50「ゴブリンの村」
どういう事だ?
これはまさか、ゲームとかにある変異種とかそういうやつだろうか。
ゴブリンがこっちの言葉を話せるなんて聞いていない。
「ボス、ゴハントレタ! カエロウ!」
奥に居る、両手でしっかりとホーンラビットを持っているゴブリンが何かを言っている。
嫌な予感がする。
いや、こんなものもう予感ではない。
思えば武器屋に行った時の事だ。
棍棒を試しに装備してみたら、ゴブリンキングだって間違われたっけ……。
初めての依頼の時も、農家のおじさんにゴブリンキングだあぁッて間違われて殴られたんだよな……。
そして、これか。
まさか本物のゴブリンまでもが、俺をゴブリンキングと勘違いしているっていうのか。
……あんまりだ。俺の顔ってそんなに酷いのか? 俺、何か悪いことしましたかねぇ?
「ギギ……ボス、デカイブキ、ミツケタノカ! サスガダ!」
俺の武器……アイアンウッドの木刀を見て、ゴブリン達の一体が褒めてくる。
ああもう確定だ。こいつらは、俺をゴブリンキングと勘違いしてやがる。
ただ、どうしよう?
誤解されている内は攻撃されないだろうけど、喋れば俺がゴブリンキングじゃない事がバレるかもしれない。
でも何も喋らないのも不自然だろうか……。
「ボス、カエロ!」
「ムラ、カエル!」
何だ?
今、村って言ったのかこのゴブリンは。
そう言えば以前にメルやミリィがゴブリンは一体見たら三十体とか言ってたっけ。
今回の依頼でも集落を作っている可能性があるって話だし、どうやら大量のゴブリンが森の中に居るのは間違いなさそうだ。
「ボス、ドシタ?」
「カエラナイ?」
まずいな、沈黙を貫くのも限界がありそうだし、ここに居続けるのも不自然だ。
駄目で元々、こうなったら何か喋るしかない。
「……村、ドッチだ?」
何となく、ゴブリン達の言葉を真似て喋ってみた。
「ボス、ワスレタ?」
「アッチ! アッチニムラ、アル!」
なんてこった、通じてしまった。
しかしゴブリンはずる賢いとは聞いていたけど、ここまで知能があるものなのか? 前に戦った奴らは、こんな風に喋ってなかったような……いや、一瞬で終わったから気付けなかっただけか?
さてどうしたものか。ここから逃げだすのもありかもしれないが、シノさん達との合流が難しくなりそうだし……。
とにかく、こうなったら一か八かこのゴブリン達について行くしかないだろう。シノさん達がいつ来てくれるかわからないし、集落の場所だけでもわかる。
それにゴブリンキングに間違われている間は恐らく安全だろう。
緊張で汗が滲む。
俺はその汗を手で軽く拭ったのだが、それで一つ気が付いた事がある。
……そういえば、さっき俺は木の実の汁を顔に塗ったんだ。
そして、その木の実の汁は緑色をしていた。
つまり、今俺の顔はゴブリン達と同じ緑色をしているという事だな。
……自業自得じゃねえかよ!
この緑の汁も顔から取れないように気を付けなければいけなくなった。幸いポケットにはまだ木の実はある。こっそり潰して逐一顔に塗り直せばバレないだろうけど……。
何が悲しくてゴブリンに扮しなきゃいけないんだろう。涙が出そうだ。
「イコウ!」
「ゴチソウ! ハラワタ、イチバンウマイトコ、ボスノモノ!」
知能あるかと思ったけどやっぱ怖ぇーし野蛮だよこいつら。せめて食うなら肉の部分を食わせて欲しい。勿論焼いてからだ。
しかしこいつら、俺に対して敬意はあるんだろうけど、スキルは発動しないな……。ミリィは一定以上の知的生命体じゃないと発動しないとか言っていたけど、ゴブリン達はスキル対象になるほどの知能は無いという判定なのか、モンスターは判定外なのだろうか……まあ、今考える事じゃないか。
そんなゴブリン達は何が楽しいのかわからないが、下卑た笑いを浮かべたりしながら村があるらしい方へ向かって歩き出した。
その際に俺は、木刀を引きずるようにしてシノさん達に行き先が分かるように、目印の線を軽く引きながら進むことにした。
あまり大きな音を立ててバレないように、それでも痕跡が分かるように、慎重にだ。
先を進むゴブリンが草をなぎ倒し踏み固めて、俺が進みやすいようにしてくれている。
ゴブリンキングに間違えられているとはいえ、こうして気を使われているというか、仲間として思われているのがなんだかとても座りが悪いというか、居心地が悪い。
その調子でほんの数分ではあるが歩いていると、少し開けた場所に出た。
ぽっかりと空いたその場所でまず感じたのは強い異臭だ。村の中心には、何かの骨や腐った果実や残飯のようなものが混ざり合った焚き火の跡が残っている。臭いの原因はこれだろう。
その中心から離れた場所にいくつかの家……と呼んでいいのか?
木の枝を泥で固めてボロ布や草を打ち付けてある、雨風を最低限防げる程度の壊れやすそうな物。木の根元の穴を広げた場所に、干し草を詰めただけの所もあった。
知能が無いわけでないのだろうが、やはり人間からするとその場しのぎの生活感という気はする。
そんな村の中には、今俺と一緒に帰ってきたゴブリン達とは別のゴブリンが、十体以上くつろいでいた。
「ツイタ! ゴハン、スル! ハラヘッタ!」
「ホカノヤツラ、マダカ? コレダケ、タリナイ!」
どうやら村から出ていたゴブリン達は食料調達部隊なのだろうか? そして、他にも調達に出た部隊がいるということか。
確かに、村に居るゴブリンの数からするとホーンラビット一体だけでは足りないだろう。
もう一度村を見渡すが、家の数や村の大きさ的に見ると総勢三十体ぐらい居てもおかしくない規模だ。
シノさんはこの依頼を受ける時にゴブリンを二、三十体倒すだけ、みたいに軽く言っていた気がするが……実際に複数体の敵が間近に居ると中々そうは思えない。確かに一度倒しているし、一撃で倒せたから弱い相手なんだろうけど……。やはり、こちらを殺してくるかもしれない敵を相手にする、というのはやはり怖い。
このままボスだと誤解してくれているのなら、シノさん達が来てくれるのを待っていた方がいいかもしれないな。
「カエッテキタ!」
「アイツラ、タイリョウ! スゴイ!」
そんな風に思っていたが、現実は俺に厳しい。
俺たちが来た所とは別の方向の茂みから、沢山の獲物を持った十体以上のゴブリン達が戻ってきた。
──二メートル近い、巨大なゴブリンと一緒に。
そうだよな、俺をゴブリンキングと見間違えたんだもんな。
いるよなぁ……本物。
そして当然のことながら、戻ってきたゴブリン達と俺の周りにいるゴブリン達は、おかしなことに気づく訳だ。
ボスが二人いる。
「エ……? ボス、フタリ?」
「ボスガ……ナンデ……?」
俺の周辺のゴブリン達も、あちら側のゴブリン達も困惑している。
俺だって困惑している。
通常のゴブリンと同じような緑色の肌で、頭に二本のツノを持っている所も同じだ。
しかし明らかに違うのは、俺よりも大きなその巨体。それに鎧のような太い筋肉を持ち、明らかに怪力を持った強者とわかる。
生物として明らかに格上であるという何かを感じる。
あれだけ強かったシノさんでも、一人では倒せるか怪しいと言っていたのも納得だ。並の攻撃ではびくともしないだろう。
「ナンダ、オマエ!」
ゴブリン達が困惑している中、向こうのボス……ゴブリンキングが俺に話しかけてきた。
当然だろうね、恐らく群れのボスなんだろうけど、戻ったら別のボスが居るんだもん。
ただ、今ここで人間だとバレて敵対するのもまずい。
こんなに多い敵の中で、こんな強敵が居たんじゃ俺一人ではどうしようもない。
こうなったらもう毒を喰らわば皿までだ。
思いきり場を混乱させてやろう。
とにかく時間を稼いで皆の到着を待つしかない。
「オ、俺がボスだ!」
今この場では、俺がゴブリンキングだ。




