08「ギルド登録」
さて、ギルドは日本で言うハロワに近いことはよくわかった。
そこで登録して、ギルドカードという身分証みたいなもんを作ってしまえば色んな仕事を紹介して貰えるというわけだ。魔獣討伐なんかの危険な仕事もあるみたいだが、まだ俺はこの世界に来たばかり。まずはこの世界の事を知りつつ色々とやっていきたいところだが……。
「さて……」
「ゴンゾー、どうしたの?」
俺の隣でメルは登録用紙に色々と書いているようだ。
俺の目の前にも登録用紙はある。書く物も用意されている。しかしだ。
用紙を前にして、俺は固まった。
「……読めねぇ」
そう、書きたくても書けないんだ。
俺は今でも日本語を喋っているつもりだが、言葉はなぜか通じている。異世界に来た時の何かの影響かもしれないが、どうにも文字だけはさっぱりだ。
「あ、そっか。ゴンゾーは異国から来たんだったもんね。共通語喋ってるから文字も大丈夫だと思ってたよ」
「あら、異国から来られたんですか。でしたら、私が代筆しますよ」
受付嬢のリナさんがそう言うと、俺の登録用紙を手に取り、笑顔を向けてくれた。
「では……まずはお名前と年齢をお願いします」
「ああ、はい。安達山権蔵です。安達山が名字……えっと、家名で、名前が権蔵。それと歳は十六歳」
「アダチヤマ……ゴンゾーさん。珍しいお名前ですね。それと……え!? 十六歳!?」
何事にも動じないプロかと思っていたが、初めて驚いたようだ。
リナさんは少し混乱した表情で俺の顔を確認している。
「何か問題でも?」
「いえいえ、失礼しました。とても体格が良いので、少し勘違いをしてしまいました」
すぐに笑顔を取り戻し、気遣いの言葉も忘れない。変な趣味はある人かもしれないが、やはりプロだ。
「次に種族と出身ですが……異国出身とのことですけど、どちらの国でしょうか? 黒髪黒目はあまり見たことがありませんし、私もミンティカ以外の国はあまり詳しくないもので……」
種族ってのは、人族とかゴリラウタン族とか言ってたアレだろう。さすがに俺は人族でいいとして、問題は出身国だ。日本なんて言ったところで通じる訳がない。メルに話した時みたいに、少しぼかすしかないか。
「そもそも俺の国には人族? 以外が居ないからわかりませんけど、まあ人族だと思います。出身は日本って言うんだけど、そもそも俺も金髪で翼のある女のせいで気付いたらここに飛ばされてたから、俺もここが何処だかよくわかってないんですよ」
「ニホン……? って、えぇ!? 翼人に転移魔法掛けられたって事ですか!?」
リナさんは明らかに顔を引きつらせた。
「またあの種族は国外でも迷惑を……というか国外に翼人種が行ってしまったという事ですよね……あぁ、大変な事に……」
お、また翼人だ。まあ翼のある奴に迷惑かけられたってことは嘘は言ってないし、とりあえずこれでいいだろ。
「アダチヤマさん、こういった場合には転移事故による補償金が支払われることになっております。少し事実確認をさせて頂ければすぐにでもお支払いできますが、よろしいですか?」
ふむ、事実確認っていうのはよくわからんが、補償金が貰えるっていうのならありだ。
あのダメ天使の管轄の世界での事故なんだし、これは合法だろう。
「まあ補償金が貰えるっていうなら有難いですけど。……でも、事実確認って?」
「嘘を看破する魔道具があるので、それを使っていくつか質問に答えて頂くだけです。中には補償金詐欺目当ての人間もいますからね」
笑顔のままリナさんはそう答える。
あれ? ちょっとまずいか?
いやでも嘘は言ってないし、質問に対して嘘さえ言わなければいいだけだし、まあ何とかなるだろう。
「では続きは別室で行いましょうか。魔道具は別室にあるんです。扱いも、魔道具師の方が居なければいけないので、すみませんが……」
「ああ、いいですけど……」
別室か。なんかちょっとだけ恐怖を感じる。
そう、あれは昔、顔が怖いというだけで子供に泣かれて、それを警察に見られて補導されかけてしまった時……いや、思い出すのは止めよう。悲しくなる。
「あ、あの、私も一緒に、いいですか?」
不安そうにしている俺を察してくれたのか、はたまた一人になるのが心細かったのか、メルがそう言ってくれた。
「ええ、もちろんいいですよ。一緒に色々手続きした方がいいですし、貴方からも色々聞くかもしれませんからね」
たぶん本当は証人とかが必要だからなんだろうけど、メルも一緒に来ることを了承してくれた。まあ、俺としてもやっぱり一人で別室は心細いので大変助かる。
それに、まだ出会ったばかりだが、メルは信頼できる人間だ。
やべぇスキルだと思った俺のスキルだけど、このスキルでステータスが上昇したりするという事は、少なくとも俺に対して悪感情は抱いてないってことだ。
そういう意味では、口先だけの嘘も見抜いてくれる便利スキル……とも言えるのかもしれない。悪感情でダメージを受けるのは勘弁してほしいものだが。
さて、リナさんに案内されて、俺たちは受付から少し離れた別室へと移動することにした。
とはいえそれほど遠いわけでもなく、移動そのものはすぐだった。
「では、こちらで座って少しお待ちください。魔道具と、魔道具師を呼んで参りますので」
部屋まで案内してくれたリナさんは、すぐにまた別の場所へ小走りで急いでいった。
「わー、豪華な部屋だねー。外観はボロかったのにね」
「確かに……金使うとこ間違えてる感じはするな」
部屋の中はいかにもな応接室、といった感じだ。向かい合う大きなソファーと、その間にはまた大きなテーブル。床にはちょっと高そうな絨毯が敷かれている。
取調室のようなものを想像していたが、期待を良い意味で裏切ってくれたようだ。
しかし、変に嘘がばれたりしたら大変な事になるかもしれない。何とか嘘だけはつかないようにしよう。
しばらく待つことになるかと思っていたが、ほんの数分でリナさんは魔道具師の人を連れて部屋に戻ってきた。
「お二人とも、お待たせしました。こちらは魔道具師の……」
「どうも、初めまして。このギルドの魔道具師を担当している、コヨンといいます」
現れたのは、リナさんと同じような銀髪の女性。三十センチくらいの箱を持っているが、恐らくそれが魔道具なのだろう。
リナさんと並ぶとよくわかるが、小柄でややボサボサの長い髪が目立つ。幼いようだが、目の下にはややクマがあり、その疲れた印象がある意味でちゃんとした成人女性であることを示している。
そして、彼女が醸し出す雰囲気が……何か俺は怖いものを感じた。
『不信感による嫌悪を確認。ダメージを受けます』
「ぐっ!」
あ、初対面の印象だけでダメだったわ。
「ゴ、ゴンゾー、どうしたの?」
「い、いや、なんでもない……ちょっと驚いただけだから……」
三人ともいきなり声を出してしまった俺を少し不思議に思っているようだ。
さて、この事実確認とやらは失敗しないように立ち回らなければいけない。
少し緊張するが、嘘だけはつかないように、何とかやってみるか……。




