34「ゴブリンとの戦闘」
三体のホーンラビットを討伐した俺達。
とりあえず周りを見回すが、他にモンスターなどは居なさそうだったので、俺はミリィ達の所に戻ろうとしたのだが。
「あ、ゴンゾー! だめだよ、ちゃんと死体を回収しないと!」
「ああすまん、そうだったな」
大事な事を忘れていた。倒して終了ではないんだ。
ゲームだったら勝手に経験値と金になるんだがな、これが現実だ。でもレベルはあるんだから、経験値にはもしかしてなっているのかもな。後でギルドカードから自分のステータスを確認してみよう。レベルが上がっているかもしれない。
「とりあえず、この二体だね。あと一体は結構離れちゃってるけど……あれ?」
すぐ側の二体のホーンラビットの死体を確認した後に、最初にメルの投石で倒したホーンラビットの方を見てみると、どうやら何かがいるようだ。
「ゴブリンだね……それも二体。ホーンラビットの死体を漁りに来たんだ……!」
確かによく見てみると、奥のホーンラビットに近づく何かが見える。
大きさはミリィよりも少し小さいくらいだろうか。緑色の肌で、頭に二本の小さなツノがある。腰には棍棒のような物を紐づけている。
二体のゴブリンはどうやら協力してホーンラビットの死体を運ぼうとしているようだ。
あの小さな体で、二十キロ近くはありそうな死体だ。さすがに一体だけで運ぶのは無理なのだろう。
しかしどこから現れたのだろう。もしかしてこいつらも遠くからホーンラビットを狙って隠れていたんだろうか。それでゴブリンからしたら訳もわからず突然ホーンラビットが死んだので、運んでしまおうと……そんな感じかな?
「倒しちゃった方がいいね……けど、どうしよう? 動いてる所に石をぶつけるのは安定しないんだよね……」
メルの投石は凄いが、やはり万能ではないみたいだ。まあ動く相手に当てるのは難しいだろうから、仕方がない。それでも無理とは言わず安定しないと言うだけなのは凄いのだが。
「運び始めた所を奇襲でもするか? それなら相手も武器を持つ余裕も無いだろうし、そんなに強くないんならすぐ倒せるんじゃないのか?」
ゴブリンの強さについて俺はよく知らないが、ミリィ以下のサイズのモンスターがそんなに強いとは思えない。
それに、先ほどメルのおかげで発動したスキルで今の俺はステータスが上がっている。戦闘するなら効果が切れるまでにしたい。
「うーん……迂闊に出て行って他に沢山仲間がいたら怖いけど……そんな風にも見えないし、獲物を渡すわけにもいかないしね。それでいこうか!」
「よし、じゃあ奴らが運び始めるのを待つか……あ、いや。もう運び始めたみたいだな」
俺たちが話している間に、二体のゴブリンは協力してホーンラビットの死体を運び始めたようだ。
長めの棒にホーンラビットの死体を縄のようなもので縛り付けて、棒の両端を二体で持って運び出した。なるほど、確かに知能は結構あるみたいだ。道具が使える。武器も使える。効率や合理性をある程度理解している。
これは確かに放置して増えたら厄介なモンスターかもしれないな。
「じゃあ、一気に背後から走って倒しちゃおうか。どっちから倒す?」
「そうだな……結構足の速さには自信あるからな。俺が先に走って先頭の奴を倒す。そうすりゃ後ろの奴も俺の方を見て背後には気付かないだろうし、メルはその隙に後ろの奴に奇襲を決める……ってのはどうだ?」
「私も結構速いと思うけど……でも、ゴンゾーの方が絶対近接は強いし、一発で仕留められそうだもんね。じゃあ私は後ろの奴をやっちゃうね」
ショートソードを抜いて、メルも戦闘準備は万端のようだ。
「じゃあ、いくぞ」
メルの返事を待つまでもなく、俺は地面を強く蹴り出していた。
その瞬間、身体が弾かれたように加速する。
視界の端の景色が凄まじい速度で後ろへと流れていった。日本にいた頃、百メートル走や剣道の踏み込みで出していた自分の最高速度を遥かに凌駕する、異次元のダッシュ力だった。
メルからの信頼でステータスが上がっている恩恵を、俺は体で実感した。
そして同時に、ミリィの言っていた恐ろしいスキルだというのも、ほんの少しだけ理解できた気がした。
二体のゴブリンが異変に気づき、ギョロリとした目をこちらに向けた時には、俺はすでに目の前まで肉薄していた。
先頭を歩いていたゴブリンが、驚愕に顔を歪めて棒から手を離そうとする。
しかし、遅い。
「ふんッ!」
俺は一歩深く踏み込み、手にした木刀を上段から一気に振り下ろした。
ステータス補正の乗った一撃は、空気を爆発させるような凄まじい風切り音を伴ってゴブリンの頭頂部へと直撃する。
硬い骨が砕ける嫌な感触が手元に伝わると同時に、先頭のゴブリンは悲鳴を上げる隙すら与えられず、そのまま地面へと叩きつけられて物言わぬ肉の塊へと変わった。
ホーンラビットの時とは違い、人に近い形をした生き物を殺した。
少しくらいショックを受けるかとも思ったが、驚くほど何も感じない。やはりモンスターだからだろうか、それとも祖父に習っていた古武術のせいだろうか。まあ今はどうでもいい。
肝心のもう一体は、何が起きたのか理解できていないのか、一瞬フリーズしていた。
だが目の前に突然現れた巨体の敵……つまり俺をしっかりと認識した瞬間、その顔からは強烈な敵意が見て取れた。
「ギ、ギギィッ!」
仲間を殺した目の前の敵である俺を排除しようと、ゴブリンは慌てて腰の紐から棍棒を引き抜こうとする。
しかし、俺に向けて武器を構えようとしたその瞬間、奴の命運は尽きた。
ドスッ! と鈍い音がゴブリンの背後から響く。
「やあッ!」
そんなメルの掛け声と共に、ゴブリンの胸元から鋭い刃先が突き出した。
俺の後ろからやってきたメルが、一切の躊躇なくショートソードを突き刺したのだ。
「ギ……っ!」
心臓を貫かれたゴブリンは何もすることもできぬまま、そのままガクリと膝をつく。
メルが素早く刃を引き抜くと、ゴブリンはそのまま地面へと突っ伏し、ピクリとも動かなくなった。
「はあ……緊張したー! それにしてもゴンゾー、凄く速いんだね! 自信あったのに追いつけそうに無かったよ!」
実際メルもかなり速かったのだと思う。でもさすがにスキルの効果でステータスが上昇していた俺ほどでは無かったようだ。まあ、俺もステータス上昇が実際の所どれくらい自分の動きに影響が出ているものなのか今回の事で分かってよかった。
「火事場の馬鹿力みたいなものかもな……もう一度あの速さが出せるかは自信無いぞ」
とりあえずあれが俺の本来の速度だと思われるのも良くないだろうから、適当に誤魔化しておく。
とりあえず、無事にゴブリンとの戦闘を終える事ができた。
連戦ではあったが、そんなに時間は経っていない。そのはずなのに、まだスキルの効果も切れていないはずなのに、何故か体が重い。
一方的ではあったが、命のやり取りというものを体験したからだろうか。
ただ、まだ気を抜く訳にはいかない。他にもモンスターがいるかもしれない。
俺たちはもう一度、周囲を見回す事にした。




