04「優しいおじさん」
路地裏を出て、俺は少し腹が減ったこともあり、何か食料を売っている店を探してみた。
少し歩くと、何の肉かはわからないが、肉を焼くいい匂いがした。どうやら串に刺した肉を焼いてソースをつけて売っている。串焼きというか焼き鳥屋みたいなものだろう。
美味そうな匂いだ。思わずふらふらとその方向へ足が勝手に進んでしまう。
「おお、どうだい新鮮なファングボアの肉だよ。今なら一本二百アラド、安いよ」
俺が近づきながら美味しそうな匂いを堪能していると、店のおっちゃんはそうやって商売を始めた。
だが、すぐに気づいてしまったことがある。
買いたいのは山々なんだが、この世界での金が無いんだよね。
「買いたいけど、こっちの金を持ってないんだ。ここらでこれを換金できる場所を知らないかな?」
俺は財布を取り出し、そのおっちゃんに小銭をいくつか見せてそう言った。
その小銭を見せるとおっちゃんは不思議そうな顔をして答えた。
「見た事ない金だけど……どこの金だい? この辺じゃアラド硬貨以外はあまり流通してねえぞ? まさか魔族の金って訳でもなさそうだけど……」
「日本って、聞いた事ある訳無いですよねぇ……」
「ニホン……? そりゃあどの辺だい?」
「すみません、俺もまず此処が何処なのかがわからなくてですね……」
「ここはエミル、この辺じゃ一番大きな町だよ。あんたもしかして、転移魔法か何かで飛ばされてきたクチかい?」
転移魔法か。そんなものまであるのかこの世界は。
「あ、あー……そうですね、変な翼を生やした奴のせいで此処に飛ばされましてね……」
そう、あのミルソルとか言う役立たずの天使だ。
あいつのせいで今俺はこんな目にあっているんだ。
「あんた、そりゃあ翼人だよ。ロクなのがいねぇって話だが、あんたも苦労したんだなぁ……。よっしゃ、ならこの一本はあんたに奢るよ。これから帰るの大変だろうけど、強く生きなよ」
この世界にも普通にあんなのがいるのかと思うと少し不安になる。今後翼人っていうのと会う機会があれば少し警戒しておこう。
ああ、おっちゃんの優しさが心に染みる……。
そう思っていると、俺の頭の中にまた謎の声が響いた。
『同情を確認。体力を少量回復します』
その言葉の後に、体が少し楽になった。
これって……例のスキルか? でもさっきと違って今度は回復したぞ。
さっきは誰かからの嫌悪でダメージ。
今度は同情で回復か……。
やはりこれがスキルなんだろうけど、このスキルは一体どういうことなのか……。
俺が黙り込んでいたせいか、おっちゃんが不思議そうにこちらを見ながら、聞いてきた。
「どうした、いらねえのかい?」
「いえ、ありがたく頂いておきます。丁度腹ペコだったんで」
危うくせっかくの飯を逃すところだった。早速頂いた串焼きにかぶりつこうじゃないか。
口元に近づけると串焼きの肉とソースの香りが強く感じられた。
まず口に飛び込んできたのは、甘辛いソースの強い味。
次に広がるのは肉の味。何の肉かと思ったが、これは豚肉に近い。
決してソースの強い味で誤魔化している訳ではない、肉汁をたっぷり含んでいたその肉は、もうそれだけで御馳走だ。塩コショウだけでも十分すぎる美味しさだろう。
濃い味付けではあるのだが、この肉とソースの相性は最高だ。ああ米が欲しくなる。これと一緒に米を喰いたい。米とこいつを一緒に口の中にかっ込みたい。
などと思っていると食べ終えたのはすぐだった。無くなるのが早いよ。
金があるのならもう一本といきたいところだが、そうもいかない。
「いやあ美味しかった! ちゃんと金があるならもっと喰いたい所ですけど……」
「ははは、生憎とこっちも商売だからな。二本目もタダとはいかねえ。しかし転移させられてこれじゃあ金にも困るだろう。あんた、ギルドはもう行ってみたのかい?」
「いえ、まだこの辺りを少し歩いただけなんで、さっぱりです。……ていうか、ギルドって何なんですか?」
「まあ、大きな町じゃないとギルドは無いからな。簡単に言うと、登録した人間同士で仕事を請け負ったり、逆に依頼したりする場所だな。手っ取り早く金を稼ぐんなら、ギルドに登録して仕事をするのがいいと思うぞ」
おお、この世界にはそんなものがあるのか。
しかしこれで金の面はどうにかなるかもしれない。
とりあえずは生きていく事が目標だ、その為には金が要る。
「おっちゃんありがとう、とりあえずそのギルドに行ってみるよ」
「おう、それで稼いだらまた買いに来てくれよな。あと、ギルドはこの通りを真っすぐ行った所にあるでっけぇ建物だから、すぐわかるはずだ」
「何から何までありがとうおっちゃん。……そうだ、これ俺の国の金なんだけど、せめてものお礼に受け取ってくれよ」
この異世界ではじめて俺に親切にしてくれた人だ。せめて何かお礼がしたいと思った俺は、財布から千円札を一枚取り出した。
「これ、あんたの国の金かい? 紙が金だなんて随分珍しいが、これだけ細かい出来だと納得だな。さっきの硬貨とどう違うんだい?」
「串焼き一本二百アラドって言ってたし、たぶん俺の国と同じくらいの物価だと思うんだけど、さっきの硬貨は一アラドから五百アラド、この紙幣は千アラドくらいの価値があるんだ」
「おいおい、それじゃあこっちが貰いすぎじゃねえか」
「いいんだって、こっちじゃ価値は無いだろうし、串焼き代と親切にしてくれた礼だよ」
「そうかい。じゃあこちらも有難く貰っておくよ。ただこっちも一応は商売だ。もう一本持っていきな」
そう言うとおっちゃんは笑顔で俺に串焼きをもう一本差し出してくれた。
何から何まで優しいおっちゃんだ……。
そうしていたら、また俺の頭の中に声が響いた。
『軽度な好意を確認。一時的にステータスが微上昇します』
まただ……。しかも今度は体力とかじゃない。今度はステータスときたか。
ともかく考えるのは後にして、串焼きを食べながら早くギルドに向かうとしよう。
「それじゃあおっちゃん、金稼いだらまた来るよ」
「おう、待ってるよ」
そうして俺はその場を後にした。
歩いていく時、少しだけ足が軽くなっている気がした。
これも、ステータスが上昇したという事なんだろうか。
ただ、しばらくギルドを目指して歩いていたら、その足の軽さも無くなった。
体力はともかく、ステータス云々っていうのは五分くらいで効果が切れるのか。
謎のスキルだが、こういう効果が続くなら少しは悪くないと思った。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
主人公はまだ異世界に来たばかりですが
この先も不憫だったり騒がしかったり優しい人に出会えたり
色んな事があると思いますので、楽しんでいただければ嬉しいです!
毎日1話ずつ投稿予定です!




