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56「報酬と評価は?」


「ええ!? ゴブリンキングが本当に居たんですか!?」


 ギルドに到着して、俺たちはリナさんに今回の調査依頼の報告をしていた。

 と言っても、ほとんどシノさんがやってくれているのだが……そんなシノさんの報告を聞いて、リナさんは驚愕の声を上げていた。


「……はい~。集落ができている程度だろうと思っていましたけど、最悪のケースでした~……」


 そう言いながらシノさんは、ゴブリンキングの頭部の入った革袋を受付のカウンターの上に置いた。

 リナさんはそれを少しだけ開けると、中には緑色の皮膚とツノが見えた。


「……本物、ですね」


 それを見て一瞬固まったリナさんは、小さく息を呑んだ。


「本物ですよぉ~」


 のんびりとそれに答えるシノさん。そんな確認の仕方ある?


「とりあえず、私はコヨンさんを呼んできますね~」


 そう言ってシノさんは奥の部屋へと向かっていった。

 ……奥の部屋まで普通に行くのを誰も気にも留めないあたり、やっぱりシノさんは本当にギルド職員だったんだなと実感する。でも、冒険者と職員って兼任できるんだな。

 しかし、コヨンさんをわざわざ呼ぶなんて……もしかしてコヨンさんって結構偉い人なんだろうか? 魔道具師とは言っていたけど、どうなんだろうな。


「でも、皆大変だったでしょう? たぶん聞いたと思うけど、本当は新人さんが依頼を軽く見たりしない為にゴブリンキングがいるかもーって言ったんだけど、本当にいたなんて……」


 確かに気を引き締める為にそうやって言うのは効果的だと思うけど、本当にそういう事態が起こってしまうと、当事者としては複雑な気分だ。実際死にかけたし。


「ミリィちゃんがいなかったら危なかったんですよ。回復魔法、凄かったんですから!」


 メルがまるで自分の事のようにミリィを褒める。そしてえっへんと胸を張るミリィ。

 まぁ、実際に凄い回復魔法だったと思うし、居なかったら死んでいた可能性もある。


「さすが精霊さんね。でも、回復魔法が必要になるような無茶はしたら駄目よ? 今回はシノビアラが居たから何とかなったでしょうけど……」


 そこは本当にそう思う。俺たちだけで行っていたら本当に危なかったし、ベテランの人の引率は大事だ。

 しかしそこでメルによる言葉で少しややこしくなる。


「でもゴンゾーも凄かったんですよ! ゴブリンキングの討伐もゴンゾーのおかげなんですから!」


 とどめを刺したのは俺だし、嘘では無いんだが……シノさんの手柄にしておいた方が変に目立たなくていいと思ってたんだけどなあ……。


「ええ、でも……シノビアラのサポートをしたくらいでしょう? 手柄を横取りするような事はあんまり言っちゃダメよ?」


 リナさんの嗜めるような声色には、年下を教え導くような、心配するような響きが含まれていた。勘違いを証明するのは簡単だろうけど、真実を口にするのが何だか野暮な事のようにも思えてくる。


「うー……本当なのに……」


「そうですよ! ゴンゾーさんは凄いんです!」


 メルとミリィもすぐには食い下がらず、俺の貢献を話そうとしてくれている。

 ありがたいけど、むず痒いのでちょっと止めてほしい。


「うーん……それにしても、アダチヤマさんも隅に置けないわねぇ。可愛い女の子二人からこんなに慕われてるなんて!」


 ……あ、何かまずそうな雰囲気だ。リナさんは基本的にいい人なんだけど、この人の中の妄想が爆発すると面倒なんだよな……。

 

 そんな嫌な予感は、奥の部屋からシノさんとコヨンさんが戻ってきた事で遮られたが、出てきたばかりのシノさんの言葉で、結局面倒な事になりそうだった。


「いえ~、間違いなくゴブリンキングを倒したのは、ゴンゾーさんですよ~?」


 その強烈な一言に、リナさんは勿論、周りにいたギルド職員や一部の冒険者たち、シノさんの隣にいたコヨンさんまでもが驚いていた。


「はい……? いやいや、シノビアラが倒したのでは……ああ、シノビアラが弱らせてトドメの一撃を譲ったのですか! シノビアラは強いですが、一撃の火力が高いという訳ではありませんからね」


 コヨンさんが推測を語る。

 実際その通りだったと思う。

 シノさんの攻撃で動きを封じて、その後に腕にも斬撃を浴びせ、そのおかげでトドメの一撃を撃てたわけだからな。

 

「う~ん……というか~、最初にゴブリンキングを見つけたのもゴンゾーさんですし~」


 周囲からは「見つけただけだろ」という安堵混じりの声が漏れる。


「一人で集落に潜入したのもゴンゾーさんですし~」


 今度は困惑のざわめきが広がった。「馬鹿なのか!?」という声も聞こえた。うん、それはもう怒られた。


「私達が到着するまで、ほぼ一人で時間稼ぎしてましたし~」


「は……?」


 誰かの素っ頓狂な声が響いた。

 ざわ……と、ギルドの空気が目に見えて変わり始める。


「私達は周囲のゴブリンを抑えていたので、ゴブリンキング相手はほとんどゴンゾーさんでしたね~」


 シノさんの言葉を聞いた瞬間、受付周辺が静まり返った。

 書類を書いていた職員の手が止まり、近くで依頼を眺めていた冒険者達までこちらを見ている。

 そんな中で一番驚いていたのは、当の本人である俺だった。「嘘だろ……」とか「新人だぞ?」とか「ゴブリンキング相手に一人で?」といった囁くような声が周囲から漏れ始める。


「あの……アダチヤマさん。確認しておきたいのですが、全て事実でしょうか……?」


 コヨンさんが疑惑の眼差しで俺を見つめてくる。

 嘘っぽいよなぁ……俺もそう思うもん。


「まあ……ほぼ合ってます……かね。でも、俺一人の力で倒したわけじゃないですね。シノさんや、メルや、ミリィの助けが無かったら死んでたと思いますから。全員のおかげで勝てたって感じですね……」


 これも本当だ。一人でも欠けていたらゴブリンキングは倒せなかった。


「……シノビアラが嘘をつくとは思えませんし、アダチヤマさんが精霊使いである事を考えると、常識では測れませんし……事実なんでしょうね」


 いつの間にかコヨンさんの中で俺は『精霊使い』というものになっていたようだ。

 ちょっと恥ずかしいのでやめてほしい。


「とりあえず~、同行した私としても全員ランクアップは問題無いですね~。ゴンゾーさんの強さだけならもうワンランク上げてもいいくらいでしたけど、強さ以外に冒険者としての知識を学ぶ必要あり、という感じですかね~」


 そういえば今回の依頼はランクアップの試験でもあったんだった。

 シノさん的には合格のようで良かった。冒険者としての知識は……まあシノさんの言う通りだろう。


「やったぁ! 私達、ランクアップできるんだ!」


 メルも喜びの声を上げる。

 だが、そこまで単純でもないようで、リナさんがはしゃぐ声を優しく遮った。


「ああ、すぐ決まりって訳じゃ無いのよ、ごめんなさいね。まあ特に問題は無いと思うけど、ギルド長か副ギルド長に確認を取ってからになるから……たぶん二、三日後かな?」


 リナさんはそう補足するが、まあ数日待つだけか。

 

「コヨンさんの許可じゃダメなんですかね~?」


 リナさんの言葉を聞いて、シノさんが尋ねた。

 コヨンさんの許可って……え? コヨンさんってやっぱり結構偉い人なのか?


「え? コヨンさんってもしかしてかなり偉い人なんですか……?」


 俺の気持ちを代弁するようにメルが尋ねてくれる。


「私にそこまでの権限はありませんよ。というか……シノビアラ、わざと言ってませんか?」


「ふふ、実際私やリナさんより偉いんですから、いいじゃないですか~」


 やっぱりちょっとは偉い人ではあるんだ。

 でも、コヨンさんはなんでちょっと嫌そうなんだろう?

 

「えっと……コヨンさんって魔道具師……でしたよね? それって結構偉い立場なんですか?」


 ちょっと気になったので聞いてみる。


「いえその……まあ、肩書だけで言うなら私は、副ギルド長──」


 コヨンさんから出てきた言葉を聞いて一瞬ハッとする。副ギルド長ってかなり偉いじゃないか。でも、ランクアップには副ギルド長の許可とか言っていたけど、あれ……?

 

「副ギルド長付・魔道具運用部長補佐試補……ですね……」


 何だか恥ずかしそうに、コヨンさんが自分の肩書を語った。

 どこかで似たような肩書を聞いた覚えがあったが……ああ、ミリィだ。

 無駄に長ったるい『下級天使見習い補佐代理心得』とかいうやつ。コヨンさんの肩書もそれに近いものなんだろう。

 ……よく見たらミリィがコヨンさんを同類を見るような目で見ている。何か思う所があるのだろう。


「えっと……それは副ギルド長とはどう違うんですか?」


 よくわかっていないメルが無邪気に聞いて追撃している。

 正直俺も詳しくは分からない。ただ、本来の肩書よりも余計なものがついて格下げされているんだろうなーと言うことくらいはわかる。


「……まあ、副ギルド長の雑用係をやりながら、将来的に魔道具部門の偉い人になれるか試されてる最中、という意味合いですかね……。というか、私の肩書はどうでもいいんですよ!」


 せっかく俺が変に目立つような話題が逸れたと思ったけど、どうやらそうもいかないようだ。


「とにかく、ゴブリンキングが本当に出現していて、それが討伐されたのは事実のようですね。正直言ってゴブリンキングが本当に出現している段階だとは思っていませんでした。まずは謝罪をさせてください……」


 コヨンさんは俺たちの目を真っ直ぐに見た後、深く頭を下げた。


「危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした」


 ただの新米冒険者に過ぎない俺たちの為に、しっかりと謝罪をするコヨンさんを見て、周りの声もしんと静まり返った。

 

「……さて、関係ない人は散ってくださいね。職員たちは仕事する! ……それでは、報酬の話なんですが……」


 コヨンさんの一声で周りにいた冒険者たちも散り、ギルド職員たちも仕事に戻ったようだ。こういう所が凄く立派な大人だと思う。


「私は四等分でいいと思うんですけど~、すぐにはそうもいかないみたいで~……」


 困ったようにシノさんが言い淀んだ。

 何だろう? 四等分なのは俺も賛成なんだが。


「ゴブリンキングとゴブリンの討伐報酬、調査依頼報酬、危険手当、運送されたファングボアの買取に、ギルドからのお詫び等々……色々含めると百五十万アラド位になりそうなんですよ。無理という訳では無いのですが……さすがに一括で払うのは厳しいので、明日以降にして貰えたらと……」


「「「百五十万!?」」」


 俺とメルとミリィの声がハモる。

 シノさんが想定していた額よりも多いじゃないか。

 聞き耳を立てていた数人の冒険者達からも驚きの声が上がる。

 

「一人あたり三十七万五千くらいか……」


「……アダチヤマさん、計算機も無いのに早いですね。とりあえず、どうでしょうか?」


 ふむ。今手持ちの金が無いという訳でもないし、明日以降しっかり貰えるならそれで問題無いだろう。一応メルやミリィにも目配せしてみるが、特に問題無さそうだ。


「ええ、それで大丈夫ですよ」


「ああ、助かります。とりあえず今回の依頼についての詳細もその時にお聞きしたいので、ゆっくりお時間が取れる時にお願いします。それと、お詫びついでにこれも差し上げましょう」


 丁寧に言葉を続けながら、コヨンさんはポケットから小さな木製の板のようなものを複数取り出した。


「それ、何ですか?」


「これはこの町の公衆浴場の無料札です。行った事はまだありませんか? まあ、その……今のあなた方は、返り血とか結構酷いので……是非行ってきた方がいいかと……」


 そう言われ、ふと自分達の姿を見る。

 ミリィは直接戦闘をしていないのであまり汚れていなかったが、俺とメルは返り血やら泥やらでかなり汚れていた。心なしか、ちょっと臭い気もする。


 ……もしかしたら、暗に俺たちが汚れも落とさず臭いままで来てしまったから、明日以降にしてほしいと言われているのではないだろうか?


 考えすぎかもしれないが、さすがに少し気まずくなった俺たちは無料札を受け取り、そそくさとギルドを後にした……。

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