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55「シノビアラの提案」


 さて、ゴブリンキングを討伐し、沢山のゴブリン達の討伐証明を切り取ったり、死体を全てまとめてミリィのセイントファイアとやらで綺麗さっぱり焼いてもらったり……。

 色々とやる事を終えて、ようやく一息つけると思ったのだが――俺は今、皆から説教を受けていた。


「あのねゴンゾー、そういう時はすぐに逃げなきゃ! 一人で集落までついて行くなんて正気じゃないからね?」


「そうです! ゴブリンはわたしよりも小さいんですから歩幅的にも逃げ切れますよ! それがまさか集落まで行ってゴブリンキングと決闘するだなんて!」


 ゴブリン達について行って一人で集落まで行ってしまった事を責められていた。

 でも、喋るゴブリンなんて聞いていなかったから、変異種だと思ったんだよ……。まさかモンスター相手に言語習得スキルが発動するなんて夢にも思わなかったし。


「まあ褒められた行動では無いですけど、無事でよかったですねぇ……」


 シノさんはそう言った後、少しだけ真顔になった。


「でも、何か一つ間違えていただけで、取り返しがつかなかったんですから、反省してくださいね~?」


「はい……」


 ぐうの音も出ねえ。

 実際、皆が来てくれなければ俺は死んでいたかもしれない。

 しっかり反省しながら、後始末を終えたのを確認してから俺達は森を後にした。


 その途中で話題になったのは、今回の依頼の報酬の話だった。


「そういえば、ゴブリンキング討伐の報酬は一体いくら位になるんでしょうか?」


 ミリィがぽつりと呟く。


「そうだね……普通のゴブリンが確か一体四千アラドだったけど、比べ物にならない額だと思うよ! 普通はシノさんくらいのベテランが四人くらいで倒すモンスターだもん!」


 メルも少し楽しそうだ。

 でも確かに気になるな、あれだけ苦労した相手だ。

 命懸けの報酬が安かったら、さすがに泣きたくなる。


「ああ、そうですねぇ……。ゴブリンキング単体の報酬は本来なら百二十万位なんですけど……その……」


 シノさんが手に持った革袋を見つめながら、何か少し言い淀んでいる。

 ちなみに革袋の中にはゴブリンキングの討伐証明、頭部が丸ごと入っている。ちょっとグロいが、そういうものだから仕方がない。


「あのゴブリンキングは若い個体だったので、恐らく九十万位になるかな~と……」


「きゅ、九十万!?」


 九十万と聞いて、俺は想像より多くて少し驚きの声を上げた。


「あぁ、でもゴブリンが三十体以上と調査依頼報酬と、多少なり危険手当が出ると思いますから、報酬総額だと百二十万位にはなると思いますよ~」

 

 しかし、もう一つ驚いたのはあのゴブリンキングはあれでも若い個体、つまりまだ弱い方だったという事だ。

 あんなに苦戦したのに……異世界って凄いな……。

 

「えぇ! そんなに貰えるんですか!?」


 俺も驚いてはいたが、メルも驚きの声を上げていた。

 

「報酬全てを四等分すると三十万位ですし、命懸けの仕事ですからねぇ~。私でも一撃貰ったら危なかったと思いますし~」


「一人あたり約三十万か……」


 日本にいた頃なら、命を懸けて三十万円……。割に合わないし、絶対やらなかっただろうな。というか今回はミリィがいなかったら死んでいただろうし、割に合うとかの話では無い。

 でも、こっちの世界に来てからは稼ぐ苦労はある程度わかっているつもりだし、稼いでいかないと生きていけない状況だ。

 正直、かなりの大金だ。


「三十万アラドもあれば、露店の串焼きが千五百本も……毎日三本食べても一年以上……おお……凄いです……!」


 こいつは放っておこう。普段の報酬でもこいつは宿代が無料だから、特に金の使い道が無い。さぞ貯め込んでいると思ってたら、買い食いで結構使ってやがるんだよな。こいつの金だから自由ではあるんだが、なんかムカつく。


 そんな報酬談義をしながらの帰り道。

 メルは歩きながら、シノさんに今回の調査依頼の報告書の書き方を教わっていた。

 そうなんだよな、今回の依頼はあくまで調査。ギルドに報告書も提出しなければいけないだろう。まあ今回はシノさんがほとんどやってくれているし、引率としての仕事の内らしいのだが、メルが色々と覚えたいと言って、シノさんに教わっている。立派な心掛けだ。

 

 まだ文字が読めないし書けない俺からすると、本当に助かっている。

 メルがいないと依頼すら受けられないのだから。

 

 そんな二人を見ている時、ふいにシノさんと目が合うと、微笑みを返してくれた。

 何故かシノさんがとても優しい気がする。

 その度に俺は少し落ち着かなくなる。

 そんな状態で森を歩いていたのだが――。


「ゴンゾー!」


 突然、メルが大きな声で俺を呼んだ。


「うお!? な、なんだよいきなり……」


「なんだって……そろそろ町に着くよ? あれだけの戦闘だったから疲れてるかもしれないけど、ボーっとしてたらダメだよ?」


 ああ、少し浮かれていたのかもしれない。もう町の側か。

 さすがにミリィをおんぶして帰れるほど元気が残っていなかったので、帰りはミリィでもついて来れるくらいのゆっくりペースだったんだが、考え事をしていたら一瞬だったな。


「とりあえず、寄り道せずにギルドに直行した方がよさそうですねぇ。最初に少し言いましたけど、新人さんの気を引き締めさせる為にちょっと話を盛った部分もありましたから……ギルドもまさか本当にゴブリンキングが出るなんて思っていなかったでしょうし~……」


 シノさんはそう言って小さく肩をすくめた。その表情から察するに深刻では無さそうだが、笑ってもいない。


「すぐ報告しないとまずいんですか?」


 俺の問いかけに、シノさんは静かに首を振った。


「そこまででは無いんですけど、集落を離れていた残党もいるでしょうし、ゴブリンキングの出現で急激に変化した森の環境が、討伐されたことで急激に変わっちゃいますからねぇ……」


 なるほど、森の主みたいなものが仮にいたとして、ゴブリンキングが新たな主になっていたせいで最近は森が荒れていた。その新たな主が倒されちゃったもんだから色んな意味で森が荒れる……って感じだろうか?


「まあ、しばらくは一般の人や新人さんは、森には近づかないように勧告が出されるんじゃないでしょうかね~」


「え、それじゃあ私達も……?」


 メルは少し残念そうな顔をした。冒険者になったばかりなのだから、もっと依頼をこなしたいのだろう。

 ギルドには確か壁面工事とか水路の掃除なんかもあった気がするから、そっちの仕事をする事も考えといたほうがいいかもしれない。


「今回の事でランクは上がるでしょうし、強さ的にはそれ程問題は無いんですけど……今の状態の森に入るのは推奨できませんねぇ……」


「そっかぁ……しばらくは町周辺の討伐依頼を探すしかないね……」


 メルは少し肩を落として落ち込んでいた。

 せっかく冒険者になったばかりなのに、いきなり活動範囲を制限されるのだ。無理もない。

 森での依頼は危険だったが、その分報酬も良い。討伐対象になるようなモンスターも多いだろう。

 それに、今回の依頼で大金が入るとはいえ、ずっと遊んで暮らせる程ではない。

 しばらくはまた町周辺でのホーンラビット間引きのような依頼を探すか、普通の肉体労働をするしかないかな……。

 そんな俺達の様子を見ていたシノさんが、小さく苦笑した。


「まあ、全く方法が無いわけでもないんですけどねぇ~」


「え?」


 メルがぱっと顔を上げる。


 シノさんは少しだけ考えるように視線を空へ向けてから、のんびりと続けた。


「例えばですけど~」


 そして、まるでイタズラを思いついた子供のように、無邪気に言った。


「私があなた達のパーティーに加入するとか、ですね~」


 それは、予想もしていなかった一言だった。

 今回シノさんが俺たちと一緒にいるのは、あくまでもランクアップの為の引率者。

 レベルも俺たちの倍はある。ハッキリ言ってシノさんに何のメリットも無いだろう。


「でも……シノさんに何のメリットも無いんじゃ……?」


 素直に思った通りの事を聞いてみる。

 もしかしたら、俺をおとぎ話の騎士だと誤解している事と関係あるのだろうか。


「その~……私も少し気になる事がありますし~……もう少し一緒に依頼を受けてみたいなぁ~と思ってまして~……。それに、いつでも一緒に依頼に行ける訳じゃないんですけど……実は私、ギルド職員も兼任しているので~……」


 ギルド職員……ああ、それで色んな事情に詳しかったのかな。それでいつも一緒に行けるという訳ではないのか。


「その~……駄目ですかぁ?」


 いつもの間延びした、甘えるような、それでいて消え入りそうな声。

 やや不安そうな表情で見上げるその上目遣いは破壊力抜群で、俺の理性は一瞬で消し飛んだ。

 そんな風にねだられて首を横に振れる人間なんて、この世にいるはずがない。


「いえ、お願いします。シノさんがいてくれたらとても助かります。なあ皆?」


 これがシノさんの演技だったとしてもいい。騙されたんじゃない、騙されたいんだ。


「私も大賛成! 色々教えて貰いたいし、頼りになるし!」


 メルはとても素直に喜んでいる。実際頼りになるし、少し高度な依頼も受けられるだろうし。


「わたしも良いと思いますよ。ゴンゾーさんの危険が減るでしょうし、助かります!」


 ミリィも賛成している。まあこいつも俺に死なれたら困るだろうしな、その確率が減るのはミリィにとっても俺にとってもいい事だ。


「そう言ってもらえて良かったです~。これからは、頼れる仲間として……よろしくお願いしますね~」


 不安げな表情はどこへやら、皆の承諾を聞いた瞬間、シノさんはパッと晴れやかな笑顔を浮かべた。

 そして……。


『好意を確認。ステータスが上昇します』


 いつものスキルの発動を告げるナレーションが頭に響く。

 ああ、やっぱり嘘じゃ無かったんだ。

 好意と言っても色々あるだろうけど、俺はとても嬉しくなった。

 

「さて……じゃあ、ギルドまで急ぎましょうか~!」


 新しいメンバーが増えて、足取りも軽かに俺たちはギルドに向かった。


 この軽さは、ステータスが上昇したからという理由だけでは無かった。

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