06「何だよゴリラウタン族って」
天使という存在は確かにいた。
でも、俺が知るその天使は役立たずのクソだ。
間違えて俺を殺した挙句、ハードモードでこんな異世界に飛ばしやがった。
生まれ変わっていたならもう少し違ったんだろうが、こんなゴリラみたいな不細工な顔のままでは生きていくのはなかなかキツいものがある。せっかく生まれ変わって嫌いな顔ともおさらばできると思っていたのに……。
キツい理由はひとつ、この世界に飛ばされた時に与えられた俺のスキル。
詳細はまだ知らないが、今のところわかっている事としては、二つ。
他人から好かれる事でステータスが上がったり、体力が回復する。
逆に嫌われる事でダメージを受ける。
イケメンだったら最高のスキルかもしれないが、この不細工面ではハズレもいいとこだ。
封印スキルとのことだが、あまりに使えなくて封印されていたスキルだというのが今のところ俺は推測している。
まあそれは置いといて、今俺の目の前にある緊急事態だ。
桃色ツインテールの美少女が、俺を見つめている。
最初に優しい声を掛けられたと思ったら、期待はすぐに裏切られた。
「ウホホ、ウホ?」
煽ってんの? ねえ俺喧嘩売られてるの?
日本でもこんな煽られ方は、さすがにされた事がないよ?
こんな如何にもゴリラの物真似ですって感じで話しかけられても、俺にはどうする事もできないんですけど。できるとしたら殴るくらいなんですけど。
女性は殴らない主義だけど、とある天使と目の前にいるこいつは殴りたい。
が、ひとまず落ち着こうじゃないか。
彼女はなんの目的があってこんな俺を煽るような真似をしているのかだ。
「なあ、何のつもりだ? 煽ってるつもりなのか?」
もうそのまま聞いてみる事にしよう。ちょっと感じ悪いかもしれないが、ある意味お互い様だ。
しかし俺の言葉を聞いた彼女は更に驚いた顔をして、俺も驚いたが、彼女は謝罪の言葉を放ってきた。
「え……あ! ごめんなさい! 人族だとは思わなくって……」
事もあろうに彼女は、俺をモンスターか何かだと勘違いしていたようだ。
ははは、善意には違いは無かった訳か。それで彼女は人間以外の言語で俺に親切にも語り掛けてくれたわけなのか。
ははははは! 泣きそう。
「あの、すみません。てっきりゴリラウタン族の方と間違えてしまいまして……。あ、でもゴリラウタン族の方にも共通語が話せる方もいるって聞いた事が……」
なんだよゴリラウタン族って。ゴリラみたいな顔の奴はそんな種族になるっていうのか。
しかも彼女、まだ俺をゴリラウタン族だと思ってやがる。
「俺は人間だ。そんな聞いた事も無い種族じゃねぇよ」
「えっ!? あ……わ、わたしったら、なんてことを……!」
彼女は慌てて頭を下げた。勢い余ったお辞儀を繰り返しながら、土ぼこりを撒き散らす。
「申し訳ありません! あの……あまりにも、インパクトが……その……」
「……顔が?」
「う……い、いえ、えっと……! なんというか、雄々しさというか、原始の力強さというか……!」
ごまかし方が逆に心に刺さる。
俺は頭を抱えた。
「はぁ……まあいい。別に今に始まった話じゃねぇしな」
「えっ、でもさっき、倒れてませんでした?」
「いや……まあ、その……ちょっと、ね」
よくわからないスキルのせいでダメージを受けて倒れていました、何て言っても信じてもらえないだろう。
そんな風に思っていたら、周囲の人たちが俺たちに目線を向けていた。
「ちょっと……女の子が絡まれて……どうなのかしら? 犯罪者が何か吹き込んでるのかも?」
「通報した方がいいのかしら……」
『嫌悪によるダメージを確認します』
「ぐっ!? クソッ、またかよ!」
「ええっ!? 何が起きたんですか!? だ、大丈夫ですか!?」
心配そうに駆け寄ってくる少女。その瞳は本当にまっすぐで、濁りのない色をしていた。……俺みたいなのにも、あんな目で。
『同情、気遣いを確認。体力をわずかに回復します』
……ちょっと泣きそうになった。回復したからじゃない、なんか、心が。
「ありがとう……」
「いえ、こちらこそ。あの、私はメルランって言います。冒険者を目指して旅してるんです。あなたは……?」
「俺は……権蔵。なんか色々あって、今は行くあてもなくてな……」
「ふふ、なんだか不思議ですね。さっきまで『ウホ』って返されると思ってた相手と、今こうして話してるなんて」
「……しかし、仮に俺がそのゴリラウタン族? ってのだったとして、メルランはその種族の言葉が話せるのか。凄いな」
「メルでいいですよ。私、結構色んな所を転々としてるので、色んな言葉を覚えるのが趣味みたいになっちゃってるんです。でも、ゴリラウタン語はまだ片言くらいしかわからないんですけど……」
なるほど。しかし、片言程度しか話せない言葉でも困ってる人に話しかけるなんて、やっぱりこの子は良い子なんだろうな。
「そうなのか。ああ、俺も友人にはゴンとかゴンゾーとか適当に呼ばれてるんだ。なんなら敬語もいらない。たぶん、同い年くらいだろ?」
「じゃあゴン……え!? 同い年!?」
あ、今度は違う意味で驚かれてしまった。
まあこれくらいなら気にしない。顔云々もあるだろうけど、それなりに身長はあるし体格も良い方だ。少し上に見られるのはいつもの事だ。
……まあ、いくつくらいに思われてたのかはちょっと気になるが。
「……俺、十六なんだけど」
「そ、そうなんだ……。私も十六だから、同い年だね。そっか、そうなんだ」
なんだか少し嬉しそうにしているメルを見ると、少しだけ気が楽になった。話のわかる子でよかった。少なくとも、顔で色々決めつけて心を殴ってくるようなタイプじゃなさそうだ。
この世界に来てから初めて、人間として会話できたような気がした。
「それで、これからゴンゾーはどうするの?」
「とりあえずギルドに行こうと思ってる。金もないし、仕事でもしねぇと腹も膨れねぇしな」
「……じゃあ、よかったら、私と一緒に行かない?」
「え、いいのか?」
「私も、とりあえずお金稼いでおきたいし。それに、初めての大きな町で一人旅はちょっと心細くて。でもゴンゾーなら、なんだか安心できそうだから……」
『信頼と軽度な好意を確認。ステータスが一時的に微上昇します』
体がふっと軽くなる感覚だ。メル、お前は神か……?
「よ、よし、なら一緒に行くか。俺も、一人は寂しいしな……」
「ふふっ、これからよろしくね。ゴンゾー!」
こうして俺たち二人は、ギルドへ向かって歩いて行った。
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