぱり悪い人じゃないんだろうな。
「さて、と。異国から転移魔法で飛ばされてしまい、補償金申請の為の事実確認をする……という事で間違いないですかね?」
「あ、はい。と言っても、俺にもよくわかってないんですけど」
「ニホンって国は聞いた事も無いし、そもそも黒目黒髪なんて珍しいし、文字もわからなくて困ってるみたいだったのよ」
「ゴンゾーとは会ったばかりだけど、この辺の人じゃないっていうのは間違いないと思うよ」
リナさんとメルが俺の発言に少しフォローを入れてくれた。
「ええ、それを今から確かめるわけです。さて、この魔道具を見たことがありますか?」
そういってコヨンさんは持っていた箱から魔道具らしきものを取り出した。
木の台座のようなものに水晶玉が固定されている。そして台座からは紐のようなものが伸びていて、その紐の先端は手で握れるようなグリップみたいなものがついていた。
「いえ、初めて見ました。なんか占い師が使う水晶玉みたいですね」
とりあえず見た目の正直な感想を言ってみる。
「あなたの国では、占い師が水晶を使う……のですか? とりあえずこれは水晶では無いのですがね。簡単に言いますと、これを握った状態で嘘を言ってしまうと、これが光って嘘を看破できる、という仕組みなのですよ。例えば……リナ、ちょっと」
「え、私?」
コヨンさんは魔道具のグリップ部分をリナさんに手渡した。
「リナ、あなたは暇だからって仕事中に美女が大きな獣のような人に襲われるような小説を好んで読んでいますね?」
いきなりの爆弾発言だった。
いや、まあ最初の受付での出来事でそういうものはとっくに感じ取れていたというか、何となくわかってたけど。
「なな、な! 何言ってるの!? そんな小説、よ、読んでないけど!?」
突然暴露をされてしまったリナさんは驚きの声を上げ、否定するかのようにオロオロしながらコヨンさんと俺たちの顔を交互に見つめてくる。
あの感じで周囲にバレてないつもりだったのか……。
「あ、魔道具が光ってる!」
メルの一言で俺も魔道具に目を向けてみると、ピカーっと光っている。
つまり、リナさんのそんな小説は読んでいないというのは嘘だという事だ。知ってた。
「……とまあ、このように嘘をつくと瞬時にわかる仕組みになっていますよ。精度は九十九パーセントとも言われています。複数回質問すればまず間違いないでしょう」
魔道具の精度の高さを、ふふーん、と腰に手を当ててふんぞり返るような仕草で自慢するコヨンさん。ちょっと可愛い所もあるじゃないか。
一方でリナさんは趣味やサボりを暴露された事をぷりぷり怒っている。正反対のように見えるけれど、こんな事ができるくらいにはやはり仲が良いのだろう。
「では魔道具について理解して頂けた所で、これを握って質問に答えてください。それでは質問を始めますよ」
魔道具の説明と場を和ませるためのちょっとした冗談もあったのだろうか、軽い笑みを見せてコヨンさんは続けた。
「では、お名前と年齢を教えてください」
魔道具を握りながら、俺は答える。
「安達山権蔵。安達山が家名で、権蔵が名前です。歳は十六歳」
名前と年齢だし、嘘は何一つ言っていない。なので当然魔道具は光らない。
だが……。
「え?」
冷静な表情だったコヨンさんが俺の年齢を聞いたあたりでピクっと反応して声を上げた。
またこの反応か……。
「何か年齢に問題でも?」
「い、いえ、とても大人びた印象でしたから、ついつい……失礼しました。では、種族と出身地をお願いします」
軽く誤魔化すように言いつつ、コヨンさんは続けた。
「出身は日本で、種族は……正直言って日本では俺と同じような種族以外を見たことがないから、よくわかりません。だけど顔とかじゃなくて身体的特徴で周りの皆と同じようなものって考えたら、人族だと思います」
これも嘘じゃない。なので、魔道具は反応しない。
「ほう……本当にニホンという国が……。しかし、あなたが人族なのは……たぶん間違いないとは思いますけど……ええ、きっと。人族以外を見たことが無いのに何故翼人族がニホンに居てあなたを転移魔法で飛ばしたのですか?」
あぁ、確かにそうだ。適当だったけど日本では人族以外を、って言ったのはよかったかもしれない。あのクソ天使を見たのは日本じゃ無かったしな、嘘ではないという事だ。しかし人族判定が何というか、ちょっと厳しいな。まあ異世界だし、色んな種族がいるんだろうけどさ。
「学校の部活……課外活動っていうのかな? それの帰りに公園で休んでたら、気付いたら目の前に翼のある金髪の女がいて、これまた気が付いたらこの国に居ました」
この言い方なら嘘は何一つ言ってないし、問題ないだろう。魔道具も光っていない。
「光らない……という事は真実のようですね。しかし翼のある金髪の女性、となるとやはり翼人族の特徴とも一致しますね。翼人族は翼で飛べますし、居住地域を広げたのでしょうか……あるいはニホン国に近い国に別の翼人種が居たのか……」
ぶつぶつと言いながら考え込むようにコヨンさんは俯いている。
その少しの間に今度はリナさんが質問してきた。
「あの、学校と言っていた気がするんですけど、十六歳ということは成人していますよね? ならアダチヤマさんは大学に通われているのか、それとも教師の方なのですか?」
ふむ、さすがは異世界だ。やはり文化とかそういうものも全然違うみたいだ。
「いや、俺の国だと十八で成人なんですよ。まあ、六歳くらいから九年くらい学校に通う義務があって、そこから先は自由って感じです。大体の人が追加で更に三年くらいはまた別の学校に通います。俺もその途中だったんで。ちなみに大学はそれを卒業したら行く人もいるって感じですね」
これも光らない。
しかし、文化の違いだろうか、三人は驚いたように俺の話を聞いていた。
「九年も学校で教育を受けて、そこから更に三年も……。なるほど、国民が高度な教育を受けて成人するという事ですか。大変興味深い……ところでその学校での教育水準は……」
「コヨンちゃん、脱線しちゃうから……」
「う……失礼しました。しかしニホンがどこにあるのか、ミンティカの翼人による被害なのかが判断が難しい……ただ転移で飛ばされたこと自体は事実のようだし、うーん……」
ああ、やはり補償金とはいっても、ただこの国に飛ばされたからって貰える訳では無いのかな?
「ねー、ゴンゾーは何かニホンの物とか持ってないの?」
「ん? ああ、少しだけならあるけど、役に立ちそうも無いんだけどな……」
こんな異世界で役立つとは思えないが、他に証明できそうな物もない。
片手は魔道具を握ったままなので、俺はもう片方の手でポケットを漁り、数少ない持ち物をテーブルの上に出していった。
財布と、充電の切れたスマホと、生徒手帳だ。
さて、この中で何か役立つものはあるだろうか……。




