39「依頼の成功」
依頼を直接受けたわけでは無いが、とりあえずゴブリンの討伐自体はした。それにゴブリンが本来居ないような場所に居たというのは報告しておかなければいけないだろう。
それの証明の為のゴブリンの耳は……ミリィに渡した荷物の中だ。
俺はミリィに目で合図をした。どうやらミリィにも伝わったらしく、ミリィに持たせていた荷物から、ゴブリンの討伐部位を取り出してもらった。
……割と冗談のつもりの目配せだったのに、意外と伝わるものだ。もしかしたら本当にこいつは俺の心の中が読めるのかもしれない。
「リナさん。これ、追加の獲物というか、報告なんですけど……」
ミリィがそれを取り出したのを見て、メルが説明をしてくれる。
「あら、ゴブリンの耳……? 依頼を受けてないモンスターだけど……どこで討伐したの?」
「ちょうど依頼人さんが畑に居たんですけど、ホーンラビットがゴブリンに追われていたみたいなんです。その畑で一応全部討伐して、他に何も居なさそうだったので今日の所は依頼人さんとすぐに帰ってきたんですけど……」
メルの報告を、リナさんは神妙な面持ちで聞いていた。ちょっと妄想とかしたりする所もあるけど、こういう所はやはりしっかりした社会人、大人なんだな。
「実は最近、森のモンスター調査でもゴブリンが増えてるの。ゴブリンがホーンラビットをわざわざ人間がいる畑まで追い回すなんて、餌が不足してる……? ゴブリンキングの発生なんかも考えられるわね……」
真面目な顔つきでリナさんが推測を立てている。
しかし、ゴブリンキングか。そういえば依頼人のおじさんも、最初に俺を見た時、俺をゴブリンキングと見間違えていきなり殴ってきたんだよな……。
まあ本当に顔が似ているのかどうかは置いといて、結構体格の大きい方である俺と見間違えたんだ。ゴブリンキングってのは普通のゴブリンと違ってやはり大きな魔物なんだろう。
「ああ、ごめんなさいね。とにかく、貴重な報告をありがとう。今回は特別に、ゴブリンの討伐も報酬に追加しておくわね。それと、この出現場所の情報自体も『貴重な情報提供』として処理させてもらうわ。討伐報酬とは別に、情報提供料も出すからね」
「わぁ、本当ですか!? ありがとうございます!」
メルの顔が一気に明るくなる。
なるほど、ただ魔物を倒すだけでなく、こういう「街の危機に繋がるかもしれない情報」を持ち帰ることも冒険者の立派な仕事であり、報酬の対象になるわけか。
「それじゃあ、今回の全体の精算をしちゃうわね。まずは依頼のホーンラビットが四体。……あら、これ、血抜きだけじゃなくて、なんだかすごく状態が良いわね? 毛並みも綺麗だし、魔物の嫌な臭いが全然しないわ。クリーンをかけたの?」
リナさんがホーンラビットをチェックしながら、不思議そうに目を丸くした。
それはそうだ。ミリィが帰り際に荷車と一緒にこれにも浄化魔法をぶっかけたのだから。
「ふふん、それはわたしが──」
ミリィがここぞとばかりに自慢げに胸を張ろうとしたので、俺はすかさずその口を手で塞ぎ、上からガシッと頭を掴んで固定した。
ここで「精霊の浄化魔法です!」なんて大騒ぎされたら、目立って仕方がない。
「もごっ!? な、なにをするんですかゴンゾーさん!」
「静かにしてろ。……ええと、リナさん。獲物の状態が良いと、やっぱり買取が高くなったりするんですか? クリーンの魔法かけて綺麗にするとか……」
「ええ、もちろん! でもクリーンでも限界はあるから……まあ、かけてあるほうが私たちからすると嬉しいけどね。でもこれは目立った傷もないし、一発で仕留めてるわね。それに、これだけ新鮮で綺麗なら、お肉も毛皮も最高級品として扱えるわ。本来なら個体一体につき五千アラドだけど、今回は状態が良いから一体につき六千アラドで買い取るわね。それに依頼の討伐証明のツノは一本五百、四本で二千ね」
個体一体につき、なんと千アラドのプラス。四体合わせて四千アラドのボーナスだ。
この結果に関しては大人しくミリィの有能さを認めてやるしかないだろう。クリーンの魔法ではないくらいに綺麗になったのはこいつのおかげなんだから。
俺が手を離すと、やはりミリィは「ほら見なさい」と言いたげな視線を送ってきた。でも実際にこいつの言う通り、買取金額は上がったんだよな。ちょっと悔しい。
「それから、ゴブリンが本来一体につき四千アラド。二体で八千ね。ここに情報提供料のプラス二千アラドを乗せて……はい、今回の合計は三万六千アラドです!」
リナさんがカウンターの上に、チャリンと小気味いい音を立てて硬貨を並べていく。
三万六千アラド。
これが、俺たちが異世界で初めて稼いだ、俺たちの実力でもぎ取った金だ。
「でも、こんなに優秀だとギルドとしても嬉しくなるわね。今後にも期待できるし、それじゃあまたお願いね~」
こうして俺たちの初依頼は無事に終わった。ゴブリンについてはこれ以上の事はギルドが何とかしてくれるだろう。ひとまずは、初依頼の成功を祝いたい気分だ。
「いやー無事に終わってよかったね! それに、こんなに報酬が多くなるなんて!」
俺たちはギルド内のテーブルに座りながら、ひとまず皆で休憩しつつ話す事にした。
報酬を分けなきゃいけないしな。……ああ、報酬と言えば忘れていた。
「ああ、そういえばこれ忘れてたよ。まだこっちの硬貨の種類、完全に覚えてなくてな。これはいくらになるんだっけ?」
俺はすっかり忘れていたおじさんに貰った護衛のお礼を取り出した。
「えーっと……わわ、六千アラドもある! 一緒に帰っただけでこれは貰いすぎかも……でも、荷車を綺麗にした代金も入ってるのかな?」
「そうでしょうそうでしょう! ホーンラビットの報酬増額も、わたしの魔法のおかげですよ!」
ミリィがこれ以上ないほどのドヤ顔でふんぞり返っている。これが無ければ素直に認めてやってもいいのだが、まあこいつもこいつで降格とかで色々あってとにかく役に立ちたいんだろうな……不憫なやつ……。
「な、何ですかその目は……? 今回は本当にお役に立ちました……よね……?」
少し不安そうな目で俺たちを見つめるミリィは、こういう仕草だけ見るとやはりただの幼女にしか見えない。
「本当に今回はミリィちゃんのおかげだよ! じゃあ、これも合わせて……ええっと、全部で四万二千アラドだね! それじゃあ、報酬を三分割しちゃおっか」
「え? 三分割でいいのか?」
メルはどうやら報酬は綺麗にミリィも含めて三人で分けるつもりだったようだ。
「え? ゴンゾーはどう分けるつもりだったの?」
「いや、俺とメルで二分割して、ミリィの分は俺の取り分から分ければいいかなって思ってたんだけど……」
実際、メルが居なければ依頼を受けることもできなかったし、細々としたことは全部やって貰っていた。最後のホーンラビットなんかは完全にメル一人の手柄だ。メルが一番多く貰うべきだろう。
「それはゴンゾーにもミリィちゃんにも悪いし……お金の事はなるべくキッチリしておきたいんだ。そうじゃないと、また気兼ねなく一緒に依頼に行けないし……」
なるほど。その気持ちは十分に理解できる。
俺も今後もメルと一緒に依頼を受けたいしな。そうなるとここはメルの気持ちを尊重した方がいいだろう。
「そうだな、正直俺もその方が助かるし、俺もメルとまた一緒に依頼に行きたいしな。だから三分割しようか。一人当たり一万四千だな」
半日程度の稼ぎにしては充分な程だろう。少なくとも今日だけで宿代四日分は確保できたわけだ。
「うん、ありがとう! ……ていうか、ゴンゾーやっぱり計算速いね。私はこういう暗算はすぐにはできないからなぁ……」
そうだよな、誰にでも得意分野とか苦手分野とかがあるっていうだけの話なんだよな。
だから一緒にパーティーを組んで苦手分野をカバーして貰うって事なんだ。
……なんてことを思っていたら、そろそろ腹が減ってきた。もうそろそろ昼飯時だろう。
そう言えばこのギルドの中には料理屋もあるんだったか、それなら──。
「ああ、いい加減腹が減ってきたな……依頼成功のお祝いにここで何か食っていこうぜ。そんで、それくらいはせめて俺に出させてくれよ。それならいいだろ?」
「うん、それなら大歓迎! 私もお腹減ってきたところだったし!」
「ゴンゾーさん、当然わたしもいいんですよね? ねえ!」
ああ、そういえばミリィをスルーしたままだった。
「当たり前だろ。とりあえず、好きなもん頼めよ。……ただ、メニューが読めないから手伝ってくれよ?」
そして俺たちは、ギルド内にある料理屋で皆で一緒に昼食を取ることにした。
どうなるかと思ったが、メルとミリィと一緒なら、これからも上手くやっていけそうだ。




