28「はじめての依頼」
「それじゃあミリィちゃんのステータスを確認しますね。えっと、レベルは……一……? あれ? 一ですか……?」
無情にもリナさんの口から発せられた言葉は、レベル一という悲しい事実だった。
いやでも、普通に生きてきた十五歳くらいで五前後らしいから、子供だとしたらそれで当然なのかもしれない。
「おいミリィ……お前……」
あれだけ啖呵を切っておいてレベル一……降格に降格を重ねた受肉したばかりの天使なんてそんなものなんだろうな……。憐みの眼差しを向けてやろう。
「な……!? 何ですかその目は! レベルだけでは個人の本当の力というのは測れないんですよ!?」
憐みの眼差しを向けていたら気に入らなかったのか、ミリィが抗議してきた。
「あ、待ってください! レベル一なのに魔力が飛びぬけて高いですよ!? こんなの二十レベル以上の魔導士クラスですよ!」
「さすがミリィちゃんだね! 精霊だもん、当然だよね!」
「一レベルでこの魔力……これは確かに、精霊でもなければ説明がつきませんね……」
俺以外の三人はミリィの桁違いの能力にそれぞれ驚きの反応を示していた。
ミリィはというと、どうだと言わんばかりの胸を張ったかと思うと、俺への抗議の視線を向けてきた。
「所持スキルも凄いですよ……回復魔法レベル二、浄化魔法レベル二、結界魔法レベル一、光魔法レベル一……こ、こんな一レベルの人なんて見た事ないですよ!? もしかして、本当にミリィちゃんは……本物の……精霊?」
「最初からそう言ってます!」
「ご、ごめんなさい! 精霊だなんておとぎ話でしか聞いたことなかったんです!」
今更になってやっと信じた事でミリィはぷんすか怒り、リナさんは何度も頭を下げ続けている。
「……スキルの所持数もですが、一レベルにして回復と浄化スキルがレベル二、それに結界や光魔法だなんてレアスキルを所持しているなんて……これはもう精霊と信じるしかありませんね。しかし本当に居たんですね、精霊……」
「まあ俺も半信半疑みたいなもんでしたけどね……こうしてスキルがわかると、結構有能なやつなんだなーって実感しますよ」
下級天使見習い補佐代理心得なんていう訳の分からないレベルまで降格されてもあれだけスキルがあるのは実際凄いと思う。やはり腐っても天使だ。
「アダチヤマさん……何も知らずに契約したんですか……?」
「まあ……なんとなく、流れでそんな感じになったもので……」
契約云々に関しては誤魔化すしかないのでとりあえず適当に答えておく。
しかし精霊だと信じて貰えたのはよかった。
「あ、あの、それでミリィ……ちゃん……? ミリィ……さんは、何の精霊なんですか? おとぎ話では炎だったり水だったり、精霊は何かの力を司るものとされているんですけど……」
さすがにちゃん付けで呼ぶのはまずいと判断したのかさん付けになってしまったリナさん。
「まあ、別にちゃん付けで構いませんけど……。わたしが司るのは、えっと……せいえ……」
「せいいきだよな! 聖域!」
危ねえ、また何を言おうとしやがるんだこいつは。蔑みの眼差しを向けたことに対する仕返しにしては少しやりすぎではありませんかね?
「聖域の精霊ですか……それで浄化魔法や結界魔法のスキルを持っているんですね。しかし、宿で生まれたのに聖域とは……そういえばアダチヤマさんはどこの宿にお泊りなのですか?」
「折れた剣の宿って所ですね」
安宿で聖域はやはり無理な設定だったとは自分でも思うが、そうするしかなかったので仕方がない。とりあえず素直に答えるしかないな。
「折れた剣……ああ、バルトロさんの所ですか。なるほど、それなら精霊が生まれるのも納得ですね」
何故か宿の名前を出したら精霊がそこで生まれたのを納得されてしまった。
「……あの、なんで折れた剣の宿だと納得するんです?」
「ああ、バルトロさんが元冒険者なのは知っていますか? 実はあの人、三十レベル近い大ベテランなんですよ。まあ引退の理由までは私からはお話しできませんが、冒険者をやっていた間に手に入れたアイテムや装備品はかなりのレア物も多いですからね……。恐らく、そういった関連の物から精霊が生まれたのだと思います」
バルトロさんってそんなに凄い人だったのか。確かにかなりゴツイ体つきだったし、筋肉も宿屋の店主って感じでは無かった。確かレベルはベテラン冒険者で二十くらいって話だから、三十レベルというとかなりのレベルだ。
「そんなに凄い人だったのか……」
「まあ今では、ただの気のいい宿屋兼料理屋の店主ですけどね。そういえばあそこの料理はもう食べましたか? ここのギルドで買い取ったモンスターの肉なんかは、あそこにも卸しているんです。値段の割には手間暇かけてますから、結構美味しいと評判なんですよ」
「ええ、ホーンラビットの香草焼きってのを食べましたけど、美味しかったですね。……そういえば、そのホーンラビットっていうのが最近増えてるって話を聞いて、それの討伐依頼が出ていないかってのを今日は探しにきたんですけど」
ミリィのギルドカード作りで少し時間がかかってしまったが、今日の本来の目的はホーンラビット討伐の依頼探しなのだ。でも、ギルド職員のリナさんやコヨンさんに今直接聞いた方が早いかもしれない。
「あ、それでしたら丁度依頼書ができたばかりですよ。最近同じような依頼がかなり多いので、受けてくれる人がいると助かるんですよ」
話を聞いていたリナさんがちょうどよかったと言わんばかりに依頼書を取り出した。
どのみち俺はなんて書いてあるのか読めないので、メルにその依頼書の内容を読んで貰う。
「えっと……街の西門を出た先の畑付近にて、ホーンラビットの群れ(少なくとも三体以上)が確認された。農作物の被害が出る前に間引きを求める。報酬は討伐証明のツノ一本につき五百アラド。追加で個体買取一体につき五千アラド(ただし肉・皮の状態が良いものに限る)……だってさ。ツノを売って、肉も買い取ってもらえば一体で五千五百アラドになるんなら、うちの村よりもずっと高いよ! やろうよ!」
メルはかなり乗り気みたいだ。まあ、以前にも討伐した事があるみたいだし、本人は楽勝って言ってたからな。
一体だけで少なくとも宿代一泊分は確保できそうだ。三人で分けても……いや、ミリィの分はいいか。報酬は俺とメルで分けて、俺の分からミリィに分けてやればいいかな。
「メルは討伐経験があるみたいだし、やってみようか。群れで出てきても一人じゃないならなんとかなるだろうし、ちょっとぐらい怪我してもミリィが……なんとかできるんだよな?」
「んまっ! さっきスキルを見たでしょう、回復魔法レベル二ですよ? ホーンラビットの突進くらいなら! ……心臓や頭じゃないなら、まあ……なんとか……」
「そこはもっと自信を持ってくれ」
まあこの世界での回復魔法とやらの凄さが分からんからな。それでも急所以外なら治せるっていうんなら充分だろう。
「それでは、三人でこの依頼を受けるという事でよろしいですかね。駆け出しの方が大怪我をすることも珍しくないので、気を付けてくださいね」
「では皆さん、お気をつけて」
依頼の手続きを終えた俺たちは、リナさんとコヨンさんに見送られて依頼の場所に向かう事になった。
結局は日本で言う害獣駆除の仕事、って事なんだけど、異世界での初仕事だと思うとなんだかワクワクしてきた。とはいえ危険がある事には間違いは無いので、調子に乗って取り返しのつかない事なんかが起きないようにだけは気を付けよう。
さて、とりあえず西門ってのはどっちにあるのかな?




