43「充実した一日」
あれから部屋で、今度は基本的な知識のおさらいなんかをミリィとしていた。
硬貨の価値なんかは一度ギルドでリナさんに教えて貰ってはいたが、生憎と一度で覚えられるほど優秀ではない。成績が悪い訳でもないが、特別優秀でもないのだ。
「……と、これが十万アラド硬貨ですね。価値基準としては、日本とあまり変わらないと考えて、さほど問題無いと思います。こちらの方が生活していく分には色々と安いですから。……でも、娯楽品なんかは日本よりも高価なものばかりですから、そこだけ注意ですね」
「なるほどな。じゃあひと月に十五万アラドくらい稼げたらなんとか生活できるって感じか?」
「成人したてでそれだけ稼げたらかなり立派ですね。農村なんかだと十万アラド前後というのも珍しくないでしょうし……でも、それでも生きていくには充分ですからね」
まあ、今の宿屋が食事付きで三千アラド、ひと月泊まり続けても九万アラドだ。確かに十万アラド程ひと月に稼げれば、生きていくだけなら何とかなるだろう。
「しかし……硬貨一枚で十万とか、落ち着かないな。紙幣じゃないってのもな……」
「それは仕方ないというか……地球も地球でおかしいと言いますか……。紙幣は偽造リスクもありますし、偽造防止に色々すると製造コストも跳ね上がりますし……」
う……なんか学校の授業みたいになってきたな……。
それにしても、こいつ本当に頭は良いんだよな。地球の知識もこの世界の知識もしっかりと頭に入っているみたいだし。
「あ、そういえば俺はいつ頃文字が読めるようになるんだ? 言語習得ってスキルで言葉は分かるが、文字については一向に読めそうにないんだが」
確かコヨンさんがスキルレベルが上がれば文字の読み書きもできるようになるとか言っていたけど……スキルレベルの一の差は大きい。言語習得もそう簡単に上がるとは思えないんだよな。
「そうですね……スキルは使っていけばそのうち上がるものではあるんですが……文字に関しては、自分で勉強した方が早いかもしれませんね。大丈夫です、こちらの共通語は日本語より簡単です! ひらがな、カタカナ、漢字と数種類の文字を覚える必要ないですしね!」
やはり……地道な勉強が一番早いのか……。まあ、日本語は習得難易度が高いっていうのはよく聞いていた話だけど。
それから、一時間近くもミリィ先生によるこの世界の文字の勉強という授業が始まってしまった。
悔しい事にわかりやすかった。ただ、紙とペンが無かったので、ミリィの光魔法とやらで空間に直接絵を描くかのように文字を書いて見せてくれたのだが……正直そっちの魔法の方が凄くて頭にあまり入ってこなかった。今度、紙とペンを買っておこう。
「ゴンゾー、いるー? 色々買って来たんだけど……あと、ミリィちゃんはもう大丈夫ー?」
ミリィの文字の授業があまり頭に入らなくていい加減疲れてきた頃に、部屋のドアをノックする音と同時に、メルの声が聞こえてきた。正直助かった。
「いるよー。どうぞー」
とりあえず授業も中断できるだろう。返事をしてメルを迎え入れる準備をする。
するとメルは、何やら沢山買ってきたのか、大きな荷物を抱えていた。
「いやー、革袋の他にも色々買っちゃったよ! 薬草採取とかに使える紙束とか、木の実とかをすり潰せる道具とかもあるよ! 旅してた頃は必要無いかなって思ってたけど、大きな町を見るとやっぱり色々あるんだねー!」
……メルはどうやら、衝動買いをするタイプなのかな?
まあ薬草採取とかは……まあ依頼を受ける事があるなら必要になるのかな。木の実をすり潰せる道具ってのは……すり鉢とか? 必要かな……。
「あー……そういや、薬草採取なんて依頼があるのか……でも、難しくないのか? 薬草なんて、俺は見分けられる気がしないんだが……」
ゲームなんかだと初心者のテンプレ依頼っぽいけど、実際の所どうなんだろうか。素人が間違った物を取ってくる、という間違いはよくありそうだし、そもそも薬草が生えていそうな場所はモンスターもいるだろう。というか、安全な場所に生えていたらそもそも自分で取りに行くだろうからわざわざ依頼なんてしない訳だし……。
「うーん……私も薬草とかは専門外だからね……。あ! ミリィちゃんは薬草とか分かる?」
メルもどうやら薬草採取用の物を買ったはいいが、そもそも薬草については全く詳しくないようだ。……これは、店員に勧められて買ってしまったパターンなのかな?
「薬草の種類はある程度わかりますけど……薬草採取はあまりお勧めしませんよ? 森の奥に入らないとそもそも生えてなかったりするのに、単価がそんなに高くないですし、ファングボアやストーンベアなんかのちょっと危険なモンスターも出ますからね。ゴンゾーさんに分かりやすく伝えるなら……クマがよく出る山の奥に、せいぜい一個五百円のタケノコ掘りに行くのかどうか、って感じです」
「最後の例えで凄え分かりやすくなったわ」
日本の事で例えてくれるおかげで凄く理解できた。それはやりたくない依頼だわ。
「私は最後のはよくわからないけど……でもあんまり良い稼ぎにはならなさそうだね。ファングボアの個体買取なんかも含めたらいいかもしれないけど……それよりは今ならホーンラビットの間引き依頼を続けた方が良さそうだね」
メルもどうやら納得がいったようだ。
まあ今はホーンラビットが増えていて、その間引きの依頼が多いんなら、それをこなしていった方がいいだろう。
「今日はすぐに帰っちゃったけど、一日頑張ったらもっと沢山ホーンラビットが狩れたかもしれないし、明日からも一緒に頑張ろうね!」
「ゴンゾーさんも色々慣れていく為には丁度いい依頼だと思いますよ。ですから、頑張って一緒に稼ぎましょー!」
メルもミリィもやる気満々だ。
まあ俺も、悪くないと思っている。稼ぎも悪くないし、それなりに楽しく過ごせている。
ゲームとかの娯楽が恋しくない訳じゃないが……まあ、こちらにも娯楽はあるだろう。ミリィも高いが、あるとは言っていたし。
そうして今日の所は雑談をしたり、使った武器の手入れなんかをしたり……そうして夜になったら皆で夕飯だ。
ミリィの効果なのかどうなのか……まあ十中八九そうなのだろうが、夕飯は昨晩よりも豪華だった。肉がちょっと多かったし、スープの具材も多い。
そもそも、周りの客の数も多かったし、精霊の祝福効果でお客さんが増えたというのはどうやら本当のようだ。
そして、ちらちらと客からの目線も感じる。これは俺の顔が目立つとかではなく、ミリィが目立っているのかもしれない。精霊だという噂が広まったのだろうか。
「そしてお前はまた……懲りないのか?」
「ミリィちゃん……無理するから……」
「た、食べ過ぎました……もうお腹がいっぱいです……」
ミリィは昼飯の時のようにまた食べ過ぎで動けなくなっていた。
……まあ、こいつも元々は大人サイズだったのが、降格して急に小柄になって、胃の限界量が変わってしまった事にまだ気付けていないんだろう。そうでも思わないとやってられん。
結局、俺はミリィをまた昼の時のように背負って、部屋に戻って寝かせる事にした。
メルとも今日はそこで別れる事にした。
さて、明日もまた何か依頼をしていくかな。




