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53「仲間との共闘」


「ダマシタ……コロス!」


 ゴブリンキングの怒りに任せた大振りの拳や蹴りがまた、何度も飛んでくる。その拳は先程までの決闘とは違う、俺を殺すためだけの一撃だった。

 当たれば死ぬような一撃だ。毎度死に物狂いではあるが、それでも何とか俺は回避を続ける。

 

 それから距離を取りながら周りを見ていると、村のあちこちで悲鳴が上がっているようだ。

 振り返れば、シノさんがまた一体ゴブリンを斬り伏せていた。

 ゴブリンキングの視線もそちらへ向く。


「グギ……オマエサエ、イナケレバ……!」


 仲間のゴブリン達が減っていくこの状況も、こいつからしたら全て俺のせいだろう。

 ゴブリンキングの視線は俺ではなく、仲間達が倒れていく村の中へ向いていた。

 ……怒っているのか、それとも焦っているのか。少なくとも、人間を追い払わなければならないと思っているのは間違いない。

 だが一つだけわかる。こいつは最後まで逃げるつもりは無い、死ぬまで戦うだろう。

 

 あまり効果は無いかもしれないが、アイアンウッドの木刀を片手でしっかり握り、構える。

 正直に言えば、俺はもう限界に近い。腕は痛い。息も上がっている。

 足だっていつまでも動く保証は無い。

 だけど、こいつと会話ができて恨みを買っている俺が囮役には一番いいだろう。

 木刀を振り回し、ゴブリンキングの意識を俺に引き付ける。


「ソンナモノ……キカナイ!」


 相手にはただの木の棒にしか見えていないのだろう。実際にはアイアンウッドという鉄のような硬さの棒だが……まあ、それでも奴の体には効果は薄いだろう。

 さっきの解体用ナイフなら……もう差し込める程の距離で、あれだけの隙は晒してくれないだろう。

 せめて両手が使えたなら──。

 そんな時だった。


「ゴンゾーさん、怪我してるなら言ってくださいよ!」


 背後から大きな光の玉が近づいていた。

 その光を見た瞬間、ゴブリンキングが初めて露骨に顔色を変えた。


「ナ……ナンダ、ソレ……」


 今日で二度目だ、これが何なのか俺にはよくわかる。

 一方でゴブリンキングはこの光が何なのか、得体のしれない物を見るように少し後ずさった。


「ミリィ……お前、最高だよ!」


 光が俺にぶつかると体全体が温まるような感覚がして、腕の痛みが嘘のように吹き飛ぶ。

 同時に少しだけ疲労も少し和らいだような気がした。

 これなら……今の状態なら、一発叩き込める!

 両手での全力の一撃なら、鉄のように硬い一撃なら、少しくらいは効果があるはずだ。


「グ……グオオオォォォッ!」


 何が起きているのか理解できていないゴブリンキングは、力任せに拳を振り下ろす。

 体が楽になった事で、不思議と避けやすくなった気がする。

 自分が思っているよりも、最初に受けてしまった蹴りのダメージが効いていたのかもしれない。それもミリィのおかげで全部チャラだ。


「ドオオォォッ!」


 避け際、がら空きの胴に思いきり木刀での一撃をぶち込む。

 巨木に思いきり打ち込んでしまったような手応えだ。正直言って握る手の方が痛い。

 だが、少しは効果があったようだ。


「グゥ……コイツ!」


 ゴブリンキングの体がわずかによろめき、苦痛の表情を見せた。

 効いている!

 だが、そう何発も打てない。先にこっちの手が駄目になるだろう。


 そんな中、丁度一体のゴブリンを仕留めたメルと目が合う。こんな危険な状況の中で、キラキラと輝いた眼で俺を見つめてくれている。


「凄い……凄いよゴンゾー、こんなに強かったんだね! 頑張って!」


『強い好意と感銘を確認。ステータスが大幅に上昇します』


 ここにきて、嬉しい情報が頭の中に響いてくる。

 それも、今までに無い大幅な上昇だ。

 全身が目覚めたとでも言うのか、熱が指先まで駆け抜けるような感覚。

 足元の重さがすっと消える。

 クソスキル、いらないスキルだと思っていたが、本当に大事な所ではちゃんと役に立ってくれるじゃないか!

 

「メルもありがとよ、感謝してるぜ!」


 本当に、二つの意味で感謝している。優しくて純粋なメルのおかげで、俺はこの異世界でもやっていけると思えたんだ。

 それに、メルが発動してくれたこのスキルのおかげで、まだ俺は戦える。倒す事は無理かもしれないが、今度はダメージくらいは与えられるはずだ。


「クッ! グオォォォ!」


 メルの方を見ていた俺を見て、隙だらけとでも思ったのだろう。ゴブリンキングは懲りずにその大きな腕を伸ばして攻撃を続けてきた。

 だが、そんな物……今の俺には見えている。

 大きく回避しながら、今度はその伸ばしてきた腕に、思いきり木刀を振り下ろす。

 バチン、と大きな音がした。相変わらず硬く、いくらステータスが上がっていても、やはりこちらの手も痛い。

 

「ギャアァァァ!」


 だが、思った以上に効いている。ゴブリンキングは当たった場所を手で押さえながら、苦痛に歪んだ顔をする。


「ナ、ナンデ……トツゼン……」


 ステータスが大幅に上昇したこの状態で、渾身の一撃を叩き込んだつもりなのに、痛いだけかよ。

 やっぱり化け物だな。


「凄い……あれと渡り合うなんて……。あなたは……騎士様……?」


 また一体、視界の端でゴブリンを仕留めていたシノさんが、不意に言葉を漏らしていた。

 誰の事だ? 生憎だが俺はそんなにカッコイイ存在じゃない。

 嘘をつきまくって逃げ回って、ようやく仲間が助けに来てくれたことでギリギリ戦えるだけの、カッコ悪い男だ。


 今度は反撃の隙を与えないようにと考えたのだろう、ゴブリンキングは滅茶苦茶に暴れながら前進してきた。

 確かにこれでは避けても打ち込む隙が無い。背後に回り込もうとしたが、すぐに振り向いて俺から狙いを離さず、なかなかそうはさせてくれない。

 いくらステータスが上昇しても、やはりこいつは……強い。

 俺も攻めあぐねていたが、ゴブリンキングも俺も、予想していなかった所から不意の一発が飛んでくる。


「グガ……ナンダ!?」


「こっちだよ!」


 メルの投石だった。ゴブリン達がかなり減って、余裕ができたのだろう。

 その一発は、ダメージは全然無かったはずだ。だが、背後からの予測のつかないその攻撃に驚いた奴は、俺に背を向けた。

 その一瞬を俺は見逃さなかった。

 奴の背後、俺がナイフで付けてやった傷の部分に、渾身の一撃をもう一度叩き込む。


「俺はこっちだ、馬鹿野郎ぉぉぉッ!」


 大きな衝撃音が響く。同時に俺の手にもかなりの衝撃が響いた。

 俺の手もかなり痛かったが、さすがにこれは奴にも効いたはずだ。


「グガアァァァァ!」

 

 一撃を受けた部位を手で押さえたまま、奴の足元がふらりと大きく流れた。

 今ならいける!

 もう一度、今度は頭に叩き込めば、倒せるかもしれない。

 俺は大きく上段に構えを取り、急所を狙うために大きく踏み込んだ。

 それがいけなかった。


「コロス、コロスゥゥゥゥ!!」


 甘かった。大きなダメージを与えたかと思ったが、奴にとっては少し痛かったくらいの事だったんだろう。

 無造作に振り回された奴の腕が、俺の体にぶつかりそうになる。

 だが──。


 パリン、とガラスが割れるような音がした。

 目の前の空間に、蜘蛛の巣のような亀裂が走り、次の瞬間には透明な破片となって霧散した。

 これは──。


「だから、無茶しないでくださいゴンゾーさん! みんなが居るんですからね!」


 ミリィの結界魔法だ。

 しかし、命を奪った相手に、崖下での事も含めて二度も命を助けられるなんてな……。


「助かった! お前は本当に、今回の主役だよ!」


 なんて褒めたら、あいつは笑って、調子に乗るんだよな。

 でも、今回は本当にミリィのおかげだ。確認する暇はないが、今は笑って調子に乗っても許してやる。


「グ……ナカマタチ……」


 そして気が付けば、周りで立っているゴブリンはもういなかった。


「ゴンゾーさん、お待たせしました。私も一緒に戦いますよ~。あ、メルさんは念の為にミリィさんを守っててくださいねぇ」


 余裕を取り戻したのか、いつもの間延び口調に戻ったシノさんだ。今はこの口調がとても頼もしく思える。

 さすがにメルの実力では厳しいだろうから、この判断も間違っていない。ただ、俺も一緒にか……過大評価をされている気がするけど、悪い気はしない。


「……あなたと二人なら、倒せます。安心してくださいね~」


 こんな戦況の中、にっこりと微笑んで余裕を見せてくれる。

 そして──。


『強い敬意と恋慕を確認。ステータスが大幅に上昇します』


 頭に響いた言葉の中には、聞き覚えのない単語があった。


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