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37「帰り道」


 さて、結局おじさん達の元に戻り、周辺をしばらく観察していたが、結局ホーンラビットは現れなかった。


「うーん、やっぱりホーンラビットはゴブリンに追い立てられてたのかもしれないね。一応ゴブリンは倒したから、こっち側にホーンラビットが逃げてこなくなったのかも」


 うちのパーティーの大黒柱、メルはそう推測したらしい。


「ホーンラビットは警戒心も強いモンスターですし、仲間の死の匂いを感じ取った、とかもあるかもしれませんねえ……」


 更にうちのパーティーの補助担当、ミリィもそんな風に言っている。


「どうする? あんまり待たせてもおじさん達に悪いだろうし、最低限は討伐できたし、ゴブリンの報告もギルドにしなきゃなんだろ? 今日はもう帰るか?」


 おじさん達が町に帰るまでの護衛も引き受けた以上、あまり待たせるのもよくないだろう。おじさん達も、ある程度討伐できたとはいえ、また突然モンスターが現れるかもしれない中で農作業はできないだろう。


「そうだね……ゴブリンの事、早く報告した方がいいかもね。じゃあ、今日はもう街に戻ろうか!」


 そのメルの一声で、俺達は今日の所は街に戻ることにした。もちろん、おじさん達も一緒にだ。おじさん達は特に支度をする事も無く、軽い荷物だけを持って行くだけのようだ。

 一方俺達は……というか俺は、三体のホーンラビットを運ぶ係だ。血抜きをしたとはいえ一メートル近い獲物が三体。全部で五十キロはある。さすがに一人で担いで歩くのは無理ではないがきつい。

 そう思っていた所で、おじさん達が親切にも農作業用の荷車を貸してくれた。どうせまた来る時に使うから構わないとの事だ。とてもありがたい。


 そんなこんなで荷車を引きながら帰る事になったのだが、また途中でへばられても困るのでミリィは荷車に乗せてやった。楽をしやがってと思わない事も無いが、まあ本当に体が小さいので仕方がない。


「すみませんねえ……帰りもこんなに楽をさせてもらって……」


「何言ってんだい、おとっつぁん、それは言わないお約束だよ」


「「はっはっは!」」


「……ゴンゾー達、何言ってるの?」


 日本で見ていた懐かしの時代劇を思い出すような台詞を言ってみる。

 ミリィは理解しているみたいだったが、それ以外の人達には何のことだか一切通じていないみたいだった。まあ、当たり前だが。


 そんなのんびりとした帰り道だったが、途中で先導していたメルが足を止めた。


「あ、ちょっと待って。向こうにホーンラビットがいるよ! 畑でもないのに……移動中なのかな?」


 途中でどうやらホーンラビットを見つけたようだ。少し畑からは離れてはいるが、距離的にもこいつが畑に行って荒らす可能性もあるだろうし、討伐しておいた方がいいだろう。


「一体か。倒した方がいいだろうけど、どうする? メル一人でできるか?」


「任せて! 投石で十分だと思うから、ちょっと待ってて。風下から気付かれないようにやってくるから、あまり音をたてないようにしててね!」


 何とも頼もしい言葉だ。

 という事なのでメルを除く俺達はなるべく静かにして、メルの勇姿を見届ける事にした。


 メルは身を低くし、まるで見えない糸に引かれるように音もなく草むらへと消えていった。

 おじさん達も息を呑んで見守る中、メルはホーンラビットの死角へと回り込んでいく。

 鋭く短い呼吸音が、俺たちの所まで聞こえてきているような気がする。それと共に、メルの右腕がしなやかに振られた。

 投げ放たれた石は、もはや石と呼ぶには速すぎた。弾丸のごとき速度で空気を切り裂き、逃げる暇さえ与えずホーンラビットの頭部を正確に撃ち抜く。


 バキィッ! と乾いた音が響き、ホーンラビットは悲鳴を上げることすら叶わず、その場に崩れ落ちた。


「すげぇな……あんなに遠くから。しかも一撃か」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 さっきのゴブリンの時もそうだったが、メルの投石技術はもはや職人芸に近いように思える。

 これでシュータースキルレベル一というのは恐ろしい。けれど、俺が長年続けてきた剣道なんかもスキルレベルは一だ。

 それだけメルが努力して続けてきたという事だろうな。そしてスキルレベル二というのは俺が思うより凄いものなのかもしれない。


「えへへ、仕留めたよー!」


 メルが笑顔でこちらに手を振っている。

 俺は、スキルで強化された状態でゴブリンを退治できたが、そういった力に頼らずとも、メルは自らの腕一本で確実に獲物を仕留めてみせた。

 俺もステータスの上昇に浮かれるのではなく、メルのように自分の技術を磨かないといけないな。


「ちょっと待っててねー」


 何をするのかと思ったが、どうやら即座に血抜きを済ませているようだ。

 さっとナイフを入れてそれからホーンラビットの両足を持ち、吊るすようにしてスムーズに一人で血抜きをしている。かなり慣れた手つきだ。


「やっぱりあの娘さんもただ者じゃないねぇ。仕留め方もだけど、あんなにスムーズに血抜きを済ませるなんて」


「実家の畑を荒らすモンスターもあれで退治してたって言ってたんで、かなり慣れてるみたいっすね。俺は解体とかは不慣れなんで本当凄いですよ……」


 普通の日本の高校生はやはり動物の解体とか血抜きはそもそもやった事が無いと思う。同い年のメルがああいう事ができるのは異世界だからと思っていたけど、おじさんの言葉通りなら、やはりメルが凄いのだろう。

 それからメルはある程度血抜きを済ませると、汚れた地面にクリーンの魔法をかけて、小走りでこちらに戻ってきた。


「お待たせー、いやー運が良かったね! 荷車も貸してもらえたから、獲物が増えても楽に運べるもんね!」


 満面の笑みで戻ってきたメルは、荷台に獲物を置いてからも終始ご機嫌だった。

 まあ、ホーンラビット一体で五千五百アラド……宿代一泊よりも高い。アラドが日本円と同じくらいの価値だったとして、俺も部活帰りに五千円拾った、ってなったら……いや、警察に届けるか。まあ、臨時収入だと嬉しいな。


 そんな感じで後の帰り道は特に何も起きず、無事に街まで戻る事ができた。



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