61「報告の日に」
ゴブリンキングを倒した日から三日後。俺たちは報酬金の受け取りとランクアップ手続きのため、再びギルドを訪れていた。
この三日間は特に大きな出来事もなく、宿で休んだり街を歩いたりとのんびり過ごしていた。
ギルドに到着してからすぐ、俺たちを見つけたリナさんに奥の別室に連れて行かれた。以前に補償金を貰った部屋だ。
「じゃあ、ここで待っててね。あ、あとギルドカードもちょっと預かっていいかな? ランクアップ処理するのにちょっとだけ使うから」
リナさんは俺たちからギルドカードを受け取ると、そそくさと部屋を出て行った。
昼過ぎなら暇な時間かと思っていたんだが、忙しい時間だったんだろうか。
それからしばらくして、シノとコヨンさんがやってきた。リナさんはいないようだが……まあ、受付っていう本来の仕事があるもんな。
シノは部屋に入るなり、俺と目が合うと笑顔を見せて軽く手を振ってくれた。
ちくしょう、やっぱり男とは思えない程に可愛いんだよなぁ……。
コヨンさんはいつもの通り、ボサボサの跳ねた髪と目の下の隈が相変わらず目を引いた。
……ギルドって、寝る暇も無いほど忙しいんだろうか? でもシノはそうでもなさそうだから、本人の生活習慣なんだろうか。
そして軽い挨拶の後、コヨンさんは手に持っていた物をテーブルに置いた。
「お待たせしました。では、これがランクアップした新しいギルドカードと、今回の報酬金……百六十万アラドですね。少し色を付けておきましたよ」
「ひゃ、ひゃくろくじゅう……万……?」
聞いていた額よりも少し多い。メルもミリィも同様の反応で、シノはまあギルド側の人間だからか、あまり驚いた様子はない。
「一人当たり四十万か……」
恐らくきっちり四等分するだろうけど、そうすると俺の手持ち金額もあと少しで百万に届きそうな勢いだ。
「一回の仕事でこんな大金を手にするの、私初めてだよ……」
「まあ、駆け出しパーティーが一度の依頼で手にする額としてはかなり珍しいですね。もし全額持ち歩くのが不安でしたら、ギルドに預けますか? うちは預金もやってますし、手数料も最初に千アラドかかる程度ですよ。以降は報酬金も直接口座に預ける事ができますし、オススメです」
ああ、ちょうど聞きたかった話がコヨンさんの口から出てきてくれた。
この世界でも銀行みたいなサービスはやっぱりあったようで良かった。あんまり大金を持ち歩くのはやっぱり少し不安だったんだよな。
「とりあえず、今回の報酬金は皆できっちり四等分でいいよな?」
反対する者はいないだろうけど、一応聞いておく。
「引率者の立場としては、私はもっと少なくてもいいんですけどね~。ギルド員としてのお給料もありますし~……」
「ええ!? そ、それなら私も今回の依頼はあまり役立てなかったし……」
シノとメルからまさかの増額では無く減額の申請がきた。
こういう性格が良い所かもしれないけど、だからといってその分俺も多く貰う訳にもいかない。
「……だからって俺だけ多く貰うのも申し訳ないし、次一緒にやりにくくなるからきっちり四等分にしようか。ミリィもそれでいいよな?」
「わたしは何も問題ないですよ。現状、あまりお金にも困ってませんし」
まあこいつは宿代もタダだもんな。入ってきた金は今の所食べ物以外には使ってないみたいだし、貯まる一方だろう。
「じゃあ四等分するとして、俺の分の四十万は全額預けたいんですけど」
手持ち金額にも余裕があるし、とりあえず俺の分はこの際全額預けておこう。
この世界の金は硬貨一枚で十万とかの物もあって、持ってると少し不安になるんだよな。
「ゴンゾー、豪気だねぇ……。でも私も預けといた方がいいかな。私は半分の二十万ほど預けときます!」
メルも俺と同じように預けておくようだ。
それからミリィも同じように半額を預けて、シノも同じように半額を預けていた。
「ふむ、では報酬金はそのようにしておきますね。後でギルドカードに情報を紐づけるので、登録しておきましょう」
手続きに使うのだろうか、コヨンさんは書類と思われる何かに色々と手早く書き込んでいる。
それを終えると、今度はまた真面目な顔つきで話し始めた。
「……さて、それとは別に今回は依頼の詳細を聞いておきたいんですよね。ゴブリンキングは間違いなく本物でした。少しこちらでも調べましたけど、頭部の致命打は明らかにシノビアラのものではありませんでしたし、アダチヤマさんが倒したというのは本当なのでしょうね。トドメの一撃だけシノビアラが譲ったのなら納得いく話なのですが、シノビアラの話を聞く限りは違うようですし……」
やっぱり、そういう話か。
実際の所、おかしな事だろうしな。
「アダチヤマさんが悪人ではないというのは分かっているのですが……もう一度聞かせて欲しいんです。あなたは何者ですか? 少なくともそんなレベルでゴブリンキングを倒せる人間なんて、私は知りません。それともニホンという国の人間は、それほど強いのが当たり前なのですか?」
この問いで、部屋が少し静まり返る。
どう答えるべきだろうか。
俺のスキルについては、話さない方がいいだろう。
だけど、スキルが無かったら絶対にゴブリンキングには勝てなかった。どう誤魔化すべきか……。
「以前にも言ったように、日本から突然来てしまった、武術を少しやっていただけの一般人ですよ。それと、日本人全員が強い訳では無いですけど、俺の爺さん……祖父は俺よりも強いですね。ああ、あと剣術を習っていた道場には俺より若くて強い子供もいましたけど……」
とりあえず嘘をつかずにそれっぽい本当の事を言っておこう。
懐かしいな、三つ年下のタカシ君には結局勝てなかったんだよな。そもそも道場の大人ともいい勝負するくらい強かったんだ。彼が異世界に来ていたら剣術スキル二はあっただろう。
「……確か、アダチヤマさんは十六でしたよね? アダチヤマさんが強いのは、強い祖父の教え等があったのかもしれませんけど、それよりも若くて強い人間がいると……。そ、それはやはり珍しい類なんですかね?」
あ、あんまり変な事言うと日本人が戦闘民族みたいに思われてしまいそうだ。
さすがにそこは訂正しておいた方がいいだろう。
「いやいや、かなり珍しいですよ。それに強いって言っても、剣道だけですからね。日本には魔法とかも無いですし、実戦を想定したものでもないですから。あと俺の祖父はかなり特別ですからね。日本でも普通は老いたらそもそも戦えません」
「……そうですか」
コヨンさんは頷いたものの、その表情から疑念が消えたようには見えなかった。
「ところで、魔法が無いとは……それは使える者がいないということですか? まさか種族的に魔法適性が一切無いとか?」
「少なくとも、俺はここに来て魔法ってものを初めて見たので……さすがに日本にも使える人間はいないと思います……」
テレビで見る超能力者とかが本当は魔法使いだったとか、実は裏世界ではそういう人達が……なんて漫画のような事が無い限りは日本……というか地球で魔法は無いだろう。だから科学が発達したんだって何かのアニメでも見た気がするし。
「そうなると日本人というのは……以前見せて頂いた『すまほ』とか言う通信機……魔力が無いのにかなり技術が発展しているように見える……。いや、無機物に魔力を込めるのではなく、物理的な法則を巧妙に組み合わせることで、魔法と同等、あるいはそれ以上の結果を生む超高度な魔道具のような機械を作って──」
何か考え込むようにコヨンさんはぶつぶつと言いながら、俯いて難しい事を考えているようだ。
「コヨンさん、脱線してますよ~」
「あ、失礼しました。未知の事への探求心が止まらなくて、つい……」
シノの一言でコヨンさんの独り言のような呟きが止まる。
どうやら、リナさんの暴走のようなものなのだろう。コヨンさんとリナさんは仲がいいみたいだから、妙な所が似てしまうんだろう。
「現場で見てきた意見ですけど~、ゴンゾーさんは熟練の戦士がよくやる、攻撃予測なんかが上手いんですよね~。相手のちょっとした動きを見てどう動くべきか。スキルでは無い、経験による強さってやつですね~。レベル以上の強さの正体は、お爺様の訓練の賜物のように思えますね~」
『軽度な好意と気遣いを確認。ステータスが微上昇します』
シノの意見を聞いた瞬間、いつものナレーションが頭に響く。
好意は素直に嬉しい。しかし、気遣い……もしかして、俺の変なスキルに感づいて、それを誤魔化してくれているんだろうか? 少なくともシノは、俺の事を『誰かを守る時に強くなる、おとぎ話の騎士』だと思っていたみたいだからなあ……。
「なるほど……」
そんなシノのフォローに、納得したのかしていないのか、コヨンさんは深いため息をつきながら言った。
「技術だけでレベル差を覆せる人間は滅多にいません。……ですが、アダチヤマさんが積み重ねてきた努力であることは理解しました。ゴブリンキングも若い個体でしたし、今回は特別だった、滅多にない事例が起きたと理解しておきましょう」
「実際、熟練した成体だったら、私も危なかったかもしれませんからね~。わざと攻撃を受けて無理やり掴んでくる、なんて事もありますから~」
コヨンさんは本心では納得していないのだろうけど、俺もスキルの事を言いたくない。シノにもフォローされたのではこれ以上何も言えないのだろう、今回はこれで一応は理解してくれた。
しかし、肉を切らせて骨を断つような戦法を相手がしてくる可能性だってあったのか……。言語習得のおかげとはいえ普通に会話もできてたから、長く生きてたら老獪にもなるんだろう。
「まあ、その件についてはそれでいいです。次は調査記録についてですね。一応シノビアラからも聞いていますけど、冒険者たち本人からも聞いておかなきゃいけないんですよ。今回は特に、ゴブリンキングが本当に出現していた、という異例でしたからね」
それから先は、普通に依頼の最中に起きていたことや、集落の規模だったり発展度合いだったり、色々な事を聞かれた。
しかし、こういう細かい事は俺は苦手だし、あまり覚えていないので特に役には立たない。途中からずっと一人行動だったから仕方ないと言えば仕方ないんだが……。
基本的にはほとんどメルが受け答えをしてくれていた。報告書の書き方なんかもシノから教わっていたし、パーティーの頼れる頭脳だ。
その後も今回の依頼での出来事を聞かれて、ちょっとした書類にメルが何か色々書いていたけど、相変わらず俺には何を書いているのか、何が書かれているのかもさっぱりわからない。
細かい部分ではミリィまでもが色々口添えをしていた。こういう時は俺はミリィよりも役に立たないのだ。
大金が手に入った後だし、しばらくは無理な事はせず、いい加減に文字の読み書きを本気で覚えた方がいいかもしれないな……。
そんなことを考えながら、ひたすら置物となって皆を眺めていた。
ここから週一ペースくらいで更新できたらと思っています




