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33「初戦闘」


 小屋の陰からゆっくりと畑の方へ俺たちは出て行った。

 ホーンラビットは少しだけ警戒を解いたのか、少なくとも俺の知っている耳を立てたりするような動作は見えない。

 ともかく相手の視界にだけは入らないように、足音も立てないようにゆっくり動く。

 

「もうちょっと近づいたら石が当たる距離だから、投げる前に合図するね。投げた後はゴンゾー、フォローお願いね」


 小声でメルが話し、とりあえず俺は声を出さずに頷いた。

 しかし、まだ五十メートルくらい離れているし、もう少し近づいたとしても当てられるのか、ましてやそれで倒せるのだろうか?

 まあシューターって言うスキルがあるみたいだから、威力とか強さにも補正とかがかかるのだろう。そこはメルを信じるしかない。


「それじゃ、あそこの右のやつ狙うね。仕留められると思うけど、他の二体が突進してきたら私もとりあえず避けるしかないから、ゴンゾーに一旦任せるね」


「了解」


 突進がどれだけ早いか知らないが、メルが二投目を投げる余裕は無さそうだし、俺も避けるなり迎撃するなりの準備をしておかないとな。

 両手でしっかりとアイアンウッドの木刀を握りしめる。右手だけで持って片手をフリーにした方が良いのかもしれないが、いつもの構えを取った方が避けるのも反撃するのもやりやすい。


 メルの方を見ると、もう投げる直前のようだ。右足を大きく後ろへ引き、弓なりに体を反らせて構えを取っている。


「……えいっ!」


 可愛らしい掛け声とは裏腹に、振り下ろされた腕は鋭い風切り音を立てた。

 放たれた石は、獲物が逃げる隙も与えぬ速さで直進し、ホーンラビットの頭部を正確に撃ち抜いた。

 逃げる暇さえ与えられず、短い悲鳴すら上げることなく、獲物はその場に転がった。

 ただ石を投げただけ。事実だけを言えばそうなのだが、レベルという概念があり、スキルという概念もあるこの世界で、平均よりもレベルの高い女の子がシューターというスキルを持った上で石を投げるとこんなにも恐ろしい武器になるんだなと実感した。


 一体が物言わぬ肉の塊へと変わった直後、周囲の草むらがざわりと波打った。

 仲間の死に反応したのか、茂みに潜んでいた別のホーンラビットたちが動き出す。


「……来るよ!」


 メルの警告と同時に、二体のホーンラビットが地を蹴った。

 大きな後ろ脚から繰り出された跳躍は、矢のような鋭さだった。頭部に生えたツノをこちらへ突き出し、突進してくる。

 その二体のホーンラビットの狙いは仲間を仕留めたメル……ではなく、その巨体で道を塞ぐように立ちはだかっている俺だった。


「速い!」


 結構な距離があったと思ったが、ほんの数秒でホーンラビットはもう数メートル手前までやって来ていた。だが見えない程の速さじゃない。むしろ直線的なのでまだ見やすいぐらいだ。

 二体が俺に迫って来てはいるが、こいつらは急には曲がれないらしい。なら、対処は難しくない。

 足をわずかに斜め前へ踏み出し、体を半身に開いて突進の軌道から外れる。

 直後、耳元に風切り音が通り過ぎた。

 それを横目で捉えながら、手にした木刀をまるで竹刀で胴を抜くかのように最短距離で振り抜く。


「……ぬんッ!」


 すれ違いざま、ホーンラビットの柔らかい脇腹へ木刀の重みが完璧なタイミングで乗った。

 自らの突進速度がそのまま衝撃へと変換された獲物は、悲鳴を上げる暇もなく、くの字に折れ曲がって地面へと叩きつけられた。

 

 一体は抜き胴のような形で仕留められたが、俺の脇をすり抜けた二体目は、勢い余って数メートル先まで地面を削りながら滑っていった。

 砂煙を上げて急停止したホーンラビットは、即座に俺の方を振り返るが、その瞳には先ほどまでの敵対心ではなく、困惑と恐怖が混じっているように見えた。


 前足で地面を激しく掻き、今にも再突進してきそうな構えを見せるが、その体はわずかに震えている。つまり、動きを止めたのだ。


「ゴンゾー、いくよ!」


 直後、空気を切り裂く高音が聞こえた。

 メルの投石だ。

 それはもはや石ころの速度ではない。ドンッ、と肉を打つ音とは思えない重低音が周囲に響き渡る。

 再突進の構えをとったまま固まっていた二体目のホーンラビットは、横から飛来したメルの投石によって、真横へと弾き飛ばされ、そのまま動かなくなった。


「……ふぅ。これで全部、かな?」


 メルは軽く肩を回しながら、何でもないことのように軽く言った。 

 改めて、シュータースキルというのは恐ろしいなと思ったが、メル自身も凄いのだろう。

 考えてみれば一人で旅をしていた訳だし、同じ年頃の平均レベルは五前後といった所なのにメルは八だ。弱いはずがない。


「メルは凄いな……」


 素直な気持ちが言葉になって出てくる。

 

「ゴンゾーも凄いよ! 避けながら攻撃した技も凄かったけど、最後の一体はゴンゾーに怯えて動きを止めたからできたことだよ!」


『感銘と信頼を確認。ステータスが上昇します』


 あ、今になってスキルが発動した。体が軽くなり、手に持った木刀に一層力が入る。もう戦闘終わっちゃったんだけどな……。

 でも、メルの言葉には嘘が無いようで、俺も素直に嬉しい。


「でも三体をこんなに一瞬で仕留められるなんて、凄いよ。ああやって突進されると、普通は仕留めるのにもっと時間かかっちゃうからね。逃げられちゃったりもするし」


「実際、最後の一体はどうしようかと思ってたよ。また突進してきた所にカウンターできれば良かったけど、敵も戸惑ってたからな」


「あれが剣術ってやつなんだね。これでゴンゾーは格闘もできるんでしょ? 近接のゴンゾーに遠距離の私で、回復と補助のミリィちゃん……私達、いいパーティーになりそうだね!」


 ふむ、言われてみると実際バランスはかなり良さそうだ。攻撃魔法の使える人や、何ならもう一人アタッカーがいればゲーム的に見てもかなり良いパーティーだろう。


「ああ、今後もよろしく頼むよ」


 ひとまず、初めての依頼はかなりスムーズに素早く終える事ができた。

 とはいえ、まだ他にホーンラビットが現れるかもしれないし、ゴブリンとやらが出るかもしれない。

 警戒はしなければいけないが、何とか良い感じにやっていけそうだ。



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