07「ギルドに行こう!」
メルと二人で歩きつつ、雑談をしながら俺たちはギルドへ向かっていた。
軽く俺の身の上話を、少しぼかしながら話したりもした。さすがに異世界から来た、なんて言えないから、商人のおっちゃんに話した事と同じような感じだ。
「それで、変な金髪の翼の生えた女に飛ばされたと思ったら、気づいたらここに居たって訳なんだよ」
「あー……もしかして、翼人種かな? 悪戯が好きで、色んな人に迷惑かけちゃうんだって聞いたことあるよ」
また翼人か。どうやらこの世界の翼人とやらはすこぶる評判が悪いようだ。
「まあ、だからって故郷に帰るつもりも無いんだけどな。せっかく見知らぬ土地に来たんだし、こっちで暮らしていくのも悪くないだろうし」
そう、日本にはもう戻れないだろう。
もう一度あの天使に何とか会えたなら、転生をやり直すこともできるかもしれないけど、それまでここで生き抜いていかなきゃいけないのも事実だ。
「ほえー……ゴンゾーも苦労してるんだね……。私なんかは観光気分のついでにこの街で稼げたらいいなーってくらいだもん」
そんな感じでメルと雑談しながら連れ立って、教えてもらった通り大通りをまっすぐ歩いていくと、すぐに目につく立派な建物があった。
「たぶん、あれだね。おっきな建物ー!」
メルが指差した先には、石造りの大きな建物があった。
「おお……でけえな。でけえけど、なんか……」
ファンタジーな石造りの建物。中央にはでっかく文字が書かれているが、俺には読めない。でもたぶん、冒険者ギルド、みたいな事が書かれているのだろう。
しかしこの建物、よく見ると壁に矢が刺さってたり、ドアが半壊していたり……。
「建物、ちょっとボロくね?」
入口横の壁には剣傷みたいなものが走り、窓ガラスも一部割れている。
本当に大丈夫か、ここ?
「えっと……たぶん、活気があるって事だよ! 活気!」
「活気って言葉で済ませていい損壊か、これ?」
不安にはなるが、考えていても仕方がない。ともかく俺たちは中へ入る事にした。
扉を開けた瞬間、騒がしさが耳に飛び込んでくる。
「うおおお、すげぇなアレス! ゴブリンの耳をこんなに!」
「ぐわあああああ! また負けたぁぁぁぁぁ!」
「チクショウ、誰だ俺の肉食ったの!?」
ワイワイガヤガヤと非常にうるさい。カオス空間だ。
どう見ても冒険者……というかチンピラ達の溜まり場だ。
場違い感に圧倒されていると、メルがそっと袖を引いた。
「だ、大丈夫だよ……一緒に行こ」
「あ、ああ」
受付はカウンター形式で何列かあった。とりあえず一番人の居ない列に並ぶと、前の屈強そうな男たちが次々と依頼書を叩きつけているのが見えた。
「ちょっと緊張するな……」
「私も初めてだけど、何とかなるよ! 大丈夫だって」
「いや……うん。そうだよな、結局はただのハロワなんだから」
仕事の請負場のようなものだと商人のおっちゃんは言ってたし、たぶん俺の世界のハロワのようなもんだろう。まあ、俺はハロワに行ったことは無いが。
「ハロワ……何それ?」
「ああ、俺の国にある職業斡旋所、みたいな所だな。俺は行ったことが無いけど、たぶん同じようなもんだろ」
「へー、国が違ってもやっぱり同じような施設とかあるんだね」
そんなやり取りをしているうちに、俺たちの番が来た。受付にいたのは――
「あら、新人さん? いらっしゃいませぇ~」
……めちゃくちゃ色っぽい、銀髪ポニーテールのお姉さんだった。
胸元の開いた制服、片目でウインクをするあざとい仕草、いかにもな大人のお姉さんって感じだ。
「私は受付のリナ。ギルド登録をご希望ですか?」
彼女は嫌な顔一つもせず、笑顔でそう答えてくれた。
やはりこういう仕事とかちゃんとしている人はいきなり俺の顔を見て差別的な事をしてきたりはしない。
「え、あ、はい。俺、権蔵っていいます。こっちはメルラン。ここに来たら金が稼げるって聞いて、一緒に来たんすけど」
「まぁ、一緒に来た……? そういう関係なんですね?」
「ち、ちがっ! あの、偶然っていうか、まだ知り合ったばかりで!」
「うふふ、初々しいわね。とにかく、ここで登録しておけば色んな依頼やお仕事をして、お金は稼げるわよ。モンスター討伐や採取依頼、街の工事や掃除のお手伝いまで何でも、ね。討伐依頼なんかは、ランクを上げてからじゃないとできないものが多いけどね」
ふむ、やはり俺の想像していた通り、ハロワのようなものであまり間違いはなさそうだ。
ただ、モンスター討伐、なんていうのはさすがに異世界ならではなんだろう。危険が少ないなら、そういった事で稼ぐことも考えておかないとな。
「ああ……それにしても、いいわね……」
「へ?」
「この、汚れを知らない無垢な美少女と、世の不条理を一身に背負ったような野獣のごとき青年……! 本来なら決して交わるはずのない二人の境界線が、運命という名の残酷な悪戯で溶け合っていく……。一見すれば不釣り合い、周囲からは嘲笑の的! でも、その向かい風が強ければ強いほど、二人の間に芽生えた『愛』という名の背徳感は純度を増して輝きを放つ! 人目を忍び、罵倒に耐え、それでもなお、この醜悪な腕の中にこそ自分の居場所があると確信して微笑む少女……! ああっ、たまらない! この圧倒的な格差こそが、至高の供物なのよ……ッ!」
リナさんは頬を赤らめながら恍惚とした表情で語っていた。
……ああ、この人はなんかそういう、妄想癖とか特殊性癖のある、駄目な人だ。
今後はちょっと、いろいろと気を付けよう。
『軽度な好意を誘発。ステータスが微上昇します』
また頭の中に声が響くが、何というかな……。
「好意なんだ、これ……」
「え? どうかしたのゴンゾー?」
「いや、なんでもない。で、登録って何をすれば?」
「ああ、ごめんなさいね。こちらの紙にお名前、年齢、種族、出身、得意分野などを書いてもらいます。あとは登録料に千アラド支払って貰って、諸々確認ができたらギルドカードを発行しますよ」
千アラド。おっちゃんの串焼きが二百だったから、まあ妥当な値段だ。
しかし……。
「金……俺、ちょっと持ってなくて」
金を稼ぐための金が無い。なんか、服を買いに行くための服が無いような状態だ。
どうしたものかと思っていると。
「だったら! 私が払います!」
メルが胸を張るように、ビシッと手を上げて、そう言ってくれた。
「いいのか?」
「もちろん。ゴンゾーと一緒に色々やってみたいなーって思ったし! それに……なんだか、ほっとけない感じがするんだ」
『好意を確認。体力小回復、ステータス上昇』
今度は今までより何か強い何かを感じた。
やはりこのスキルは好意や悪意で強くなったりするもので間違いなさそうだ。
しかし、出会ったばかりの俺にこんなに親切にしてくれて、顔で差別もせずに優しくしてくれて、メルはほんまにええ子や……。
「ありがとうメル……助かるよ。稼いだらちゃんと返すからな」
「ああ、いい……! やっぱり愛なのね!」
受付嬢の……リナさんとやらは何かまたよくわからんことを言っていたが、ともかく俺はさっさと稼いでメルに恩を返すためにも、さっさと登録をすることにした。




