32「討伐準備」
さて、結局どこまで話したんだったか。
依頼人と思わしき人に近づいたら、なぜか俺がモンスターと間違われ、殴られ、ミリィに回復魔法で治してもらった……。うん、特に話は進んでいないな。
「えっと、一応ちゃんと確認しておきたいんですけど、これの依頼人さんで間違いないですか?」
メルが荷物から依頼書を取り出して、依頼人かどうかを聞いている。
俺はまだこっちの文字が読めないからよくわからないが、おそらく依頼人の名前なんかが書いてあるんだろう。
「あ、ああ。間違いない、昨日ギルドに出したばかりの依頼だよ。こんなに早くに来てくれたのはありがたいけど、まさかゴブリンまで出てくるなんて……」
「まあゴブリンの件はギルドに報告すれば何とかしてくれると思いますけど……放置すると群れが大きくなって周辺の街も危なくなりますからね。ひとまず今は、ホーンラビットをなんとかしちゃいましょう!」
頼りになるメルが話を進めてくれている。
まあ文字も読めない、この世界の常識にも疎い俺ではスムーズに話が進められないので仕方ないのだが、なんかこう……男として少し恥ずかしい感じもあるんだよな……。
そんな風に思っていたら、さっき回復魔法をかけてもらうために屈んだままだった俺の肩をポンポンと叩きながらミリィが頷いている。ムカつく。というかやはりこいつ、俺の頭の中が読めているんじゃないだろうか?
「それで、ホーンラビットはまだいるのか? なんだかんだで大きな音とか立てちゃったし、逃げたんじゃないのか?」
俺を見た時のおじさんの叫び声とか、何か色々あったからな。ホーンラビットは耳がいいとかいう話だし、もう逃げたかもしれない。
「この場所は畑からは見えない位置ですから、突進してくるようなことは無いでしょうけど、もしかしたらもう逃げて……いや、まだいますね。辺りを警戒してるみたいですが……」
小屋の陰からおじさんはちらりと畑の方を覗いてそう言った。
しかし、ホーンラビットがまだ逃げていないのなら、討伐依頼の方は何とかなりそうだ。
まあおじさん達からしたら結局ゴブリンが出るかもしれないのなら、仕事にはならないだろうけど。
「んー……それじゃあ、ホーンラビットだけでも早く間引いちゃおっか。そのままにしてたらゴブリンがホーンラビットを狩って食料にしちゃうだろうし。ゴブリンをどうにかするんなら、まずはホーンラビットから、だね!」
うむ、実に的確な意見だ。何も言える事は無いな。
「どれどれ……あ、いるね。いち……に……さん……。うん、とりあえず三体はいるみたい。ゴブリンは見た感じいないっぽいから、今のうちにホーンラビットだけ討伐しちゃおっか!」
メルも小屋の陰から畑の方を確認してみたようだ。
ちょっと俺も見てみようかな。そういえばまだホーンラビットっていうモンスターがどういう見た目なのかを知らないし。
「あ、ゴンゾーも見てみる? そういえばホーンラビットを見るの初めてだっけ?」
「ああ、見た事無いからどんな姿かくらいは確認しておきたいな」
そう言って今度は俺が小屋の陰からちらりと畑の方を見てみる。そこには確かに何か動物らしき姿が見えた。
結局見た目はやはり想像していた通り、ウサギの額に一本のツノが生えているというものだった。しかし、遠くだから正確なサイズはよくわからないが、結構でかい。体長一メートルくらいはありそうだ……野ウサギの二倍くらいはあるか?
しかしその大きさやツノを考慮しても、なんかちょっと可愛い。昔、テレビで一メートルくらいの大きなウサギを見た事があるが、それを思い出した。
困ったな……これを討伐しなきゃいけないのか……でも害獣だしな。
「ウサギ……好きなんだよな……」
好きだけど討伐しなければいけない。そう覚悟しながら呟いていた所だったが。
「ん? 私も大好きだよ! 美味しいもんね!」
メルがなんか勘違いしていた。
そうか……うん、美味しいか……。まあ確かに香草焼きは美味しかったな……うん。なら俺も好きだわ。
さて、とりあえず目標も確認できたし、討伐だ。
といっても、気付かれたら突進されるか逃げられるかだ。ここはやはり、討伐経験者のメル大先生に聞いてみよう。
「それでメル、どうやって倒すんだ?」
「そうだね……まあ一体くらいなら私が離れて石でも投げたらいいんだけど、複数いるからね。倒した後に他のやつが突進してきたら、ゴンゾーに倒してもらう……とかかなぁ?」
「まあ他にいい案も思い浮かばないし、それでいいだろ。しかし、おじさん達はどうする? この辺、危ないんじゃないか?」
もしかしたらメルの投石で仕留めきれず、三体が一気に突進してくるかもしれないし、ゴブリンが現れるかもしれない。ずっとこの場所にいるのは危ないんじゃないだろうか。
「そうだねえ……もう今日は農作業なんてできそうも無いし……けど、ゴブリンが出るならこのまま二人で帰るのもちょっと怖いな……。もしよかったら討伐が終わるまで待たせてもらって、街に戻る時に同行して貰っていいかな? もちろん、お礼はするから」
「それはいいけど、討伐中は守ってあげられる余裕があるかな……どうしたもんかな」
「あ、それならわたしが守りますよ! それなら安心です!」
突然のミリィの発言に、おじさん達も、俺達も驚いた。
「え……でもお嬢ちゃんは、回復専門のメンバーさんじゃないのかい? もしかして、戦えるのかい?」
はて、こいつに戦えるようなスキルは無かったと思うし、ステータスも魔力以外は特に高いとかいう話では無かったと思うが。
「結界魔法を使いますから、その間わたしの側から離れなければ安全です! ちょっとした攻撃くらいなら弾き返せますよ!」
……ちょっとマジで有能かもしれない、こいつ。攻撃魔法は使えないのかもしれないが、回復魔法に結界魔法、浄化魔法と光魔法っていうのがよくわからんが、補助系統はこいつに任せておけばよさそうだ。
「さすがだねミリィちゃん! じゃあミリィちゃんには二人を守っててね、ちゃちゃっとゴンゾーと二人で済ませるから!」
「はい、守りは任せてください。ではお二人はこちらにどうぞ。……ここから先は、だめですよー、っと……」
おじさん達がミリィの側に来たのを確認すると、ミリィはまた気の抜ける詠唱らしきものをした。するとミリィの周囲が淡く光り、薄いガラスのような物が貼られたように見えた。
「……それ、もう結界貼られてるの?」
「そうですよ、試してみます? 石を投げたくらいならへっちゃらですよ!」
「それで割れたらシャレにならんからそこまではしないけど……じゃあちょっとだけ……」
へっちゃらだというので、まあ結界がどういう物なのか少し試してみたいので、足元にあった石ころを拾って軽くミリィの方へ投げてみる。
するとガラスのような部分が見事に石を弾いてガィンといった音を立て、石はミリィに届く事も無く、その場に落ちた。
「おお、凄いよお嬢ちゃん! こんな魔法初めて見たよ!」
「ふふん! どうですかゴンゾーさん、わたしはお役に立つでしょう!」
「まあ強度はわからんが、とりあえず大丈夫そうなのは分かったよ。それじゃあそっちは任せたぞ」
とりあえずこっちはミリィに任せておいても大丈夫そうだ。
それなら俺とメルは遠慮なくホーンラビットの討伐に専念できる。
さて、それでは初めてのモンスター討伐を頑張るとするか。




