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36「有能ミリィちゃん」


「……それで、この際だからお前のできる事を確認しておきたいんだが、生活魔法のスキル持ってないけど生活魔法は使えるんだな?」


「はい。といっても火を付けたりとか基本的なものだけですけどね。範囲を広げたり大きくしたりとか、そういうのはスキルレベルが上がってからじゃないと難しいので……」


 なるほどな。まあ俺の剣術とかのスキルも今どういう風に働いているかはわからないが、剣を振るう事はスキルが無くてもできるわけだし。でも俺の剣道の技や足さばきなんかは一朝一夕でできるようなものでは無いし、スキルってそういうものなのかな。


「……とりあえず浄化ってのは結局なんなんだ? クリーンより強力だとか言ってたが、俺からしたらクリーンの時点で凄い魔法なんだが」


 汚れを落として、恐らくだけど病原菌とかもある程度消えてるんじゃないかとも思えるクリーンの魔法はすごく便利だと思う。これだけで病気も減るだろうし、そもそも生活魔法の一種として広まっているって事は衛生概念があるって事なんだろうな。


「ふふん、わたしの使う浄化魔法ならその場から邪気、汚れ、毒、呪いなどを清める事ができるんです! その場のアンデッドも消滅させることもできますよ!」


 なんだ、聞いてるだけで結構すごいじゃないか。


「さすがに精霊の魔法って凄いね……完全に私のクリーンの上位互換だよ……一応レベル二なんだけどな……」


「まあメルランさんもその年齢でレベル二の生活魔法は誇ってもいいと思いますよ! でもわたしはこれでも天……精霊ですから!」


 今天使って言いそうになったなこいつ。まあ浄化魔法は実際天使の力っぽいんだけど、精霊設定を忘れないでいて欲しい。今更面倒な事になるのは御免だ。


「じゃあ、浄化魔法を見せて差し上げましょう! 悪いものは、お空に帰れー! ここはキラキラ、聖域ですよー!」


 ミリィが両手を広げてそう叫んだ瞬間、彼女を中心に柔らかな、それでいて直視できないほど純白な光の波動が周囲へ広がった。


 メルのクリーンが汚れを拭き取るような光だったのに対し、ミリィのそれは「空間そのものを塗り替える」ような圧倒的な密度を感じさせる。

 穴の中は先ほどのメルのクリーンで十分綺麗になっていたはずなのに、一目でわかるほど更に清められていた。目の前にあるのは死体のはずなのに、何故か輝いて見える気さえする。


 そして汚れを落とすどころか、土地の生命力そのものが引き上げられたような、異様なまでの清潔感を周囲から感じる。

 これが「浄化」の力なのか。 性能の凄まじさは認めざるを得ないが、やはりあの気の抜けた詠唱のせいで、有難みが半分くらい削り取られている気がしてならない。


「どうです、これがわたしの実力です! そして更に続けちゃいますよ! 聖なる炎さん、お仕事ですよー! 不浄なものは、真っ白にしてくださーい!」


 得意げに胸を張るミリィは、更に別の魔法を詠唱した。

 ミリィが穴に向かって指を差すと、そこから噴き出したのは赤や橙の火炎ではなく、透き通った黄金色の輝きを放つ光の炎だった。


 その炎が穴の中のゴブリンに触れた瞬間、嫌な肉の焦げる臭いや黒煙は一切上がらなかった。

 炎に包まれた死体は炭化することもなく、端からサラサラとした白い粒子へと分解され、そのまま空気に溶けるように消えていく。


「……煙も出ないのか。火というより、光の塊に飲み込まれてるみたいだな」


 俺の呟き通り、それは燃焼というより消滅に近い光景だった。

 不浄なものだけを焼き尽くすその炎は、穴の底にわずかな白い灰だけを残した。

 およそ魔物の死体を埋めたとは思えないほどに清浄な空気が漂う、ただの綺麗な土の穴だ。


「はい、おしまいです。これがセイントファイア、浄化の炎の魔法ですよ! これでおじさん達の畑も、もっと元気になりますよ!」


 凄まじい威力の魔法を、まるで庭の掃除でも終えたかのような気軽さで言い放つミリィ。

 性能だけを見れば奇跡のようなものなんだろうが、やはりその後のどや顔がすべてを台無しにしている気がする。つまり、ムカつく。


「というか、ここまで綺麗に灰にできるんなら、こんな大穴掘る意味無かったんじゃないか?」


 骨も残らない浄化の炎でここまで灰にできるなら、今の半分……いやもっと小さな穴でも充分だっただろう。こんなに時間をかける必要は無かった。


「それは……えっと……。まあ、人間は楽をしてばかりではいけませんし、トレーニングとか、必要……です……よ?」


 俺のツッコミ的意見に対して少しあたふたしながら何とか誤魔化そうとするミリィ。

 ちょっとムカついたので両頬を引っ張ってやる。


「いふぁい! いふぁいでひゅ!」


 いい反応をしやがるぜこいつは。

 

「あーもう、ミリィちゃんをいじめないの! でも、凄い事ができるんだねミリィちゃんは! 今後もこういう事で頼らせてもらっても大丈夫かなぁ?」


 さすがにそういう事をしているとメルに止められた。まあやってる事は傍から見たら幼女いじめだから仕方ない。

 

「任せてください! 他にも光魔法で暗闇を照らしたり、汚れた水も飲めるくらいまで浄化できますよ!」


 とにかく、こいつの便利な所は十分に理解できた。回復もできて、生活魔法もある程度使えて、浄化もできるし結界も張れるし、暗闇を照らすこともできる。できない事は戦闘くらいか。

 補助役としては充分過ぎるくらいだ。むしろ最初に思っていたよりも有能すぎてびっくりしている。

 

 とりあえずゴブリンの死体の始末も、ホーンラビットの血抜きも終えた俺達はまたおじさん達の所に戻ることにした。

 依頼はホーンラビットの間引き。まだいるかもしれないからもう少しだけ様子見だ。

 それが終わり次第おじさん達と一緒に帰還といった所かな。


 半日でこれだけ成果を出せているのはかなりいい感じだ。

 このまま何も起きずに終わることを祈ろう。

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